2011年5月 紙パ技協誌
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第65巻 第5号  和文概要


操業記録より技術進歩を読み解く
―抄紙機,発電部門及び回収部門を例として―

製紙産業技術遺産保存・発信 紙パルプ技術協会 元専務理事 飯田 清昭

  紙パルプ技術協会では製紙産業技術遺産保存・発信の活動を進めている。その理由は,技術の発展の過程を知ることが,次の世代の技術開発を刺激し,かつ,その発展に寄与すると考えるからである。
  製紙産業技術遺産保存・発信では,保存の対象として操業記録を加えている。それは,操業記録がその時々の技術の現状を記録したもので,技術遺産の一次資料であるからである。しかし,この操業記録から技術の流れを読み解くのは,その性格から公開されていなく,かつ,資料量が膨大なことから困難である。しかも,この操業記録は,そのうち処分されると予想される。
  操業記録を見える形にするのが時系列化,すなわち年表にまとめることであろう。これにより,事実が定量的に語られるようになる。例えば,日本の新聞用紙抄紙機の操業効率は非常に良いとされてきたが,日本製紙葛路工場の新聞用紙抄紙機の操業記録年表が公開されたことで具体的な数字として事実が記録に残されている。そして,これを用いることで,より精緻な技術の系統化が可能になる。そこで公開された以下の4つの操業記録の例につき技術の流れを読み解いてみた。
    1) ある新聞用紙抄紙機60年の操業記録
    2) あるライナー抄紙機40年の操業記録
    3) ある製紙工場の発電部門の操業記録
    4) ある製紙工場の回収部門の設備記録
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製紙用植林木の成長性と材特性

日本製紙株式会社 研究開発本部 アグリ・バイオ研究所 小野木晋一,林 和典,岩田英治,河岡明義

  製紙産業に適した木材としては,高成長,高パルプ収率,高容積重の3つの性質が重要である。この性質を満たす精英樹を選抜するため,当研究所では精英樹候補木を選抜し,評価している。2001年から西オーストラリア州Eucalyptus globulus植林地にて精英樹候補木を選抜し,それらのクローン木を次代検定林に試験植栽を行った。現在,次代検定植林地においてこれらの成長性について追跡調査を行っている。
  2006年より順次,選抜された精英樹候補木は伐期を迎えており,当研究所ではそれら候補木を抜き取り伐採し,パルプ用材としての評価を行っている。これまでの評価結果について紹介する。
  また,成長の良否がパルプ用材としての材特性に与える影響を調査するため,遺伝的バックグラウンドが同じである,同一クローンで,成長性に違いの見られた植林木をサンプリングし評価を行ったので,その結果を紹介する。
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板紙向け新微生物コントロールコンセプトによる水質とウェットエンドの改善

栗田工業株式会社 プロセス技術一部 桂 仁樹,日高勝彦,鈴木裕之

  板紙製造工程は他紙質に比べ原料中に澱粉が多量に含まれる為に,微生物の増殖によりスライム障害だけではなく,澱粉分解に伴うORP,pH,電気伝導度,カチオン要求量,濁度などの水質悪化を招き,紙力低下やウェットエンド薬品に悪影響を及ぼすことを本報で明らかにすることができた。
  弊社では微生物の好気と嫌気状態でのエネルギー生成経路の違いを利用し,溶存有機物が多い系でも消耗が少なく,添加した後工程まで効果を持続させるファジサイドRを用いた板紙製造工程向けの新しい微生物コントロールを提案する。
  すなわち,殺菌することで微生物の全体量を減少させ,空気中から水中への酸素溶解速度に対し,微生物による溶存酸素の消費速度を低く抑えることで系内を好気状態に維持する。しかも原料系から抄紙系までの全体を好気状態に維持し,段古紙中の澱粉分解と紙力の低下を防止する新しい微生物コントロール方法である。
  このファジサイドRを用いた新しい微生物コントロール方法を適用することで,板紙製造工程での澱粉分解を抑制できるだけでなく,ウェットエンドの水質改善から抄紙薬品の定着が向上し,各種原単位削減と欠点減少による生産性向上を実現できた。また今後,紙や板紙製造工程の節水や系内クローズド化を進める上で,系内の電気伝導度やカチオン要求量の上昇を抑え,ウェットエンド薬品やピッチ,スケール,スライムによるデポジット障害を防止するためにも,本微生物コントロールを適用してプロセス水質の安定化を図ることが重要になると考えられる。
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自動カウント機能付捕虫監視システム
―オプトカウンターの紹介―

