第68巻  第5号  和文概要
 
第68巻  第5号  和文概要


SAQ®蒸解がもたらす経済的·社会的効果の試算

川崎化成工業株式会社 キノン営業部  田中  潤治

  蒸解助剤SAQの使用による経済的·社会的効果の試算を,日産1,000tのクラフトパルプ工場をモデルとして行った。
  第1に,SAQの経済的効果としてコストメリットの試算を行った。SAQの使用により,活性アルカリの節減や収率向上のメリットがある一方で,黒液有機分減少に伴うエネルギー発生量の減少というデメリットも存在する。試算の結果,パルプ増産によるインパクトが大きく,SAQ使用によるコストメリットが明確に認められた。
  第2に,SAQの社会的効果として,原料チップの節減量を試算したところ,モデル工場において年間11,700tと見積もられた。さらに,節減された原料チップの調達における二酸化炭素排出量の削減量を試算したところ,年間で約3,900tと見積もられた。このように,SAQの使用による経済的·社会的効果は非常に大きいことが示された。
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世界で一番売れているm-cleanカンバスクリーナー

株式会社小林製作所 製紙機械営業部  中山    惇

  カンバスの汚れ対策は世界中の製紙会社にとって共通の命題であろう。
  Kadant m-clean社のカンバスクリーナー「MultiJet」は,従来品とは異なったハイエンドクリーナーとして世界中で550台以上の納入実績を誇り,1台も停機することなく好評を得ている。当社は今一番勢いのある「MultiJet」クリーナーを,カンバスの汚れに対する新しいソリューションとして日本市場に紹介しており,2014年1月に国内初号機が運転を開始した。
  世界のユーザーから支持を集めているのは,圧倒的な洗浄効果と投資回収効率をすべてのユーザーが実感しているからである。超高圧ファンジェット,汚れの機外へのバキューム排出,そして間欠運転の3つの特徴が,ユニークな評価に結び付いている。汚れを取り除くことが,品質·操業·ランニングコストなど,紙作りの様々な面に好影響を与え,高い投資効果をユーザーにもたらしている。
  当社は日本のユーザー向けに保守体制を構築し,安心して操業して頂ける環境を整えている。またKadant m-clean社はユーザーの使用済みカンバスを使用してパイロットマシンでの洗浄テストサービスも行っている。「MultiJet」の独自のコンビネーション洗浄は日本のユーザーにも必ずや認められ,カンバスクリーナーのスタンダードとして根付くと期待している。
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抄紙機におけるケイ酸ナトリウムによる「ろ水性」および「系内汚れ」への影響

アクゾノーベル株式会社 パルプ アンド パフォーマンス ケミカルス事業部  田中  光一,
R. Daniel Haynes, Derek Maddox, Joseph Shu and Ong Hui Lam

  長年にわたり,ろ水性や系内汚れに影響するリサイクルプロセスからのケイ酸ナトリウムの後工程への持ち越しに関する研究が方々の工場で行われている。ケイ酸ナトリウムはフローテーション法による脱インキプロセスの漂白助剤以外にもメリットが実証されているが,抄紙機における問題点の所見が報告され,懸念を生じさせている。パルプ化においてケイ酸ナトリウムに代わる化学処理の開発には多くの取り組みや関心が傾注されており,これまでに行われた実地試験報告は良好で有望であるように思われる。パルプ化処理におけるケイ酸ナトリウムの代替処理から得られるメリットには,例えば次のようなものがある。
  ·同様の質の脱インキパルプ(DIP)が得られる。
  ·パルプ生産設備からのアニオントラッシュの残留が低減する。
  ·パルプ生産設備と抄紙機の両方におけるプロセス導電率が低くなる。
  ·リジェクト濃度が低下することにより,歩留まりが向上する。
  ·パルプ生産設備の性能と抄紙機の操業性が向上する。
  ·全体的な薬品コストを節減できる。
  古紙再生プラントにおけるケイ酸ナトリウムの置き換えについて調査した近年の研究は,ろ水時間や濁度,汚れ付着挙動の違いを観察する契機となった。本稿ではまず,脱インキ工程にケイ酸ナトリウムを使用しない場合,「ポリマーのみ」と「ポリマー/ナノ粒子シリカ」を使用した歩留まり·ろ水向上剤でろ水効果にどのような違いが生じるかについて考察した。次に,粘着度の測定とコロイド状粘着物質の濃度を併用することにより,ケイ酸ナトリウムが紙の塗工とどのように相互作用し,抄紙機の性能に有害性を及ぼすおそれのあるデポジットを形成するかを実証した。
(本文11ページ)


