2009年9月 紙パ技協誌
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第63巻 第9号 和文概要

クラフト―キノン蒸解におけるキノン浸透条件の最適化

川崎化成工業株式会社 技術研究所 田中 潤治

  アントラキノン系蒸解助剤SAQを用いたクラフト蒸解において,より大きくSAQの効果を発現させるためには,原料チップ内にできるだけ多く浸透させることが重要である。本報では,蒸解工程以前にSAQを浸透させる工程の導入をラボ蒸解実験により検討した。
  第1の検討として,浸透処理後の廃液中からSAQ回収率を測定し,浸透に最適な条件を推定した。その結果,温度,時間,AA添加率,液比の各条件について,SAQ回収率の変化があることを確認し,浸透に適した条件を推定することができた。
  第2の検討として,それらの条件を用いてSAQ浸透処理およびクラフト蒸解を行い,その効果を確認した。その結果,浸透処理によってさらなるパルプ収率の向上およびカッパー価の低減が見られた。一方,浸透処理時にはSAQを添加せず,その後の蒸解工程にSAQを添加した実験も行ったが,浸透処理時にSAQを添加した条件に比べて明らかに効果は小さかった。この結果から,本研究で検討したSAQ浸透処理の有効性が確認された。
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微生物製剤および蛍光イメージングによる活性汚泥処理の最適化

星光PMC株式会社 研究開発本部 五十嵐亮二,山本琢二,松岡英臣

  排水の処理水質に対する法規制等が次第に強化される中,排水処理能力の向上は紙パルプ産業において,工場の安定操業を持続するための重要な課題の一つとなっている。
  排水処理の改善策として,弊社では「微生物製剤MCシリーズ」による活性汚泥の微生物相の「改質」を提案し,これまでに多くの実績を上げてきた。これは,有機物分解力やフロック形成能力に優れる細菌群を活性汚泥中に組み込むことにより,活性汚泥の処理能力を向上させることを目的としており,排水処理に用いられる一般の薬品類はもちろんのこと,既存の微生物製剤とは一線を画する作用機序である。本報では,より効率的にMCシリーズを用いて活性汚泥処理の改善を行うために,汚泥中の微生物群集の変化をモニタリング可能とする下記の蛍光イメージング法を紹介する。
   FISH法による微生物製剤配合菌の動態追跡
  微生物製剤MCの配合菌に特異的な塩基配列領域をターゲットとして,蛍光により細胞を検出する手法。汚泥フロックへのMC配合菌の定着状態を追跡することによって,効率的な微生物製剤MCシリーズの使用が可能である。
   生理活性染色法を用いた活性汚泥の状態診断
  活性汚泥を構成する微生物群集の増殖性に基づいて,汚泥の生理状態を蛍光で可視化する手法。活性汚泥処理の不調の原因を特定し処理の最適化を行うための指標になるとともに,微生物製剤MCシリーズを用いて汚泥の改質を進めるための手段として有効である。
  弊社が提案する手法は,活性汚泥処理システム内部における微生物群集の変化をモニタリングしながら処理の最適化を行うことを大きな特徴としている。これらの手法を活用して微生物製剤MCシリーズによる活性汚泥処理の最適化を行った実例を交えて,その有効性について言及していきたい。
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OxiPROTMテクノロジー
  ―革新的デポジットコントロールによる抄紙マシン操業効率の最大化―

片山ナルコ株式会社 マーケティング部 前嶋 昭宏

  片山ナルコ(ナルコ)はよりよい製品品質の達成と製品の環境維持促進を追求すると同時に,製紙業界においてはソルーションを提供し操業効率の改善するための革新的な技術を提供してきた。今回紹介するのは,ナルコ技術の一つであるOxiPROTMテクノロジー,製紙業界初の微生物コントロールのためのオンラインモニタリングシステムである。この技術により,バイオサイドを最適に使用することが可能となり,より環境に優しく,かつ操業効率を改善することができる。
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中性用紙力増強剤の効果発現に関する一考察

