2011年11月 紙パ技協誌
 
第65巻 第11号 和文概要


省資源化に向けた板紙抄紙
-トータルウェットエンドシステムと塗工剤処方による構築-

ハリマ化成株式会社 製紙用薬品事業部 技術開発部 稲岡 和茂

  製紙業界では収益改善を目的とした合理化,コストダウンを余儀なくされており,製紙工程の環境が急激に変化している。このような状況の下,板紙において少量の硫酸バンド(Alum)の有効利用法を模索した結果,Alumの使用量を削減した際のデメリットを解消しつつ相乗効果による品質向上が見込める「トータルウェットエンドシステム」を2005年に提案した。
  一方,近年,板紙の省資源化,すなわち軽量化が急速に進んでいる。板紙に要求される圧縮強さや破裂強さは坪量に依存するため,軽量紙にて強度を確保する手段が必要となってきている。従来の内添薬品の効果を重視した抄紙での対応は難しくなってきており,繊維自体の強度を有効利用する抄紙を行い,外添薬品により機能を付与するというコンセプトでの対策を試みた。
  Alum,内添紙力剤,内添サイズ剤について添加量と強度の関係について検討した結果,Alum添加量の低減が板紙の強度発現に有利であった。Alum添加量を低減したときに起きうる課題とその対策として,ピッチトラブルには凝結剤,濾水性・歩留り低下には濾水剤および歩留り剤,サイズ性低下にはカチオン性表面サイズ剤の使用が有効であった。抄紙系のクローズド化と板紙の軽量化への対策には,電気伝導度の影響を受け難く,効率の良い機能付与が可能な外添薬品の適用が有効であった。
  これらの結果から,省資源化に向けた板紙抄紙に対応していくには,弊社の提案するトータルウェットエンドシステムと塗工剤処方による構築がきわめて有効であると言える。
(本文1ページ)


蒸解助剤SAQ®の漂白負荷への影響
-未晒パルプの樹種における白色度およびヘキセンウロン酸量の比較-

川崎化成工業株式会社 技術研究所 田中 潤治

  日本国内を中心にパルプ化技術として定着しているSAQ®蒸解において,ECF漂白負荷への影響を調べるために未晒パルプの分析を行った。その結果,SAQ®蒸解によって得られた未晒パルプのカッパー価の低減および白色度の向上が認められた。さらに,未晒パルプ中のヘキセンウロン酸を定量したところ,SAQ®による影響がほとんどないことが認められた。したがって,SAQ®蒸解によってECF漂白負荷は低減することが示された。
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高紙中灰分化のための最新の歩留りシステム

エカケミカルス アジアパシフィック デイビッド ロベル,ロス ホワート,中山慎太郎

  1980年代初めに上市されたコンポジルシステムは今日上質紙抄紙機にとって一つの標準となっている。上質紙市場は2020年までに現在の9,000万トンから1億5,000万トンまで増大すると予想され,この6,000万トンの増加分は最新式の高速抄紙機で生産されることになり,その場合の抄紙速度は1,800〜2,000m/分となり,灰分含有率は30%に達する。また,使用される填料はPCCやGCCと言った歩留り難い填料が増加する。エカケミカルスはこの用途におけるあらゆる課題(十分な歩留り,シート強度や地合いの維持,ダスティングの抑制,良好な操業性の維持など)を解決した歩留り・濾水システムを開発した。
  本報告ではこの新システム,コンポジルFxシステムを使用した最新大型抄紙機での使用例を報告する。
(本文9ページ)


PARETOTMミキシングテクノロジー
-節水と省エネルギーを可能にする新しいケミカル混合技術-

ナルコカンパニー アジアパシフィック ペーパーサービス マーケティング 佐藤慎太郎

  環境保護の観点から製紙産業においても,節水・省エネルギーに関する技術へのニーズはますます高まっている。同時にグローバル化と激しい競争により,製造コストセービングもまた重要である。NALCOは2006年にケミカルと工程フローを混合するPARETOテクノロジーを発表,これまで多くの工場で節水・省エネルギーと工場生産性改善を両立してきた。
  コンピュータを使用した流体力学シミュレーションにより設計されたPARETOオプティマイザーがこの技術の心臓部であり,そこから放出される円錐状のケミカルジェットが工程フローとケミカルの確実な混合を可能とする。
  また従来ケミカルの2次希釈水に使用されていた新水を工程水等で代替することで節水が可能となる。ポリマーの性能を十分に発揮させることにより,抄紙機での脱水に必要なエネルギーが軽減されたり,あるいは希釈水に温水を使用している場合は加温するエネルギーを削減することができる。
  PARETOは世界中で既に多くの導入例がある。その適用範囲は抄紙マシンに始まり,最近では排水処理工程,パルピング工程に拡大している。昨年NALCOはその技術をリニューアルしており,その概要と導入例をここに紹介する。
(本文14ページ)


