2010年8月 紙パ技協誌
 
第64巻 第8号 和文概要


蒸解助剤SAQ®を効果的に作用させるための取り組み

川崎化成工業株式会社 技術研究所 田中 潤治

  パルプ工場にとって,パルプを効率的に製造することは化石資源や森林資源を有効に利用する観点からも重要である。効率的なパルプの製造技術の一つとして,アントラキノン化合物であるSAQ®を蒸解助剤として活用した蒸解が挙げられる。このSAQ®蒸解はすでにパルプ化技術として定着しているが,開発から30年以上経った現在でも,当社ではお客様への技術サービスだけでなく,SAQ®を効果的に作用させるための研究を積極的に行っている。本報ではその取り組みの一部として,チップへの浸透性を重視した添加方法の検討,蒸解助剤としての効果が大きいアントラキノン化合物の探索,環境対応型蒸解法への提案について紹介する。
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エカ Purate®塩素酸ソーダを使用した微生物コントロール用二酸化塩素の
抄紙系への適用

エカケミカルス アジアパシフィック
オン フイ ラム,ヤップ ケン フイ,グンナール ゴランション,
曽根原克和,原川 成晴

  プロセス用水における微生物活性の適正な制御は,パルプや紙の生産における高い生産性と品質を確保するうえで極めて重要である。酸化系殺菌剤は,過去10年間,製紙用プロセス用水における微生物とスライム制御の望ましいソリューションとして使用されてきた。有機系から酸化系への殺菌剤の変化における主要なメリットは,コストパフォーマンスの向上である。
  現在市販されている酸化系殺菌剤には,複合ハロゲン酸化剤や次亜塩素酸ナトリウム,過酢酸,二酸化塩素などがある。本報告書では,清水やプロセス用水などの用途における殺菌剤として製紙業界で使用されている二酸化塩素の塩素酸塩ベースの小規模生成技術,Eka Purate®に重点をおいて考察する。
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最新のブレード式トップフォーマの板紙への適用

株式会社小林製作所 製紙機械設計部 藤島  豊,向井 正仁

  ベルボンドフォーマは,高い脱水能力と良好な地合形成能力を幅広い抄造範囲で可能とし,なかでもライナーボード用に最も多くの販売実績を持つ。しかしながら,近年になり開発当初の予想脱水能力を超えるような生産量の増加および速度上昇を目標とする工場では,紙の地合や強度にさまざまな不具合が発生しその対策を施してきたが,その限界に達した機械が多くみられる。問題点の大半は,シートのネットワーク強度を越えたパルスフォーミングにその原因があり,その解決のためにはピーク圧力とせん断力を最適化することが求められている。
  JohnsonFoils社は,脱水プロセスの解析技術と測定技術の進歩によるブレードフォーミング理論から,全く新しいブレードトップフォーマ―PF Top Former―を開発した。このフォーマは,超軽量紙から重量紙までの広範囲の紙品種に適用でき,脱水能力の強化と紙品質の向上を高い生産性レベルにおいて可能とした。本報告では,2層抄きライナーボードマシンに備えられた旧式のトップフォーマを,最新のブレード式トップフォーマへ改造した事例を紹介する。
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ロールニップ測定器Sigma―Nipの紹介

野村商事株式会社 鈴木  修

  ローラーの芯出しと圧力レベルを正しく維持する事は,印刷品質や,ウェブ生産の品質管理にとって重要な事項である。均一に負荷が掛かるようにセットされたローラーは多大なコスト増である断紙,シート蛇行,皺発生,端折れなどの原因を大幅に減少させる。また日常のテストによって,Sigma―Nipはフェルトの寿命を大幅に伸ばす事も可能である。
  Sigma―Nipは,ロールの幅全体に渡り,複数のセンサーで同時にニップ幅(長さ)をリアルタイムに測定する。測定データはパソコンで解析され,グラフで表示し記録する。『薄膜抵抗体インク式圧力変換素子』からなる“センサーエレメント”がシート上に複数配置されている。このシートを二つのローラー間に挟ませると,負荷の掛かっている部分を幅としてパソコン上に表示する。
  Sigma―Nipはニップ圧を迅速かつ正確に測定するSigma―Nipのソフトウエアは直感的に理解でき,未経験なユーザーでも数分間で高機能な測定結果を活用できる。Sigma―Nipは日常保守やセットアップ作業において一人で迅速にセンサーが貼られたシートをローラー表面に広げローラーにニップ負荷を掛けて測定が出来るように設計されている。システムはモジュラー化された可搬型となっており,一般のWindowsノートパソコンのUSBポートに,有線又は無線(オプション)で簡単に接続できる。
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超低粘度塗工用澱粉の利用