イカリ消毒株式会社 開発本部 メカトロ技術G 元杉  智

  現在,ハエ等の飛翔性昆虫の捕獲器として,光で虫を誘引し,粘着紙で捕獲する光誘引式捕虫器が標準的に使用されている。
  また,これらの虫の生息状況調査方法としては,前述の光誘引式捕虫器を調査ポイントに設置し,一定期間(約1ヵ月)経過後,粘着紙を回収し,人が捕獲数の計数及び捕獲された種の同定を行うことが一般的である。この調査結果を踏まえ防除対策を行い,現場の衛生管理の維持,向上を図っている。しかし,最近のユーザーニーズである製品の安心,安全性を確保するためには,より迅速な防除対策が必要となってきている。
  今回は迅速な防除対策を可能にする自動カウント機能付捕虫監視システム「オプトカウンタ」を紹介する。
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ベトナムにおける最新板紙抄紙機のスタートアップ

株式会社IHIフォイトペーパーテクノロジー 抄紙機技術部 佐藤 一成

  2009年4月末ベトナム社会主義共和国において,IHIフォイトペーパーテクノロジーが,2007年8月に受注した,VINA KRAFT PAPER CO., LTD.(以下VKPC)向けベトナム最大級の段ボール原紙製造用抄紙機(VKPC PM#1)が,稼動を開始した。
  VKPCは,タイの最大手財閥である,SCG(サイアム・セメント・グループ)がベトナム進出のために立ち上げたベトナム現地法人であり,この新会社には,日本の板紙大手である,レンゴー株式会社も資本参加している。
  ベトナムでは,近年紙の需要が急激に伸びている。現在同国における紙・板紙を合わせた年間生産量は,推定約120万トンであるが,このダンボール原紙製造用の新抄紙機1台の生産量は,年間22万トンにも達し,抄紙機1台の生産量としては,ベトナム最大級である。ベトナムの製紙会社の多くはまだ近代化の途上にあり,世界最新鋭の抄紙機ライン稼動のニュースは,他のベトナム製紙会社の注目を集めている。
  SCGペーパー,IHIフォイトペーパーテクノロジーともにベトナムへの進出は,初めてであり両社ともに自国と異なる文化・習慣・環境の中,またベトナム・コントラクターのコントロール・指導等手さぐり状態であったが,両社協力し合い,無事にプロジェクトの成功を収めることができた。
  本報では,このPM1プロジェクト開始から据付,スタートアップまでの概要,及び設備を簡単に紹介する。
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塗工紙の表面強度に影響を与える要因

オミヤ社 P.ダルビック,G.ブルボール,K.カーガラー,M.アーノルド

  このレポートは,異なる塗工カラーによる,パイロットコーターで塗工された紙の表面強度に与える影響について報告します。ピック強度については,実機のシートフェッドオフセット印刷で測定しました。特別な印刷プレート,高タックインクの使用を含むテーラーメイドの印刷方法を,異なった塗工要素の表面強度,とりわけエッジピッキングに及ぼす影響を評価する為に開発しました。評価したパラメーターは,塗工カラーの固形分濃度,ピグメントのタイプ,細かさや粒度分布,バインダー量です。
  この開発した実機印刷テスト方法により,調査したパラメーターに関連した分類をはっきりと示しました。この分類とインク―塗工の相互作用に関するラボテストデータの相関性を取ることが出来ました。配合の固形分濃度を最適化にする事により,十分なピック強度を保ちつつ,コスト削減のためにバインダーレベルを最適化することが可能であると示されました。加えて,ピグメントの種類に関係した違いが明確に検出されました。一方で他のラボテストでは,観察されたエッジピッキングの度合いとの間に十分な関連性を示しませんでした。
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ラノリン(羊毛脂)と表面コーティング

クローダジャパン株式会社 川島 裕之

  ラノリンは羊毛に付着しているワックス状の脂質成分である。古代より羊の毛に含まれている脂質成分が,人の肌に優しく保護目的で使用できる事は知られていた。羊毛の付着物はウールのグリース状のものなのでウールグリースと呼び,精製されたものをラノリンと名付けた。その成分は複雑な多様性と乳化性,抱水性などのユニークな物理化学特性を持ち,化粧品,医薬品基剤,金属防錆剤,繊維油剤,チューイングガムの柔軟化剤等の用途が開発され,その後も用途展開が広がっている。
  水溶性化,カチオン化,エステル化,そしてケン化分解したものからの誘導体等は今後製紙業界にも応用展開が期待できる。特にラノリンの抱水性は様々な化学物質に特徴を付与し,コンビネーションによる新規展開が期待できる。
  今回,従来から表面コーティングの技術を陰で支えてきたラノリンを,製紙業界で応用展開できる可能性に関してその特徴を中心に紹介する。
(本文33ページ)


