2012年8月  紙パ技協誌
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第66巻  第8号  和文概要


印刷市場動向と印刷産業ビジョン“SMATRIX2020”

社団法人 日本印刷産業連合会  大島  渡

  印刷産業はかつてない環境変化に直面している。工業統計による印刷産業の出荷高は1990年の8兆3,271億円から,2000年8兆1,378億円と推移するも,2005年には7兆1,000億円,2008年には6兆9,036億円,2010年は速報値で6兆400億円と辛くも6兆円台を死守したが,日本経済の「失われた20年」の中で,印刷産業は戦後最大の試練を経験している。特に2009年度は前年度比▲8.4%の大幅な落ち込みとなった。
  Peter. F. ドラッカーは新産業を生み出すための基盤として「知識労働者」や「知識産業」を提示した(『断絶の時代』1969,邦訳2007)。「知識」は情報を体系化し,情報を生きたエネルギーにする力を持っていると述べたが,情報コミュニケーション戦略を掲げる印刷産業はその重要な役割を担っている。モノづくりに加えて,サービス,コンサルティング,分析,企画,開発といった情報を統合・プロデュースする力によって,スマート社会に対応した新たな印刷産業の基盤(MATRIX)づくりを進めることがいま,急がれている。つまりSMATRIX(スマトリクス)の構築である。それに基づいて,印刷産業の進化の軸を検討する必要がある。
  ひとつはデジタルネットワーク化による進化である。2つ目の進化は高機能化であり,太陽光パネル等環境対応という形で様々な提案を印刷産業にもたらした。3番目として,ソリューション&アウトソーシング分野への参入が最も現実的な進化の「かたち」である。4番目は「ビジネスモデルの進化」で,他の業界を巻き込んだイノベーティブなインパクトを業界にもたらすものと思われる。
  このような進化を通じて,印刷産業の高度化が進むものと思われる。
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最新塗工紙事情

日本製紙株式会社 総合研究所  吉松丈博,川島正典,野々村文就

  世界の紙板紙生産量は2008年で3.9億トン/年であり,そのうち塗工紙は約20%程度の8千万トン/年であると推測される。日本は塗工紙を5百万トン製造しているが,年々増えている輸入塗工紙の影響を受けつつある状況である。
  日本に塗工紙を輸出している地域は,アジアとヨーロッパに2分できるが,前者が全体の58%,後者が34%である。グレード別にみると,微塗工(LWC)が58%で,輸出国はスウェーデン,フィンランドなどのヨーロッパ勢が中心,A2(WFC)は42%で,中国が中心である。
  今回,微塗工紙(LWC)とA2(WFC)について,海外メーカー品を10数種類入手し,白紙物性,印刷評価,処方解析を行った。その結果,海外の微塗工紙は,日本国内品と比較して白紙物性に特徴があり(高不透明度,低白色度),印刷面感は同等からやや劣る程度であった。また,A2(WFC)は,白紙品質には概ね同等であったが,塗工量が日本品よりかなり高いことがわかった。また,日本品のトレンドとしては,軽量化が進み,処方解析からはコストダウンを進めていることが推察された。日本の紙パルプ企業は,今後,世界市場にて海外品と競争していくために,各市場に最適な品質を設計する能力とローコスト製造技術の確立が必要と考えている。
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最新塗工技術(ValSizer及びOptiLayer)の適用拡大

メッツォペーパージャパン株式会社  田埜浩祐

  メッツォペーパーが近年開発し,現在脚光を浴びている塗工技術としてValSizerとOptiLayerが挙げられる。
  ValSizerはロッドメタリング方式のサイザであり,従来のポンドサイズに比較して,塗布量のコントロールは容易であり,より高い濃度での安定した塗布が可能なこと,必要量のみ塗布できるため経済性があること,などの利点がある。近年,中芯,ライナボードにおいて古紙利用による灰分増加や繊維の結合能力低下に起因する原紙強度の低下が問題となり,強度向上を目的とする外添サイジングの新しい方法が着目されている。
  一方,OptiLayerは同時多層塗工が行えるマルチレイヤカーテンコータである。これは紙および板紙の低インパクトの前計量式の塗工法であり,輪郭塗工を実現し,良好な繊維被覆の達成が可能である。同コータは1台で複数のコート層の同時塗工を行うことができることから,多層塗工用として複数のコータヘッドを必要とする従来の塗工方式と比較して,投資費用は格段に少なくて済む。また,塗工各層の設計が目的に応じて柔軟に行え,層ごとに異なる機能を持たせることが可能である。速度制限はなく,高濃度のカラーを使用でき,ノズルの詰まりやカラー回収の問題はない。
  本報では,ValSizer及びOptiLayerについて,原理,構造,機能,応用例などを紹介させていただく。
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アプリケーターロール用ポリウレタンカバー
―ハイトップロール―

