第67巻  第12号  和文概要
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第67巻  第12号  和文概要


紙と環境とのかかわり
─ノーブルユースを目指して─

北越紀州製紙株式会社 環境統括部  中俣  恵一

  紙は私たちの文化と生活を支える素材である。その原料は持続可能な木材であり,日本の製紙各社は使用木材の合法性と持続可能性を確認する体制を整えている。
  広葉樹材を例にとれば,里山から得られた広葉樹材のパルプへの利用は,里山の健全化や生物多様性の保全に寄与している。また,海外からの植林広葉樹の利用は植林面積の増加と現地の雇用促進に貢献している。
  今日,日本の森林を活性化させるために,国産の木材利用の促進が求められている。日本の紙パルプ産業は木材利用量で見れば国内木材セクターの役半分を占め,国産材の利用という観点でも,国産材製材残材も含めれば,国産材の約4割を使用するわが国最大の木材産業である。紙パルプ産業が日本の林業を根底から支えていると言っても過言ではない。
  石油産業には「ノーブルユース」という,自らの産業と製品に誇りを持つ概念がある。本稿では,その概念を私たちの紙パルプ産業になぞらえて,原料である木材と製品である紙・板紙のそれぞれが誇りを持つべきものであることを考察してゆきたい。
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製紙工場における排ガス中のばいじん濃度連続測定の必要性

株式会社田中電気研究所  田中  敏文

  今年初めに社会問題化したPM2.5問題をきっかけとし,更なる環境保全を考えた操業への取り組みとして固定発生源を持つ製紙工場向けに,ばいじんの連続測定器であるダスト濃度計についての最新の動向を紹介する。
  我が国はダスト濃度の連続測定方法に基づくダスト濃度計の規格がないため,国内での普及は大幅に限定されてきた。しかし近年技術開発及び計測器の改良が行われ,排ガス中のダスト濃度の連続測定方法の標準化がJIS Z8852として2013年9月20日に公示されることに至った。現在普及している光散乱式,光透過式及び摩擦静電気検出式によるダスト濃度計に関して,手分析法(JIS  Z8808)との相関の取り方について詳細を規定している。
  製紙工場においては,脱硫装置からの排ガスが白煙として煙突から排出されている施設が多いため,ダスト濃度計によって大気汚染防止法を遵守していることを証明する重要性は高い。現在,透明な排ガス測定用には様々な機種のダスト濃度計が販売されているが,ミストとダストが混在する白濁排ガスでは,双方からの影響を受けるためにメンテナンス性と相関性を満足するダスト濃度計は見当たらない。現在当社が開発を行なっている全く新しい瞬間気化方式のノンサンプリング光散乱式ダスト濃度計は,この様な白濁排ガス中のダスト濃度だけを連続測定し,メンテナンス性にも優れた性能を目標にしている。どちらの場合でも,多量のダストを排出していないことを証明する必要に迫られる場合,ダスト濃度計による連続データの提出及びこのデータをエビデンスとして用いる根拠となるトレーサビリティーとしての校正記録をもつことが重要になってきている。
  電気部分が全く無い検出器を開発したことで,従来タイプのサンプリング方式では不可能な高温,高圧排ガスでのダスト測定が可能となり,また排ガスが流れている状態でもゼロ,スパン校正が出来ることで,排ガス中のダスト濃度の連続測定方法のJISに対応可能である。
  現在開発中の白濁排ガス用ダスト濃度計は,瞬間加熱器による熱放射でミストを消滅させ,ノンサンプリングでダストからの反射光だけを測定でき,汚れのつかない構造を設計する。この方式であれば,排ガス流速が変わっても測定に影響しない。すなわち「等速吸引による排ガス中のダスト濃度測定法」と相関が保たれる(特願2010─158368号)。
  当社はダスト濃度計の専門メーカーとして,今後も様々な状況でも使用出来るダスト濃度計,粉塵モニターの開発を継続して行なって参る所存である。
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微小粒子状物質(PM2.5)について
─発生と制御─

