2010年3月 紙パ技協誌
 
第64巻 第3号 和文概要


鉄鋼業における電装技術者の役割と技術動向

新日本製鐵株式会社 技術開発本部 システム制御技術部 副島 久信

  鉄鋼プロセスは,24時間連続運転に耐えうる高信頼性・高速で数mの加工精度を実現する高応答かつ高精度性,省力化や省エネといった高生産性・高効率性が要求される大規模プロセスである。更に,製造過程において物理的/化学的/熱力学的/冶金的な変化が混在・相互干渉しながら進んで行くため,非常に複雑なダイナミクスを持ったプロセスである。このように設備要求性能が非常に厳しい鉄鋼設備において,高品質製品の大量・安定供給への要請,昨今の急激な原料価格の変動,さらには地球環境負荷への配慮など鉄鋼製造現場を取り巻く環境は厳しさを増しており,我々電装技術者への期待と役割は益々高まっている。
  本稿では,以上の動向を踏まえ,鉄鋼製造工程での製銑プロセス・製鋼プロセス・圧延プロセスなどの鉄鋼製造プロセスの代表的な制御技術の特徴を紹介するとともに,鉄鋼業における電装技術者の組織とその役割分担,人材育成と技術伝承を実現する研修制度やWBSシステム,ソフト自製エンジニアリングの取り組み事例・ソフト生産性向上施策や操業支援システムなどの特徴的技術動向について概説する。
(本文13ページ)


富岡工場 N-1M/Cで導入した制御システムの事例紹介

王子製紙株式会社 富岡工場 大倉 孝之

  富岡工場N-1マシンは,薄物へのシフトという国内塗工紙マーケットの需要の変化に対応すると共に,当社の洋紙生産体制の弱点であった薄物塗工分野での競争力強化を図るべく新設された,オールオンラインコンセプトの最新鋭マシンである。2008年11月より試運転を開始し,2009年2月より順調に営業生産に入っている。   N-1マシンでは,各パートにおいて最新技術の機械設備が設置され,それらの制御システムについても,機械メーカーであるMETSO, VIPTのMCS(Machine Control System)が導入されている。MCSを取巻く制御システムについては,横河電機製DCS中核として,ハネウェル製QCS,コグネックス製欠陥検出器,横河商事製断紙監視システムを導入し,各社独自のノウハウ技術や品質向上のために要求される情報の授受を通信で実現している。
  また,操作・監視性向上や省力化の実現のために,集中警報システムやWEB監視カメラ等を導入している。  本報では,N-1マシンに導入した制御システムの概要と特徴について紹介する。
(本文20ページ)


新潟工場 N9マシンコントロールシステムの導入経緯と今後の課題

北越紀州製紙株式会社 新潟工場 工務部電気計装課 若林 浩策

  N9マシンは,新潟工場で4台目となるオンコーターマシンとして 平成20年9月営業運転を開始した。高速広幅,A3コート専抄マシンとして 高い生産性と国際競争力の実現を目指し,順調な立ち上がりを果たした。
  マシン本体は,原紙パート(ヘッドボックス〜プレカレンダー)及びリールパートにおいてMetso Paper社製を選定,コーターパートにおいてはVoith-IHI Paper Technology社製を選定した。また,マシンコントロールシステム(MCS)として,Metso Paper社製のMCSを導入した。
  試運転時において,幾つかのMCSに起因するトラブルを招いたが,現在では原因究明がなされ対策も完了,更なる飛躍と安定運転に向けて取り組んでいる段階である。
  ここでは,マシンコントロールシステム(MCS)について その導入経緯と現状における評価及び今後の課題について報告する。
(本文26ページ)


製紙設備用ドライブシステムの近況

安川シーメンスオートメーション・ドライブ株式会社 
技術統括部 応用技術部 三浦 雅浩

  SIEMENS IISでは,製紙設備向けの標準パッケージシステム:SIPAPER CISをもって世界各国に設備を納入している。この度,YSADとのコラボレーションにより日本国内に初めてオンコータマシン用電気品を納入した。YSADとしてもこの実績を機に,海外における最新ドライブシステム技術との融合を加速し,ユーザーにおけるメリット・デメリットの見極め含み,これまでに無い新たなシステム提案が可能となった。本稿では製紙機械制御における電動機,ドライブ装置,及びドライブ制御用パッケージ:SIPAPER CIS DRIVEからソフトトウエア技術,HMI技術についての考え方やコア技術を,実例を交えて紹介する。
(本文32ページ)