王子コーンスターチ株式会社 開発研究所 石田 光雄

  塗料用に用いられる澱粉には保水性の他,バインダーとしての機能が求められる。最近はマシンの高速化や塗工紙の品質向上のため塗料が高濃度化してきているが,塗料の流動性も改善されてきている。同じく使用されるバインダーのラテックスと比べると,澱粉は保水性機能は優れているが,顔料の接着力は劣る。更に,澱粉は粘度が高いため,塗料に澱粉を多く添加すると塗料粘度が上昇し,流動性が悪くなる。塗料流動性改善のために澱粉を単純に低粘度化すると,顔料の接着力は更に低下し,バインダーとしての機能も果たさなくなる。
  弊社は粘度が低くても顔料の接着力があまり低下しない超低粘度塗料用澱粉「HSSコート300」を開発した。しかし,低粘度故,必ずしも全ての塗料処方で満足な性能を発揮する訳ではない。
  そこで,HSSコート300が機能を発揮し易い塗料処方を検討した。超低粘度のため高濃度でクッキングを行うことができ,且つ,塗料濃度を高める事ができる。それにより白紙品質や印刷強度の向上が見込める。高濃度で塗料に添加すると印刷強度の向上がより効果的になる。更に,塗料中での分散が良いため,比較的バインダー量を多く必要とする顔料の割合が多いと効果が発揮されやすい。また,塗料粘度があまり上昇しないため,澱粉部数を増やす事ができ,それによりラテックスを減らせる可能性もある。
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新規PAM系微粒子ポリマー
―ポリテンションの性能―

荒川化学工業株式会社 製紙薬品事業部 研究開発部 寺下 嘉彦

  製紙業界では環境保護への取り組みが著しく,古紙の再利用率は年々上昇している。また,清水利用量を削減したために抄紙系のクローズド化も進んでいる。これらの取り組みは資源の有効利用の観点からは非常に有用である。しかし一方で,抄紙系内では夾雑物や微細繊維が増加しつつあり,電気伝導度は上昇傾向にある。抄紙環境の悪化により内添薬品の歩留り効率は低下し,既存の内添薬品では目標とした効果が得られにくくなってきている。
  昨年,当社は新規PAM(ポリアクリルアミド)系微粒子ポリマー“ポリテンション”を上市した。ポリテンションは凝集性と紙力増強効果を同時に付与できる内添薬品である。この性能を達成するために凝集性は歩留り向上剤対比で抑制し,当社の従来の高凝集紙力増強剤(濾水タイプ)より大幅に高い設計とした。また,ポリマー設計を工夫することで,地合を乱さない最適なフロック形成が可能となった。
  ポリテンションは地合改善による紙力増強効果や澱粉等の内添薬品の歩留まり向上効果を持つため,紙力増強剤や歩留り向上剤,澱粉等の抄紙系のトータル薬品添加率を削減し,抄紙環境の悪化を抑制できる薬品として期待される。今回,ポリテンションのフロック形成と地合い特性について説明し,各種抄紙条件におけるポリテンションの効果について紹介する。
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光コントロールによる防虫対策と省エネ

イカリ消毒株式会社 営業統括部 営業企画グループ 亀澤 一公

  今まで,あかりの活用といえば「照度の確保」が最も一般的な認識である。しかし,最近の環境負荷低減という命題ではさらなる光の活用方法が望まれてきている。
  一方,防虫対策に目を向ければ,ケミカル処理では対応できず,構造的防虫対策が必要な時代になってきており光コントロールの重要性も年々大きくなってきている。
  今回は,
   光の有効活用による省エネ
     はじめに,最も身近で簡単に取り組むことができる照明設備の省エネ技法を紹介する。
   あかりのやさしい特性を理解していれば簡単に照度アップ等が可能である。
   虫と施設内のあかりの関係について
     主に,虫は紫外線に誘引されるといわれているが,現実には人間が見ている可視光線にも反応する。
   また,施設で利用している光源は様々な形で利用されており,その時,その場所での光による虫の
   誘引効果はどうなのか,これも身近な例を取って,いくつかの試験データを説明する。
   サーモグラフィ調査による防虫対策
     虫の侵入,生息要因は光だけでなく,隙間,暖気,湿気などの建物の構造上の問題も含まれている。
   今回,サーモグラフィを用いて施設内の防虫調査を行ってみた。サーモグラフィは物体から放射される
   赤外線を分析し熱分布画像として表す装置で,一般的には建築構造物,電気設備のチェックや医療,
   防犯等に使用されている。今回,様々なフィールドで集めた画像から,いくつか抜粋した。防虫対策の
   一助となることを期待している。
   IR(赤外線)コントロールによる,施設内の断熱効果
     工場の形状は,一般ビルの縦長型に比べ,横長の形と言える。太陽の高度はと工場の場合,天井面
   からの太陽熱吸収が著しい。よって断熱を考える場合,天井面の断熱は不可欠と言える。前述のフィルム
   による壁面ガラス面の断熱から,さらに天井面,窓ガラス以外の壁面での断熱性も可能にするのが
   断熱塗装である。弊社の塗料は,IRの反射を極力抑えた塗料である。実測の屋根表面温度差も
   20〜30℃程度の差を計測した(3工場平均)。また,窓用フィルム防虫断熱性についても紹介する。
   相反する,UV対策とIR対策は防虫,省エネの観点から同時進行で必要な施設管理手法になるであろう。
(本文32ページ)


