2009年5月 紙パ技協誌
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第63巻 第5号 和文概要


海外植林の現状
  ―樹種の選択から育種まで―


王子製紙株式会社 研究開発本部 森林資源研究所 伊藤 一弥

  海外植林の進展により,わが国に輸入される原料チップソースは徐々に植林木に置き換えられつつある。使用される木質繊維の量・質は製造コストに影響するとともに,製品の品質をも左右する。従って,自らが植栽する植林木の性質を左右できる育種は,コスト競争力,製品の差別化などにつながる重要な役割を担っており,近年その重要性が高まっている。海外植林の主要樹種であるユーカリやアカシアなどの早成広葉樹では,クローン植林の推進により成長性の向上が図られてきたが,単位面積当たりのパルプ収量の増大がさらに重要な育種目標の一つであり,容積重やパルプ収率といった材質の改良も重要である。さらに,これら樹種では比較的容易に種間雑種を作り出せるが,病気あるいは乾燥といったストレスに対する抵抗性を付与するため,優れた雑種が創生されている。また,早期に育種成果をあげるためには,育種年限の短縮が必要である。優れた個体を早期に選び出す手法の開発も進められている。
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木材組織から見た脱リグニンのメカニズム

東京大学 大学院農学生命科学研究科 木材化学研究室 松本 雄二

 脱リグニンは単なるリグニンの分解反応ではなく,非常に複雑な構造を有する細胞壁中に固体として存在するリグニンと薬液が接触した結果として,リグニンの分解反応が起きる。反応は固液反応である。しかも分解したリグニンは細胞壁の外に運ばれなくてはならない。したがって,脱リグニンでは,リグニンの反応性とともに『移動』という物理化学的な現象が重要な要素となる。
 本稿では,細胞壁内の各層,あるいは,異なった機能の各細胞においてリグニン構造がどのように異なっているかについての知見をまとめ,それがどのように脱リグニン反応に影響するかについて述べる。
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クラフトパルプ蒸解の変遷

日本製紙株式会社 技術本部 生産部 安藤 和彦

 わが国の連続蒸解釜は,その多くが1960〜1970年台にかけての高度経済成長期に建設された物が多数を占め,稼動30〜40年を経ても,依然現役として生産し続けている。設備は年々老朽化してくるが,様々な補修や改造,操業やメンテナンスの工夫を行いながら,競争力を維持している。一方,南米や東南アジアでは近年,大型の最新型連続蒸解釜が次々と稼動し,我々の脅威となっている。
 本稿では,過去40年の蒸解法の変遷を紹介する。連続蒸解釜は,コンベンショナル蒸解,修正蒸解,そして近年,Lo―Solids蒸解やCompact蒸解への発展に見られるが如く,収率面,品質面,保守面,省力面等で大きく改良が見られる。蒸解促進剤の方では,AQが広く使用され,空気酸化法のポリサルファイド(PS)も一部使用されており,現在,PS液高濃度化の目的から電解ポリサルファイドが開発中である。我々は,製紙産業,機械メーカー,薬品メーカー,一体となって,蒸解法の改善,発展に努力を惜しまない。
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クラフトパルプ漂白の変遷

王子製紙株式会社 研究開発本部 製紙技術研究所 内田 洋介

 古くから,クラフトパルプの漂白は,塩素,次亜塩素酸塩,二酸化塩素の塩素系薬品を使って行なわれてきた。しかしながら,1980年代の北欧において,バルト海の汚染問題を契機に塩素漂白排水中の有機塩素化合物の環境影響が議論され,1990年代からは多くの国々で塩素漂白が中止され,ECF(Elementary Chlorine Free)漂白法への転換が進んだ。本報告では,クラフトパルプ用漂白剤をその脱リグニン機構に基づいて分類した上で,漂白剤の変遷という観点から,1960年代から今日に至るまでのクラフトパルプ漂白の変遷について述べる。
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最新KP設備の技術動向
 ―メッツォペーパーが開発した最新のクラフトパルピング技術―

メッツォペーパージャパン株式会社 ファイバービジネスライン プロセス技術

具   延

 メッツォペーパーが開発した最新のクラフトパルプの製造システムは,COMPACT COOKINGTM G2連続蒸解システム,加圧型ディフューザー(PDW),デルタノッター(DeltaKnotterTM)とデルタスクリーン(DeltaScreenTM),及びプレス洗浄機(TwinRoll PressTM)を主体とした粗選・洗浄工程,2段酸素脱リグニン工程(OxyTracTM),高濃度オゾン漂白段(ZeTracTM),二酸化塩素漂白段(D),及び加圧過酸化水素漂白段((PO))から構成されている。尚,このクラフトパルプの製造システムは客先の操業条件,製品目標,保守体制など,個々の具体的な要求に応じて蒸解釜後の構成ユニットの組合せを変更する場合もある。例えば,PDWを使用せずスクリーンの後に洗浄機を設置する場合,又は最終製品の品質(例えば,白色度など)に応じてZeTracTM段後の漂白段の組合せの変更,及び漂白段数を更に追加する場合などがある。既設ファイバーラインの効率化を図るための改造においても,これらの構成ユニットを取り入れることは十分現実的である。ここではメッツォペーパーが提唱するクラフトパルプの製造システムの構成ユニットを紹介する。
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最新KP設備の技術動向
 ―Andritz社最新ファイバーライン技術―

