2009年8月 紙パ技協誌
 
第63巻 第8号 和文概要


縦型洗浄機ゼクーの概要と操業経験

株式会社 大善 秋山紗衣子,井出丈史,與田 清

  2010年の古紙利用率目標値62%実現に向けて,製紙業界における古紙の回収及び利用努力は続いているが,古紙事情は厳しく,今後も向上することは考えられない。それゆえに,古紙処理技術が企業の業績を左右する状況になってきたとも言えるのではないだろうか。
  古紙処理技術は当社がもっとも得意とするニーディング処理が主流となり,古紙パルプの品質は飛躍的に向上してきた。しかし,様々なDIP設備を拝見させて頂く中で,洗浄設備によって品質にかなりの差異が現れることを確認してきた。
  そこで洗浄効果の高い洗浄機の開発に取り掛かることとなり,繰り返し追求と開発を重ねた結果,遠心脱水と揉み作用による高い洗浄効果と効率のよい水置換洗浄効果を兼ね備えた本機の開発に至ることとなった。この新しい縦型分離・洗浄機「Zekoo(ゼクー)」(略称:バーチカルZ)については,平成17年の本大会でもご紹介させて頂いたが,それから月日が更に過ぎ,お客様にご利用頂くようになってから今年で7年目になる。この月日の中でも改良を重ね,より古紙品質の向上に貢献できるような装置となっている。
  この高い灰分,カーボン除去能力を持ち,省スペース,省使用水量型で作業性とメンテナンスの簡易な装置であるバーチカルZの基本的な構造,性能,及び操業データに加えて,現実的に操業する際のメリットや設置例などを報告する。
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COMPACT COOKINGTM G2蒸解技術

メッツォペーパージャパン株式会社 ファイバービジネスライン プロセス技術 具   延

  メッツォペーパーは,1990年代に見直された最適クラフト蒸解条件の4つの原則に基いて,COMPACT COOKINGTM G2蒸解法を開発した。この蒸解法は,蒸解収率,パルプ漂白性,及び蒸解パルプ品質を向上させること,異なった材種の混合材の蒸解にも適応し,エネルギー消費,環境に対する負荷を削減することができる。プロセス面での特徴は,水酸化物イオン並びに水硫化物イオンをより効果的に使用するために,浸透ゾーンと蒸解ゾーンを明確に分けたこと,そして従来法と比べ高液比で操業することである。また設備面での大きな特徴は,蒸解釜内におけるチップの下向流に対して,従来は蒸解釜のいくつかのレベルで横(水平)方向に液の流れを作って自己循環させていた蒸解循環をなくし,代わりにシステム全体に液の縦(垂直)循環を導入したことであり,それによりスクリーン負荷が従来法のそれより大幅に低減し,蒸解釜の横断面全体に渡る温度およびアルカリの分配がより均一となり,しかもシステム並びに設備構成がより簡素化したために,より安定した操業をすることができる。
  これからの日本の製紙産業において,COMPACT COOKINGTM G2プロセスは,以下の三つの要求に対して大きな役割を担うことが期待される。(1)新規ファイバーラインの建設(HW & SW),(2)既設蒸解システムの増産改造,(3)既設蒸解システム(特に過負荷の1ベッセルの蒸解釜)の効率化を目的とした改造,即ち,蒸解パルプ品質,蒸解収率,パルプ漂白性の向上,環境に対する負荷の低減,異なった材種の混合チップの均一な蒸解の実現,及びエネルギー消費の削減などである。
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AOKIクリーナーによるキャンバス汚れ対策
  ―問題の実践的解決―

株式会社青木機械 亀山 寿夫

 環境問題は,世界規模で関心がもたれている。日本の製紙産業では,1960年代から古紙回収・有効活用に努めているが,当初は,国内木材資源だけでは,需要が賄えないことであった。現在では,コスト採算性だけでなく,資源保護,および地球温暖化の一環をなしている。
  古紙回収を進めれば進めるほど,回収古紙の品質低下は,悪化の一途をたどっている。回収古紙のパルプ化工程での技術的開発の進捗は目覚しいものがあるが,一方,抄紙工程,とりわけ,ドライヤー・キャンバス方面の,ホットメルト,アクリルレジン,ピッチなどのスティッキー物質による著しい汚れにたいする根本的解決には至っていなかった。  ブレードタイプのキャンバス洗浄機“AOKI―CLEANER”は,従来の“ネットタイプ”や“高圧シャワータイプ”では為しえなかった効果を発揮できる“新型キャンバス洗浄機”である。“AOKI―CLEANER”を貴場の抄紙機に搭載することによりスティッキートラブルは驚くほど低減し,さらにコスト低減,生産性改善,および製品品質の向上,と合わせて,地球温暖化対策の一助となる。
  本レポートでは,実際の抄紙機における操業経験に基づき,“AOKI―CLEANER”の優れた成績を報告する。
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ポリマーの構造制御による地合い・紙質の改善