臭気ブロワへのガスシール搭載による効果の紹介
―軸封部からの臭気漏れゼロの実現―

日本ジョン・クレーン株式会社 GSエンジニアリング部 戎  篤志

  製紙工場にとって,切り離せない問題のひとつに臭気対策がある。原料であるパルプの製造工程はもとより,廃液である黒液の濃縮工程や,古紙パルプ製造の漂白工程などでは必ず臭気は発生する。
  発生した臭気を如何に大気に漏らすこと無く処置するかが重要な課題であり,処置装置である臭気ガスブロワの軸封部からの臭気漏れを防ぐことに労力を費やされている工場は多いと思われる。
  そうした臭気ガスブロワの軸封からの漏れを防止する為に,従来の接触型メカニカルシールに変わるものとして,非接触ガスシールが極めて有効な手段であることが多くの実績で確認できた。
  ジョン・クレーンの非接触ガスシール(とりわけカートリッジ式ダブルガスシール Type:2800E)は,既に多くの製紙工場で採用頂き臭気ガスブロワの軸封として臭気漏れゼロを実現してきた。必ずや貴社の臭気ガス漏れ対策にお役に立てるものと信じており,この機会に貴社の臭気ガスブロワへの採用を検討頂ければ幸いである。
(本文37ページ)


空を飛ぶ頭脳
―メトラートレドのISMワイヤレス(ケーブルレス)ソリューション―

メトラー・トレド株式会社 木村 夏実

  近年の経済状況と激化する競争の中で,工業界においては省力化と同時に生産・作業効率の向上が求められており,メトラートレド社ではその解決策としてISM(Intelligent Sensor Management)技術を開発した。ISMのコンセプトはpHセンサをはじめとするプロセス計測機器の導入から使用後センサ交換に至るまでの各ステップで「デジタル技術によるプロセス生産性の向上」というソリューションを提供することである。ISM製品のひとつであるデジタルpHセンサは,その頭部に電子回路を有し従来のアナログ信号をデジタル信号に変換,上位変換器との交信が可能で,必要な情報はセンサ自体に記憶することが出来る。デジタル化することで情報量が圧倒的に多くなり,センサが自身の寿命を判断する自己診断機能や,PCとの接続が可能となり,メンテナンス労力を大幅に削減するPCとの接続によるセンサ一括管理システムの運用が可能となった。また,ISM製品群に今年,デジタルセンサ用W100ケーブルレスソリューションが新たに加わった。ケーブルレスセンサを用いることにより,測定ポイントへのアクセスが困難な場合やケーブル敷設が難しい環境へのセンサの設置とメンテナンス作業などの効率化が可能となり,またデジタルへの切り替えを行いたいがケーブル工事の手間とコストから導入を見送っていた場合でも検討が行えるようになった。ケーブルレスシステムの構成はシンプルで,設置から測定までの操作も簡単であり,ISMのコンセプトである「生産性の向上」に寄与できる製品である。
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プレス操業支援システム
―フェルトビュー―

株式会社 IHIフォイトペーパーテクノロジー 制御技術部 浅妻 敏雄

  プレスパートの最適操業支援システムとして,フォイト社で開発されたフェルトビューは,フェルトの「水分」,「透気度」,「表面温度」の3要素をオンラインでCD方向に計測する新しい方式で,その測定データを可視化したサーモグラフィック画像で任意のデータを連続的にモニタ表示する。測定データをモニタ監視することで,フェルトの運転状況をリアルに把握でき,その内容に基づき周辺設備の条件設定等の調整を最適に行うことで,フェルトの運転状況が適正化され,エネルギーの低減,紙切れ低減による操業性の向上,さらにはフェルト交換の最適な判断をおこない,プレスパートを効率よく運用できる。
  今回は可視化された画面の事例をもとに,フェルトビューの納入効果の一例を報告する。
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製紙スラッジの炭化によるCO2固定及び削減量の見積もり
―炭化処理のCCS技術としての可能性―