アンドリッツ株式会社 萩原 幹児,川上 千明

 アンドリッツ社は,ファイバーラインにおいてハード及びソフト両面にわたって多くの技術を納入してきた。蒸解工程では,チップスチーミングを重要視し設備コストに優れているTurbo―Feed System及び操業コストとパルプ品質に優れ多Lo―Solids蒸解法を開発した。 ファイバーラインを構成する重要な機器として従来の多段洗浄が可能なDDウォッシャーに加えて,DD―10及びAWP Wash Pressを開発した。アンドリッツ社,ソフト面において大きなメリットがあるIDEAS シュミレーター及びBrainWave制御システム,オンラインSpectraVisionカッパ価・白色度計を開発した。
 今回は,アンドリッツが納入した最新クラフト工場としてBotnia社Fray Bentos工場(ウルグアイ),及びアンドリッツファイバーラインの最新技術の中から,蒸解技術,洗浄機器,IDEASコンピューターシュミレーター,BrainWave制御システムについて紹介する。
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石油枯渇時代の製紙産業の可能性
 ―過去に学べ―

日本製紙連合会 二瓶  啓

 日本の製紙業界は1974,79年の2度の石油危機を経て省エネルギー意識が定着,国際的にみて最も高いエネルギー効率を実現してきた。加えて最近は重油ボイラーを止めてバイオマスや廃棄物を燃料とする新エネルギーボイラーの設置や,天然ガスを利用する動きを加速している。
 ところで,近年の石油価格高騰はこれまでの努力を帳消しにして企業収益を圧迫している。その後原油価格は低下しているものの,乱高下は明らかに“石油枯渇時代”の様相を示しており解消の見込みはない。そして新エネルギーボイラーの設置が一巡してしまうと,製紙産業が地球温暖化防止のために打つ手は限られてくる。
 これからの温暖化防止対策として更なるバイオマスの活用に注目する必要があるが,日本全国に工場が存在し水処理技術を持つ製紙産業は,広く浅く分布するバイオマスを効率よく利用するのに最も適した産業である。製紙業界が持続的成長を果たして行くために,木材化学を駆使してバイオマス化学産業を目指すべきである。
(本文38ページ)


バイオマスのエネルギー利用と紙パルプ産業

みずほ情報総研株式会社 環境・資源エネルギー部 羽田謙一郎

 バイオマスエネルギーは,地球温暖化対策やエネルギーセキュリティーの確保に寄与することが期待されている。
 太陽エネルギー,風力エネルギーなど様々な再生可能エネルギーが存在する中で,バイオマスをエネルギーとして利用することの最大のメリットは,気体,液体,固体といった形状の可搬性燃料を製造・利用できる点にある。多くの再生可能エネルギーが,いわば「自然任せ」であることに対し,ユーザーの望む形でストックできることは,エネルギーを安定的に活用するという視点において,大きな優位性を持つといえる。本稿ではまず,(1)国内外のバイオマスエネルギーの状況を整理し,(2)昨今大きな話題となっているバイオマス由来の液体燃料について,特にセルロール系資源から液体燃料を製造する技術の動向について整理する。併せて,(3)バイオマスエネルギー利用が抱えている問題や将来に向けた期待に述べる。
(本文47ページ)


DIPパルパーの基本コンセプト

株式会社IHI フォイトペーパーテクノロジー 原質機械技術部 江口 正和

 昨今わが国の古紙処理を取り巻く状況は急激に変化しつつあり,古紙価格の乱高下やエネルギーコストの増大,加えて経済環境の悪化や環境問題への対応など,大変に厳しい状況の中にある。
 そこで今回は,弊社が開発した画期的な省エネ効果と優れた離解や異物除去性能を発揮する低濃度インテンサパルパと高濃度ツインドラムパルパを中心に,弊社の古紙パルパの基本コンセプトについて紹介する。
(本文53ページ)


DIPパルパーの基本コンセプト
 ―アンドリッツの古紙用パルパー技術について―

アンドリッツ株式会社 竹下 陽介

 アンドリッツの古紙処理技術の中で最も長い歴史を持つのがパルパー技術である。旧アールストローム時代に開発したFibre Flowドラムパルパーはすでに160台以上の納入実績を持ち,近年更なる大型化高性能化してきている。また,2002年より正式にアンドリッツブランドで開発販売を始めた高濃度及び低濃度タブ型パルパーも近年多くの実績を持つようになっている。本稿ではこの古紙用パルパーの概要とファイバーフローの改良型ファイバーフローPROのコンセプトについて説明する。
(本文60ページ)


