2011年4月 紙パ技協誌
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第65巻 第4号  和文概要


分子育種によるユーカリ新品種の開発状況
―分子育種は荒廃地の緑化と高バイオマス生産への切り札となるか―

王子製紙株式会社 森林資源研究所 日尾野 隆

  王子製紙森林資源研究所(三重県亀山市)は,独自の遺伝子組換え技術を用いて,「乾燥ストレス耐性ユーカリ」,「酸性土壌耐性ユーカリ」といった環境ストレス耐性ユーカリの作出に成功し,閉鎖環境における育成評価並びに安全性評価を実施済である。これらは劣悪地における植林による「原料増産」を目指し,事業での活用に向けて,カルタヘナ議定書補完状況をはじめ,遺伝子組換え樹木利用に関する情報収集等を継続している。また,製紙原料の質的向上のために,材質特性に優れるユーカリの作出を目指した育種研究を進めており,これまでに,材質決定の主要因である木質バイオマスを構成するセルロースやリグニンの生合成機構を解析し,個々の主要遺伝子において特許を出願した。しかしながら,木質バイオマスといった複合的な性質を改良するためには,これまでに明らかとなった種々の遺伝子を総合的に制御する必要があり,これを解決するためにはユーカリのゲノム遺伝子情報に基づいた育種戦略の構築が不可欠であると考え,2001年にユーカリのゲノム情報データベース(大規模ESTデータベース:ユーカリで働いている遺伝子を全て網羅)を世界に先駆けて構築した。2002年より,独立行政法人,新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO技術開発機構)による「植物物質生産プロセス制御基盤技術開発」委託研究による研究資金を得て,2009年までの8年間にわたり,生長性向上,セルロース量増大,繊維長改良といった総括的な育種特性に優れるユーカリ新品種の作出を実施した。本稿では,王子製紙森林資源研究所が取り組んでいるユーカリゲノム解析に基づく材質改良を目的とした新品種ユーカリ作出に関する最新の研究成果を紹介する。
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新エネルギーボイラーの操業経験

日本製紙株式会社 北海道工場白老事業所 濱田 浩晃

  白老事業所は,北海道の南側,苫小牧市から30km,室蘭市から37kmとほぼ中央の白老町に位置しており,敷生川の豊かな水源に恵まれている。年間42万tの生産能力で大型抄紙機3台と塗工機1台を保有し,印刷用紙の東日本のメイン工場となっている。日本製紙グループでは2010年度までに製品当り化石エネルギー原単位を1990年度比20%削減し,化石エネルギー起源CO2排出原単位を1990年度比16%削減することに取り組んでいる。その一環として2003年〜2009年まで合計11工場で新エネルギー,バイオマスボイラーの発電設備を導入してきた。白老事業所においては,重油への依存度が高く,また効率の低いストーカー焚きボイラーで運用していたので,2008年に新エネルギーボイラーを導入した。白老についてはグループ全体で8番目に設置されたものである。今回は新エネルギーボイラーの概要と試運転以降の操業経験について報告する。
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新エネルギーボイラーの操業経験

王子板紙株式会社 日光工場 見目  卓

  王子板紙株式会社日光工場は,原料を古段,雑誌,新聞,上白古紙などを使用し,紙管原紙,色ボール,外装用ライナー生産を行っています。製紙業は,エネルギー多消費型産業であり,世界的に環境保全への要求が高まる中,当工場においても重油からバイオマス・新エネルギーへの燃料転換を図りました。本ボイラは,木質,タイヤ,RPFの他に石炭など多様な燃料を使用しており,これらの燃料の特異性に起因した課題に対してボイラ構造,燃料搬送・供給設備,灰処理設備等様々な対策を施している点に特徴があります。
  ボイラ構造では,
  @  管群部のダスト付着増加に対してはガス輻射室を設置。
  A  燃焼室水冷壁の保護対策としては,プロテクタ及び溶射を施し,水管の磨耗を防いでいます。
  B  塩素腐食対策としては,スチームエアーヒーター増強しています(ガスエアーヒーター以降)。
  本報では,水管の磨耗対策,腐食対策による操業トラブルを未然に防止する内容について報告しています。
  トラブルについては,操業で経験したクリンカについて,経験を生かした対策と今後の対応について報告しています。
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古紙処理工程における最新機器導入による省エネと安定操業への取り組み