ピッチ問題解決への包括的ケミカルアプローチ

株式会社 日新化学研究所 第一開発部  多田  秀和,姫井  康年

  近年の製紙業界では,古紙利用率の増加,また系内クローズド化によって,粘着物によるピッチトラブルが増加傾向にあり,安定操業·品質向上を目指す製紙技術者にとって大きな課題のひとつとなっている。
  古紙に含まれるピッチは,原質工程においてある程度除去され,残存したものが抄紙工程に流入する。抄紙工程に流入したピッチは,ワイヤー,プレス,ドライヤーの各工程で付着堆積し問題を生ずる。
  原質工程においてピッチ除去が不十分になると,それはピッチトラブルを頻発させて多量の損紙を生ずるか,あるいは多量の外添薬品を必要とし,生産性の悪化に繋がると考えられる。
  すなわち,原質工程においてピッチを十分に除去することが,ピッチ問題を解決しうる唯一の方法と我々は考えている。
  本稿では,ピッチトラブルの増加要因についての研究結果を報告するとともに,最新のピッチコントロール技術について紹介する。
(本文18ページ)


新型含水率分析計Metso MR Moistureによるバイオマスボイラーの管理とコスト削減の可能性
-磁気共鳴技術を用いたパルプ,バイオマス原料の革新的な含水率測定分析計-

メッツォオートメーションInc.  ヤルコ·ルオナーラ,ラッセ·カウピネン
メッツォオートメーション株式会社 PAS事業部  佐藤  武志

  今日のパルプ及びバイオマス発電工業に用いられる多くの原料の含水率管理は,生産設備の運転を最適化する上で非常に重要である。この含水率を迅速に測定する技術が,メッツォの新しい磁気共鳴含水率分析計Metso MR Moistureによって確立された。測定原理は,医療分野で用いられるMRI(磁気共鳴画像装置)と同じ核磁気共鳴(NMR)技術に基づいている。
  これまでの含水率測定の標準法はオーブン乾燥法であるが,測定を行うに当たり多くの時間を要する。磁気共鳴による測定では,その時間は2分以下であり,バッチサンプルの水分子中の水素原子を直接測定することによって水分量を決定する。
  含水率測定範囲は10〜90%で,主な用途は,パルプ,バイオマス原料の測定であるが,その他,食品原料,石炭等の鉱物系原料,排水処理施設,その燃料化施設汚泥の測定も可能である。
  測定はサンプルを容器に詰めてボタンを押すだけあり,校正は空のサンプル容器(含水率0%)と水を入れた容器(含水率100%)で行うシンプルな2点校正である。これまでに,国内製紙工場でバイオマスチップの含水率測定試験を行い,従来のオーブン乾燥法と比較して相関係数R2で0.9以上の相関を有し,現行のオーブン法による含水率測定を十分代替可能であることが確認されている。
  その測定スピードから分析の効率化,省力化,高温での加熱も必要ないことから安全化の達成が可能で,この新しい含水率分析計の活用により,バイオマスボイラー及びパルプ生産設備における品質改善とコスト削減への可能性が期待される。
(本文22ページ)