最新の省エネルギー技術の紹介
-ADC, MaxFlow, FINEBAR, GHC-

相川鉄工株式会社 技術営業部 安田 圭児

  近年の資源保護,環境保護への取り組みにより製紙原料として植林木パルプ,古紙原料の利用が多くなっている。植林木パルプは短繊維であり多くの主材料はLBKPである。叩解工程において無駄な繊維カットを行なわずに紙力を得ることが重要な課題であるといえる。そして更なる課題としては省エネルギーである。本稿では当社での最新のLBKP叩解テストデータを元にADCダブルコニファイナーとDDR,そしてFINEBARと鋳鋼刃の特徴を説明する。
  また,古紙利用の増加に伴い原質設備のスクリーン工程でも省エネルギーは重要である。省エネルギー用スクリーンローターとして開発されたGHCローターと更に開口面積を増加させたNW1バスケットの説明をする。
(本文18ページ)


紙コーティングの熱伝導度:ラテックスバインダーの役割

オミヤディベロップメント パトリック A. C. ゲイン
アアルト大学 フィリップ ゲルストナー

  紙の着色コーティングの熱伝導度は,コーティングの構造内部での接続性や材料の配置に関係していることが明らかにされている。本研究において検討されるような炭酸カルシウムとラテックスバインダーとの場合には,湿潤状態でのバインダーと顔料との相対的な位置関係がコロイド的な相互作用により決まる。すなわち,これは分離と凝集の挙動であり,ほとんどの場合,枯渇凝集の形をとる。枯渇凝集においては,限界的用量のラテックスが加えられると顔料の充填が崩壊する。乾燥させると構造が固化することから,ラテックスバインダーは当初は顔料粒子間の接触点の中央に位置していることが分かる。炭酸カルシウム顔料を含む構造の熱伝導度は,充填密度,そして分散剤ポリマー(ポリアクリル酸)によって与えられる接続性によって決まる。ガラス転移温度(Tg)が低い場合,ラテックスは変形し押し出されるため微小孔を生成し,また伝熱経路がいっそう屈曲する。中間的な領域のTgのラテックスの場合,変形は減るので,接触点のみでの局所的な接続性となり,少添加量で最大限に熱伝導に寄与する。高添加量ではラテックスの絶縁特性が支配的になる。高いTgのラテックスは剛体球として挙動し,接触面積は全くないか,あっても少ない上,顔料接触点の間から押し出されるので,密な充填構造を作り熱伝導度は比較的高くなる。
(本文23ページ)


カーボンロールへの溶射技術及び製紙分野への適用事例

トーカロ株式会社 永井 正也,重村 貞人
三菱樹脂株式会社 葭谷 明彦
サンレイ工機株式会社 山中 正信

  炭素繊維強化プラスチック(CFRP)製ロールはカーボンロールと呼ばれ,金属製ロールと比較して,軽量,低慣性モーメント,高剛性等の優れた特性を持つことから,近年ではフィルム製造,製紙,印刷業界等の各種産業分野に適用が広がっている。特に製紙分野では近年,生産性向上,コスト削減を目的として,製造ライン速度の高速化,抄紙サイズの幅広化が進められている。これに伴ってラインを構成している各種ロールにおいては,軽量化,高剛性化,小径化が求められている。
  しかし,カーボンロール表面は耐摩耗性,搬送ウェブとの摺動特性などからCFRPそのままで使用されることは殆どない。我々は長年に亘る研究開発の結果,溶射プロセスによるカーボンロール表面への各種材料の被覆技術を確立した。これら溶射カーボンロールは各種産業界で非常に高いロール性能,表面性能を必要とされる部位に適用されつつある。
  本稿ではカーボンロールへの溶射技術とワインダーマシンのセクショナルロールに軽量,高剛性のCFRPをシェル基材とし,ロール表面に耐摩耗性,グリッピング特性を与えるWCサーメット溶射皮膜を施したカーボンロールを適用した事例について報告する。
(本文28ページ)


