2010年12月 紙パ技協誌
第64巻 第12号  和文概要


“人はなぜ紙に魅かれるのか”―「紙の力」からみた未来

東京大学 名誉教授 尾鍋 史彦

  ある環境において生命体として存在する人間は感覚・知覚・認知などの心の過程をもち,ミクロコスモスとしての精神世界を脳内に創造することができる。人が紙に魅かれる理由は紙の人間との親和性にあり,また親和性は紙から情報を読み取り認知構造内の情報を更新し,新たなミクロコスモスを構築する過程を促進する機能がある。発達心理学からみると紙の感覚・知覚への訴求力や紙に載せた文字の繋がりからなる意味の認知構造への深く安定的な格納能力は生得的なものであり,個人の知の形成においてはデジタル時代においても紙メディアは優位性をもち続ける。メディアの人間との親和性を感情価として評価すると,紙メディアの感情価は最高に位置し認知処理過程を促進するが,現段階での電子的表示メディアの感情価のレベルは不十分なために,情報を読み取ることは出来ても脳内での情報処理過程を阻害すると思われる。またアフォーダンス理論によると,メディアの人間との相互作用に関わる身体感覚や歴史的・文化的環境も認知過程に影響するので,紙の書籍と電子書籍は単なる視覚による読みの差異以外の書籍としての形態や視覚以外の諸感覚も認知過程に関係するが,さらなる解明には認知科学や脳科学が重要な解析手段となるだろう。フランスのメディオロジー理論は文字を支える紙の役割を「紙の力」と表現しているが,認知科学と融合させることにより,更に「紙の力」の本質に迫れる可能性がある。
(本文2ページ)


地球温暖化を巡る国内外の動向

財団法人日本エネルギー経済研究所 地球環境ユニット 佐々木宏一

  地球温暖化対策として,1997年に京都で開催された気候変動枠組条約第3回締約国会議にて,先進国の温室効果ガス削減目標を義務付ける京都議定書が採択され,2005年に発効した。既に京都議定書の対象期間(2008年〜2012年)であり,日本を含めすべての国は目標の達成に向けた対策の着実な成果が求められている。
  一方,地球温暖化対策の国際交渉の視点は,2012年で終了する京都議定書の次の枠組み(いわゆるポスト京都議定書)であり,中長期目標の議論が国内,国際交渉の場で進みつつある。日本としても,公平で実効性のある国際合意を目指すと共に,理想だけではなく実現可能な将来像を国民に示し,合意のもとで取り組みを進めてゆくことが必要である。
(本文8ページ)


わが国の環境法規制の動向

王子製紙株式会社 環境経営本部 湯浅 正信

  1990年代に入り,環境関連で多くの法律が公布・施行されてきたが,一部(工場立地法等)を除き全体としては規制強化の方向にあり,その傾向は今後もしばらく続くものと思われる。
  最近では09年4月に土壌汚染対策法が改正され,調査の契機等が拡大されてきている。 わが国の環境法の大きな流れは,@微量化学物質対策,A温暖化・省エネ対策,B廃棄物・リサイクル対策であるが,今回は@およびBを中心に,紙パに関連が深くまたその動向に注目すき環境法について述べる。
  @の微量化学物質対策では,特にPCB問題その中で微量PCB問題について,しばらくその動向・対応に注意が必要である。Bの廃棄物・リサイクル対策では,その中心となる「廃掃法」は,他の環境法令に類を見ない度重なる改正を延々と行っている。
  廃掃法については,2000年の改正が当時「終着駅」と言われていたが,現実はそうはなっていない。廃棄物に関しては,小さな工場・事業所でも発生し,またそのリスクも大きい事から,その対応は環境担当者のみならず会社全体にとって非常に大きな課題となっている。
(本文14ページ)


ノイズビジョンを使った工場の音源探査と騒音対策

日東紡音響エンジニアリング株式会社 コンサルティング事業部 青木 雅彦

  工場等の騒音を対策することは,周囲の近隣環境に対してだけでなく,工場内で働く方々の作業環境の保全に対しても重要な課題である。騒音対策を効果的に検討するためには,先ず影響の大きい騒音源を見つけ出す必要がある。しかし工場の内外には多数の騒音源があるため,騒音源を発見しその影響を調べる調査には困難が多く,検討にコストや時間がかかる要因にもなっている。
  本稿では音源探査装置ノイズビジョンを使った測定で,騒音源を探査し,可視化することで,騒音対策検討のコストと時間が節約できる方法を紹介する。
(本文21ページ)


注意すべき廃棄物処理法:陥りやすい廃棄物違反
―紙パルプ業界が,リサイクルの分野でトップであるために―

BUN環境課題研修事務所 長岡 文明

  廃棄物処理法では許可制度を採用し,厳しい規制の下で運用されている。しかし,古紙を初めとする「専ら再生4品目」に関しては,廃棄物処理法スタート時から「許可不要」として取り扱われてきている。そもそも,再生利用,リサイクルとはなんなのであろうか?また,紙パルプ業界が今後とも廃棄物処理法においては「許可不要」という特権を維持するためにはどのようなことが求められるのであろうか。
(本文26ページ)