表面欠陥検査装置による金属異物判別技術

オムロン株式会社 検査システム事業部  池内    淳

  電池セパレータと呼ばれる絶縁シートは,二次電池の性能および安全性を担う不可欠の材料であり,近年の二次電池はモバイル機器をはじめ,ハイブリッドカーや航空機等へ用途が拡大しつつある。
  二次電池は今後もますます高出力·高容量·軽量化され性能面の向上が期待される一方で,電池セパレータの生産品質においては,製品の安全性,つまり生産工程において電極ショートの原因となるリスクをいかに排除していくかが大きな課題となっている。
  電池セパレータにおいて高度化する金属判別のニーズに応えるべく,当社は今年度,カメラによる欠陥検査装置を応用した金属異物判別技術を開発した。
  本技術は,従来の欠陥検査装置をベースとして,可視光照明と近赤外光照明を用い,専用のカメラにてその反射波形を分析·統合処理することで実現する。
  本稿では,従来の表面欠陥検査装置および金属探知機の特長を整理するともに,当社が開発した表面欠陥検査装置による「金属判別」技術について,その導入メリット,特長,およびシステム構成例を提示する。
  その中で,実験データとして100µmオーダーの金属(アルミ,銅,酸化鉄)と非金属(ほこり,毛髪)が本技術を用いて判別可能であることを示すので注目されたい。
  2013年度中に実用化を目指し,検査分解100µmにおいて検査速度200m/minでの検査を実現する。
(本文28ページ)


抄紙機·真空システムのエネルギー低減
-近代的プロセスと可変速制御技術の融合-

丸紅株式会社·丸紅プラントエンジニアリング株式会社 木川田  繁
Runtech Systems Oy, Finland  Jyrki Uimonen and Jussi Lahitnen

  ランテックシステムズ社(フィンランド)は,真空システムにおける従来の運転方法にこだわらず,新たな方法を採用することによって省エネが劇的に達成することが可能なケースがあることを提案する。それは,機械(ハード)自体のエネルギー効率の向上だけではなく,運転方法(ソフト)と融合することにある。
  製紙工場では,既存の装置を使って省エネ対策でハードとソフトの融合を試されたことがあるかもしれないが,実運転での制御に苦労されたのではないだろうか。ランテックシステムズ社では,制御出来る範囲の広い高回転型エコポンプターボ,インバーター,スロットルバルブを組み合わせて,真空システムの効率を上げることによって,省エネを達成させる。
  実際の運転·制御では,随時変化するウエットエンドの状況に自動で追従するようプログラムされているが,プログラムはシンプルであり扱いやすい。オペレーターの負担をなくし,また問題が起こることもなく,操業性の向上に貢献している。さらに,ワイヤーパートやプレスパートにおける脱水量と最適な真空圧を知ることも重要であると説く。
  本稿は,課題,システム制御,現場調査,省エネ事例などを紹介し,真空システムの省エネプロジェクトを検討して頂くきっかけとなるような内容である。
(本文33ページ)


様々な管路へ適応可能な更生工法の紹介
-ホースライニング工法·パルテムSZ工法·パルテム·フローリング工法-

芦森エンジニアリング株式会社 西日本営業部  好光  徹雄

  産業の効率を良くするために,様々な分野,場所で非常に多くのパイプが使用されている。パイプの種類としては,ガス導管,工業用水管,排水管,油導管などがあり,その多くに経年劣化が進んでいる。今回ご紹介するホースライニング工法,パルテムSZ工法,パルテム·フローリング工法は,このような老朽化した既設管の延命,漏水防止,管補強,耐震性付加を目的とした更生,更新する工法である。
  本稿では,各工法の概要および特徴を紹介するものとし,本稿にて詳しく述べる各工法の特徴を箇条書きで以下に示す。
  ·ホースライニング工法の特徴
  ①  内圧に対する特性
  ②  曲管·ベンド管への施工に対する特性
  ③  耐震性付加の特性
  ·パルテムSZ工法の特徴
  ①  耐衝撃特性
  ②  地盤変位に伴う既設管への追従性
  ③  強度復元の特性
  ·パルテム·フローリング工法の特徴
  ①  円形更生管の耐荷能力
  ②  矩形更生管の耐荷能力
  ③  各種断面,曲線部への対応
(本文39ページ)