ハリマ化成株式会社 製紙用薬品事業部 技術開発部 技術課 田中 和輝

  近年,紙・板紙の国内需要は横這いで推移しているが,塗工印刷用紙・情報用紙はIT化が進む現在にあっても情報記録媒体としての地位を確立しており,全体が伸び悩みの中,需要が増加している状況にある。今後も当面需要の増加が継続されるものと予想される。
  また,国際競争力の向上を目的として塗工印刷用紙・情報用紙を対象とした新型マシンを新設する等の設備投資が積極的に実施されており,新型マシンにおいては生産性の向上によるコストダウンを目的として,大型高速マシンが主流となっている。抄造マシンの高速化に伴い,ワイヤーパートでの脱水性を更に高める必要があるため薬品歩留まり性の低下,紙力効果の低下へ繋がるものと考えられる。
  中性化,高電気伝導度化,高速マシン導入により更に薬品効果がでにくい状況となることが予想され,紙力増強剤としては更に性能を向上させる必要がある。そのためにはイオン配合量の増加,高分子量化,耐加水分解性,そして中性抄造,高電気伝導度化への対応として耐硬水安定性を向上させた薬品選定が必要になるものと考えられる。
  高速マシンに対応する中性用紙力増強剤として,今後想定される薬品歩留まり性低下と紙力効果低下に対応した紙力増強剤の設定が必要であり,その検討を実施した。
  塗工印刷用紙・情報用紙の中でコート紙(原紙)に焦点を絞り,高速マシンを対象とした紙力増強剤の性能向上に関する考察をまとめたので紹介する。
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環境リスク情報の監視による企業経営リスクの軽減
  ―e―FEINS大気・水質汚染監視システム―

富士通エフ・アイ・ピー株式会社 公共システム部 槇田健三郎

  昨今,一部の事業者において環境に関する不祥事が明らかとなり,経済産業省と環境省では「公害防止に係る環境管理の在り方に関する報告書(以下,公害防止ガイドライン)」を公表するなど工場任せではなく,全社的な環境管理体制を整備することが求められている。
  そういった中で,弊社では,全社的な環境管理体制の構築を支援するe―FEINS(イーフェインズFUJITSU FIP Environment Information System)「大気・水質汚染監視システム」を提供している。「大気・水質汚染監視システム」は,各工場で管理している測定データを本社に集約し,「見える化」するシステムであり,環境リスク管理を強力にサポートする。主な機能として「データ監視機能」「緊急時速報機能」がある。
  システムの導入効果としては,「工場,現場の環境管理に対する意識向上」「異常値の事前察知と迅速な対応」「工場から本社への報告作業削減」,「本社におけるCSR報告書等の作成作業削減」「社内,自治体,地域住民とのコミュニケーション向上」などが期待できる。
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軸受のコーテイング技術

シェフラージャパン株式会社 産機事業部 市販営業部 大崎 邦男

  機械部品には,様々な皮膜(コーテイング)技術が適用されているものが,数多くあり,その目的は,耐磨耗,耐腐食,耐高温,低摩擦など多岐にわたっており,コーテイング技術は,大変重要な要素技術となっている。軸受にもコーテイング技術を適用する場合が多くあり,弊社は,専門に開発する部門をもっており,軸受および自動車部品に適用される様々なコーテイング技術開発をおこなってきた経緯がある。
  耐摩耗性,耐腐食性,低摩擦性,電気的絶縁性等それぞれの目的に応じたコーテイング技術が採用されてきているが,その中でも,DLC(Diamond Like Carbon)が,その高い耐磨耗性を評価され,近年広く採用されてきている。DLCは,アモルファスカーボンコーテイング(水素を含む非結晶性(アモルファス)の炭素皮膜)の中の1種類である。本報では,アモルファスカーボンコーテイングの物性について簡単に紹介する。
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ガラスライニングタンクの有意性と経済性