埼玉県環境科学国際センター  坂本  和彦

  大気中に浮遊している粒子状物質(PM)としては直径が100 µm程度まであり,質量濃度では直径約2 µm以上の粗大粒子と約2 µm以下の微小粒子に分けられる。直径約2 µm以下のPMは呼吸器系の最深部である肺領域の細気管支や肺胞に沈着する。
  我が国では,10 µm以下の粒子(浮遊粒子状物質:SPM)について,呼吸器への影響,全死亡率の上昇などを考慮して,SPMの環境基準を1973年に定めている。2000年前後にSPMや微小粒子による大気汚染と健康被害に関する訴訟などもあり,大都市における大気汚染の改善は緊急の課題となり,中央環境審議会大気環境部会(2008年4月)で検討が開始され,測定法を含めてPM2.5の環境基準が2009年9月に告示された。
  世界で最も厳しいレベルにある我が国の大気汚染物質排出規制により,排煙等からの脱硫,脱硝,除塵,NOx還元触媒,ディーゼル粒子除去装置などの設置,自動車排ガス対策,ダイオキシン類対策特措法,自動車NOx・PM法,VOC排出抑制などの環境対策がすすめられてきた。このような状況下で,我が国ではOxと2009年に制定された微小粒子状物質(PM2.5)を除く大気環境基準をほぼ達成し得るようになっている。
  PM2.5の平均組成は,存在状態が変化しやすいものや吸湿性の高い二次発生無機成分と高極性成分をも含む有機粒子の合算割合がPM2.5の7割を占めている。最近のPM2.5研究からは,冬季の二次発生硝酸塩と一次発生としての稲藁やもみ殻等の農業廃棄物燃焼,夏季における植物起源揮発性有機化合物由来の二次発生有機物と夏季の海風卓越時における二次発生硫酸塩,によるPM2.5への大きな寄与が指摘されている。
  我が国ではこれまでの大気汚染対策を着実に実施していくとともに,自然起源VOCが関与するOxとPM2.5の生成機構やそれらの濃度を支配する因子の解明を急ぐ必要がある。その上で,Oxならびに温暖化対策との共便益性を考慮したPM2.5対策としてSO2,NOx,VOCの排出抑制のいずれが効果的か,また光化学反応機構を詳細に考慮したそれらの適切な排出抑制レベルはどのようなものかなど検討していく必要がある。
  2020年の東京での夏季オリンピックにより,これまで以上に夏季のPM2.5の二次発生と光化学オキシダントに考慮した大気汚染対策が期待されるのではないだろうか。
  2013年の1月からの多くの報道で,西日本における中国等からの越境汚染による我が国のPM2.5濃度への大きな寄与は一躍国民的関心事になった。国際的な環境保全の枠組みに向けた活動を積極的に進めるべきである。
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騒音・低周波音の評価方法と対応

日東紡音響エンジニアリング株式会社 ソリューション事業部  青木  雅彦

  平成23年度の統計によると,全国の地方公共団体が受理した工場・事業場に係る苦情件数は騒音が4761件,低周波音は83件であった。
  一般に人が耳で聞くことができる可聴範囲は20Hz〜20,000Hzと言われている。100Hzより低い周波数の音を低周波音と呼ぶ。
  工場から発生する騒音は一般に用途地域,時間帯で規制値が決められているが,低周波音には規制値がなく,代わりに環境省から“心身に係る苦情に関する参照値”と“物的苦情に関する参照値”が1/3オクターブバンドの周波数毎に示されている。騒音の測定点は一般に敷地境界であるが,低周波音の測定点は必ずしも敷地境界ではない。
  現場測定では,低周波音は音の波長が長いため,測定点を移動すると,地面,壁等からの反射音の影響で干渉が発生し,測定値が変動する場合が多い。また,屋外の測定値と室内の測定値では周波数特性が変わるため,注意が必要である。
  騒音環境を改善するための調査では,各発生源から敷地境界,民家への影響を推定する必要がある。基本的には各発生源近傍の測定値から距離減衰等を考慮し,敷地境界への影響を推定することになるが,工場のように多数の騒音源がある中で,騒音計だけを使って影響を検討することは実際にはほとんど不可能である。
  そこで我々は音源探査とシミュレーションを組み合わせた調査・検討を実施している。
  我々が開発したノイズビジョンは球形のセンサー部にマイクロホンが31個,カメラが12個装着されており,音の到来方向を写真に重ねて表示することができる。
  音源探査で騒音の伝搬状況を可視化によって把握した後は,我々が開発した騒音予測ソフトウェアであるジオノイズを使って,各騒音源から敷地境界への伝搬経路を推定し,その影響を予測する。この予測モデルを修正して各種の対策案を設定することで,事前に対策効果を推定することができる。
  多数の騒音源があり,伝搬経路も複雑な工場の騒音対策は難易度が高いテーマであり,音源探査とシミュレーションによって複雑な騒音状況をわかりやすく“見える化”することは,低周波音を含む騒音の環境改善に向けて効果的かつ重要な手法だと考えている。
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嫌気性排水処理の基本と実際