ハイモ株式会社 湘南研究センター 山口 佳也

  製紙原料中の微細繊維や填料として微粒な炭酸カルシウムの配合割合の増加,抄紙マシンの高速化等により歩留りを維持,向上するには高分子量を有する歩留向上剤が必要とされる。そのため,歩留向上剤として汎用されてきたポリアクリルアミド(PAM)系ポリマーの更なる高分子量化を図ることを主眼としたポリマーの設計開発がなされてきた。
  一方,より高品質な紙を製造するという観点から歩留向上剤にも紙質を改善する機能が要望される。そのため歩留の向上や生産性の向上と共に紙品質の向上も図れる薬剤が必要とされる。紙品質の向上には高い地合い性を付与する必要があると考える。しかし,直鎖型高分子量PAMは不均一な過大なフロックを形成したり,フロックが局在化したりするため要求される地合い性を維持できず,要求紙品質レベルへの確保が困難であることが懸念される。
  この課題に対して,当社は合成技術を活用し,ポリマーの構造を制御して地合いの向上,紙質の改善がある程度可能であることを見出した。抄造条件により最適なポリマーを適用することが重要である。今回,構造を制御して開発したポリマー及び歩留システムによる地合い・紙質への影響を中心に検証したので報告する。
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内添型デポジットコントロール剤による板紙のしみ出し欠点対策

油化産業株式会社 研究開発室 製紙薬剤グループ 三好 有香

  近年の古紙利用率及び古紙輸出量の増加に伴って,国内の古紙事情が悪化し,紙・板紙の欠点対策への関心が一段と高まっている。特に板紙は古紙配合率が92%と高く,古紙由来の欠点対策が必要不可欠となっているが,板紙特有の欠点として,乾燥工程や原紙の納入先である段ボール加工会社での加熱処理工程で発生する油染みのような欠点(しみ出し欠点)が問題となっている。しみ出し欠点は,ワックスが含まれる防水段ボールなどが,板紙の中間層原料である段ボール古紙に混入し,離解時にワックスが剥離・微細化した後,調成工程で凝集・粗大化して中間層に抄き込まれ,乾燥工程や加熱処理工程で溶融し外層まで拡がることで発生すると推察している。当社が上市している,非イオン性高分子を主成分とする内添型デポジットコントロール剤「ディタック」は,疎水性・粘着性であるデポジットの表面を,親水性・非粘着性に改質し安定的に分散させる作用があり,特に古紙に由来するスティッキー問題の解決に最適である。本報では,「ディタック」がワックス表面を親水化して安定的に分散させる作用を有しているため,板紙の中間層原料への「ディタック」の内添が,しみ出し欠点対策にも有効であることを紹介する。
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排水処理用無機凝集剤の低減薬剤と適用技術

栗田工業株式会社 技術部 竹林  哲,渡辺  実

  環境保全への意識が高まるなか,排水処理においても,処理水質の維持向上のみならず,省ケミカル・廃棄物削減などによる環境負荷低減の要望が高まりつつある。排水処理に用いる無機凝集剤は優れた濁質除去機能を有するが,薬剤使用量は多量なうえに原材料価格も上昇してきていること,薬剤から発生する無機スラッジが廃棄物となることより,使用量削減が求められている。しかし近年紙パルプ排水では,古紙品質の低下や水の再利用にともなう排水濃縮などにより処理は益々難しくなる傾向にあり,無機凝集剤の削減は容易ではない。
  弊社は,無機凝集剤の削減薬剤として有機凝結剤「ゼータエース」を開発・商品化しており,ここでは凝集処理の概要と有機凝結剤の役割,紙パルプ排水での適用対象と適用例を紹介する。併せて無機凝集剤の削減がコスト削減・廃棄物削減さらには温室効果ガスの排出量削減に寄与することを示す。また,排水処理の変動に対応するため,無機凝集剤添加量の制御システムについても従来の処理水水質からのフィードバック制御をさらに推し進めた,沈殿槽流入前の凝集反応槽での計測方法の適用についても検討しており,より制御遅れが少なく,処理水質の安定化,無機凝集剤の最適化に寄与できる新制御システムについても併せて解説する。
(本文26ページ)