カーテン式塗工技術による印刷用紙および板紙へのアプローチと展望

株式会社IHIフォイトペーパーテクノロジー 片野 敏弘

  弊社のカーテンコータであるDF(Direct Fountain)コータは,理想的な輪郭塗工ができるといった多くの優れた特徴を持つ。そのため,これまで主に優れた被覆性が求められる特殊紙向けに採用されてきた。近年では,機械および塗料両面での改良が進み,印刷用紙,塗工白板紙およびコートライナー等の顔料(ピグメント)塗工用コータとして,採用が進んでいる。
  本報では,それらピグメント塗工製品向け弊社DFコータの実績について触れるとともに,近況と今後の展望について報告させて頂く。
(本文33ページ)


2次元地合計の分析による生産性の向上と不良品の低減

テックパップ社(BTGグループ) ヤン ルオ

  紙の最適な物理特性と品質を保証するには,十分に制御された紙の地合いが必要である。紙の地合いを評価するために製紙メーカーは,フロック寸法およびその分布等の紙の地合い情報に加えて,透かし地合い(LT),フロック異方性,周期性マーク及び傾向等の視覚的な制御をしていかなければならない。Techpap社は,先進のビデオ分析技術に基づいた2次元オンライン地合いセンサーを新たに開発したので紹介する。
  なお,最初の2次元地合いシステムは,1990年台半ばに設置され,その後,世界中の市場で数多く使用されている。
(本文37ページ)


光学式キャリパー計の導入事例

日本製紙株式会社 石巻工場 工務部 小林 徳幸

  紙の品質をオンラインで測定するQCS(Quality Control System)は,坪量,水分,灰分といった様々な成分の計測を行なっているが,いずれも紙に触れることなく測定が可能である。しかし,キャリパー計は紙を両面からプレートで挟み込んで紙厚を測定するため,紙面を傷つけてしまうケースがあり,QCSへ携わる者にとって長年に渡り困難なテーマであった。
  そのような背景の中,近年になりようやく各QCSメーカーが非接触式を売りとする,従来とは一線を画した新型キャリパー計を市場へリリースし始めており,国内での実績が多い横河電機も昨年光学式キャリパー計を発表した。これは「光の色収差」と「共焦点」を利用して紙厚を測定するというユニークな原理を採用しており,片面非接触による紙への影響が少ない測定方法を実現している。弊社ではこの光学式キャリパー計を石巻工場の最新鋭マシンであるN6M/CのQCSへ追加搭載し,性能評価の取り組みを実施してきたので,その経緯と結果を報告する。
(本文41ページ)


革新的ドライヤーシリンダードライブ及びギアボックス潤滑システム
-AS社のドライブ及び潤滑システムによるマシン増速-

株式会社マツボー 高橋 智昭

  多くの抄紙機が旧式のドライヤー部ドライブの問題により生産性の限界に到達しつつある。抄速を上げる為の弊害として,騒音,オイル飛散,マシン振動,ギアの損傷,フラッタリングなどのシート走行性における問題などが挙げられ,その解決にはドライブの見直しが必要とされる。本稿では,AS Drives & Services GmbH社(ドイツ,レケン)による効率の良いサイレントギアボックス,フレキソギア®,周辺設備として効率的に潤滑油の脱気を行う潤滑油ユニット,ルーブリフレックス®,潤滑油の流量を自動制御するインテリジェントフローメーター,フレキソフロー®の紹介を行う。
  フレキソギア®はオイル切れ,オイル飛散,マシン振動,ギアトラブルなどオープンギアや密閉ギアでの諸問題を解決し,既設マシンで1,000m/分に対応する増速も可能とする。特殊設計の密閉型スリップオンギアボックスの構造により,消音設計で騒音の抑制も行える。また,駆動側を塞いでいたギアが小さくなり,断紙の際,損紙の取り除きが容易になり,操業性の向上にも貢献する。又,オイル飛散がなくなり,製品オイル汚れや駆動周りのオイル汚れが無くなる。
  ルーブリフレックス®は省スペース,メンテナンス性に優れており,オイル流量を自動制御する機能を持つフレキソフロー®との併設により操業コストを抑制することが可能である。
  日本市場においても,これらASの製品群を導入することにより,中・小型マシンの操業性の向上に大きく貢献するものと考える。
(本文46ページ)