住友重機械エンバイロメント株式会社 開発部  中野    淳

  地球温暖化防止など環境意識の高まりや,企業の生産性向上のために,省エネルギーや低ランニングコストの排水処理システムが求められるようになってきた。嫌気性処理システムは,このような要望に適合する創エネルギー型の排水処理システムであり,食品工場をはじめとして適用範囲を拡大してきた。
  紙パルプ工場で広く使われている好気性処理と異なり,無酸素環境下で活動する嫌気性細菌の働きで有機物を分解し,最終的にメタンと炭酸ガスで構成されるバイオガスを生成することが基本原理である。嫌気性細菌が高濃度に自己造粒したグラニュール汚泥を使用するUASB法,さらに高負荷処理が可能なEGSB法が開発されてから,普及が加速している。
  処理システムは,細菌の機能を十分発揮させること,反応槽内に充填されたグラニュール汚泥を維持することが重要であり,高性能セトラー(気固液三相分離装置)が必要である。
  適用事例として,紙パルプ,食品,および化学工場における,創エネルギー,省エネルギー,CO2削減,および低ランニングなど,嫌気性処理の効果を示した。
  紙パルプ工場では,パルプ蒸解排水処理に適用し,5年以上の安定した運転実績を有している。今後の開発により,さらに適用範囲の拡大が期待される。
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低濃度PCB処理の動向

公益財団法人産業廃棄物処理事業振興財団 技術部  長田    容

  絶縁油にPCBを使用していないとする変圧器やコンデンサの中に実際には微量のPCBで汚染されているもの(微量PCB汚染廃電気機器等)が国内に約160万台存在することが2002年に判明した。環境省ではこれらの処理を進めるため,2009年に高度な技術を用いて無害化処理する施設を個別に認定する無害化処理認定制度を活用して処理施設の整備を図っていくこととした。
  現在,同制度の下で10事業者が認定されており,県知事許可の1施設を加え,全国11か所で高温焼却による処理が行われている。しかし,膨大な存在数に対して現状の処理能力は不足しているため,今後も処理施設の整備を進めるとともに,焼却処理に代わる洗浄処理等の新たな処理方法の実用化を図っていくことにしている。
  本稿では,進展する低濃度PCB廃棄物の処理の現状と当面の課題について紹介する。
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東南及び東アジアの環境政策及び日本企業の進出機会
─温暖化政策を中心としたベトナム,ラオス,カンボジア,モンゴルの比較及び関連施策を活用した日本企業の海外進出機会─

