第67巻  第8号  和文概要
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第67巻  第8号  和文概要


国内の森林の現状と将来展望

林材ライター  赤堀  楠雄

  木材の自給率は現在,20%台後半にとどまり,林業経営面では立木価格が低迷し,多くの森林所有者が経営意欲を失って,手入れ不足の林地が増加している。
  2009年12月に公表された「森林・林業再生プラン」では,今後10年以内に自給率を50%に引き上げるという目標が打ち出された。それを受けて,国内の各産地では木材を増産するための取り組みに力が入れられている。
政府の供給見通しでは,資源的には今後,木材の生産量を大幅に増加させる余力があるとされている。だが,将来的にどのくらいの林分で人工林経営が継続されるのか,また需要分野別で最大の需要量を有する「パルプ・チップ用材」で自給率を上昇させることが困難であることなど,さまざまな不確定要因がある。
  それらを考えると,自給率の数値自体にはそれほどこだわらずに,森林の健全性を維持しつつ,林業経営の採算を改善させることに注力する必要があるのではないか。
  林業経営の実情を見ると,森林所有者の手取り収入が激減する中で,「森林整備」の名のもとに,伐採搬出経費を確保しながら間伐を行い,間伐材を生産することが一義に扱われる傾向がある。そのため,最近は所有者の収益が確保できないような市況の低迷下でも生産が継続してしまっている。経費節減を重視するあまり,木そのものの価値を引き上げようという意識も薄れている。
  こうした状況下では,林業や木材産業の採算を確保し,健全な経営を実現することがますます難しくなることが懸念される。現状を打開するためには,木そのものの価値を引き上げるような施業,木材生産加工,利用に力を入れ,各段階での採算性を改善していくことが必要だと考える。
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世界におけるチップ需給及び中国の今後

伊藤忠商事株式会社 生活資材部門 紙パルプ部  矢部  昭二

  世界における木材チップは,基本的に地産地消であり,輸入チップ取引はアジアおよび欧州の一部で展開されてきた。
  日本は,過去半世紀近くに亘り,世界の製紙原料用チップトレードの主役であり,2008年には14百万絶乾トン(以下,BDTと記す)の過去最高の輸入実績を記録したが,リーマンショック以後の景気後退・輸入紙の増加などにより,現在の数量は2008年の8割弱にまで落ち込んでいる。
  一方,中国における輸入チップ需要は,2008年は1百万BDTに過ぎなかったが,2012年には7.6百万BDTに達しており,今後数年で日本並みの11百万BDTレベルにまで達する事が予想される。
  また,中国の需要の拡大と軌を一にしてベトナム・タイ等のアジアチップの数量が急激に伸びており,2008年はそれぞれ2.2百万BDTと0.7百万BDTであったが,昨年は5.8百万BDTと2.9百万BDTに達しており,国別チップ輸出量では1位と3位となった。
  こうした事から,環太平洋における輸入チップ需要全体は中国向け広葉樹を中心にむしろ増加しており,日本の製紙会社によるチップ取引に占めるシェアは,2015年にはアジア輸入チップ需要の50%程度まで落ち込む見通しで,チップ価格交渉への影響力の低下が懸念される。
  今後は中国に加え,見え始めたインド需要や,韓国・中国等における木質ボードや木質バイオマス燃料用途等を考えあわせると,日本は国内資源の有効活用を含め中長期的な視点での資源確保が課題となる。
  今回こうした状況を踏まえ世界における輸入チップ需給の現状と,今後の中国の影響を明らかにしていく。
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バイオ技術の応用によるコスト低減及び新ビジネス

アンドリッツ株式会社 技術営業部 第1グループ  萩原  幹児

  世界的にCO2削減へ向けて,脱化石燃料から再生可能なエネルギーへと大きく進行している。それに加えて日本国内では脱原子力発電からの脱却として再生可能エネルギーへの移行が大きく進んできている。
  再生可能エネルギーとしては,水力,太陽光,風力,地熱等があるが,現在再生可能なエネルギーとしてバイオマスが大きく注目されている。
  一方,日本国内の紙消費量の減少,円安による原料コストの上昇等から,国内の紙パルプ業界を取り囲む状況は厳しく,さらなるコストダウン及び新しいビジネスへの変換が求められているのが現状である。
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持続可能な未来に向けたTMP/CTMPソリューション