DIPパルパーの基本コンセプト
 ―その理論と最新技術―

相川鉄工株式会社 技術部 藤田 和巳

 パルパーはDIPプラントの最初の工程であり,「異物除去」と「インキ分散・除去」の2つの側面を併せ持つ重要な設備である。弊社が世界にさきがけて開発したバッチ運転式の高濃度パルパーシステムは,とくにヨーロッパの多くのDIPプラントでご採用いただけたため,他の製紙機械メーカー殿も追従して類似した高濃度パルパーを用意されることとなった歴史がある。平成14年には高濃度離解によるインキの繊維からの剥離,分散効果に加え,多様化した異物の早期除去を実現する新型のヘリディスクローターとパルパーデトラッシャー・ダブルペアの開発に対して佐々木賞を賜り,以降に設置された日本国内のほとんどのDIPプラントのパルピングシステムとしてご採用いただくなど,非常に高いご支持をいただく事ができた。
 本稿では弊社の高濃度パルピングシステムに対する基本コンセプトと最新技術を説明させていただく。また,従来多く採用された連続式ドラム式パルパーとの動力原単位,出口品質などのメリットの比較とともに,大容量プラントへの対応方法も説明させていただく。
(本文64ページ)


DIPスクリーンの基本コンセプト

株式会社IHI フォイトペーパーテクノロジー 原質機械技術部 江口 正和

 スクリーンの基本原理はバスケットによる形状差選別であり,基本構成部品はバスケット,ワイパー,ケーシングの3点のみのシンプルな構成の機器であるが,異物除去に関しては最も効果の高い機器故に様々な改良や工夫がなされてきた。
 本稿では世界の様々なマーケットで培われた弊社のCentrifugal(アウトワード,外流式)スクリーンの基本コンセプトについて紹介する。
(本文71ページ)


DIPスクリーンの基本コンセプト
 ―アンドリッツの古紙用スクリーン技術について―

アンドリッツ株式会社 竹下 陽介

 アンドリッツはKP・MP(機械パルプ),原質調製用,抄紙機前処理及び古紙パルプまでのすべてのパルプ製造設備を供給しているメーカーとして,用途に最適でかつ省エネルギーなスクリーンの開発をおこなってきた。特に古紙処理においては,スクリーンは品質を決定する重要な要素である。また,現在の古紙品質悪化に対応して,さらなる新しい技術革新が必要な分野とも言うことができる。
 本稿では,アンドリッツのスクリーン技術全般についての説明と新しいトレンドについて説明する。
(本文77ページ)


DIPスクリーンの基本コンセプト
 ―その理論と最新技術―

相川鉄工株式会社 技術部 藤田 和巳

 原料中に多くの粘着異物を含む近年のDIPプラントに対し,今回テーマとして取り上げられたスクリーン,とくに狭小幅のスリットスクリーンは欠くことのできない最重要設備である。紙面に薄く塗布されるため,離解に伴ってどうしても微細化されやすい非常に厄介な粘着異物を,いかに効率よく除去するかという命題の答えは,実は省エネルギー達成技術の中にあった。
 本稿ではDIPスクリーン設備にとって非常な朗報となる「異物除去効率の向上と省エネルギーの達成は必然的に両立しなければならない」という弊社のスクリーニングコンセプトと,これに基づき開発された最新技術の数々を紹介させていただく。さらにこれらの技術を縦横に適用した2つの最新式超省エネルギー型スクリーン,MaxFlowスクリーン(Outward式),及びGranFlowスクリーン(Inward式)シリーズの紹介と,双方のスクリーンの特長を最大限に活かす最適な使い分け方法も説明させていただく。
(本文80ページ)


木質系バイオマスを原料としたバイオエタノール生産のためのアルカリ前処理(第2報)
 ―未利用および廃棄物系木質バイオマスのバイオエタノール原料としての適性―

独立行政法人森林総合研究所 池田 努,杉元倫子,野尻昌信,眞柄謙吾,細谷修二,
島田謹爾 

 現状では有効利用が十分進んでいない未利用材や建設発生木材に相当する木質バイオマスを用いたアルカリ前処理および酵素糖化を行い,これら木質系バイオマスのバイオエタノール原料としての適性を検討した。
 樹皮が残ったままのスギ枝は,スギ材に比べるとグルコース収率はやや低かったが,バイオエタノール原料として十分に使用することができると考えられた。フェノール樹脂接着剤が使用されたPWは,アルカリ前処理により接着剤のほとんどを除くことができたと考えられ,酵素糖化が阻害されることはなくスギ材と同様の高いグルコース収率を与えた。このためにこのようなPWは,バイオエタノール原料として適すると考えられた。メラミン・ユリア共縮合樹脂接着剤が使用されたPBは,スクリーン粕が多く発生したために,パルプ収率を上げることができなかった。さらにパルプ中にも接着剤由来と考えられる物質が残存したために,酵素糖化はあまり進まなかった。ユリア樹脂接着剤が使用されたMDFは,パルプ収率は高かったが,アルカリ前処理により接着剤やリグニンを十分に取り除くことができなかったために,酵素糖化はほとんど進まなかった。スギ葉は,アルカリ前処理の過程で可溶化した部分の割合が高くパルプ収率は10%程度しか得られなかった。さらに酵素糖化もほとんど進まずスギ葉あたりのグルコース収率はわずか2.8%であったために,スギ葉はバイオエタノール原料として適さないと考えられた。
(本文95ページ)