古紙設備の振動対策

北越紀州製紙株式会社 関東工場 市川工務部 抄造課板紙調成係 北村 智樹

  北越紀州製紙株式会社関東工場は千葉県市川市と茨城県ひたちなか市に拠点を置く板紙生産を主力とする工場であり,関東工場市川工務部では古紙を主原料としたコート白ボール・特殊白板紙を生産する4号抄紙機・5号抄紙機を抄紙設備として稼動している。
  関東工場の特徴の一つは首都圏に近い製紙工場である事であり,デリバリーの面や原材料として使用する古紙資源を集めるには最適な立地である反面,住宅に囲まれた中に工場がある為,地域環境への配慮は欠かせない課題でもある。特に古紙処理設備や原料調成設備関連は住宅地に隣接した部分に配置されており,環境対策を継続実施してきた。本報文では市川工務部における古紙設備の振動対策について報告する。
(本文31ページ)


日本製紙の環境活動と地域貢献

日本製紙株式会社 技術本部 環境安全部 芝田  衛

  企業活動を円滑に進めるには,総合的な社会的な責任を果たすことが重要である。日本製紙グループは2007年3月に環境憲章を改定し,「生物多様性に配慮した企業活動を基本とし,長期的な視野に立って,地球規模での環境保全に取り組み,循環型社会の形成に貢献する」ことを理念に掲げ,環境に関する取り組みを進めている。合わせて,2004年4月制定の社会貢献活動の理念と基本方針に基づき,企業市民としての社会貢献活動に積極的に取り組んでいる。
  日本製紙は地域の方々に信頼される企業を目指し,積極的にいろいろな活動を進めている。本報告では,地域貢献に寄与していると思われる環境活動について,特徴ある事例をいくつか紹介する。
(本文36ページ)


アジア(とくに中国)の環境問題の現状とその動向
―環境政策と環境ビジネスの視点から―

社団法人 日本経団連 国際協力本部 青山  周

  中国は高度経済成長を遂げている一方で,深刻な環境問題に直面していることから,中央政府は環境,省エネ,新エネに関する政策を積極的に推進している。情報化の急速な発展により,環境の重要性は政府のみならず,広く市民に共有されるようになった。
  急速な情報化の進展の下,政府の電子政務公開を進めている。こうした状況の中で,政策を議論する政策空間が中国に出現した。中国の今後の環境政策の動きを理解するには政策空間が政策の立案,決定,実行,さらに変更に与える影響を正確に把握していく必要がある。そのためには,PDCAサイクルが分析の枠組みとして有効と考える。
(本文41ページ)


焼却灰・飛灰からの重金属の回収

京都大学大学院 工学研究科 都市環境工学専攻 高岡 昌輝

  現在,日本においては2280万トンの焼却残さ(焼却灰・飛灰を含む)が排出され,そのうち約700万トンが最終処分されている。焼却残さは多種類の重金属を含む循環資源である。資源リサイクルおよび環境へのリスク低減の観点から焼却残さからの重金属を回収することは意義深い。本稿では,一般廃棄物焼却灰・飛灰からの金属回収を考える上で重要な点について述べた後,具体的な回収技術について紹介する。
(本文45ページ)


生物多様性をめぐる国内の動向について

環境省 自然環境局 自然環境計画課 生物多様性地球戦略企画室 川越 久史

  生物多様性条約は1992年に採択され,今年10月には第10回締約国会議(COP10)が愛知県名古屋市で開催される。日本においても,2008年に生物多様性基本法が制定され,2010年には生物多様性国家戦略2010が策定されるなど,生物多様性に関する様々な取組が進められている。しかし,2010年に公表された生物多様性総合評価によると,人間活動に伴う我が国の生物多様性の損失はすべての生態系に及んでおり,全体的にみれば損失は今も続いていることが報告されている。COP10を契機として,生物多様性の保全と持続可能な利用に向けた取組をさらに加速,進展させていくことが必要である。
(本文50ページ)


カンバス随伴流によるドライヤーパートへの影響

敷島カンバス株式会社 技術部 住吉  誠,竹ノ内靖政

  抄紙機のドライヤーパートは,プレスパートから湿紙を受け取りドライヤー内を搬送する間に,乾燥を促進させて所定の紙質に仕上げる役目を担っている。湿紙の乾燥は「熱」を有効に且つ効率的に利用することであるが,加えて「風」が必要であることも理解されている。
  最新の多筒式抄紙機の抄速は2,000m/minに達しつつあり,カンバスが走行することによって発生する風の流れ,いわゆるカンバス随伴空気流の測定実験を行った。各種のカンバスを試料に用いて随伴流を測定した。実験結果に基づき随伴流に関する観察結果を報告する。
(本文60ページ)