2010年5月 紙パ技協誌
 
第64巻 第5号 和文概要


パルプ蒸解技術を用いたバイオエタノール生産
  ―実証プラントから明らかになった問題点―

独立行政法人 森林総合研究所 眞柄謙吾,池田 努,野尻昌信

  平成18年後半,政府は2030年までに国産バイオマスを原料としてガソリン使用料の1割を代替できるバイオエタノールを製造することを目標に掲げ,その中で木質から生産するエタノールを目標200万kLとした。この200万kLのエタノールを製造するためには,約400万tのセルロースが必要となるが,そのような莫大なセルロースを生産できる技術は紙パルプ業界以外にあり得ない。よって,森林総研はソーダアントラキノン蒸解法で製造したパルプを酵素糖化と発酵によりバイオエタノールに生産する技術の開発に着手し平成20年に秋田県北秋田市に実証プラントを建設するに至った。プラントは平成21年6月に完成し,その後数度の実証運転を行いいくつかの問題点を抽出した。それらの中で,糖化・発酵工程におけるパルプ懸濁液の輸送や撹拌は,エタノールの生産効率に大きく影響する問題であった。
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重油ゼロの苛性化技術の検討
  ―直接苛性化の昔と今―

株式会社Biomaterial in Tokyo 柏研究所 矢口 時也

  KP法の薬品回収法に利用されている石灰法苛性化を,重油ゼロの苛性化法にするため,酸化鉄法,酸化チタン法,ホウ酸塩法等の各種苛性化法が開発研究され,パイロットテストまたは工場実験がおこなわれ,ほぼ目標どおりの結果が得られた。しかし,エネルギー的,経済的,環境的に一長一短があり,現在まで実用化にはいたらなかった。しかし,ここにきて重油ゼロの苛性化法に新たな関心が生まれてきている。黒液エネルギーの効率的利用のため,黒液ガス化燃焼法が脚光をあびている。黒液ガス化では黒液中の硫黄化合物の大半がガス化し,硫化水素として気相へ移行するので,苛性化負荷が増加する。効率的に苛性化するため,石灰法以外の酸化チタン法とホウ酸塩法苛性化が検討されている。また,地球温暖化防止のため,大気中のCO2を苛性ソーダ水溶液で吸収して炭酸ソーダとし,この炭酸ソーダを苛性化して回収し再使用するシステムが有望視され,石灰法苛性化と酸化チタン法苛性化が研究され,酸化チタン法の熱エネルギーが石灰法の50%以下であり,反応温度も50℃低下することが評価されている。
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苛性化技術の位置付けと変遷

王子製紙株式会社 統括技術本部 技術部 松村 基広

  苛性化工程は,クラフトパルプ製造における重要なプロセスの一つであり,この技術の確立がクラフトパルプ発展の一端を担ってきた。ここでは,クラフトパルププロセスにおける苛性化工程の位置付けと,苛性化技術の変遷を整理することにより,国内における今後の動向及び課題を推測する。
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アンドリッツ最新苛性化キルン設備の紹介
  ―BrainWaveコンピューター制御システムの導入―

アンドリッツ株式会社 技術営業部 第1グループ 鮫島  功

  1990年以降,パルプ生産設備の大型化が進行しそれに伴い苛性化キルン設備も高生産量の機器が必要となった。また苛性化操業面において,薬液中の重金属物質の蓄積により白液の品質低下,石灰泥の脱水性の悪化及びキルンの燃費が増加している。またドレックス処理方法にも厳しい環境対策を求められている。アンドリッツ社では,上記問題に取り組み,解決してきた。
  アンドリッツ社の最新技術として主に緑液清澄設備(LimeGreenTM),ドレックス処理設備(LimeFreeTM),石灰泥洗浄・脱水設備(LimeDry TM),キルン設備(LimeKiln TM)等紹介する。
  またソフト面においても大きなメリットのあるBrainWaveコンピュータ制御システムも紹介する。
(本文23ページ)