省エネ・高効率を実現した1軸ねじポンプ
  ―コーティングカラー移送に最適な新規ポンプ―

兵神装備株式会社 技術部 河村  武

  1軸偏心ねじポンプは,多種多様な液体を強力に吸引し,そして,スムーズに吐出する。そのスムーズダイナミクスゆえに,製紙,食品,自動車,水処理分野など多くの分野で液体移送用として利用されている。たとえば,製紙工場では,コーティングカラー,パルプ,薬液,染料などを移送するために,使用されている。1軸偏心ねじポンプの内,従来からあるN型ポンプ及びコーティングカラー移送などに適した新しいタイプのD型ポンプに関して,その構造や特長などについて述べている。D型は,ローター・ステーター断面がN型とは異なり,ずんぐりした感じになっている。ローターはSUSなどの金属製で独自のひねり角を持ち,その断面は真円ではなく楕円形である。ステーターは,ゴムなどの弾性材質でローターに接しており,その空間断面は三角おむすび形である。このD型の作動原理はN型と同様で,ポンプ吸込・吐出を無脈動で連続的に行う。キャビティ(液)の吐出については,N型がローター1回転当たりキャビティ2体分を吐出するのに対し,D型は6体分吐出する。このため,N型よりも脈動がさらに少なく,せん断もないため,液を傷めず,泡立ちのない移送を可能にしており,コーティングカラーなどのデリケートな液に適している。D型は,このように大容量・高効率で省エネ・安定運転性能に優れており,ローター及びステーターの寿命も長く,10年以上の例もある。
(本文31ページ)


パルプポンプ用無冷却カートリッジシール

イーグル工業株式会社 営業技術部 高橋 秀和

  紙パルププラントにおいては,蒸解工程から抄紙・塗工工程に至るまで,水ポンプ,パルプ用ポンプ,各種薬液用ポンプなど,多数のポンプが使用されている。これらポンプの軸封部には,メカニカルシールが標準的に採用されるようになってきているが,取扱いの容易さ,組立誤り防止の目的で,カートリッジ式メカニカルシール(以下カートリッジシールという)が普及してきている。本報では,アウトサイド・静止形カートリッジシールの特長を述べた後に,その特長を生かして,ポンプ内に注水しない無注水仕様ばかりか,水を全く使わない無冷却仕様も実用化されてきている。パルプポンプ用に無冷却カートリッジシールを適用した事例とそこから得た知見を紹介する。
(本文35ページ)


頭脳を持った新型pH電極
  ―保全経費を削減する画期的なpHセンサ―

メトラー・トレド株式会社 渡辺 泰生

  メトラー・トレド社は従来にないコンセプトに基づいた新型のディジタルpH電極を開発した。このpH電極のセンシング部分は従来のガラス電極と同じ形状であるが,電極頭部に内蔵したCPUを含む電子回路でアナログ信号をディジタル信号に変換して専用の変換器にディジタル信号として送信できる機能を有している。
従来のアナログ信号のpH電極ではpH値と温度の2つの信号しか出力できなかったが,新型ディジタルISM電極はpH値,温度の他に電極の状態を表すガラス膜抵抗,液絡部抵抗,使用経過時間,電極の劣化状態のほか,校正データまでも変換器に送信することができる。
  従来型のpH電極の場合,交換,洗浄などのメンテナンスを実施したときには,pH電極の設置現場での校正作業が必須であるが,新型ディジタルISM電極は中央管理室などの環境の良い部屋で,時間の余裕があるときに電極の校正を実施しておくことができる。これを予備電極として保管しておくと,不良電極が発生したときは,この予備電極を現場の変換器に接続するだけで,すぐにpH計測が可能となる。即ち,現場における校正作業が皆無である。しかも,この新型ディジタルISM電極はコンピュータと直に接続ができ,電極内部の情報をコンピュータにダウンロードして動作特性を的確に把握すると同時に,電極情報を電子ファイルとして格納できるため,電極の適性管理に大いに貢献することは必至である。
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上質塗工紙のコスト削減のコンセプト
   ―シングルブレードVSダブルコートMSP―ブレード―