工場での省エネ活動の取り組みの紹介
-省エネルギーを成功するための要件-

株式会社 山武アドバンスオートメーションカンパニー 営業本部 営業技術グループ 澤内 和男

  1997年に採択された京都議定書の第一約束期間が2008年-2012年で既に始まっている。先進国全体で1990年比5%削減を目標としており日本は1990年対比6%削減を宣言している。各企業の努力により大幅な省エネ技術の進歩と絶え間ない努力で原単位では省エネが進んでいるが生産量増加による総量ではCO2排出量は1990年比で増加傾向である。省エネは乾いた雑巾を絞るようなものと良く言われる。確かに今まではエネルギーを供給する方が中心となって省エネルギーを実施して来たが供給側だけでは大幅な設備投資には限界があり需要側との連携によるエネルギー使用における最適化が求められるようになった。エネルギーを供給する側,エネルギーを利用する側が一体となった省エネ活動をする事によって更なる省エネが実現できた事例を紹介する。
(本文39ページ)


非接触式キャリパー計の使用事例

日本製紙株式会社 富士工場 工務部 野添  進,戸塚 慎吾

  抄紙工程において品質管理の要であるQCS(Quality Control System)は,その誕生から半世紀を迎える現在においてもなお進化を続けている。最近ではセンサーの改良や新センサーの開発が盛んで,その中でも最も注目されているセンサーの1つが非接触式キャリパー計である。
  富士工場F13M/C-F33C/Rは微塗工紙の生産ラインである。抄紙機は近年のDIP配合率増加と抄速アップの影響を受け,接触式キャリパー計による引っ掻き傷穴欠陥が問題となっている。また,下流工程であるF33C/Rスーパーカレンダー(以下S/Pと表記)は接触式キャリパー計を使用することで,紙への傷発生が懸念されるため,紙厚の連続測定を断念していた。
  これらの問題を解決すべく,昨年8月にはF33S/PにおいてQCS更新とあわせてメッツォ製の非接触式(片面非接触)キャリパー計を導入した。またF13M/Cにおいては昨年10月よりハネウェル製の非接触式キャリパー計にトライアルしている。
  本稿ではこれらの導入結果と今後の課題について報告する。
(本文43ページ)


DCSユーザーエンジニアリングにおける各社評価

日本大昭和板紙株式会社 大竹工場 工務部 室伏 俊幸

  分散型制御システム(以下,DCS)は,石油,化学,製薬,食品,製鋼などプロセス工業ではかかせないものであり,プラント監視制御の要部として今日多岐にわたり利用されている。
  当然,我が紙パルプ業界でもその活躍の場は広く,抄紙工程・パルプ工程をはじめ,各パートの監視制御を担い自動化・省エネ・品質管理などをアシストしている。
  そのような重要なポジションにあるDCSにおいて,これまでその選定や検討の際,ユーザーサイドにおけるエンジニアリングの利便性は軽視されやすい傾向にあったと考える。それは旧来のDCSが各社専用のソフトウェアでDCSソフトエンジニアリングはユーザーにとって敷居が高いものであり,メーカーに頼る傾向があったからである。
  ところが近年のDCSは,Windowsがインターフェースに採用されていることもあり,オペレーションだけでなくグラフィックやロジックのエンジニアリングが我々ユーザーにも容易に手が届くまでになった。
  そこで今回,各社DCSのエンジニアリングについて,ユーザーの目で比較し紹介する。
(本文53ページ)