最新白液製造プラントの改善点

メッツォペーパージャパン株式会社 営業本部 中村 二郎

  近年,いくつかの製紙工場/製造ラインが新たに建設された。このようなプロジェクトでは,白液製造プラントに対するより厳しい要求事項が追加されている。この要求事項としては,電力や燃料の節約,より良い作業環境,そして放出物の低減などが挙げられる。本文では,このようなプロジェクトのいくつかから選択したコンセプトに加え,DNCG回収,ゼロ排水量,脱水度の高いライムマッド,上級コントロールシステム,バイオマス燃料システムの影響など,いくつかの考えられる改善案を示す。また,この改善の機会が採用されている1.5MADT/year用に設計されたパルプ工場向けの白液製造プラントについて述べる。本文では,ライムキルンクーラー型式とキルンライニング構成などの追加事項も含まれる。
(本文30ページ)


水質から見た苛性化工程の障害と対策

栗田工業株式会社 ケミカル事業本部 第一部門 紙パプロセス部 技術サービス一課 
小笠原啓隆

  近年,化石エネルギー由来のCO排出量削減を始めとする環境問題への関心が高まり,さらに重油価格の高騰や世界経済が変化する状況から,製紙工場全体へのエネルギー供給源であるクラフトパルプ(以下,KP)製造プラントを安定に操業することは,環境負荷低減だけでなく生産コストの増加を防ぐ意味で重要になっている。
  KP製造プラントは,パルプを生産しながら,黒液としてエネルギーを回収し,蒸解薬品をリサイクルする効率的な設備構造であるため,いずれの工程における障害もプラント全体の操業に影響を与え,生産性を低下させ得る。その中でも,苛性化工程の障害は,白液生産量低下に伴うパルプ生産量の低下や,石灰泥脱水不良に伴う石灰焼成キルンにおける重油使用量の増加,即ちCO排出量の増加と生産コストの増加につながる。
  また,緑液ラインは,苛性化工程において最初の工程であるため,パルプ生産量の変動に伴うスメルト生成量や回収ボイラの燃焼効率などの操業変動を受けやすい。そこで,本稿では,緑液ラインの操業安定化が苛性化工程およびKP製造プラントの安定化にとって重要と考え,その障害と対策について紹介する。
(本文42ページ)


木質バイオガスによるキルン重油の削減

JFEエンジニアリング株式会社 エコエネルギー部 宮越 靖宏

  化石燃料からバイオマスエネルギーへの転換は,地球温暖化と脱化石燃料の有望な対策として期待されている。現在,木質バイオマス燃料の国内最大の利用先は,ボイラによる燃焼排熱回収であるが,既存の燃料焚きボイラを活用することが出来ない,得られるエネルギー形態が蒸気のため用途が限られる等の制約がある。
  バイオマスガス化は,木屑等の木質原料を熱分解し,汎用性の高いガスやタールに転換することにより,木質バイオマスの使途をこれまで適用できなかった既存の工業炉やボイラ等に拡大するものである。JFEエンジニアリングは,Babcock & Wilcox Vlund ApS(バブコック&ウィルコックスフェルント社)より技術導入した「JFE―フェルント式木質バイオマスガス化システム」を基に,国内に3件の木質バイオマスガス化エネルギー供給プラントの実績を築いている。本稿では,「JFE―フェルント式木質バイオマスガス化システム」の特長と石灰キルン炉へのバイオ燃料供給による重油削減の事例について紹介する。
(本文48ページ)