オミヤ社 P. ダルビク,G. ブルボル
ダウ ケミカル社 G. ウェルシュ
ダウ ヨーロッパ社 A. ヒップ,P. サルミネン

  ここではダブルコーティングとシングルコーティングをパイロットコーターで比較した研究事例を報告する。シングルコーティングは,ブレードコーティングによるピグメントサイズ塗工の一般的な手順に関するものである。ダブルコーティングの研究で,ピグメントサイズ塗工はブレードコーティングが適用されるところをMSPプレコーティングで代替した。ダブルコーティングのコンセプトはまた,上塗りに対する下塗りの比率を評価し,下塗りでの高濃度の操業の影響を評価した。
  得られた結果は,高濃度で速い塗料の固定化は水溶性バインダーの削減を可能にするという事を示している。  高濃度での操業では,乾燥エネルギーの削減が可能でかなりのエネルギーの節約が達成された。この事は乾燥能力の限界まで塗工速度を上る事が可能になったと言える。製造コストの計算(塗料配合と乾燥エネルギー)からかなりの潜在的コスト削減を示している。コストの利点に加えて,提案しているダブルコーティングのコンセプトは光学特性も改善している。
(本文44ページ)


製紙関連事業所の防虫管理における実効・効率の追求
  ―工場の体型・体質に合わせたオーダーメイドの対策構築―

アース環境サービス株式会社 開発技術部 市原 睦規

  紙製品への虫の混入は,製品クレームや生産性低下に直結する問題として重要視されてきた。特に医薬品・食品包装用途紙や特殊機能紙などにおいては,重大欠点として取り扱われることが多く,発生時のダメージは深刻である。
  弊社は,30年以上にわたり全国の製紙工場で防虫活動の診断と対策支援を行ってきたが,沢山の工場を調査してみると,混入のし方やその要因は工場やラインごとに大きく異なっていること,さらに,この要因は単一ではなく複数が絡み合って影響を及ぼしていることが分かってきた。虫混入が減らない事業所の多くでは,工場やライン特有の要因群とその影響のし方(本報ではこれを『虫混入シナリオ』とよぶ)が未解明なままに,“分かりやすい対策”“手をつけやすい対策”のみが場当たり的に実施されている。これでは,成果が上がらないばかりか,逆効果となることも珍しくない。
  本報では,工場やライン特有の『虫混入シナリオ』を読み解き,その筋道に沿って合理的に対策プログラムを組み立てるための考え方をご紹介する。そのポイントは,混入製品と工程の分析,環境モニタリングとデータ解析,対策優先順位の根拠づけ,そして全員参加型の取り組み体制づくりである。
(本文49ページ)


紙パルププロセスへのモデルベース予測適合制御

アンドリッツ株式会社 プロジェクトエンジニアリング部 水木 準二

  紙パルププロセスでは,動作が緩慢で変動が大きく,むだ時間が長いプロセスが多く,従来の制御方法の適用が難しかった。従来はカスケード制御,変動モデルパラメータ,あるいはフィードフォワード制御などの従来方式を採用していたが,制御が安定しない為,生産性,製品品質等に影響が出ないように,安全係数を見て操業していた。BrainWaveを商標とするモデルベース予測制御(MPC)は,PID制御が十分に機能しない各プロセスの制御の問題に優れた解決策を提供し,プラント制御を最適化するための理想的なツールと成る。MPCの内部モデルは限りなく実プロセスに近づき,更にプロセス応答中のむだ時間を効率良くモデル化したことにより,将来のプロセス応答の予測を可能として,設定値がすばやく修正・決定されその結果,オーバーシュートの防止などでプロセスを安定させる事ができる。
  MPCによる安定操業により,動作限界まで操業を改善する事で,省エネ・省人等エネルギーコストの削減,生産性,歩留まり,品質の向上を実現した事例として,ライムキルン制御,ダイジェスタ制御,苛性化設備スレーカ温度/苛性化率制御,パルプドライヤー制御リール白色度コントロールへの導入により,原単位,生産性,品質の向上事例を紹介する。
(本文52ページ)