バイオマス燃料を工業化するための科学・技術・経営の課題

ノースカロライナ州立大学 リチャード・フィリップス

  重油価格,エネルギー安全保証,地球温暖化対策に対する関心が高まり,バイオマス燃料の工業化に対する需要は強い。しかし,実用化しているのは米国のトウモロコシとブラジルのサトウキビだけである。
  ノースカロライナ州立大学は,様々なバイオマス原料と変換技術の組み合わせを総合的に評価し,南部広葉樹と家畜用トウモロコシ飼料をバイオマス原料とし,既存のクラフトパルプ工場設備を利用して緑液蒸解を行い,酢酸発酵でエタノール収率を上げる方法が最もコスト競争力が高いという結果を得た。
  非木材繊維は安価だが収穫が年数回しかなく,嵩張るので年間を通して利用しようとすると貯蔵のための膨大な敷地が必要である。また長期間保存すると収率が低下するのでバイオマスの単独原料として使用することは困難である。しかし,木材チップと併用して非木材繊維を収穫時だけ配合すればコスト競争力が出てくる。
  緑液前処理法は,木材中の炭水化物歩留まりが90%と高く,酸素脱リグニンと磨砕により酵素の加水分解率を改善できる。反応阻害物質が除去され,高濃度で処理することによって高い糖濃度が得られる。
  酢酸発酵は,エタノール発酵よりも設備投資金が高額だが,収率がエタノール発酵よりも50%高い。酢酸バクテリアで糖を酢酸に分解し,精製した後,水素を付加してエタノールを生成する。
  この技術はまだ開発の初期段階であり,工業化するためには,科学,技術,経済の分野で幾つかの課題があるが現実的で有望だと考えている。
(本文51ページ)


ISWFPC2011(中国造紙学会主催)参加報告
-2011年6月8日〜10日 天津(中国)にて開催-

東京大学大学院 農学生命科学研究科 横山 朝哉

  2011年6月8日〜10日に中国・天津市で,ISWFPVC2011(第16回木材化学・繊維化学・パルプ化化学国際シンポジウム)がCTAPI(中国造紙学会)の主催で開催された。
  大会には21カ国から410名が参加した。口頭発表としては,11分野134件が,全体講演4件とともに行われ,156件のポスター発表が行われた。
  日本からの発表を中心に,筆者が興味を引かれたものの概要をいくつか報告する。
(本文55ページ)


TAPPI PaperCon2011Conference and Exhibit参加報告

日本製紙株式会社 落合 孝勇

  筆者は,当社グループ海外拠点にて実務経験を積むことで,語学力向上のみならず,多様な文化,社会的背景を持つ人々と協力し,国際的なビジネスの現場で活躍できる技術者を育成する目的で運用されている「技術系海外企業派遣コース」研修制度により,2010年3月より約1年半,当社北米拠点のひとつである,ノース・パシフィック・ペーパー・コーポレーション(North Pacific Paper Corporation,略称NORPAC/ノーパック)へ派遣された。
  同研修プログラムには,海外工場駐在時に駐在国等で開催される紙パ関連学会への参加も盛り込まれており,筆者は2011年5月1日〜4日に,米国ケンタッキー州,コビントンにて開催されたTAPPI PaperCon2011Conference and Exhibitへ参加した。
  本報告ではノーパックについて紹介した後,表題学会参加について報告する。なお,表題学会への当社及び日本の紙パ企業からの参加者は筆者のみであり,聴講したセッションも限られるため,学会全体を網羅した内容にはなっていないことをご了解いただきたい。
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ペーパースラッジ焼却灰系凝集固化剤を用いた人工干潟におけるアサリの成長

三重大学大学院工学研究科 今井 大蔵
三重大学大学院工学研究科 今井大蔵,金子 聡,江草清行,勝又英之,太田清久
三重大学環境保全センター 鈴木 透
タチ大学化学工学科 Ahmed H. A. Dabwan

  近年,ペーパースラッジ焼却灰(PS灰)を主原料とした底質安定改良材の開発・実用化が行われてきているが,水域環境面での実用例は殆ど見られないのが現状である。著者らは,これまでPS灰系改良材を利用した海洋環境再生の試みを英虞湾にて実施してきた。特に,湾内において現在でも施工・廃土されている浚渫土をPS灰系改良材により改良した改良土を利用した人工干潟を造成し,底生生物群集の回復を確認してきた。本研究では,造成した人工干潟のさらなる生物生産性を評価することを目的として,干潟内に飼育したアサリ稚貝の成長過程を観察した。PS灰系改良材を利用した造成区は砂質区等の天然干潟と比較して高い成長を示し,今後の浚渫土の利用展開としての有用性が示唆された。
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