ヤマウチ株式会社 製紙開発部  島崎宏哉

  ポリウレタンカバー材である弊社の「ハイトップロール」は,1963年の販売開始以来多くのプレスロール・サクションロール及びアプリケーターロールに採用されている。
  1998年にはアプリケーターロール用に特化した「ハイトップSシリーズ」を開発し,現在では国内アプリケーターロール市場でもトップシェアを維持している。
  近年,塗工液に使用される薬品類の多様化やロッドメタリングサイズプレスの普及により,アプリケーターロールに対する要求品質も厳しさを増している。
  本報では,ハイトップロールの基礎技術について,以下の項目に関して解説する。
  1)  ハイトップアプリケーターロールの構成ポリウレタンの特徴
  2)  ポリウレタンの特徴
  3)  HRD接着(上巻/下巻)の接着方式
  4)  HRD接着(上巻/下巻)の接着方式
  5)  ブリスター剥離対策
  6)  アプリケーターロールのトラブル事例
  また,最新のアプリケーターロール用材質である「ハイトップSDシリーズ」について,次に示す特徴を中心に,使用事例を含めて報告する。
  1)  耐水・耐薬品性
  2)  耐摩耗性
  3)  その他の特性(低残留歪み,低自己発熱,低熱膨張率)
(本文24ページ)


N6マシン  オンマシンコーター設備の操業経験

日本製紙株式会社 石巻工場 抄造部  明村将輝

  日本製紙石巻工場のN6マシンは,2007年11月より営業運転を開始し,主に微塗工紙,A3コート紙の生産を行っている。本マシンはワイヤ幅9,450mm,抄速1,600m/min,であり,ブレードコータとホットソフトニップカレンダをオンラインに装備したマシンである。N6マシンは現在,常用運転最高抄速である1,600m/minを実現しているが,更なる安定操業を目指し,オンマシンコータでの様々な課題への取組みを実施継続している。本報告ではこのN6マシンのロッドメタリングサイズプレス,オンマシンブレードコータに関する最新設備概要及び,その操業経験について報告する。
  以下に各操業経験別に,項目を挙げる。
  1)  サイズプレスパートにおける操業経験
       サイザ塗工方法の確立
  2)  ブレードコータパートにおける操業経験
   @  コータパートでの断紙対策
        コーター周辺要因と原紙欠陥要因での取り組みを行った。
   A  塗工プロファイル乱れ対策
   B  脱泡器(BES)エア抜き詰り対策
(本文29ページ)


電子写真方式の複写機・プリンター最新技術動向とハードメーカーから見た用紙への品質要求

キヤノン株式会社 映事デバイス技術開発センター  雨宮幸司

  オフィスにおける書類の複写業務に対応して浸透した電子写真方式複写機は,現在フルカラーMFP(Multi Function Printer)として,多様なオフィス業務に不可欠な存在となっている。
  本報告の前半は,このMFPのエンジン構成と,両面原稿を一度に読みとるリーダースキャナー光学系を解説。また,POD(Print On Demand)分野のデジタルプリンターには必須な印刷用紙の給紙機構であるエア給紙を説明している。
  後半は,電子写真方式のエンジン作像プロセスと用紙の各種特性との関係を説明している。紙の特性のうち,電子写真の画像品質や部品寿命に大きく関係するのは密度,含水率,引っ張り強さ,摩擦係数,表面抵抗,平滑度,繊維配向や,紙コバと呼ばれる切断ダレである。
  オフィス用途のMFPは業務用途に応じて進化している。一方用紙上に画像を形成する電子写真は,用紙特性の進化・改良・品質管理のもとに成り立っていると言ってよく,今後も製紙業界との密な情報交換が必要である。
(本文34ページ)