メッツォペーパージャパン株式会社 営業本部  八田  章文

  世界的には縮小方向に向かっているTMP/CTMPではあるが,中国では今後もLCTMPの増産が予想される。こうした機械パルプを取り巻く厳しい環境下,リファイニング電力をいかに下げるかが予てからの目標となっているが,既に中国において,新しいプロセスコンセプトを採用し大幅な電力削減に成功している。本稿では,その一例としてChenming MeilunのBCTMPラインを紹介する。
  次に,プロセスの電力原単位を下げるには処理量を上げるということがひとつの手段であることは以前から報告されているが,5つの工場における様々な実証例を紹介し,結果を分かり易くまとめた。既存のプロセスに手を加えることで生産量を上げることは省エネの有効な手段であることが証明されている。
  また,リファイニング電力を下げる最も有効な手段とされてきた省エネ型リファイナーセグメントではTMP/CTMPの持つ高い強度を僅かながらでも犠牲にされてきたが,各工場の操業条件と目標品質とをより深く掘り下げ,その目的に合ったコンセプトを組み合わせるServoNavitasという,省エネと品質を両立させた新しいコンセプトが開発されたので紹介する。
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古紙品質低下に関する対策方法の提案

相川鉄工株式会社 技術部  藤田  和巳

  紙,板紙製品や古紙原料の流通のグローバル化や,個別包装でビニール袋やスチロール製緩衝材を伴う通信販売業態の一般化,景気低迷とデジタル化の進行による良質な一般印刷用紙,新聞用紙古紙発生量の低下などの影響から,最近の古紙原料の品質が低下しているとの認識は,古紙を日々利用される皆様は肌で感じられていることと考える。一方で紙,板紙ともに軽量化が進み,抄紙の高速化,安定性が強く求められるとともに,流通パッケージのままの陳列販売の傾向から,ビジュアル的な品質向上,紙面の印刷特性の向上が求められている。
  この原料古紙品質低下,低坪量高速抄紙の傾向に対応する対策方法として,古紙用パルパーへのHelixローターとGタブ改造による効率向上,連続式デトラッシャーMaxDrum,既設高濃度クリーナーの連続排出改造による高効率化,最新式超高精度,高効率スクリーンバスケットMaxWave,動力原単位を抑えながら低濃度クリーナーやディスパージョン工程を導入するためのフラクショネーター,製品品質,紙力強度改善にソフトリファイニング,最終精選工程としてのマシン前スクリーン,高速抄紙時のエアー障害対策としてPOMpデガッサーの適用実例を報告する。
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KP設備老朽化への対応

王子製紙株式会社 春日井工場 パルプ部  中村    渉

  王子製紙春日井工場は1952年に日本初のカミヤ式連続蒸解釜,多段パルプ漂白設備等を有する上質紙工場として操業を開始した。幾度かの新増設,更新,改造等を経た現在では,主力である塗工紙,および上質紙,中質紙,ティッシュ原紙を生産する総合紙パ工場として当社の主幹工場の役割を担っている。
  近年,国内の洋紙需要は縮小し,輸入紙が台頭する中で,洋紙の置かれた状況は非常に厳しいものとなっている。この様な状況は,S&Bをはじめとした設備更新あるいは改造への投資が最小限に限定されることから,既存設備の維持管理が操業において鍵となっている。
  当工場は稼働から長い時間を経て,多くの設備において老朽化が進んでおり,これに関係したトラブルが増加傾向にあった。トラブル及びこれに伴う減産は,収益への影響だけでなく,安全,環境面でのリスクを高めることから,当工場ではトラブル要因を分析することで計画的に対策を進めているところである。
  本報では,当工場で最近発生した老朽化トラブルならびに対応事例として,KP設備の老朽化に起因するトラブルおよびその対策に関する以下の3つの事例を報告する。
  1)  No.4蒸解釜減肉対策
  2)  L系No.2スチーミングベッセル更新
  3)  No.4晒ディフュージョンウォッシャースクリーンプレート大規模補修
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キルン焼成能力増強工事とその操業方法の確立

日本製紙株式会社 岩国工場 製造部 原質課  堀内    堂

  2011年8月,弊社は国内洋紙市場の縮小をはじめとした厳しい経営環境に対応すべく,復興計画を策定した。
  この復興計画では,設備停機による固定費圧縮による競争力強化も進められ,岩国工場においては,隣接する大竹工場KP工程停機に対応し,パルプ供給を行う事となった。このため,岩国工場ではパルプ生産量が増加する事となったが,2系列のKP工程をフル稼動するための白液が不足する事が予想された。白液生成量は,キルンの能力不足が律速となっており,能力増強により石灰焼成量を増加させる事が必要となった。
  この課題に,設備的な改善(キルン内レンガ更新,石灰クーラー制御変更,供給スラッジ含水率の低減,燃焼方法の変更等),操業条件の検討(キルン回転数制御方法等),薬剤(脱水助剤,ダムリング防止剤)の併用などで対応した結果,生石灰焼成能力は従来の毎時6トンから9トンへと増強する事ができ,KP工程のフル稼働が可能となった。また,従来に比べて熱エネルギーのロスが減った事もあり,CaOトン当たり約8%の重油原単位の良化となった。
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パルプ設備FRP劣化による品質トラブルと対策

