2010年4月 紙パ技協誌
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第64巻 第4号 和文概要


ブラジル北部地域における植林事業
―AMCEL社の取り組み―

日本製紙株式会社 森林科学研究所 河岡 明義
アムセル社 研究開発部 太刀川 寛

  Amapa Florestal e Celulose S. A. (AMCEL)は,ブラジル北部にあるアマパ州南西部のサバンナ地帯において,苗の生産からチップの出荷までの一貫体制で,総面積約30万haのユーカリ植林事業を行っている。AMCELの持つ特徴として,平坦でまとまった植林地,チップ工場(=積み出し港)への距離,豊富な降水量と温暖な気温など,恵まれた地形・地理・気候条件があげられる。しかし,ユーカリ植林開始当初に他社から導入したクローンは,高温多湿な雨期など,開発元とは著しく異なるAMCELの植林地環境に適合しなかったため成育が不良で,これらの好条件を十分に活かせずにいた。
  そこで,AMCELでは独自の選抜育種プログラムを立ち上げ,自社植林地の環境に適応したクローンの開発を開始した。育種の母集団は,自社実生林にて優良な生育を示した個体や,交換によって他植林会社からもたらされたクローンである。これらを対象に,病害抵抗性や成育性の優れたクローンの選抜を行った。そして,2006年末の日本製紙株式会社と丸紅株式会社による買収以降,全面的に新しいクローンに切り替え,大幅な成育量の向上を実現した。
  AMCELでは引き続き選抜育種を林業施業技術の開発を行い,更なる成長量の向上を目指す。
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連続蒸解釜改造による操業経験

三菱製紙株式会社 八戸工場 古井 正美

  三菱製紙八戸工場は本州北端の太平洋岸にある八戸市の海岸沿いに位置し,パルプから紙の一貫工場として,コーテッド紙を中心とする印刷用紙,情報用紙,板紙を生産する年産90万tの当社主力工場である。抄紙機へ供給するパルプとして,BKP(LBKP及びNBKP),DIP,CGPを生産しており,BKPが全体の90%弱を占めている。KPの生産設備は,カミヤ式連続蒸解釜1基とバッチ釜4基であり,連続蒸解釜はKP供給量の約80%を占める主力設備である。
  2007年8月に増産を目的として,連続蒸解釜の改造及び新規チップビンやその他の機器を導入した。改造後,約2年が経過したが改造から現在までの操業経験について今回紹介する。
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石巻工場 N6マシンドライブの制御技術

日本製紙株式会社 石巻工場 動力部 池内  亨

  石巻工場N6マシンは,平成19年11月1日に営業運転を開始し,A3コート,微塗工紙を生産している抄速1,600m/分,ワイヤー幅9,450mmのオンマシンブレードコータ,オンマシンカレンダの抄紙機である。機械構成は国内外複数の抄紙機メーカーのパートを組み合わせているが,メインサプライヤーは海外の大型コート紙製造設備で多数の実績を持つmetso社を採用している。営業運転開始後,メーカー最新技術と弊社の抄紙技術,塗工技術との融合により計画を上回る早期高速運転を達成することが出来た。この順調な立ち上げ及び安定操業の背景には,プレドライヤ出口以降の全パートでの自動張力制御,コーターバッキングロールの速度制御応答の向上による塗工開始時の張力安定,ブレードタッチ・開放時の速度変動抑制による断紙発生率の低下などのドライブ制御技術の貢献もある。
  マシンドライブ装置は国内製紙メーカーで初めてSIEMENS社コンプリートを導入した。ドライブ制御技術の操業安定への貢献度を数値化して評価をすることは難しいが,本報告ではSIEMENS社製ドライブ装置の選定の経緯とその特徴及び断紙削減,通紙性向上を目的とした最新制御技術について安定操業への寄与例を挙げ報告する。
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新潟工場 N9マシンの操業経験
―課題克服から安定生産へ―

北越紀州製紙株式会社 新潟工場 工務部抄造第7課 桑野  仁

  北越紀州製紙新潟工場9号抄紙機,通称N9は,2008年6月に試運転を開始し,9月から営業生産に入り現在に至っている。主にA3コート紙を抄造し,当初目標である日産1,000t/Dをクリアするなど順調に稼動している。
  N9は新潟工場の6号・7号・8号機で培ったオンマシンコート抄紙機の技術にオンカレンダーを加え,抄紙機上でA3グロス紙を製造できるマシンである。
  本報告では「課題克服から安定生産へ」について述べる。
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バイオマスボイラーの概要と立ち上げ経験

中越パルプ工業株式会社 高岡工場能町 平瀬 昌平

  高岡工場能町ではKPとDIPを製造し,抄紙機5台・塗工機1台にて,上質紙・塗工紙・高級白板紙・クラフト紙などを抄造している。工場ではISO14001に則った環境マネージメントを中心に,省エネルギーの推進や環境保全活動に積極的に取組んでいる。
  設備の動力源として,回収ボイラー(RB)の蒸気を利用しての自家発電力と北陸電力からの購入電力を使用している。RBの燃料は黒液と重油である。このバイオマスボイラーの導入により重油レス操業を可能にし,化石燃料由来のCO2排出の低減・エネルギーコスト低減を進める目的で,平成21年6月に運転を開始したので,設備の概要と立上げ時の経験について報告する。
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バイオマスボイラーの操業経験