表面サイジングによる異なるプレメータリング技術の分析
―UMV社製TWINTMサイザーHSMおよびTWINTMサイザーグラビア―

株式会社マツボー 産業機械二部 製紙機械課  山ア光洋

  UMV社は1876年創立,2002年には前のBTG Coating Systems社の関連会社となった。2007年にこの2社が統合され,UMV Coating Systems社となった。UMV Coating Systems社は1973年からコーティングマシンを提供しており,最初の製品であるビルブレードコーターは,世界で最も販売されたコーターの1つである。
  同社は,リサイクル繊維を多く含むもしくは低坪量の弱いベース紙のコーティングおよび表面サイジングを可能にすべくTWINTMサイザーHSMを開発し,塗布量8-20gsmに加えてゲートロール方式のように4-8gsmの少ない塗布量の運転範囲も得るべくTWINTMサイザーグラビアを開発した。これら,TWINTMサイザーHSMおよびTWINTMサイザーグラビアはそれぞれ特徴的なプレメータリング方式を採用することにより,この開発目的を達成している。
  また,板紙にとっては,坪量を低く抑えつつ,嵩高および強度を確保することが重要であるとの考え方から,ライナー・中芯紙における表面サイジングが注目を集めている。UMV社のTWINTMサイザーHSMおよびTWINTMサイザーグラビアはその特徴からライナー・中芯紙における表面サイジングに非常に適している。
  本報では,UMV社の開発したTWINTMサイザーHSMおよびTWINTMサイザーグラビアについて,そのプレメータリング方式を中心にその技術的特徴の説明と,特にライナー・中芯紙での運転から得られたデータを紹介させていただく。
(本文40ページ)


コーターパート用カバー材質の紹介

株式会社明治ゴム化成 技術統括部 製品開発チーム  丹下和也

  当社は,抄紙用ロール用カバー材質として,各々のパートに適したカバー材質を多数取り揃えている。
  コーターバッキング用カバー材質に関するこれまでの開発の流れをまとめると以下のようになる。
  1)  最初に客先での手磨き性(取り扱い)を重視した「プレスコート」を開発。
  2)  その後,耐摩耗性を重視した(減らない材質として)「マルテケム」を開発。
   この2種類の材質で,長年お客様にご愛顧頂いてきた。
  3)  さらにその後,お客様のご要望により,「プレスコート」よりも手磨き性を重視した「エクセルコート®」を開発。紙によるエッジ摩耗に対しても効果のある材質となっている。
  4)  次に,「マルテケム」よりも耐摩耗性の優れた材質の要望を受け,「スーパーコート」を開発。
     この材質は,耐摩耗性に優れ,断紙時に傷つき難く,ロール端部の欠けに効果がある材質となっている。
  5)  また,最新材質として,汚れにくい特徴を持つ「ジャスティーコート®」を開発。
  従来のラインナップよりも更に耐汚れ性の優れた材質で,手磨き性重視のものから耐摩耗性重視のものまで開発した。
  本稿では,これらを開発した経緯,また,それぞれの材質が持つ特徴及びそれがゴムのどの特性に由来するものであるかに関して紹介する。
  更に,実際にカバー材質を使用したことによる効果を,客先実績として具体的に挙げていく。
(本文48ページ)


N10マシン  オンマシンコーター設備の操業経験

大王製紙株式会社 三島工場  大喜多  剛

  塗工紙の国内市場は軽量化へシフトしており,更に輸入紙が国内需要の22%に達している中,当社塗工紙製造マシンは品質・コスト競争力の両面に優れた製品をユーザーへ安定供給するため,日々操業改善や設備改善を進め,生産の安定化を図っている。
  低米坪化,古紙高配合化に適応した高速オンマシンコーターとして平成19年9月に営業運転を開始した当社のN10マシンも稼動から4年半を経過した。塗料塗工パートにブレードコーターとロールコーターを併設しているN10マシンでは,印刷作業性と関連の高い紙厚・剛度の高さを要求される軽量微塗工紙には低塗工量域でも塗料被覆性の良好なロールコーターを,光沢・印刷再現性等の高い印刷上がりを要求されるA3コート紙については厚い塗膜を形成できるブレードコーターを選択し,ユーザーニーズに合わせた製品を供給してきた。
  現在はより多くのユーザーへ高品質の製品を供給するためマシン能力をフルに活用することに取り組んでいる。本報では,生産性を高める上で進めてきた増速の取り組みの中で,サイザー・コーターの塗工パートで経験した操業改善事例について紹介する。以下に各改善・対策の項目を挙げておく。
  1)  サイズプレス
    ロッドメタリング方式(SpeedSizer)を採用している。
      ・シート走行性の改善
      ・サイズ液の塗工ムラ改善
  2)  ロールコーター
    サイズプレス同様,ロッドメタリング方式(SpeedSizer)を採用している。
      ・シート走行性の改善
      ・ロッド振動対策
      ・紙切れ時のアプリケーターロール傷入り対策
  3)  ブレードコーター
    ジェットファウンテン型バリデュエル式ブレードコーターを採用している。
      ・スキッピング(泡による未塗工)の改善
      ・ブレード下での紙切れ改善
      ・リップ汚れの改善
      ・ブレード焼けの改善
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ブレードコーターの操業経験