フィルトマット
   ―二次白水ろ過技術の最適化事例―

アルテック株式会社 環境ソリューション事業本部 環境事業部
ウォーターソリューション事業部 五味 和仁

  製紙工場では膨大な量の水を使用しており,使用水量の削減は長期にわたる解決テーマとされている。そのような背景において,抄紙マシンから大量に排出される白水は回収・再利用の対象水源とされているが,主な従来技術である薬品を併用した加圧浮上での処理や,各種回転式のスクリーン,オートストレーナによるろ過方法ではノズル閉塞を引き起こすパルプ繊維の除去は困難であり,設置面積,コスト,ろ過性能,メンテナンス性等のあらゆる点で満足のいく装置がなかった。
  そこで,アルテック社ではマシンシャワーノズル保護の主目的を再確認し,「SS濃度の低減より,ノズル閉塞の直接的な要因となる繊維成分を確実に除去することが最も重要且つ有効である」,という仮説を立て,フィルトマット「MCFMシリーズ」に80〜100ミクロンのスクリーンを使用して複数の現場の協力を得てテストを行った結果,非常に良好な結果を得ることが出来た。これまでの現場において最少0.4mmまでのノズルに目詰まりが無いことが確認されており,これは,フィルトマットの80〜100ミクロンのろ過精度でも問題なくノズル保護ができることを証明し,言い換えるならば白水の回収・再利用の目的はろ過精度を競うものではなく,ノズルを効率良く保護し如何に使用水量,排水量を低減して操業コストを削減するかが重要であることを示す。
  本稿では白水回収・再利用の目的と問題点を整理し,二次白水処理用フィルターとして開発された自動洗浄式ろ過装置フィルトマット「MCFMシリーズ」の概要と併せてフィルトマットのテスト事例および運用事例を紹介する。
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237th ACS National Meeting(Anselme Payen Award Symposium)参加報告
京都大学 大学院農学研究科 高野 俊幸

  2009年3月22日から26日まで第237回アメリカ化学会が米国ユタ州ソルトレイクシティで開催された。同化学会のCellulose & Renewable Materials部門の2008年Anselme Payen賞に京都大学の中坪文明教授が選ばれ,その受賞記念シンポジウムが3月22日から24日に同部門で行われた。
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技術革新が新聞用紙とその製造技術を如何に変えてきたか
―新聞用紙製造技術の系統化調査(その3)―

国立科学博物館産業技術史センター平成19年度主任調査員,
元紙パルプ技術協会専務理事 飯田 清昭

  第1回で,紙パルプ産業の歴史,テーマ選定の背景及び基礎技術を簡単に解説し,第2回では,新聞用紙製造60年の変遷とその原料開発の歴史を紹介した。今回は,抄紙機に見られる技術開発の歴史を述べる。
  約2,000年前に発明された手漉きの方法(バッチプロセス)が1800年代初めに抄紙機として連続化され,生産性が飛躍的に向上し,印刷物の普及に大きく貢献した。この報告では1950年以降の抄紙機における技術開発を概観する。この技術開発を引き出したのは,新聞社における印刷技術の革新で,それを可能にする高信頼性の新聞用紙を大量に供給することが求められた。また,国際競争からコスト競争力のある新聞用紙を生産する必要があった。そのため,日本の製紙産業は次々と新しい技術を導入することで抄紙機の高速,大型化を進めた。また品質の関しても,国際水準をはるかに超える要求を満たし,結果として国内市場を維持し続けた。それを支えた個々の技術開発を解説するが,その過程で,製紙産業とその技術を提供する関連産業との信頼・協力が大きな役割をはたしてきた。
 次回では,日本の製紙産業の技術の特質を他国の製紙産業と比較して考察する。
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熱分解・GCマススペクトロメトリーによるパルプ残留リグニンの微量構造分析

筑波大学 大学院生命環境科学研究科 蓮見 愛,中川明子,本間光子,大井 洋
北越製紙株式会社 技術開発部 中俣恵一

  本研究では,熱分解・GCマススペクトロメトリー(Py―GC/MS)により,植林木早生広葉樹の放射方向におけるリグニン構造の変化について評価を行い,また,パルプ中のきわめて微少な残留リグニンについての知見が得られるかについて検討を行った。試料には4種類のユーカリ材,Eucalyptus nitens, E. smithii, E. grandis, E. macarthuriiの木粉,未漂白パルプおよび漂白パルプを用いた。木粉のPy―GC/MSによって各々12種のシリンギル(S)型およびグアヤシル(G)型のリグニン熱分解物が同定された。主要なS型およびG型熱分解物計6種からS型のG型に対するモル比(S/G比)を算出した。このS/G比は,比較的生成量の少ないリグニン熱分解物も含めた22種の化合物から算出したS/G比と高い相関関係があることが明らかになった。パルプの残留リグニンの測定にあたっては,リグニン熱分解物の生成量が低く,定量にあたって必要となる全イオンピーク面積を精度良く測定することが困難である。そこで精度良く測定できる特定の主要イオンピークの面積にファクターを乗じて全イオンピーク面積を測定する方法を用いた。ファクターは木粉のPy―GC/MSから求めた。この方法を用いることで漂白パルプの残留リグニンのS/G比を求めることが可能であることが示された。木材および漂白段階の異なるパルプのS/G比を比較した結果,木材の蒸解および漂白の過程においてS/G比は減少する傾向が示された。
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