2009年12月 紙パ技協誌
 
第63巻 第12号 和文概要


最近のCO2排出権取引の動向

みずほコーポレート銀行 グローバルストラクチャードファイナンス営業部 齊藤  聡

  京都クレジット(CER/ERU)は,京都市場のみならず,EU―ETS,豪州CPRS,日本の地球温暖化対策推進法の下での報告等に用いて,参加者が自らに課された目標を達成するために利用することができる。京都議定書第一約束期間(―2012年)においては,京都クレジットの需要が供給を上回る可能性が高いが,これはロシア,東欧諸国等から供給されるAAUの量によっても左右される。発行前の京都クレジットは,買い手にとって,ノンデリバリー・リスクを内包するものであり,価格はそのリスク(すなわち国連承認プロセスでの段階)やEUA価格に依存して定まる。
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わが国の環境法規制の動向

王子製紙株式会社 環境経営本部 今宮 成宜

  1990年代に入り,環境関連で多くの法律が公布・施行されてきたが,一部を除き全体としては規制強化の方向にあり,その傾向は今後もしばらく続くものと思われる。またわが国の環境法の大きな流れは  微量化学物質対策, 温暖化・省エネ対策, 廃棄物・リサイクル対策に区分される。
  今回の環境セミナーでは上記区分の中で,ここ数年動きがある法律及び対応に注意を要する法律について紹介する。その中で廃掃法については,法が適切なリサイクルを逆に妨げる事態が生じており,早期の廃棄物定義の見直し,枠組み見直し等の抜本改正が望まれる所である。現在,環境コンプライアンスの重要性が言われているが,そのためにはまず関連する環境法をきちんと理解・把握し,そのレベルを上げていくことが必要である。
(本文6ページ)


環境ハザードマップによるリスクマネジメント

中越パルプ工業株式会社 高岡工場 環境管理室 山下 民治

  当工場では,昨年数件の環境事故が連続して発生し,地域住民を初め多くの方々の信頼を傷つける結果となった。
  関係機関の指導の下,再発防止対策として環境管理体制が見直しされ,環境管理レベルの向上につながった。しかし,今後の環境事故が発生する可能性(環境リスク)を考えたとき,その管理については管理方法が確立していない状態であった。従来からも,公害防止は当社の基本方針として取り組まれていたが,ややもすれば,各部門の責任者まかせとなり,部分最適を集積させる手法になりがちであった。工場全体の環境リスクを俯瞰することが難しく,対策の優先順位を誤る可能性も少なからずあった。
  全工場規模で,環境リスクを洗い出し,工場全体で優先順位の高いものから対策をとっていくシステムを構築する必要を感じ,昨年来,環境ハザードマップ作成,環境改善計画の策定に取り組んだ。
  その経過と今後の取り組みについて報告する。
(本文13ページ)


紙パルプ業界における排水処理技術の変遷と最近の技術

荏原エンジニアリングサービス株式会社 プロセス開発統括部 プロセス技術室 蒲池 一将

  紙パルプ工場の排水処理は凝集沈殿処理から始まったが,排水処理規制の強化に伴い有機物除去のための活性汚泥法などの生物処理設備が導入され,放流水質の改善に大きく寄与することになった。弊社ではさらに紙パルプ工場排水の特性把握を進めることで,高負荷に対応できる維持管理の容易なバルキングフリープロセス,流動床型生物膜処理設備を開発し,これらの導入が進められている。また,近年注目されている資源回収型や省エネルギー型の排水処理技術である,メタン発酵処理,嫌気性アンモニア酸化法,MAP法について報告する。
(本文17ページ)


省スペース型排水処理設備及び水回収技術

住友重機械エンバイロメント株式会社 環境システム統括部 技術部 中野  淳

  民間工場において,排水処理設備は環境対策設備として,非常に重要な位置づけにあるが,直接生産に寄与しない設備でもあるため,設備投資金額や維持管理費をできるだけ低減したいという要望が多い。とりわけ紙パルプ工場においては,一般的に大量の水を使用しているため排水処理設備も大規模なものとなり,投資金額も多大なものとなる傾向がある。そこで,紙パルプ工場における排水処理設備は,高負荷化,高速化による小型化,省スペース化が強く求められてきた。
  また国内では,用水確保の問題は顕在化していないが,国際的には気候変動の影響を受け,水資源の確保が困難になりつつある。将来,水に係るコストが高騰する可能性もあり,水回収技術に関する検討に着手する時期に来ていると考えられる。
  本稿では,省スペース型排水処理設備として活性汚泥法と高速凝集沈殿装置スミシックナー®を組み合わせた,「スミスラッジ®システム」,水回収装置として白水回収に適用されている高速ろ過器「ハイフィルターTM」,および浸漬型精密ろ過膜を用いて清澄な処理水が得られる「膜分離活性汚泥システム」について報告する。
(本文23ページ)