王子板紙株式会社 江戸川工場 工務部製造課  金子  優

  王子板紙江戸川工場は東京都内唯一の製紙工場であり,東に旧江戸川,残る三方を住宅地に囲まれるロケーションとなっている。当工場では古紙の集荷がし易く,また製品の消費地に近いという優れた立地条件を生かし,白板紙を生産している。
  江戸川工場5号抄紙機は1971年5月に小林製作所ハイスピードウルトラフォーマーの国内白板紙1号機として建設され,現在では,年間約14万トンの白板紙を生産しており,主に紙器用途に使用されている。これまで印刷加工技術の進歩に対応して品質改善を進めてきたが,昨今,印刷加工での要求品質が高まり,インキセット性やニス塗工適性,プレスコート適性を改善する必要があった。そこで2006年8月に上塗工方式をエアーナイフコーターからブレードコーターへ改造を行い,更なる品質の改善を図った。
  本稿では,コーター改造後の操業経験及び品質改善効果について下記の項目に沿って報告する。
  まず,設備上の問題点対策を以下に挙げる。
  1)  カラーパンの改良→スプラッシュガード取り付け,カラーパン形状の見直し
  2)  振動スクリーンの改良→ノンチューブ固定型への変更,掃除の頻度・網の取り替え周期の標準化,エアー抜き管の大径化等
  3)  バッキングロール汚れ対策→フロークリンドクター設置
    次に,品質上の問題点としてストリークの多発があり,対策を以下に挙げる。
  1)  洗浄方法の見直し→洗浄薬品の変更
  2)  振動スクリーン乾き対策→上部配管レイアウト,密封,ノンチューブ固定型網等
  3)  配管,タンク内泡対策→配管内の空気が触れる部分の減少,タンクへの落差軽減等
  4)  原紙表面付着異物対策→ドライヤードクターの整備,材質変更
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鏡面反射点拡がり関数による白紙光沢の解析(第1報)
―紙の鏡面反射現象における点拡がり関数の測定と解析―

三菱製紙株式会社 生産技術センター  井上信一,小鳥幸夫,滝代政幸

  光沢は紙の重要な品質のひとつである。紙の開発や品質管理において,光沢を定量的に評価することは基本的な課題であり,様々な光沢の評価技術の研究が進められている。光沢は鏡面反射現象における視知覚である。鏡面反射現象を物理的に捉え,この特性を定量的に物理量として測定できれば,光沢はこの物理量から評価できると考えられる。本研究では,鏡面反射現象に画像工学で広く用いられる点拡がり関数の概念を応用することを試みた。
  光の鏡面反射現象における物理特性として鏡面反射点拡がり関数を提案し,この測定技術を論議した。鏡面反射点拡がり関数測定装置を試作し,印刷用紙を中心に鏡面反射点拡がり関数の測定と解析を行った。この結果,測定された印刷用紙の鏡面反射点拡がり関数は,中心をピークとする山型の分布として測定され,ピークの強さや山の拡がりからその紙の光沢の特徴を想像できるものであることがわかった。鏡面反射点拡がり関数から算出した光沢評価値は,主観的な光沢感評価と良い相関を示した。また,鏡面反射点拡がり関数は,点拡がり関数と同様に画像の伝達特性を示しており,鏡面反射した光源像のボケ具合を解析できることを確認した。
  鏡面反射点拡がり関数は,点拡がり関数の概念に裏付けされた物理量であると考えられる。今後,鏡面反射点拡がり関数を基本データとすることで多面的な光沢の評価や解析が可能になると考えている。画像工学では,点拡がり関数が得られればその応用として,MTFを用いた空間周波数解析の技術が知られている。今後は本研究の鏡面反射点拡がり関数から導かれる鏡面反射MTFについて解析を進めていく。
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