日本大昭和板紙株式会社 秋田工場 工務部工務課 伊藤寿巳男

  日本大昭和板紙秋田工場の古紙処理設備は,ライナーマシン用の古紙パルプを生産しており,昭和56年に1系列設置後,平成3年にかけて古紙パルプの増配及び板紙マシンの増産に伴い増強し,現在では,板紙マシンの約8割の古紙パルプを生産している。古紙処理設備は,段古紙100%の1,2系と段古紙+雑誌古紙の3系と合わせて3系列を有している。又,1,2系については,平成16年にパルパーを統合し,1台のパルパー原料をスクリーン工程2系列へ供給し操業していた。
  今回,1,2系について平成21年5月,パルパー〜スクリーンへ最新機器を導入し,フローを統合・簡素化したことにより得られた省エネルギー実績と操業状況の比較,現況について紹介する。
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バッチ釜による樹種別パルプ生産

中越パルプ工業株式会社 川内工場 原質部 二ノ宮秀盛

  中越パルプ工業株式会社川内工場は,地域に根ざし,地域環境に貢献すべく,地域資源である竹と間伐材を使った紙の開発強化を実施してきた。
  弊社の竹入紙は,地域住民・木材加工業者・川内工場の三者が経済的・時間的な負担を等分に分け合うことで諸問題を解決,地域特性を活かした森林資源の有効活用事例となっている。
  さらに昨年,林野庁が制定した「間伐材チップの確認のためのガイドライン」に準じ,川内工場では間伐材自主行動規範を策定し,間伐材マーク入りの間伐材紙の生産を開始した。
  今回,間伐された竹や杉材を有効に使う手立てとして,小ロット生産に適したバッチ釜系パルプラインにECF漂白設備を新たに導入し,樹種別パルプの生産を開始したのでその事例を報告する。
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担体流動式排水処理設備の操業経験

北越紀州製紙株式会社 関東工場 市川工務部 施設課 西岡 一朗

  北越紀州製紙株式会社関東工場(市川)は,首都圏に立地し,古紙を利用したコート白ボールを生産する工場である。これまで,生産量の増加や使用する古紙の変化に対応して,数度にわたる排水処理設備の強化を実施してきた。
  今回,関東工場(市川)が保有する生物処理装置のうち,老朽化の進んだ回転円盤式生物処理設備を担体流動式生物処理設備に更新を進め,順調な稼働と良好な効果をあげている。本稿では設備の概要とその操業状況について報告する。
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仕上工程の省力化

紀州製紙株式会社 紀州工場 玉置 雅司

  弊社紀州工場では,他社と比べ1人当たりの生産性が低かった為,今回仕上工程を省力化すべく,各マシンに設置していたカッター,巻取包装機,平判包装機の集約及び更新を行った。カッター・巻取包装機を集約すると各マシンでのピーク抄造時には全量処理できない為,巻取中間倉庫を新設した。また,各ワインダーからカッター・巻取中間倉庫・巻取包装機等までの搬送を巻取にバーコードラベルを貼付して個体情報を持たせ自動搬送を図った。その結果,1人当たりの生産性は450t/人から490t/人へと約10%増加した。
  本報では,省力化設備の概要及び省力化工事後の操業状況について報告する。
(本文28ページ)


水溶性感熱紙の開発

日本製紙パピリア株式会社 開発研究所 成岡 弘康
日本製紙株式会社 総合研究所 荻野 明人,松森 泰明

  可変情報を表示できる感熱紙は,レシート,チケット,ラベルなどで身近に使用されており,近年ではハンディターミナルを用いて乗車券や宅配便伝票が発行される光景を見かけることも多い。
  感熱紙の用途の約15%を占める感熱ラベルは,日用品などをはじめとするさまざまなものに使用されており,価格,商品情報,バーコードやQRコード等が表示されている。しかし,表示内容の増加に伴いラベル自体が大きくなり,被着物からラベルを剥がす手間が増すなどの不便さが目立つようになった。被着物から迅速,容易に剥がれるラベルとして,粘着ラベル全体に水分散性を付与し,水流で除去できる水溶性ラベルが知られている。水溶性ラベルは主としてリターナブル容器の内容表示に用いられており,使用後に容器を水洗する際にラベルも同時に洗い落とすことができるため,ラベルを手で剥がす必要がなく,作業効率が高まる。この用途では,ラベルに書き込まれた可変情報は容易に判別されねばならないが,手書き文字は判読し難いものが多いため,感熱プリンター対応の同ラベルが要望されている。
  このような市場要望から,水分散性を有する感熱紙はラベル用基紙を中心とした多様な用途でニーズがある。「溶けるように分散する」水溶紙のように迅速な水分散性を有し,かつ汎用感熱紙と同等の印字特性を有する水溶性感熱紙を紹介する。
(本文32ページ)