一般社団法人海外環境協力センター 業務第一部  粕谷  泰洋

  温暖化政策における国際交渉は1992年に国連の下,「気候変動に関する国際連合枠組条約」が採択され,1995年から毎年,気候変動枠組条約締約国会議(COP)が開催されている。
  これまでのCOP決定を分析すると,NAMA(Nationally Appropriate Mitigation Actions/途上国における適切な緩和行動)は義務ではなく,各国が自主的に温暖化対策を実施すればよく,詳細な取り決めについては今後の国際的な議論の結果を待たなくてはならない。
  現在,東アジア及び東南アジアでは,温室効果ガスの削減義務を負わされることに,賛成の声こそ少ないが,一方,気候変動に関連する資金を活用し,温室効果ガスの排出量が少ない最新の技術を導入することには,興味を示している。
  ベトナムは他のメコン地域諸国と比較して,人口も多く,またチャイナリスク等の観点から,昨今,海外の投資も増加しており,日本企業の工場新設も相次いでいる。エネルギーセクターのみならず,廃棄物セクター等における排出量が増加することが予想される。これらの温暖化対策に欧州や国際機関が支援を開始しており,投入される資金や実施体制が整備されていくため,該当するセクターに対しての一般企業の進出も促進されるものと期待される。
  ラオスは,電力の殆どを水力に頼っている。日本企業としては,石炭やディーゼルで稼働する工場等の省エネなどに絞って,進出を狙うことが必要となる。逆に電気の使用で温室効果ガスを排出しないため,ガソリンやディーゼル車の電気自動車代替,オール電化機器促進等の電動機器であれば,導入の可能性は高いと言える。
  カンボジアはラオスと反対の状況であり,現在,重油による発電が主ではあるが,国内の発電量が不足しており電力価格が高騰している。よって電力をエネルギーとした機器の代替案件,新設は温室効果ガス削減の効果が大きい。短中期的にはエネルギー供給及び需要の対策が有効であり,将来的には,産業工業及び廃棄物等の経済成長に比例して,排出量が増えていくセクターの対策に,カンボジア政府や国際社会の投資が集中していくと考えられる。
  モンゴルは寒冷な気候に起因し,エネルギーセクターが全体の温室効果ガス排出量の60%以上を占める。特に熱電併給の石炭火力発電所,地域暖房の熱供給専用ボイラ,首都郊外や地方のゲル用(遊牧民の移動式住居)ストーブ等に使用される石炭が大きな排出源となっている。石炭だけでなく,金,銅,亜鉛,モリブテン,原油等の豊富な資源があり,鉱業分野はもとより,長期的には産業工業及び廃棄物等のセクターに,欧州や国際機関の支援が増えてくることが予想され,一般企業の進出も促進されるものと期待される。
  温暖化対策については,一地域ではなく世界的に取り組まなければならない課題であることもあり,特別に資金が投入されている。民間企業だけでこれらの対策を講じることは難しく,今後はより一層の,官民一体となった戦略の策定と実行が必要になると考える。
  NAMAに関わる全ての記載内容は今後の国際交渉の結果により変更される可能性がある。加えて,二国間クレジット制度に関わる全ての記載内容は,ホスト国とのさらなる検討・協議により変更される可能性がある。
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ソーシャルメディア時代のPODビジネス成長

富士ゼロックス株式会社 プロダクションサービス営業本部  杉田  晴紀

  富士ゼロックスのPrint On Demandビジネス(以下,PODビジネス)は1990年代のDocuTech135(モノクロ機)以来,フルカラー,プルーファー,連続紙システム,さらにはビジネスカラーインクジェット領域へと拡大を続けているが,当時の「必要な時に,必要な場所で,必要な部数を」という考え方や提供価値は,今も本質的には変わっていない。むしろ,重要になってきている。
  1990年代と今日の市場・あるいは社会環境の大きな違いはインターネットやソーシャルメディアに代表されるオープンなネットメディアの出現である。このメディアの出現により,これまでのPODビジネスはソーシャルメディアにとって代わられ,紙メディアの価値はなくなるのか?
  結論としては,これからのソーシャルメディア時代のPODの価値は大きく二極化し,1)超集中型のPODビジネス,2)超分散型のPODビジネスへと発展し,その成長には,紙メディアとソーシャルメディアを“繋ぐ”サービスも紙メディアの付加価値化の武器になっていくと考える。
(本文38ページ)


寄  稿
ぼろから木材へ:木材パルプ技術開発の歴史(後編)