北上ハイテクペーパー株式会社 技術環境部 技術グループ  及川  信雄

  これまでの長年にわたる操業の中で,パルプ設備のFRP劣化による品質トラブルを初めて経験した。
  当初,発生場所の特定に難渋したが,異物は加熱による白色から黄色への変色,更には蛍光反応を示す特徴があることを掴み,その特徴から異物の判定方法を構築し,調査を進めた結果,パルプ工程で多種多様に使用されているFRPの劣化によるものと判明した。その後,混入箇所の特定を行い,各種対策を講じた結果,異物混入の根絶に至った。
  本報では,異物混入の発見から対策に至るまでを以下の経緯に沿って報告する。
  ・調査方法
  ・原因の特定
  ・発生場所の絞り込み
  ・応急処置
  ・次亜塩素酸ナトリウム製造工程からの混入防止
  ・対策
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チップハンドリング設備の火災予防対策

北越紀州製紙株式会社 洋紙事業本部 新潟工場 工務部 パルプ課  三宅  慎平

  工場ラインの最上流部であるチップハンドリング工程では,一度火災が起こり操業停止に陥るとその影響は甚大であり,その予防が強く求められる。
  北越紀州製紙新潟工場では平成21年頃よりチップハンドリング設備の火災予防対策に注力してきた。
  本報では,生産規模が大きいクヴァナ系(日産約2,000t)のチップハンドリング設備を対象に行ってきた,火災予防対策の取組みについて,現場での人的,及び設備的な改善から火災の早期発見を目的とした温度監視システム,煙感知器の導入までを以下の項目に沿って具体的に紹介する。
  1)  火災の3要素と重点取組み事項
  2)  可燃物の排除
      チップダスト清掃作業,可燃性部品の排除,コンベアベルトを難燃仕様に変更
  3)  異常発熱・火災の早期発見
      温度監視センサー導入,煙感知器導入
(本文38ページ)


リグノセルロース ―環境因子の逐次解放とユニバーサル資源化―

三重大学大学院 生物資源学研究科  舩岡  正光

  樹木は,森林を経由する炭酸ガスと水の流れにおける陸上での一形態であり,いずれは再び微少分子を経て森林から流れ去る。
  生態系を攪乱しない持続的な社会の構築には,森林を「エネルギー」,「機能」,「時間」の3因子でマテリアルフローとして動的に理解し,それを材料・原料の流れとして具現化する新しい技術と社会システムが必須となる。分子素材個々に最適な環境を設定し,常温,常圧にてリグノセルロース複合体を構成する炭水化物およびリグニンの機能を個々に精密制御する新しいシステム(相分離系変換システム)を考案した。
  本システムにより,植物体は新しい循環型リグニン素材(リグノフェノール)と炭水化物へと定量的に変換,分離される。リグノフェノールは,分子内に組み込んだ機能変換素子を活用することによって,その分子量,フェノール活性などの基本特性を精密に制御可能であり,様々な機能材料への応用が可能である。
  本稿では,森林を起点とする新しい持続的工業システムについて考える。
(本文43ページ)


板紙基礎講座(3)
古紙リサイクル抄紙編

王子マテリア株式会社 技術本部 技術部  山森  明浩,内海    拓

  紙の抄造を行う抄紙機は,一般的にヘッドボックス,ワイヤパート,プレスパート,ドライヤパート,カレンダ等より構成されており,かつて各パートの構造は,極めて単純なものであった。また設備の取扱方法も,取扱者のいわゆる腕や勘に頼っていたため,取扱者が変われば紙の品質や抄紙機の調子が変わることは普通であった。
  しかしながら現在,抄紙機の性能は,研究開発と操業経験によって飛躍的に向上し,高速・広幅化,紙品質の向上,自動化等がなされ,生産性を向上させてきた。抄紙機各パートで様々な操業上の諸問題や,製品の品質管理のために,多くのセンサや制御を用いている。これらをいかに操作し,管理するのかは,抄紙の重要なノウハウといえる。また,古紙のリサイクルが,地球環境問題に対する関心と,コスト面から多様化している。その技術も日々進化を遂げ,今日の製紙業界を支える一つの要因であることは,前回述べた古紙の需要や,原料に占める古紙の割合からも明確である。
  今回,板紙を抄造する抄紙工程について,抄紙機各パート別に構造と原理の概要を述べる。古紙より造られた原料が,抄紙機の各パートでどのような処理が行なわれ,製品となるのかについて概略を説明した。またその製造工程の中で起きる問題や,必要となる管理を行なうセンサや制御についても,一般的なものを取上げて説明した。
(本文49ページ)