最新環境負荷低減技術について

栗田工業株式会社 ケミカル事業本部 牛山 保,内田敏仁,陳 嘉義

  最新の環境負荷低減技術について,工場排水の水質汚濁防止,悪臭防止の観点から解説した。水質汚濁防止に関しては,処理対象となる排水中の構成成分の分子量とイオン性に対応したCOD低減剤の分類と適用事例を,また活性汚泥沈殿槽,凝集処理沈殿槽のモニタリングシステムを用いた処理の安定化対策を紹介した。悪臭防止に関しては,臭気指数の定義および薬剤による排水処理における臭気対策を,またバイオマスボイラの燃料ヤードにある燃料の含水率上昇防止対策を報告した。
(本文29ページ)


排水規制の国内外の動向および生物影響評価法

株式会社日本紙パルプ研究所 門田 克行

  現在の化学物質および排水の環境対策において,生態系や生物多様性を鑑みた生物影響の削減が重要視されている。化学物質や排水の生物影響を評価するために,生態系を構成するモデル生物を用いた種々の手法(バイオアッセイ)が開発されている。バイオアッセイを用いて北米・北欧を中心に古くから産業排水の排水規制が実施されてきた。北米・北欧における排水規制は紙パルプ排水を中心に行われ,水多消費型産業である紙パルプ産業が主導的な役割を果たすことで排水の環境に対する影響は大きく軽減されてきた。最近ではこの排水規制の動きは北米・北欧に限らず様々な国に拡大する傾向がある。わが国においても環境省が2009年度より生物試験を用いた排水規制(生物規制)の検討を本格的に開始する。本セミナーでは,生物規制を取り巻く国内外の情勢,特に環境省の生物規制に関する最新の動向およびバイオアッセイによる環境影響評価法について解説する。また,当研究所の取り組みについて,生物センサーやDNAマイクロアレイなど新しい評価方法を中心に報告する。
(本文35ページ)


においの知覚器官と環境行政動向

第一クリーンケミカル株式会社 東部営業所 富永 恭和

  においは臭・匂と感覚の影響が大きく100人100様であり,色々な研究からも個人差の大きい器官を有している事が証明されている。
  近年,臭気苦情の発生は大きな様変わりを見せている。昭和40年代は畜産等第1次産業を中心に苦情の発生が多かったが,住宅地近辺からの移動により苦情は減少に転じた。そして第2次産業の公害対策(騒音・振動・水質等)が進むにつれ,臭気問題が表面化する。住民の移動(マンション・住宅街の造成)による工場周辺を囲むような街づくりが新たな苦情を起こしていることも要因の一つであると考える。第3次産業といわれるサービス業からの苦情対策は現状の悪臭防止法では追いきれない部分があり今後の課題になっている。
  本報では,嗅覚の仕組みと特性,悪臭防止法の制定から改正にいたる流れ,三点比較式臭袋法による臭気の数値化(臭気指数)とパネラー(三点比較式臭袋法被験者)選定による資格,更には紙パルプ及び他分野の発生臭気と対策,環境省の薦める感覚環境の街づくりといったにおいを利用した取組み等を報告する。
(本文43ページ)


ペーパースラッジ灰の有効利用について

王子製紙株式会社 研究開発本部 製紙技術研究所 谷  幸雄

  日本製紙連合会では,2010年度までに紙パルプ産業の廃棄物の最終処分量を45万トンに低減し,有効利用率を93%以上にすることを目標に掲げている。現在,紙パルプ産業から最終処分される廃棄物の多くは焼却灰であるが,紙パルプ産業では,化石燃料に変わるバイオマス燃料として木屑,可燃性廃棄物としてRPF,廃タイヤ等の使用量を年々増加させており,逆に焼却灰の発生量は増加の一途を辿っている。焼却灰の中では,今もってペーパースラッジ灰(以下,PS灰)の発生量が最も多く,最終処分量を減少させるには,その有効利用先を広げ,有効利用量を増加させる必要がある。本報告では,PS灰の有効利用方法について報告する。
(本文49ページ)