伊藤忠産機株式会社 生活・環境機械部 佐々木邦康

  紙パルプ業界ではステンレス製タンクのような優れた耐食性が必要不可欠であり,清水タンク・スラリータンク・排水タンク等に非常に多く使用されている。しかし工期とコストが大きく,また鋼材の高騰により,プラント設備の建設コストを大きく圧迫させている。
  ガラスライニングタンクは,いわゆるホウロウタンクであり欧米では「Glass―Fused―To―Steel Tank」と表記される。通常のライニングと異なり経年剥離もなく,耐食性や耐久性に非常に優れている。この特性を活かし,パネルとして現地で組立てることにより,工期とコストを大きく抑えることが出来る。ここではパネル組立式ガラスライニングタンクについて有意性と特長を述べる。
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ハイパーシェイプエンジニアードカオリンによるバリア機能

イメリス社 デイビッド I. ギッティンズ
株式会社 イメリス ミネラルズ・ジャパン 浅野 達也

  従来,パッケージ産業ではPE,PVDC,フッ素ポリマー系などがバリア材料として使用されてきた。しかし,資源保護や廃棄物処理への取り組みが重視される今日ではそれ自体の環境負荷が問題となって,バリア材同士の材料転換も一つの流れとなっている。そのような取り組みの一例として水溶性バリアコーティングへ関心が高まっている。
  また近年,ポリマーのガス透過性や物性向上のためにクレイナノコンポジットの研究開発が盛んに行われている。その中で,アスペクト比の高い顔料を用いるほどバリア性が向上することが確認されており,このバリア特性を最大限に引き出す目的でこれまでにないアスペクト比のカオリンが開発された。このカオリンを用いたバリアコートは顔料容積濃度を最適化することで,従来のバリア材と比較しても遜色の無いバリア性を示した。これにより高騰が続いている合成樹脂材の置き換え及びバリアコート量の削減が可能であり,またリサイクル推進という現代のニーズの中にあって,今後の展開が最も期待される環境適合型材料の一つである。
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新規硬質カーボン膜を用いたスリッターの長寿命化

株式会社野村鍍金 技術部 北川 晃幸,池田 篤美

  株式会社野村鍍金は,独創的な真空技術であるガスクラスターイオンビーム(Gas Cluster Ion Beam:GCIB)を用いた硬質カーボン膜(商品名:タフカーボン)を新規に開発した。本皮膜はダイヤモンド成分を多く含んだHv5000の耐摩耗性に非常に優れた薄膜である。本皮膜を紙の切削に用いるスリッターに適用したところ,切れ味を損なうことなく2〜3倍以上の長寿命化を達成することができた。膜厚は0.1μmであり,非常に薄い膜厚であっても高い効果を得られることがわかった。紙質は薄紙から厚紙に至るまで試験を行ったが,紙質に依存することなく長寿命化に寄与できていた。さらに皮膜形成時のプロセス温度は100℃以下であるため,鋼系の基材において焼き戻し温度以上に加熱されることもなく,素材の硬度低下,熱による反りなどが発生することもない。
  本報では,上記の応用例の他にGCIBの特徴,タフカーボンの形成方法および膜特性についても報告する。
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最新鋭のQCS Paper IQ Select
  ―飛躍的に進歩を遂げたQCSの性能と機能―

メッツォオートメーション株式会社 紙パルプシステム事業部 渡辺 憲幸

  品質計測制御システム(QCS)は,ほぼ40年の年月をかけて,進歩し発展してきたが,弊社の現行システムであるPaperIQ Pulsシステムも同様に1970年当初の技術を基礎に発展させ,熟成を繰り返してきた。しかしながら,製品品質を測定するセンサをセンサヘッド内に収め,製品の幅方向に走査させるスキャンニングセンサ方式では,その宿命とも言える「流れ方向と幅方向の変動分岐することが非常に難しい」という問題点等も継承し,その解決策が得られないまま,技術的な妥協点抱えたまま今日に至っていた。
 「今までのスキャン方式では不十分である―特許適応型シチュエーション・ベース・スキャンニングにより全てのプロセス状況に対応。」をスローガンに開発された本システムは,スキャンニング・センサ・システムに革命を呼び起こす画期的なシステムとなるものと自負している。また本機能を支える多くの基本機能により,システムは常時プロセスの状態監視をし,変動の状態によっては変動自身を解析し,不必要なノイズがあればそのノイズを殺すべくまた次のアクションを実施する。正にロボットの世界に足を踏み入れた革新的なQCSと言えるのではないだろうか。また,本システムは目先の機能ばかりでなくメッツォ本体の機械技術も踏襲し,頭や目も良いが体も強いシステムに仕上がっている。このシステムにより,紙パルプ業界のユーザ各位発展の一助となれればと願いご紹介させて頂く次第である。
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マシン/コーターの欠陥データの統合