研究報文
すき合わせ紙の強度的性質

荒川化学工業株式会社 製紙薬品事業部  榮村  拓史
京都大学大学院 農学研究科  山内  龍男

  軽度及び強度に叩解したパルプからの紙層をすき合わせた一連の紙を用いて,すき合わせが強度的性質に及ぼす影響を検討した。
  初めに面内及び面外の基本的な強度的性質として,引張,圧縮及び内部結合の各強さを測定した。さらに面内引張強さに及ぼすすき合わせの効果を研究する目的で,引張変形過程で生じ,かつアコースティックエミッション(AE)として検出可能な微小破壊についても検討した。
  その結果判明したのは,すき合わせにおける紙層数の増加は引張塑性変形域を増大させ,関連して引張破断伸びの増大をもたらすことと,さらに繊維間結合増加による引張強さの増加以上に引張破断伸びの増大に基づく引張強さの増加の大きいことである。軽度及び強度に叩解したパルプの単純混合による紙と比較すると,すき合わせ紙における強度叩解パルプからの強い紙層の存在は,それが何処に位置しても,塑性引張変形域での微小破壊漸増期間を長くして最大引張負荷直前での微小破壊の急増を遅らせた。ただし,すき合わせによる塑性変形期間の延長がもたらす微小破壊の増大によりその出所,すなわち繊維の破断や繊維間結合破壊のどちらかだけが増えたわけではなかった。
  強い紙層が紙の両外層にあると微小破壊が紙破壊に発展するのを抑制し,結果として引張破断伸び及び引張強さの増大をもたらすのであろう。共に紙面方向の強度であるが,引張強さに対して圧縮強さは,すき合わせであれパルプ混合であれ,ただ単純に軽度及び強度に叩解したパルプの混合比率で決まる。内部結合強さで表される厚さ方向の引張強さは最も弱い紙層のそれで決まり,すき合わせによってはそれの一層の低下がもたらされた。
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研究報文
I/O値による電子ペーパー用表示材料の開発

東海大学 工学部 光・画像工学科  中澤  良平,谷崎    諒
東海大学大学院 工学研究科 光工学専攻  湯川  統央,前田  秀一

  電子ペーパーは,紙への印刷物と同様に目にやさしい表示媒体である。
  電子ペーパーの表示技術の中でも代表的なものにマイクロカプセル電気泳動方式がある。この方式では,カプセル中に透明な液体と正に帯電した白色粒子と負に帯電した黒色粒子が封入されている。カプセルを挟んだ電極間に電界を印加すると帯電粒子はそれぞれ逆の電位方向に移動し,白と黒のコントラストにより文字や画像の表示が可能になる。この二種類の粒子は正負に帯電しているので,無電界下ではお互い引き合ってしまう。そこで,本来であれば強く凝集してしまう泳動粒子の表面を,分散媒となじみの良い界面活性剤で覆うことで,凝集を防いでいる。この界面活性剤の探索にはトライアンドエラーで多くの時間と費用がかけられており,適当な界面活性剤を低コストで短期に選定する指標が求められている。本研究では,その指標として無機性基/有機性基(I/O値)を検討し,電子ペーパー用表示ユニットの材料開発を目指した。
  本研究では,I/O値が分散媒であるシリコーンオイル(I/O値=0.41)に近い界面活性剤で表面処理した粒子(I/O値=0.39)と,離れた界面活性剤で表面処理した粒子(I/O値=0.55),そして表面未処理の粒子を用意した。磁気泳動タイプの電子ペーパーを想定して,それぞれ白と黒の粒子を組み合わせて分散液を作り,分離/再分散性を観察した。結果として,分散媒と表面の界面活性剤のI/O値の近い組み合わせが分離/再分散性に優れ,なおかつ繰り返し書き換え性にも優れていることが確認できた。
  これらの結果から,電子ペーパーの泳動粒子を表面処理するための界面活性剤を選定するための指標としてI/O値は有効であると考える。
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