2009年4月 紙パ技協誌
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第63巻 第4号 和文概要


遺伝子組換えによる耐塩性ユーカリの開発

日本製紙株式会社 森林科学研究所 松永 悦子

 地球規模の環境問題やエネルギー問題への対策として,未利用地への植林が可能な組換えユーカリの開発を目的に研究を行っている。そのために,まず商業利用されている2種類のユーカリ(E. camaldulensis, E. globulus)への遺伝子導入法を開発した。さらに,未利用地の大部分を占める乾燥地では塩害が問題となっているため,これら2種類のユーカリへ耐塩性遺伝子を導入し,何れの品種においても耐塩性の組換えユーカリの作出に成功した。そして一部の選定した系統については,特定網室での栽培により,耐塩性の確認と環境への影響を評価するための試験を実施した。さらに耐塩性E. globulus3系統については,野外へ植栽するための第一種使用申請を行った。2008年2月に主務省庁(文科省,環境省)に承認され,3月に筑波大学の隔離ほ場へ植栽し,現在は野外における評価試験を行っている。
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新型チップビンの操業経験

中越パルプ工業株式会社 高岡工場能町 原質部 佐川 幸治

 中越パルプ工業高岡工場能町の1連釜はN材専煮となっている。H15年9月にLo―SolidsTM蒸解に改造し順調な操業を行っていたが,近年チップを取り巻く環境が大きく変貌し,特に針葉樹においては低質材の占める割合が急増しており操業面において悪影響を及ぼしている。チップビンでのアーチング,釜内チップレベル極高頻発,C5抽出の断念,品質の低下,これらを解決する為に新型チップビンを導入した。ますます悪化するであろうN材チップをどう使いこなすかが我々の使命であり,本報では操業面の変貌,改造概要,新型チップビン導入による変化について報告する。
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苛性化軽カルの填料・顔料への利用

日本製紙株式会社 技術研究所 金野 晴男

 日本製紙ではクラフトパルプ化の薬品回収工程である苛性化工程で副生する炭酸カルシウム(ライムマッド)を填料・塗工顔料として利用している。当社ではこの炭酸カルシウムを「苛性化軽カル」と呼んでおり,填料・塗工顔料へ利用するとともにキルンでの重油使用量削減につなげている。特に,近年の原油価格の高騰により,キルンでの重油使用量削減の経済効果はより顕著になっている。また,植林木チップの使用増加に伴ってリン等のノンプロセスエレメントが薬品回収工程内に蓄積する問題についても,「苛性化軽カル」を使用することによって,ノンプロセスエレメントが工程内から抜き出されるため,この問題を回避することができる。上記のような多くのメリットがあるものの,開発段階では様々な困難があり,「苛性化軽カル」生産を安定的に行うために,長年にわたる研究・技術開発を継続し,現在に至っている。
 本報告では苛性化軽カルについて概説した後に,当社がこれまでの研究・技術開発によって確立してきた,塗工顔料製造技術,形態制御技術について紹介する。さらに「苛性化軽カル」利用に伴う経済・環境に対するメリットである,ノンプロセスエレメント除去効果,キルン重油使用量削減効果について調査した結果を報告する。さらに「苛性化軽カル」技術の今後の可能性について述べる。
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ECF漂白による排水の環境負荷の削減と今後の展望

株式会社日本紙パルプ研究所 高木  均

 2007年度末には,国内で生産される漂白クラフトパルプの90%近くがECF(Elemental Chlorine Free)漂白によって製造されるようになった。本報告では,漂白工程をECFに転換した17工場の23漂白工程について,漂白工程水と総合排水の有機塩素化合物の濃度レベルの変化を調査した結果の概要をとりまとめた。
 ECF漂白への転換は,漂白パルプ工場からの有機塩素化合物(クロロホルム,クロロフェノール類,ダイオキシン類)の排出量を著しく減少させ,問題を指摘されるレベルではなくなった。排水中の全有機塩素化合物を示すAOXは,ECF漂白への転換によって80%減少した。しかし二酸化塩素漂白では微量ながらAOXが生成する。
 一方,二酸化塩素漂白の工程水には高濃度のクロレートが含まれ,ECF漂白に転換することによって排出量が増加した工場が多かった。今後,クロレートの環境への影響を調査する必要がある。
 無塩素漂白への転換によって,日本の漂白パルプ工場にかかわる有機塩素化合物の問題は解決に向かうが,今後も排水のAOX,COD,BOD,TSS,重金属などの汚濁物質の排出削減に努めることが重要である。将来的には排水の生物影響の低減,臭気や色の改善など自主的な排水の質の向上,および排水量の削減などが求められると予想される。
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パルプハンドリング設備の操業経験