苛性化工程での軽質炭酸カルシウムの製造技術

日本製紙株式会社 技術研究所 金野 晴男

  日本製紙(株)ではクラフトパルプ化の薬品回収工程である苛性化工程で副生する炭酸カルシウム(ライムマッド)を「苛性化軽カル」と呼び,製紙用材料として利用している。このライムマッドを填料・塗工顔料として利用することで,キルンでの重油使用量の削減が可能となる。
  本講演では苛性化軽カルの概要について述べた後に,苛性化軽カルの白色度と,これに大きな影響を与える緑液清澄化の関係について紹介する。次いで粉砕処理による填料・塗工顔料製造,高品質化を目的とした形態制御技術について述べる。
  また,苛性化軽カル利用に伴うメリットであるキルン重油使用量削減効果について報告する。さらに近年,苛性化工程で問題となっているノンプロセスエレメントが,苛性化軽カル利用によって大幅に除去できることから,その効果について報告する。最後に経済面・環境面から苛性化軽カル技術のメリット・デメリットをまとめ,本技術の将来的な可能性について述べる。
(本文53ページ)


相川鉄工DIP工程の省エネルギー技術

相川鉄工株式会社 技術部 藤田 和巳

  本来,低コスト製紙原料として開発された脱墨パルプは近年では製品品質要求の強化と原料古紙の低級化により生産システムを複雑化し,新聞用紙配合用DIPでも製造動力原単位が当初の250kWH/Tから400―500kWH/Tと倍増してしまった。一方,製紙産業を取り巻く環境の観点から,地球温暖化防止のためのCO2削減に直結する低動力原単位とともに,貴重な古紙資源を無駄にしない,産業廃棄物を極力排出しない「低コスト脱墨パルプ生産システム」への要求が一段と強くなっている。
  弊社の「新聞用紙配合用低コスト脱墨パルプ生産システム」は最も一般的なDIP工程である,新聞及び,雑誌古紙を原料とした新聞用紙配合用DIP原料を,品質はそのままで,弊社の低動力技術の組み合わせによって動力原単位250kWH/T程度で生産するとともに,原料歩留まりの向上,添加薬品原単位の低減を目標とした,弊社の低コスト脱墨パルプ生産システムラインナップの基本システムである。本稿では低コスト脱墨システムの紹介と共に,本システムを実現可能とした弊社高濃度パルピングシステム,低動力スクリーニングシステム,及び高濃度分散システムの特長を紹介する。また,紙力強度向上とデシャイブを目的とした低コストのポストリファイナーについても紹介する。
(本文58ページ)


アンドリッツDIPの省エネルギー技術

アンドリッツ株式会社 技術営業部 第2グループ 竹下 陽介

  本稿では,アンドリッツの主に新聞雑誌古紙DIPの省エネルギー事例についての説明とそれに用いられた省エネルギー技術について説明する。最初にロセスによる省エネルギーの例として繊維分級を行い部分ディスパージョンを実施したスイスのペルレンパピエの紹介する。これにより長繊維のみの分散操作により大きなエネルギーの削減が可能になった。次に機器の省エネルギーとしてパルパー,クリーナー,スクリーン及びディスパーザーに関する省エネルギー技術を紹介する。また,DIPプロセスからのエネルギーの回収技術としてDIPスラッジの乾燥固形燃料化システムについて説明する。
(本文66ページ)


DIP工程の省エネルギー技術

株式会社 IHIフォイトペーパーテクノロジー 原質機械技術部 江口 正和

 わが国の古紙処理を取り巻く状況は急激に変化し,特にエネルギーコストの増大,加えて経済環境の悪化による紙板紙の需要の伸びの鈍化が追い討ちをかけている。今後のテーマは,品質を落とさずに製造コストを如何に削減するかが製紙業界の第一課題になると予想される。DIP製造コストの中で原料,エネルギー,薬品コストは設備技術の如何によって大きく異なり,まだまだコストダウンの可能性が眠っている。
  今回は,弊社の省エネに寄与する機器単体技術,並びにシステム技術について紹介する。
(本文70ページ)