紙用低密度化剤の新規開発
―マスクートシリーズ―

日華化学株式会社 研究開発本部 国際技術開発部 泡制御グループ 森  康雄,斎藤  一

  嵩高紙とは,通常の紙より低密度化した紙のことであり,軽くて分厚いのが特徴である。現在,書籍用紙や板紙等の多くの分野に使用されている。低密度化する目的として,一つは紙の高機能化であり,嵩高性(軽量化,厚み増加)や質感(風合い,めくり易さ)の向上等が挙げられる。もう一つは,紙厚を変えずに軽量化することが可能であり,すなわち原料パルプの使用量低減が図れるため,森林伐採抑制等の環境的な面でも注目されている。低密度化する方法としてはいくつかあるが,現在広く実用化されているのは,低密度化剤を添加する方法である。
  日華化学は,カチオン系低密度化剤として,マスクートK-300シリーズを市場に投入しており,嵩高性だけでなく,サイズ性付与,不透明度向上,柔軟性付与といった改質効果が特徴である。しかし,紙力低下がやや大きく,アニオン性薬剤との併用には注意が必要であるなど改良の余地が残されている。そのような中,更なる鋭意研究を進め,今回,紙力低下が少なく,併用薬剤との相溶性を改良したノニオン系低密度化剤「マスクートN-800」を開発したので,その特徴と応用例を報告する。
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ロール硬さ測定器Roll Quality Profiler
―ワイヤレスRQP,オンライン型RQP―

野村商事株式会社 鈴木  修

  紙,フィルム,等はロール上に多層に巻き取られたロールとして出荷される。巻取りロールは,幅方向に沿って巻取りムラが生じることが多い。これは微小の厚さの紙,フィルム,等が多層の巻取りロールとなり,硬さムラが生じるからである。この硬い部分は巻取りロールの中で部分的な張力により延ばされ巻き取れた結果,巻取りロールを解くと硬く巻かれた部分は張力が除かれ,紙,フィルム,等に凹凸が生じる。この凹凸が生じることにより,紙皺,印刷不良,等の原因を与える。このため,巻取り硬さの測定は重要な品質管理項目となっている。
  ロールの幅方向の硬さ変動を正確に管理するにより,製品品質および歩留の向上,ダウンタイムの減少につながる。
  TAPIO社は,従来のロールの硬さ測定では実現が出来なかったこの要求に応えて,2003年ハンディ型RQPとオンライン型RQPを販売した。RQPは測定ヘッドのハンマーを連続的に紙ロール表面に打ち当てながら移動させることにより,ロール表面沿って減速度を正確に測定するとともに,移動距離を自動測定してロール表面の硬さを連続測定するものである。再現性は非常に良く,個人誤差も皆無であり,測定結果の保存,解析も可能で,ロールの品質管理に威力を発揮するものである。
  さらに2009年これらの製品に加えて,更に高性能なワイヤレスRQPを販売した。このワイヤレスRQPは,旧型で使用した減速度測定ではなく位置測定によるものである。測定ヘッドのハンマーの侵入距離を測定し,各種の硬さを測定出来,また異なった測定器間でも同じ測定結果が得られる絶対値測定である。
  今回,ワイヤレスRQP,オンライン型RQPについて紹介する。
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高精度特殊内径ボーリング加工装置の開発
―高速回転に耐えうる均一な肉厚の実現―

株式会社野村鍍金 生産技術課 中川 裕介

  弊社では従来のカウンター方式の加工ではなく,リニアに加工することで中央部の繋ぎ目の無い加工をすることに成功し,高速回転での使用に対してもバランスのとれた製品を製作することが可能である。具体的には,Ø580×5,765L面長のロールに対して,円筒度50μmという非常に精度の良好なロールを製作に成功した。この成功により均一な肉厚によるニップの均等化や,加熱・冷却時の温度ムラが低減することが可能となった。
  本報では,機械の能力と精度について報告する。
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バイオエタノール生産プロセスとしての酸性サルファイト蒸解の優位性

筑波大学大学院生命環境科学研究科 谷藤渓詩,橋史帆,梶山幹夫,大井 洋
北越紀州製紙株式会社 技術開発部 中俣恵一

  マグネシウムベースの酸性サルファイト廃液(SSL)中に単糖を高収率で得ることを目的とし,カラマツ(Larix leptolepis)材,アカシア(Acacia mearnsii)材,およびタケ(Phyllostachys pubescens)材の酸性サルファイト蒸煮処理を行い,炭水化物の溶出挙動を詳細に検討した。また,針葉樹材サルファイトパルプの酵素糖化性が優れている原因を明らかにするため,セルラーゼのパルプへの吸着の挙動について調査した。
  酸性サルファイト蒸煮をpH1.4および8時間で行った時,カラマツSSLのグルコース含有量は7.7%であり,アカシアSSLのグルコース含有量より高かった。カラマツ材グルコマンナンの溶出は,アカシア材キシランに比べて遅く,また溶出した単糖およびオリゴ糖の分解の速度も遅いということが明らかとなった。
  また,カラマツ材酸性サルファイトパルプの酵素糖化残さ中のリグニンに対する酵素吸着量は,30〜80FPU/ligningであり,アルカリパルプの吸着量(100〜130FPU/ligning)に比べて低かった。針葉樹材サルファイトパルプの酵素糖化性が優れている原因の一つは,パルプ中の残留リグニンの酵素吸着量が小さいためであると推定される。
  針葉樹材では,pH1.4の短時間の蒸解で得られたパルプを酵素により加水分解することで,効率的に単糖が得られると期待できる。
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