ベトナム ビナクラフトペーパー社の紹介

ビナクラフトペーパー社 小林  勝

  タイのSCGペーパー社(サイアムセメントグループ)とレンゴー株式会社の合弁事業(段ボール原紙製造/販売)であるビナクラフトペーパー社は,2007年1月に設立後,ベトナムの最大都市である,南部商都のホーチミン市近郊に製紙工場を新設し,2009年4月より営業運転に入った。生産能力220,000t/年の抄紙機1台でライナー及び中芯を製造し,主にベトナム国内のマーケットを中心に販売している同社は,現在同国最大の段ボール原紙会社となっている。
  ベトナムはインドシナ半島の太平洋に面した縦に長い国であり,代表都市は北部ハノイと南部ホーチミンに分かれている。段ボール原紙の市場規模は未だ大きいとは言えないが,人口85百万人超,平均年齢30歳以下と若いこの国は,経済成長と共に今後需要増が見込まれる市場となっている。
  今回,このビナクラフトペーパー社の会社紹介と共に,海外での合弁事業の一例として,ベトナムでの工場新設及び操業経験について紹介させて頂く。
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2010年度フォローアップ調査結果(2009年度実績)と温暖化対策関連情報

日本製紙連合会 池田 直樹

  日本製紙連合会は1997年より「環境に関する自主行動計画」を定め,積極的に活動している。その中の1つとして地球温暖化対策(CO2排出抑制対策)があり,2007年9月に2度目の改定をした以下の2つの目標を掲げて取組んでいる。
  @  2008年度〜2012年度までの5年間平均で,製品当り化石エネルギー原単位を1990年度比20%削減し,化石エネルギー起源CO2排出原単位を1990年度比16%削減することを目指す。
  A  国内外における植林事業の推進に努め,2012年までに所有または管理する植林地面積を70万haに拡大することを目指す。
  今回は2010年度フォローアップ調査結果(2009年度実績)について報告する。
  また,関連情報として,日本におけるエネルギー消費バランス,CO2排出量およびそれに占める紙パルプ産業の位置付けや,低炭素社会実行計画への取り組み,温暖化対策税,国内排出量取引制度,再生可能エネルギーの全量買取制度の概要と紙パルプ産業に与える影響予想,カーボンフットプリント商品算定基準の進捗状況等の温暖化対策関連情報の概要についても触れた。
(本文40ページ)


糊で貼り合わせた紙の強度的性質
―紙系文化財の修復における紙と糊の役割―

京都大学大学院農学研究科 小竹 毅郎,山内 龍男
宇佐美修徳堂 宇佐美直治

  坪量および密度において和紙に類似する紙を木材パルプから作成し,それに糊を塗布して貼り合わせた紙における糊の塗布および浸透状態を,次いで糊塗布に伴う強度向上効果を検討した。刷毛を用いた塗布において,糊の濃度が小さいと糊は紙層内にかなりよく浸透し,含浸により作られるような糊―紙複合構造と類似の構造を形成する。この場合糊塗布量の増加と共に引張強さは顕著に増大する。他方糊の濃度が大きいと,糊は紙層内にあまり浸透することなく,ドクターブレード塗布で見られるような糊層が紙に挟まれた構造を有する貼り併せ紙になり,強度は殆ど増加しない。耐折強さにおいては糊濃度および塗布法の影響は極めて大きく,引張強さと異なり,糊が紙層内に十分浸透しても糊塗布量が多いと脆性的な破壊が生じ易い。従って紙層内への糊の均一な浸透の生じる含浸による添加で糊添加量約33%,紙層内への浸透は十分だが均一性の劣る刷毛による塗布では糊添加量約25%がそれぞれ最大の耐折強さを与え,それら以上の塗布はむしろ耐折強さの低下をもたらす。
(本文63ページ)