千葉科学大学 危機管理学部 安藤 生大
静岡県富士工業技術支援センター 日吉 公男
岳南第一製紙協同組合  嶋田 修治
愛媛大学 農学部 松枝 直人,逸見 彰男

  本研究では,炭化した製紙スラッジ(CPS)について,化学,鉱物学的検討から原料PSの復元を行い,CPSを構成する炭素の安定性評価を行った。さらに,PSの炭化処理,灰化処理における消費エネルギー量等のインベントリ分析を行った。これらの結果をもとに,PSを構成するセルロース等から排出されるCO2をカーボンニュートラルと解釈したうえで,CPS中の炭化物が固定しているCO2量を“固定量”と定義し,灰化処理によるCO2排出量と固定量の差を“削減量”と定義し,これらの具体的な試算を行った。得られた結果を,以下に示す。
   対象とするCPSの化学,鉱物学的検討から原料PSの復元を行うと,吸着水が115.5t含まれ,乾燥
     PS(DPS)が94.5t(填料45.9tとセルロース48.6t)が含まれることが明らかとなった。このうち,
     セルロースには73.7t―CO2が含まれ,カルサイトには10.1t―CO2が含まれることから,DPS1tあたりに
     含まれるCO2量は887kg―CO2/t(DPS)となった。
   CPSを構成する炭素は,セルロース由来の化学的に安定なヒューミンと,カルサイト由来の炭素である。
     これらの合計量は,CPS1tに換算すると435.6kg―CO2/t(CPS)となる。炭化処理に伴う炭素の残存
     率は,セルロースで14%,カルサイトで89%である。このことは,炭化の過程でカルサイトは分解されにくい
     ことを示している。
   CPSを製造する際には,外熱および排ガス処理用燃料として天然ガスと電力を使用する。これに
     伴うCO2排出を考慮すると,炭化処理に伴うCO2固定量は133.1kg―CO2/t(CPS)に達する。
     また,炭化処理に伴うCO2固定量と,灰化処理に伴うCO2排出量を比較した場合,炭化処理では214.0
     kg-CO2/t(DPS)のCO2排出削減となる。
    PSをボイラー燃料等に利用するサーマルリサイクルを想定した場合,得られる発熱量を原油で代替
     するとすれば,DPS1tあたりに換算して358.4kg―CO2/t(DPS)のCO2排出削減となり,PSの処理と
     しては最も効果的である。
    CPSに安定に固定された炭素が解放されない用途として,森林土壌等へ還元する用途に用いれば,
     PSの炭化処理は簡便で実現可能なCCS技術となりえる。
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パルプ繊維のTEMPO触媒酸化がシートの粒子捕捉特性あるいはイオン交換特性に与える影響

ヤマシンフィルタ株式会社 技術本部 石塚雅規
東京大学 大学院農学生命科学研究科 斎藤継之,江前敏晴,磯貝 明

  広葉樹漂白クラフトパルプ(HBKP)をTEMPO触媒酸化して水中で解繊した高フィブリル化物(FTO―HBKP)を,HBKP懸濁液に0〜30%添加し,水道水を用いてHBKP/FTO―HBKP混抄シートを作製した。水道水中のカルシウム等の二価イオンを介したイオン架橋により,FTO―HBKPを効率的にシートに歩留らせることができた。FTO―HBKPの添加量が10%から30%に増加させることで,混抄シート密度は直線的に増加し,貫通細孔径分布は小細孔径側に移行した。通気度はFTO―HBKPの添加により低下するが,30%のFTO―HBKP添加でも一定量の通気性を維持していた。この混抄シートの大気中でナノ〜ミクロンレベルの粒子捕集率の評価を行ったところ,FTO―HBKP添加量を増加させることで捕集率を向上させることができ,高性能集塵紙としての利用が期待された。続いて,未解繊のTEMPO酸化針葉樹漂白クラフトパルプ(TO―SBKP)シートのイオン交換特性について検討した。TO―SBKP中のカルボキシル基は抄紙時の水道水中のCa,Mgイオン,あるいは添加した硫酸アルミニウム由来のAlイオンを効率よく吸着した。乾燥履歴のあるTO―SBKPシートの硫酸アルミニウム水溶液浸漬によるAlイオン吸着能も維持しており,イオン交換能を有する機能性シートとしての利用が期待された。
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