紀州製紙株式会社 大阪工場 有木 裕二

 当大阪工場は大阪府吹田市南部の神崎川河畔に位置し,多品種小ロット生産を行なう特殊紙専門の工場である。原材料のパルプはすべてシートパルプを使用しており多品種に合わせ,数十種類の銘柄を使い分けて使用している。
 当時当該職場の人員は2名/直×4直の8名でパルプの開梱・離解作業を行なっていたが,作業の大半はユニットパルプ及びベールパルプのワイヤー切断・除去作業であった。このシートパルプの開梱作業にパルプ開梱設備を導入することにより1名体制での操業を可能にした。
 本報はその設備の導入,操業経験について報告する。
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フェルト洗浄クリーナーの操業経験

王子板紙株式会社 江戸川工場 工務部製造課 前田  明

 王子板紙株式会社江戸川工場の5号抄紙機は,首都圏から発生する大量の古紙を再生して活用,お客様のニーズに合った高品質の白板紙を生産している。同抄紙機ウエットパートでは,プレスフェルト3反にて,初期脱水を行うため,フェルトの汚れによるトラブルが発生しやすいパートである。近年,古紙の再利用循環が進む中,原料強度低下等,古紙品質が悪化してきている。また,客先品質要求度も高くなり,工程内薬品が増添加傾向となり,ウエットパートでのフェルト汚れが進行する問題を抱えていた。2008年5月に,従来の高圧洗浄より高い水圧でフェルト中層付近の汚れを洗浄するプロジェット社のフェルト洗浄クリーナー(プロクリーナーTypeP)を設置し運転を開始した。フェルト使用後期での使用開始にも関わらず,フェルトの汚れ状態が回復し,延命を達成した。現在,新反フェルトに取替え,洗浄圧30〜40barにて連続洗浄を行っているが,脱毛等の品質トラブル,その他設備トラブルは発生していない。
 本報では,フェルト洗浄クリーナー(プロクリーナーTypeP)を国内初導入した操業経験,並びに効果について報告する。
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N1M/Cオプティサイザ操業経験

日本大昭和板紙株式会社 吉永工場 製造部 畔高 潤

 日本大昭和板紙吉永工場は,富士山の豊富な地下水と,首都圏に近い立地条件を生かし,古紙パルプ原料をメインに『都市型の資源リサイクル工場』として,洋紙・板紙を年間約660,000t生産している。抄紙機は,板紙抄紙機3台と,洋紙抄紙機2台の計5台の抄紙機を有している。
 今回紹介するN1m/cは,1979年に稼動し,リサイクルPPC用紙・IJフォーム用紙を抄造している。2007年1月に,サイズプレスをポンドタイプの塗工型式から,メッツォ社製のオプティサイザに改造をおこなった。本稿では,N1m/cの設備概要と,オプティサイザの現在までの操業経験について報告する。
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ミニシュープレスの操業経験

三菱製紙株式会社 八戸工場 有吉 秀文

 三菱製紙八戸工場の2号抄紙機,6号抄紙機において,2007年8月に増産,省蒸気を目的としてシュープレス改造をおこなった。シュープレスについては三菱重工(製紙事業は現;メッツォペーパー)で開発されたミニシュープレスを採用した。ミニシュープレスはコンパクトな設計で重量も軽く,線圧は300〜400kN/mと低いが搾水性能は十分高いものとなっており,スタンダードシュープレスの短所を補った機種である。この改造により2号抄紙機,6号抄紙機共に3P出口水分が減少し,増速,操業性改善により増産を達成,また省蒸気も達成することができた。
 本報告では6号抄紙機でおこなったミニシュープレス改造の概要,効果及び品質への影響について紹介する。
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RPF中の塩素分測定方法

王子製紙株式会社 米子工場 片山康一,山本高廣,福井照信

 王子製紙兜ト子工場では,2005年7月RPFボイラーを導入した。RPFボイラーは,製紙原料等へのマテリアルリサイクルが困難な古紙と廃プラスチック等より製造されるRPFを主に,タイヤ,木くずを燃料としており,当工場で必要なエネルギーの約35%をこのボイラーで賄っている。
 RPFボイラーによる発電は,廃棄物を燃料として有効利用するため,ボイラーに使用される化石燃料の量を減らす効果があり,当工場では,地球の平均気温を上昇させる二酸化炭素の排出量を,ボイラー設置前に比べて約75%少なくすることができた。
 一方,RPFボイラーの操業にあたって,RPF中の塩素によるボイラー腐食の問題が発生する。従来のRPFの塩素分析法では,サンプル調製と測定に多くの時間とコストを要していた。当工場で,塩素分を迅速に測定できる蛍光X線分析による測定方法を導入して効果を挙げているので,本報でこれについて紹介する。
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技術革新が新聞用紙とその製造技術を如何に変えてきたか
―新聞用紙製造技術の系統化調査―