海外の紙パルプ事情と日本の課題

紙パルプ技術協会 豊福 邦隆

  2008年の世界における紙・板紙の生産は3億9,091万トン(RISI)であった。1956年が6,231万トンであったから半世紀で約6倍以上になったことになる。
  今回の経済危機により2009年の生産量は大幅に減少するだろう。しかしながら,長期的視点に立てば,一時的なリセッションがあっても,開発途上国を中心に紙の需要はこれからも伸び続けるであろう。世界の紙事情について,資源,エネルギー,環境,人口の観点から概説するとともに,世界各国の製紙産業について,各国製紙産業の特徴を捉えながら,実際に現地を訪ね,見聞した結果を紹介する。
  また,これらの状況を踏まえて,これからの日本の製紙産業が取り組まねばならない課題,つまり,世界的に見ると特殊な日本のユーザーの要求を満たしながら,同時に,国際的に価格競争できる製品を生産していく必要性について触れる。
(本文75ページ)


第42回ABTCP(ブラジル紙パルプ技術協会)年次大会参加報告

紙パルプ技術協会 豊福 邦隆

  2009年10月26日〜29日にブラジルのサンパウロで,第42回ABTCP(ブラジル紙パルプ技術協会)年次大会・展示会がPI(フィンランド紙パルプ技術協会)との共催で行われた。2006年の年次大会以来,2度目の参加である。
  ABTCPの積極的な海外活動とブラジル紙パ産業の成長を反映して,結構,海外(欧米)からの参加者も多いが,さすがに経済危機の影響を受けた今年は,例年に比べて半減している。
  特別セッションで世界各地域を代表した5件の発表が行われ,環境,パルプ,自動化,紙,回収・設備,エンジニアリングの6分野で65件の一般講演が行われた。特筆は,併設される展示会の巨大さであるが,2006年に比べるとこれも半分に近い5,600m2という広さに減少し,165社の展示が行われた。
  大会終了後には,フィブラ社のジャカレイ工場とその苗畑や植林地を見学した。また,サトウキビからのバイオエタノールの生産工場も見学した。
(本文80ページ)


第22回ISO/TC6国際会議報告

東京農工大学 岡山 隆之
東京大学 江前 敏晴
紙パルプ技術協会 岸  恭二

  ISO/TC6国際会議が2009年11月16〜20日にベルリン(ドイツ国)で開催された。この会議は,約18か月毎に開催される。
 日本は,紙パルプ試験規格委員会(兼ISO/TC6国内委員会)の岡山委員長を代表とし,3名が参加した。出席した各会議の概要をまとめた。
(本文91ページ)


両性PAMの吸着挙動に関する解析

日本製紙株式会社 品質保証部 山口  崇
ノースカロライナ州立大学 マーチンA.ヒュービー,オーランドJ.ロハス

  製紙用紙力剤として用いられている両性PAMの紙力発現機構についての知見を得ることを目的に,その基質への吸着挙動についてQCM―Dなどの分析機器を用いて解析を試みた。
  QCM―Dでは物質の基質への吸着量と,吸着した物質の粘弾性に関する情報が得られる。両性PAMや,PAC(ポリ塩化アルミニウム)と両性PAMの併用,これらの複合体との比較から,両性PAMは基質上で立体的に広がった形態を取ることが確認され,また吸着過程において基質上でポリマーのコンフォメーション変化が起きていることが示された。基質としてシリカ,セルロース薄膜を用いて比較したところ,電荷密度が低いセルロース薄膜の方がポリマーはより立体的に広がった形態で吸着していることが確認された。以上の結果から,両性PAMなどのポリマーの吸着挙動はポリマーの電荷,基質の電荷の両方が大きく影響することが示された。また,pHも両性PAMの吸着に大きく影響を及ぼし,pH7〜8において吸着量が最大となった。これは両性PAMの等電点と一致した。両性PAMはその等電点において立体的に広がった形状で吸着しており,等電点から離れるに従い基質表面にフラットな形状で吸着していることが示された。
(本文105ページ)