日本の市民と子供たちのための環境問題
-私たちは誰のために何をしようとしているのか-

中部大学 武田 邦彦

  現在の日本の環境は大きな社会問題になるほど悪くはない。大気,水質,薬害,公害患者数などいずれも世界でもトップクラスの良い状態である。それでも,毎日のように環境問題が話題になるのは,将来,日本の環境が悪化する可能性があるということである。また,我々は世界市民の一員だから,世界の環境の保持のためにも力を尽くさなければならないが,その前に日本国民であり,さらに私の場合は名古屋市民である。まずは名古屋市民としての行動を取らなければならないが,その点で本講演では「私たちは誰のために何をしようとしているのか」という副題をつけさせていただいた。
(本文54ページ)


2009 International Conference on Nanotechnology for the Forest Products Industry参加報告

日本製紙株式会社 技術研究所 勝川 志穂

  2009年6月22日から26日に,TAPPI主催の2009 International Conference on Nanotechnology for the Forest Products Industryが,カナダ,アルバータ州エドモントンにて開催された。この会議は今回で4回目となり,12カ国から180名を超える参加があった。ナノサイズの物質の物性や,その製造・利用技術,分析法,安全性の評価など,紙・パルプや木材分野におけるナノテクノロジーについての研究発表(口頭45件,ポスター20件)や講演,パネルディスカッションが行われた。
(本文59ページ)


技術革新が新聞用紙とその製造技術を如何に変えてきたか
-新聞用紙製造技術の系統化調査(その5)-

国立科学博物館産業技術史センター平成19年度主任調査員,元紙パルプ技術協会専務理事
飯田 清昭

  第1回で,紙パルプ産業の歴史,テーマ選定の背景及び基礎技術を簡単に解説し,第2回では,新聞用紙製造60年の変遷とその原料開発の歴史を紹介,第3回は抄紙機に見られる技術開発の歴史を述べた。第4回は,日本の製紙産業の技術開発の特徴を考察し,他国の製紙産業と比較した。
  1960年に当時世界最大クラスの新聞用紙抄紙機が日本製紙釧路工場に建設された。その抄紙機は,大型化の進んだ現在でも中型・中速の抄紙機として,世界で最高水準の操業効率と最高水準の製品を生産している。第5回は,この抄紙機のほぼ50年の操業の記録をまとめることで,新聞用紙の技術開発を具体的な事実で示すことを試みる。さらに,この抄紙機の操業にかかわってきた元従業員の方々に集まっていただき座談会を持ち,技術開発の側面を紹介する。
  最後に,このシリーズのまとめとして,新聞用紙製造技術の系統化を,図および年表にて示す。さらに,資料として技術年表(新聞用紙製造に関連ある技術が何年に日本製紙産業へ提供されたか)およびニュース年表(新聞用紙製造に関連あるニュースをニュース年表(紙パルプ技術協会作成)より抜粋)を掲載する。
(本文65ページ)


製紙スラッジ焼却灰(PS ash)を原料として合成されたハイドロキシアパタイトのアルブミン
及びオレイン酸吸着能

愛媛県産業技術研究所 福垣内 暁
愛媛大学農学部 松枝 直人,逸見 彰男

  炭酸カルシウムを60wt%含有するPS ashを原料として,ハイドロキシアパタイト―ゼオライト複合体及び高純度ハイドロキシアパタイトの合成を試みた。電子顕微鏡観察の結果,得られたハイドロキシアパタイトは,50nm以下のナノ粒子であった。各試料について,アルブミン及びオレイン酸吸着試験を実施した。ハイドロキシアパタイト―ゼオライト複合体及び高純度ハイドロキシアパタイトには,アルブミンの吸着能は見られなかったが,これらの試料をカルシウム洗浄した試料にはアルブミン吸着能があり,市販ハイドロキシアパタイトと同等かそれ以上の吸着能を有していた。カルシウム洗浄することでアルブミン吸着能が大きくなる現象を解明するために,比表面積測定及びCa/Pモル比測定を行い検証した結果,カルシウム洗浄することで,Ca/Pモル比を高めることができることと,アルブミンの吸着能は,比表面積の違いよりも,Ca/Pモル比が1.67(ハイドロキシアパタイトの理論比)に近づくと大きくなる結果を得た。オレイン酸吸着試験を行った結果,市販ハイドロキシアパタイトは,オレイン酸吸着能を有していなかったが,PS ashから得られたハイドロキシアパタイト―ゼオライト複合体及び高純度ハイドロキシアパタイトは吸着能を有していた。特に,高純度ハイドロキシアパタイトは,投入されたオレイン酸の70%を吸着した。これは,比表面積の違いが吸着能に影響したと考えられた。
(本文80ページ)