国立科学博物館産業技術史センター平成19年度主任調査員,元紙パルプ技術協会専務理事 飯田 清昭

 紙の基本的な製法は,A. D. 105年に中国で発明されたとされている。原料は草木類や衣類のぼろで,手すきで紙にした。この技術が,産業革命により木材を原料とし,機械力で抄紙する近代的な製紙産業に発展する。さらに,1920年代に,記録の媒体であった紙に,包装及びティッシューの用途が加わり,大型装置産業として発展した。しかし,大型化したゆえに環境との折り合いが問題となる。製紙産業は,炭素の循環(森林―製紙(古紙のリサイクル)―焼却(二酸化炭素)―森林による吸収)を組み込んだ数少ない持続型の産業である。
 日本の紙・板紙生産量は,最近の中国の急増により世界第三位となったが,依然として有数の製紙国である。国内での原料,エネルギーに乏しい日本が国際競争力を長年保ってきた背景には,それを可能にした継続的な技術開発があるはずである。その歴史を,主要な紙である新聞用紙の生産を通して調査することで,特質を明らかにし次世代の技術開発に役立てることを目指した。
 その技術開発の歴史を理解する助けとして,まず,基礎技術の解説を加えた。次回から本論に入ることになる。
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二酸化塩素漂白中のAOX生成を評価するためのヘキセンウロン酸の調製

森林総合研究所 眞柄謙吾,池田 努,細谷修二
東京大学 大学院農学生命科学研究科 柴田 泉,磯貝 明

 二酸化塩素漂白において,ヘキセンウロン酸から生成するAOX量を評価するため,その標品となるヘキセンウロン酸基の調製を検討した。
 4―O―メチルグルクロノキシランまたはセロウロン酸ナトリウムをアルカリ水溶液中で加熱処理することにより,ヘキセンウロン酸基を調製した。キシランは2.5mol/L濃度の水酸化ナトリウム水溶液中150℃で60分間加熱する必要があり,225mol/gのヘキセンウロン酸基が調製された。セロウロン酸ナトリウムは,1mol/Lのアルカリ中120℃で30分加熱するだけで,345mol/gのヘキセンウロン酸基を調製することが可能であった。この,キシランとセロウロン酸ナトリウムの間の調製条件の差異は,両者のアルカリ水溶液中での溶解性に起因すると考える。
 アルカリ中での加熱処理によりキシランやセロウロン酸ナトリウムから調製したヘキセンウロン酸基を用い,その二酸化塩素処理において生成するAOX量を検討した。アルカリ処理キシランは二酸化塩素処理条件に応じて5―7mol/gのAOXを生成した。そのうち,約3mol/gはキシランに含まれるヘキセンウロン酸以外の二重結合を持つ化合物,例えばリグニン―炭水化物結合に由来するリグニンなどによるものであった。リグニンから生成したと考えられるAOX量を差し引いた場合,生成したAOX量はヘキセンウロン酸基の9―16mol%に相当した。アルカリ処理セロウロン酸は,アルカリキシランより多くのAOXを生成し,それは含まれるヘキセンウロン酸の24mol%に達した。
 また,二酸化塩素処理時間を15分から120分に延長した場合,アルカリ処理キシランおよびアルカリ処理セロウロン酸とも,生成AOXは15分処理の約50%に減少する結果が得られた。
 以上のことより,セロウロン酸ナトリウムから調製したヘキセンウロン酸が,リグニンの影響を受けず,かつ反応性が高いという点で標品としての使用に適していると結論した。
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キノン添加修正クラフト蒸解におけるキノン化合物の作用動態(第1報)
―クラフト蒸解におけるキノン化合物の分布―

川崎化成工業株式会社 技術研究所,東京大学 大学院 農学生命科学研究科 田中 潤治
筑波大学 大学院 生命環境科学研究科 大井  洋
東京大学 大学院 農学生命科学研究科 横山 朝哉,松本 雄二

 ユーカリ材の修正クラフト―キノン蒸解を研究用蒸解装置で行い,添加したキノン化合物が反応系内でどのように分布しているか,また,蒸解の進行に伴いそれがどう変化するかを調べた。キノン化合物は3種類(9,10―アントラキノン(AQ),9,10―アントラヒドロキノン(AHQ),1,4―ジヒドロ―9,10―ジヒドロキシアントラセン(DDA))を用いた。
 蒸解を停止して得た黒液と蒸解チップを3つのフラクションに分別し,各フラクションに含まれるキノン化合物成分をAQとして定量した。3つのフラクションはチップ外の黒液に含まれる部分(A),チップを洗浄した液に含まれる部分(B),洗浄したチップをクロロホルムで抽出して得た部分(C)とした。クラフト―AQ蒸解の場合,蒸解初期では添加量に対して約47%のAQがチップ内部(B+C)に分布していた。蒸解中期では,フラクションAは大きく減少したが,フラクションCはほとんど同じであった。クラフト―AHQ蒸解およびクラフト―DDA蒸解の場合,クラフト―AQ蒸解に比べてフラクションBの分布が小さく,フラクションCの分布が大きかった。このことにより,AHQおよびDDAはAQよりもチップ内へ浸透しやすいことが示された。また,キノン化合物を含む白液を蒸解途中で添加した実験も行った。その結果,キノン化合物を含む白液を蒸解開始時に添加した場合よりも,フラクションCへの分布は減少した。したがって,蒸解途中で添加したキノン化合物は,蒸解チップ内部に浸透しにくいことが考えられた。
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