飯田  清昭

  前編に続き,サルファイトパルプの技術開発の経緯を紹介する。
  GP,アルカリパルプが生まれたが,高級紙は依然としてボロに頼らざるを得なかった。その代替の可能性に着目してサルファイトパルプの技術開発が19世紀後半から始まった。サルファイトパルプは酸性のため蒸解釜のライニングが技術の焦点となり,アメリカ,ヨーロッパ,英国と当時の世界的な規模での技術開発とその移転が行われ,実用化されていった。一例として,カナダの製材業者が英国から技術供与を受け,石灰をスコットランド,硫黄をスペインから輸入し,製造したサルファイトパルプをアメリカへ輸出し,英国へロイヤリティーを払うビジネスが成り立つまでになった。
  GPとサルファイトパルプが得られたことで,原料不足がなくなり,紙の生産が大きく伸び出す。産業革命後の豊かさをました社会がこの紙を使うことで,情報の伝達・交流がより容易となり,それが文明を大きく発展させ,さらに紙の需要を増加させた。
  19世紀後半から各種のパルプ生産技術の開発が人類の文明発展に大きく寄与してきたことを併せて考察する。
(本文41ページ)


海外駐在員レポート(7)
ベトナム  ビナクラフトペーパー社の操業経験

ビナクラフトペーパー社  吉崎  淳人

  継続的な経済成長を続けるベトナム社会主義共和国で,同国最大の段ボール原紙工場VINA KRAFT PAPER CO., LTD.(以下VKPC)が2009年4月に操業を開始した。1台の抄紙機でライナー,中芯を生産し年間生産量は220千tと同国の需要の約20%を占めている。VKPCはタイのSCG Paper社と日本のレンゴー鰍ニの合弁会社で,互いの経験を活かしながら安定操業に向けた取り組みを続けてきた。
  VKPCでは,段ボール古紙を主原料として使用しているが,そのうちの80%を占める国内古紙と,アメリカからの輸入古紙は多くの夾雑物を含んでいる。原質工程では異物の除去が大きな課題である一方,古紙価格は日本のそれよりも高いため繊維回収も重要な要素である。操業開始以降,デトラッシュシステムを強化すると共に,分級工程を活用することで繊維の回収及び省エネに取り組んでいる。
  東南アジアでは,紙力剤として安価であるデンプンを多量に使用するため,排水中のCOD濃度が高くなる。また,排水基準も非常に厳しいためVKPCでは嫌気性処理に加え,高次処理も有している。嫌気性処理で副生成物として発生するメタンガスはボイラ燃料として利用し,石炭消費量の削減に寄与している。また,高次処理は加圧浮上と薬品処理を並列で利用することで,厳しい排水基準を順守しつつも薬品費の上昇を抑えている。
  ベトナムでは,経済成長に伴い段ボール原紙の需要も伸びると予想されており,VKPCでも生産量アップと品質の向上を目的とした工事を本年7月に実施する。今後もベトナム市場に高品質の原紙を安定的に供給できるよう努めていく。
(本文58ページ)


研究報文
PLS回帰を用いたプロセスの状態変化の解析方法
─制御効果をどう判定するか?─

王子ホールディングス株式会社 基盤技術研究所  森    芳立

  化学プラントの生産性向上を目的に,近年,いろいろな産業で広く使われている高度制御機能として,モデル予測制御が有名である。しかし,最新のモデル予測制御機能においても,その導入効果は平均して,製造コストの高々3〜5%ほどであり,かなり小さな変化幅にとどまる。また,そのような小さな変化である上に,不可避なプロセス変動の外乱の影響などもあり,その変化幅,そして,効果量を正しく判定していくことは,至って難しい。
  また,紙パルプ製造工程の運転では,時間と共に製造プロセスに流入出する原料性状や最終品質が変化していくため,それらの影響を加味して,長期間の運転データに補正を加え,対象とするプロセスでの入口と出口の品質条件が同じ状態で比較していく必要がある。
  統計解析手法として,一般的に良く利用される重回帰分析では,説明変数間に強い相関関係がある場合,変数間の多重共線性による不安定性が発生したり,説明変数への数値計算に基づく過度の当て嵌め現象が発生し,重回帰式の回帰係数が良好に求められない現象が生じ,解析は難しい。
  本報ではKP漂白工程を例に,統計手法のPLS(Partial Least Squares)回帰法を用い,製造コストと多くの変数間に内在する,より信頼性の高い回帰式を見出した後,得られた回帰係数を用いて,主要な製造条件がほぼ等しくなるように適切な補正を加えて変動や外乱の影響を排除,製造コストの変化や制御効果などを,納得の行く形でより正しく判定していくための統計的解析での新しい適用方法の工夫について述べる。
(本文67ページ)