コグネックス株式会社 SISD営業部 鈴木  聡

  コグネックスは欠陥検査システム「SmartView(スマート・ビュー)」の新機能として,上流側で検査した検査結果を下流側の検査に正確に重ね合わせる機能「ライン・シンクロナイゼーション(Line Synchronization)」を開発した。これは,製品フローの中で,1つのプロセスから別のプロセスへ欠陥情報を正確にトラッキング(追跡)するシステムである。例えば,マシンとコーターに検査システムが導入されている場合,コーターでの検査に,マシンの検査データをリアルタイムに重ね合わせていくことができ,あたかもマシンの検査フレームがあるかのようなバーチャルな検査フレームを持つことができる。ワインダー自動停止システムである「AWA(アドバンスト・ワインダー・アドバイザー)」と併用することで,欠陥情報を有効に活用し,製品フローの中で効率よく欠陥の処理を行うことが可能となる。
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スピンクリン自動逆洗フィルターシステムを用いた抄紙白水再利用による省エネ効果

日本ポール株式会社 メカトロニクス事業部 伊澤一康,水村彰志,浜 大悟

  製紙産業はエネルギー多消費産業である。日本製紙連合会では,地球温暖化など環境問題への対応でCO2の排出量削減で2008年度から2012年度の5年間平均の製品あたり,エネルギー原単位(指数)を90年度の-20%,CO2排出原単位を-16%とする目標を立てている。目標達成のため,高効率設備の導入や製造工程の見直しなどが緊急の課題となっている。そこで本稿では,スピンクリン自動逆洗フィルターを導入し,今まで排水していたクリア白水をリサイクルすることによって省エネを達成すると同時に水資源を節約した例を示す。抄紙機2ライン合計で年間4,000トン近いCO2排出量の削減が可能な蒸気削減量を達成し,スピンクリン自動逆洗式フィルターによるクリア白水のリサイクルがCO2排出削減に有効であることが確認できた。
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ECF漂白への転換による環境負荷低減効果(第1報)
  ―有機塩素化合物の発生量および排出量の減少―

株式会社日本紙パルプ研究所 高木  均,中川 美幸

  2000-2006年にECF漂白に転換した国内の17漂白クラフトパルプ工場について,漂白工程水,総合排水,漂白パルプに含まれる転換前後の有機塩素化合物(AOX,EOX,OX)を測定し,漂白法の転換による発生量および排出量の低減効果を検討した。
  漂白工程水のAOXとEOXは,ECF漂白への転換によってそれぞれ平均83%,70%減少した。漂白パルプのOXは70%減少した。一方,二酸化塩素を主に使用するECF漂白では微量のAOXおよびEOXが発生し,漂白工程水のAOXに対するEOXの割合は平均2.5%から3.5%に増加した。漂白工程で発生する全有機塩素(漂白パルプのOXと漂白工程水のAOXの合計)に対するパルプのOXの割合も21%から32%に増加した。疎水性有機塩素化合物の指標であるEOXの割合の増加と,パルプへの有機塩素分配率の上昇は,ECF漂白工程で発生した有機塩素化合物が親水性の高いものばかりではないことを示している。
  ECF漂白への転換によって,漂白パルプ工場排水のAOXとEOXはそれぞれ平均80%,68%減少した。AOX排出平均原単位は0.16kg/tとなり,EUの指針値(0.25kg/t)をほとんどの工場が下回る低いレベルとなった。一方,微量排出される有機塩素化合物の蓄積性や生分解性に関しては,著しい改善効果は認められなかった。
  排水中の有機塩素化合物の蓄積性や分解性については今後も注意をはらう必要があるが,ECF漂白への転換は,工場から排出される難分解性有機塩素化合物を大幅に削減し,将来にわたる水域の環境改善に大きく寄与したと結論できる。
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