新規ポリマー技術を用いた冷却水系処理システム

伯東株式会社 四日市研究所  関戸  広太

  冷却水を循環使用する場合,冷水塔により空気と接触させ,加温された水の一部を蒸発させることにより冷却し,再使用している。この際,冷却水が濃縮されていく為,腐食やスケール,微生物障害といった問題が生じる。
  従来,これらの問題の対策として,クロム酸塩,亜鉛塩,モリブデン酸塩などの重金属,および各種リン系化合物を含有する処理剤が用いられてきたが,種々の環境問題により,現在では使用が制限されている。一方,プラントの多年連続運転化等に伴い,より高い性能を有する水処理剤が求められており,近年の冷却水処理では,処理剤の性能の向上および,環境対策の両立が課題となっている。
  そこで,これらの課題を解決するため,伯東では,リンおよび亜鉛の含有量を極限まで低減または全く含まず,尚且つ高い防食性能およびスケール防止性能を有する環境対応型冷却水処理剤「ネオフィルムHCシリーズ,EXシリーズ」を開発した。
  「ネオフィルムHCシリーズ」,「ネオフィルムEXシリーズ」は,皮膜形成ポリマーと分散剤ポリマーから構成される伯東独自のデュアルポリマーシステム(DPS)を採用し,環境対策と高性能化という2つの課題を克服するものと期待される。
(本文45ページ)


技術士(森林部門-科目林産)存続の危機
-技術士受験の薦め-

公益社団法人日本技術士会  根橋  達三

  1)  我が国の技術士制度は,「科学技術に関する技術的専門的知識と高等の応用能力及び高い技術者倫理を備えた,優れた技術者の育成」を目的とし,国による技術者の資格認定制度である。
  技術士の業務は,計画,研究,設計,分析,試験,評価又はこれら指導の業務とされ,対象とする技術部門は,機械,電気·電子,化学,建設,農業,森林,水産,環境,原子力·放射線,総合技術監理等の21部門から成り立っている。
  2)  技術士になるためには,技術士第一次試験及び第二次試験を合格する必要があり,第二次試験は技術部門ごとの複数の選択科目(森林部門の場合は林業,森林土木,林産,森林環境の4つ)の中から,あらかじめ選択する1つの選択科目について行われる。
  3)  技術士の中で紙パルプ業界に関係の深い森林部門の選択科目である「林産」の受験者はわずか4人であり,文部科学省が少数の受験科目は廃止とするという検討の中で,選択科目「林産」はこのまま推移すれば廃止·消滅の危機にある。
  4)  選択科目「林産」の対象とする林産分野は,バイオマスエネルギー,木材の高度利用等,今後,新たな開発,改善の要素が大いに見込まれ,専門の知見を持つ技術者の必要性が高い。
  5)  技術士「林産受験」のメリットとして,企業にとっては,企業全体としての技術力,資質の向上,技術者本人にとっても①技術力の向上,②ビジネスチャンスの拡大,③技術者倫理の向上が図られる。
  6)  技術士試験はそれほど難しいものではなく,技術力向上,紙パルプ業界の発展に資するという観点からも技術士試験にトライして頂くようお願いしたい。
(本文50ページ)


グルコース生産のためのタケおよびカラマツアルカリ性サルファイトパルプの酵素的加水分解

筑波大学 大学院生命環境科学研究科  張      翼,大井    洋
森林総合研究所 バイオマス化学研究領域  煖エ  史帆
浙江科技学院 軽工業学院  金    光范
北越紀州製紙株式会社 技術開発本部  中俣  恵一

  カラマツ(Larix leptolepis)材とタケ(Phyllostachys pubescens)稈の酵素糖化·バイオエタノール生産の前処理として,アルカリ性サルファイト·アントラキノン(AS-AQ)蒸解に着目し,その蒸解特性およびパルプの酵素糖化挙動を検討した。
  カラマツ材の蒸解では,蒸解液中のNaOHとNa2SO3の比率が60%対40%のとき,リグニン含有量が低く収率の高いパルプが得られることが示された。
  ろ紙分解活性試験法に従って,AS-AQパルプおよびソーダ·アントラキノン(Soda-AQ)パルプをセルラーゼで処理するとき,パルプのリグニン含有量が高いと酵素糖化が抑制されることが示された。同一のリグニン含有量で比較すると,カラマツ材AS-AQパルプはSoda-AQパルプよりも高い酵素糖化率を示すことが見出された。さらに,タケ稈AS-AQパルプはカラマツ材AS-AQパルプよりも酵素糖化率が高いこと,リグニン含有量が6.8%のタケ稈AS-AQパルプはろ紙よりも酵素加水分解されやすいことが見出された。
  前処理として,AS-AQ蒸解法はSoda-AQ蒸解法よりも効果的であり,タケ稈AS-AQパルプはバイオエタノール生産の原料として有望であることが明らかとなった。
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