抄紙機駆動装置の保全および更新について

東芝三菱電機産業システム株式会社 産業第二システム事業部 システム技術第二部
塩田 哲司

  抄紙機駆動電気品にセクショナル駆動方式のドライブ装置が適用されてから,早や半世紀が過ぎ,主設備用として20年,30年以上稼動したドライブ装置が多々存在している。
  長い間稼動してきたこれらのドライブ装置およびドライブ装置制御用システム機器については,故障率増加が心配される摩耗故障期に達しているものが多数存在している。一方でドライブ装置およびシステム機器への適用技術は,急速な変遷を遂げており,古い設備用予備品の確保ならびに故障時復旧対応の困難さなどの問題が表面化する時期が近づいている。連続操業を行う抄紙機などの製紙機械は安定操業が重要であり,上記の問題は顕著に生産効率へ悪影響を及ぼす可能性がある。駆動装置の安定操業のためには,日頃の点検作業や部品の交換などにより故障率を低く抑える保全対応を実施し,故障率上昇時や復旧対応が困難な場合などには新規電気品への更新検討が必要となってくる。更新の場合には,故障率の低減だけではなく性能や機能向上なども合せて検討するのが望ましい。
  本稿では駆動装置の保全対応や更新計画を推進する際の技術的な検討項目および更新時の機能向上案として,新型ユニファイドコントローラを紹介する。
(本文61ページ)


制御機器DCSの長期使用について

横河電機株式会社 グローバル営業本部 ライフサイクルソリューションセンター
瀧川  憲

  弊社の5世代目のDCS(分散型制御システム)であるCENTUM-XLは,2010年9月にシステムEOSを迎える。1988年発売以来22年間の保守サービスが終了することになる。弊社は従来からEOS以降もシステムの使用を継続されるお客様向けに,保守延長サービスを提供してきたが,今回の機種に対しては,特別な対応をせざるを得ない状況である。本紙では,この状況を整理してお客様のご理解を得ると共に,弊社の対応にご理解とご協力をいただけるように,長期使用のための課題と対応策を記載した。
  課題のひとつである有寿命デバイス部品の確保として,更新予定に基づく必要数量の先行予約に取り組んだ。さらに,ハードウエアの信頼性長期化技術を紹介した。(1)ハードウエアの信頼性とストレスについて,(2)設置環境ストレスについて,(3)基板洗浄による電子回路絶縁劣化回復技術である。最後に,信頼性長期化サービスとして,(1)電子回路基板洗浄専用自動車,(2)オンライン環境診断ユニットを紹介した。
  2015年9月の保守延長期限まで後約6年であるが,それまでに段階的更新を実施していただきV-net化を完了することをお願いすると共に,2010年9月のEOS以降もXLシステムを使用する場合は,本紙で紹介した信頼性長期化対策を実施することを推奨する。同様にEOSを迎えるμXLシステムについても,CENTUM-XL同様の対応をお願いする。
(本文66ページ)


バルブ劣化診断システムの導入と課題

株式会社テクノサポート 工務部電装課 駒形 勇太

  近年,紙パルププラントにおいては自動化が進み,ラインを制御するために様々な種類の自動調節弁が使用されている。これらの自動調節弁は重要なラインで使用されており,工場の安定操業に向けて,プラントのシャットダウン時にはメンテナンスを行ってきているが,操業中の自動調節弁の作動不良により設備停止を招き,多大な損失を被ることがある。また,プラントによっては半年間以上の連続操業をしている為,メンテナンスを行うことが困難な場合も多く,自動調節弁の劣化判断が難しいため,予防保全を行うことは難しい状況と言える。
  2006年,新規DIPプラントにおいて,自動調節弁の作動状況を蓄積できるインテリジェントポジショナーとフィールドケアシステムを導入した。診断技術を活用する事により,自動調節弁の最適な保全タイミングを把握し,自動調節弁トラブルの未然防止とプラントの停止ロスを削減しすることを目的とした。本稿では,東海パルプDIPプラントでテスト的に導入したシステムの現在までの運用状況について紹介する。
(本文73ページ)