紀州製紙株式会社 紀州工場 川本 武宏

  紀州工場では従前より省エネルギー活動を推進しており,京都議定書採択後も,省エネルギー・生産効率の向上により温室効果ガス等の排出抑制に努めている。しかしながら,ECF化(無塩素漂白パルプへの転換)設備,古紙処理設備などの環境設備によるエネルギー使用量の増加もあり,計画通りの温室効果ガス等の低減には至っていない(地球温暖化対策計画書にも報告している)。温室効果ガス低減の為の技術としては,風力発電,地熱発電やバイオマスガスタービンなどが注目されているが,目標年度である2010年を目前に控え,採算性や操業性の点で多くの問題を抱えている。当工場では今まで利用先がない為に廃棄処分されてきた廃木材やバーク,プラスチックなどに注目し,それらを燃料としたバイオマスボイラを設置することで,既存の重油ボイラを停止し,化石燃料を低減させ,温室効果ガス等の大幅な削減を図ることを計画した。本報告では,平成20年7月から稼働に入った,バイオマスボイラの操業経験について報告する。
  本バイオマスボイラは,稼働後トラブルは発生したものの,紀州工場の化石エネルギー起源二酸化炭素排出量が,前年と比較すると,39%の削減が出来ている。今後は,灰の土壌化及び,石炭の低減化により,コストダウンを図ると共に化石エネルギー起源二酸化炭素排出量のより一層の削減に取り組んで行きたい。
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ばい煙問題の技術的アプローチ

日本製紙株式会社 環境安全部 山口 和基

  2007年6月から7月にかけて,日本製紙株式会社において自主的に行った社内調査の結果,6工場で大気汚染防止法のばい煙排出基準値の超過があった。この問題について,日本製紙株式会社では,同年7月2日に公表し,その後,環境省,経済産業省に,原因および再発防止策について報告した。また,その再発防止策の進捗状況について3度の中間報告を両省に行い,昨年12月に最終報告書を提出したところである。
  ここで約束した再発防止策は,違反のなかった工場も含め,日本製紙株式会社の全10工場に対し取ったものであり,設備改善・管理方法の改善による再発防止対策(技術的再発防止対策)と意識改善を主としたコンプライアンスに関する再発防止対策に分けられるが,今回はこのうちの技術的再発防止対策について,当社の取り組みを紹介する。1時間平均値による管理を徹底し,警報・パトライトの改善,設備停止判断基準の明確化など,工場での改善に加え,本社(東京)でも,全工場のばい煙データを常時監視できるシステムを導入した。これらの再発防止策を確実に実行していることにより,2年を経過した現在,大きな問題は発生していない。
  また,これらの再発防止策は,グループ各社にも拡大し,ばい煙発生施設を持つ各社では同様な取組みを実施している。今後とも,大気関係のみならず,環境関係法令の順守体制構築に努めて行きたい。
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機密古紙リサイクルへの取組み

日本大昭和板紙株式会社 草加工場 工務部 田口 正樹

  日本製紙グループ環境憲章では,資源の循環利用推進を基本方針として位置づけ,地球規模での環境保全に取組み,循環型社会の形成に貢献することを理念として掲げている。 製紙業界では2010年度までに古紙利用率を62.0%に向上させる努力目標を,2008年度に62.4%で達成することが出来た。更に古紙利用率を向上させるためには,古紙の回収率のアップが必要である。特に情報漏洩上の問題から焼却処分されるケースが多い機密古紙は,当工場でも積極的に使用をしているが,既存設備での増加はセキュリティ・立会い者の環境不備等があり,若干の伸びにとどまっていた。
  2008年3月,問題点をクリアすべく,セキュリティを高め安心してご利用頂くために,屋内密閉型の機密古紙専用の設備を新設し,増量も図れ順調に稼動している。
  本稿では,草加工場リサイクルの取組みと機密古紙処理設備の現況について紹介する。
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広葉樹晒クラフト上質紙の創製(前編)