バイオマスボイラの制御事例

紀州製紙株式会社 紀州工場 工務部施設課 佐々木 達也

  昨今の地球環境改善意識の高まりへの対応は各業界企業ともさけて通れないものであり,日本製紙連合会でも2008年度から2012年度の5年間平均で製品あたり化石エネルギー原単位を1990年度比で20%削減し,CO2排出源単位で16%削減する目標を掲げている。紀州工場ではこれらの目標をクリアするため化石燃料からバイオマス燃料への転換を計画,バイオマスボイラを建設し平成20年4月より運転を開始した。
  当工場バイオマスボイラでは現在5種類の燃料を使用しているが,各燃料には形状及び成分比率(含む水分)にばらつきがある,このばらつきは燃料の乾燥〜燃焼時間の変化,発生熱量の変化の原因となっており,ひいてはボイラ発生蒸気量の不安定化,燃焼室温度の局所的高温化,排ガス成分の規制値オーバー,等様々な不具合をもたらす。
  バイオマスボイラの安定した燃焼の為には,この燃焼速度差,燃焼発生熱量差を考慮した制御系のゲイン調整,及び炉内温度目標値温度設定が必要となる。よって紀州工場ではDCSをサポートする形での追加制御装置を設ける事を検討,現在実機でのテスト中である。今回はその概要および確認した効果の一部を発表する。 (本文79ページ)


新しい世代の全自動ペーパーテストシステム
-自由自在のkajaaniPaperLab-

メッツォオートメーション株式会社 プロセスオートメーションシステム事業部
近藤 治人,下崎 正憲

  約25年前に紙テストの自動化という最初の大革命を起こした。それから今日,ペーパーマシンの高速化や大型化などの製紙メーカーのニーズの変化や多様化に応えるために,新しい世代の全自動ペーパーテストシステム(全自動紙試験機)kajaaniPaperLabを発売したので紹介する。
  全自動紙試験機は設置場所と用途により使い分けられる(オフライン(研究試験室)とアットライン(マシンサイド))。kajaaniPaperLabは設置場所と用途に応じて本体サイズと試験モジュールがより自由自在な設計となり,試験モジュールだけでなく本体サイズも拡張・縮小できるようになった。アットライン(マシンサイド)には最も重要な試験モジュールを選択し設置し,プロセス・ペーパーマシン・製品のかくれた問題や品種の換えに迅速に対応するために使用される。オフライン(研究試験室)には各工場や研究所に必要な試験モジュールを選択し設置し,製品の評価,新製品の評価,品質向上やコストダウンにつながるプロセス・ペーパーマシンの解析,顧客のための試験評価など(用途は数えきれない)に迅速に対応するために使用される。よって,優れた生産性と大きな投資効果を提供する。
(本文85ページ)


tert-ブトキシドを塩基とする脱リグニン系の解析

東京大学大学院 農学生命科学研究科 竹野 甲子夫,横山 朝哉,松本 雄二

  バイオマス変換過程では一般的に,炭水化物を単離するためにリグニンを分解・除去することが多い。リグニンは疎水性物質であるから,水系よりも有機溶媒系に溶解し易い。したがって,有機溶媒系においてはこの性質が化学反応にも影響を及ぼし,温和な条件下でリグニンの除去が可能であることが期待される。本研究では,tert-ブトキシド(KOtBu)に塩基として注目し,KOtBu/tert-ブタノール(KOtBu/tBuOH),および,KOtBu/ジメチルスルホキシド(KOtBu/DMSO)系におけるリグニンの分解反応と脱リグニン挙動について,モデル化合物,ブナ木粉,および,ブナチップを用いて検討した。
 二量体の非フェノール性リグニンモデル化合物2-(2-methoxyphenoxy)-1-(3,4-dimethoxyphenyl)ethanolまたは2-(2-methoxyphenoxy)-1-(3,4-dimethoxyphenyl)propane-1,3-diolを,KOtBu/tBuOHおよびKOtBu/DMSO系中で処理すると,0.5mol/l KOtBu,300Cの非常に温和な条件下でこれらの-0-4結合が確かに開裂した。
 ブナ木粉をこれらの系中で処理すると,KOtBu/tBuOH系では十分な脱リグニンが達成されなかったが,KOtBu/DMSO系では0.5mol/l KOtBu,1100Cの条件下で十分な脱リグニンが達成された。
 しかし,ブナチップの処理では,十分な脱リグニンが達成されなかった。溶媒のDMSOが処理中に浸透していない可能性,および,リグニンが低分子化してはいるがチップ中から溶出できない可能性を考慮して,チップを室温下で二週間DMSO中に浸漬する前処理,そして,低分子化したリグニンを溶出させるための弱いソーダ蒸解後処理を行ったが,どちらの処理にも顕著な効果が観測されなかった。したがって,不十分な脱リグニンの原因として,塩基のKOtBuがチップに浸透しない可能性が考えられた。
(本文91ページ)