木島 常明

  この報告は世界ではじめて広葉樹のみから良質の洋紙を製造した経緯について述べたものである。本前編ではクラフトパルプの研究,および創製の舞台となった勇払工場(国策パルプ工業,現日本製紙)について触れ,創製への道程を述べた。
  大正末期に日本にもクラフト法(KP)が導入されたが戦時中は人絹用パルプの国内自給率向上政策のため,その生産方式であったサルファイト法(SP)に研究は注力されていた。しかし,京都大学では広範囲な樹種についての実験からクラフト法の優位性を見出だし,学会誌,特許などを通じて外部に発表していた。戦時中,中国から抄紙機を移設し洋紙を生産していた勇払工場は,終戦後GHQの命により昭和23年5月,その設備一式が中国に撤収されることになった。工場再建計画委員長の水野成夫氏は部下志村文三氏の再建計画案を全面的に支持し,「広葉樹を主原料としたクラフト法により,一部は未晒,一部は晒とし包装紙および上質紙を製造する」ことを決めた。設備認可権のあったGHQは,当時紙の主要原料であった針葉樹が枯渇していたことから,広葉樹の利用には異存がなかったが,パルプ設備についてはアメリカで評価の高かったセミケミカル法の導入を主張したため,クラフト法の採用は困難を極めた。そこで水野氏は止む無く「化学パルプ」として工事をスタートさせたが,その後セミケミカル法主唱者の急逝,朝鮮動乱の勃発など状況が一変し,結果的には所期の再建計画を完遂することが出来た。
  パルプ設備完成後漂白法に一工夫を加えて高白色度パルプの製造に成功したのち,勇払工場は昭和27年4月,世界で初めて「広葉樹晒クラフト紙」の製造に成功するが,それについては後編(6月号)で述べることにする。
(本文44ページ)


バイオエタノール生産プロセスとしてのクラフトおよび 酸性サルファイト蒸解法の評価

筑波大学 大学院生命環境科学研究科 橋史帆,谷藤渓詩,中川明子,大井 洋
北越紀州製紙株式会社 技術開発部 中俣恵一

  木質系バイオマスからバイオエタノールを製造するためには,リグニン除去などの前処理が必要であり,蒸解法もそのひとつである。一方,紙パルプ産業で実用化されている主要な蒸解法はクラフト蒸解に代表されるアルカリ蒸解および酸性サルファイト蒸解である。蒸解プロセスとは本来,木質系バイオマスから製紙およびセルロース用原料パルプの生産を行うとともに,黒液によるエネルギーの生産を行うプロセスである。木質系バイオマスを原料とする大規模で効率的なバイオエタノール生産プロセスを実用化するためには,これらの蒸解法について,バイオエタノール生産という観点に基づく検討が必要である。そこで本研究では,第一に,クラフトパルプ工場での黒液からのバイオエネルギー生産について評価を行い,第二に,アルカリおよび酸性サルファイト蒸解法のバイオエタノール生産プロセスとしての適性について検討を行った。
  クラフトパルプ工場の黒液から得ることが可能なバイオエネルギーの生産量の推定を行った結果,国産針葉樹材クラフトパルプおよび植林木広葉樹材クラフトパルプ製造の場合,1kgの木材原料に対してそれぞれ12.4MJおよび9.3MJとなり,前者が約3MJ高いことが示された。また,カラマツ材を用いて低いpHで長時間の酸性サルファイト蒸解を行うと,パルプ中のセルロースも分解して溶出し,廃液中に木材原料の7.2%のグルコースが得られた。カラマツ辺材の酸性サルファイト蒸解の蒸解性は,アルカリ蒸解の場合よりも良好であった。カッパー価65にもかかわらず,カラマツ辺材の酸性サルファイトパルプの酵素糖化処理におけるパルプ可溶化率(グルコース転換率)はアルカリパルプより高かった。酸性サルファイト蒸解では,クラフト法などのアルカリ蒸解と比較してパルプおよび廃液から高収率でグルコースを得ることが可能であり,木質系バイオマスからのエタノール製造に適した蒸解法であることが示された。
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解繊したTEMPO触媒酸化パルプの抄紙

ヤマシンフィルタ株式会社 技術本部 石塚雅規
東京大学 大学院農学生命科学研究科 斎藤継之,江前敏晴,磯貝 明

 広葉樹漂白クラフトパルプをTEMPO触媒酸化することで,セルロース中のC6位の水酸基の一部をカルボキシル基のナトリウム塩に効率的に変換できる。そこで,酸化の程度を変えたTEMPO触媒酸化パルプを一定条件で水中解繊処理して得られるスラリーから手抄きシートを作製し,各種物性評価を行った。広葉樹漂白クラフトパルプは3mmol/g―pulp以上の次亜塩素酸ナトリウム水溶液を添加してTEMPO触媒酸化を行うことにより,解繊処理によるパルプ繊維の切断が促進された。TEMPO酸化広葉樹漂白クラフトパルプの解繊処理によって得られた切断したパルプ繊維およびナノファイバーを含む微細化物も,水道水を用いた抄紙法によって90%以上紙中に歩留まらせることができた。TEMPO触媒酸化パルプの解繊物を水道水で抄紙すると,水道水中の多価イオン(例えばカルシウム)を多く含むシートになり,イオン交換機能が期待できる。解繊が進むに従い,シートの密度は高くなり,通気性の低い緻密なシートになった。これらの結果から,抄紙条件を最適化することにより,一部ナノファイバー化したTEMPO触媒酸化パルプ解繊物の抄紙法によるシート化が可能であり,イオン交換能等の有する機能性シートへの利用が期待される。
(本文73ページ)