2008年11月 紙パ技協誌
 
紙パ技協誌 2008年11月


第62巻 第11号 和文概要


ウェットエンド化学の基礎と実践

王子製紙株式会社 製紙技術研究所 渡邊 篤史

  抄紙工程における「ウェットエンド」とは,ヘッドボックスから出た紙料が乾燥工程に入る前までの湿紙の状態にあるパートである。「ウェットエンド」では最終製品である紙に強度,サイズ度,厚さ,水分,坪量,地合いといった品質特性の最適化と付与を行うとともに,紙料の歩留り,ろ水性,系内汚れなど抄紙効率に影響する要素の安定化・最適化を行う。品質付与および抄紙工程の安定化・最適化のためには,ヘッドボックス前の調成工程で製紙用薬品を添加する。「ウェットエンド化学」とは 製紙用薬品と紙料の相互作用と,発現する品質とリテンション,ろ水,地合いといった現象との関係を明らかにする化学といえる。
  近年の製紙産業における傾向は,利用古紙の拡大,コートブロークの配合量増加,高速抄紙化,用水のクローズド化が進み,抄紙系内には薬品の定着,機能の発現を阻害する物質の蓄積が進む。元来,抄紙原料中には,大きさの異なる有機・無機の可溶・不溶成分が混在する複雑系である。そのため,「ウェットエンド化学」において現象の因果関係を全て明らかにすることは,近年の傾向とあいまって非常に困難なものとなっている。
  本報ではウェットエンド化学の基礎と実践と題し,基本的な薬品について解説と実際の抄紙機で生じている問題を対処するにあたっての製紙用薬品の評価として,凝結剤とリテンションエイドの評価事例について紹介する。
(本文2ページ)


ウェットエンドの工程最適化へのアプローチ
 ―プロセス評価手法と最適化の事例―

BTGインストゥルメンツ ローランド ビィアガー

 ウェットエンド化学は,最終的な紙特性に直接関わる基本要素かつ,操業性にもかかわる重要な要素です。歩留向上剤の使用を最適化することによって,製紙機械の効率向上,ウェットエンドの安定化,地合の改善,粕・汚れの低減,運用コストの削減をもたらす可能性があります。消泡剤の添加を最適化すると,ピンホールの減少および消費量の軽減によるコスト削減につながる可能性があります。必要に応じて添加剤を調整することで,プロセス下流における添加剤の使用法にプラスに作用し,性能とコストに大きな影響を与える可能性があります。ほとんどの製紙プロセスでは,たいてい単一プロセス条件に最適化した一定量のウェットエンド薬品を添加しており,投入する原料の品質変化から生じる変動を無視されており,その変動に対する損紙量および等級変化の影響は考慮されていません。このような品質および生産性の変化によって,ウェットエンド薬品の条件が変化することになります。本稿では,ウェットエンド化学の手法を用いた基本的なプロセス評価手法とウェットエンド薬品の自動添加制御の事例を紹介します。
(本文10ページ)


ファジサイド¥外字(8064)の系内清浄化作用による生産性向上

栗田工業株式会社 紙パプロセス部 技術課 鈴木裕之,柏木 聡,岩田壮介,
桂 仁樹,日高勝彦,杉 卓美 

 近年,古紙配合率,ブローク配合率の増大,中性紙化の進展,用水原単位の減少などにより,抄紙系内では炭酸カルシウムなどの無機物,ピッチやスライムなどの有機物が益々付着堆積しやすい環境となってきている。また,抄紙機の高速化,オンコーター化,製品の軽量化などにより,僅かな異物の混入や落下によっても欠点,断紙が発生しやすくなってきており,抄紙系内を清浄に維持する処理技術が求められている。
  また,抄紙機の大型高速化,連続操業期間の延長に伴い,白水一次処理水やブローク貯留タンク内での無機物や有機物汚れの堆積が進行し,抄紙機の生産効率を向上させるためには,抄紙系だけでなく原料系,調成系,抄紙系,回収系を含めた全体の清浄化技術が必要とされている。
  このような状況において,弊社は無機系スライムコントロール剤「ファジサイド¥外字(8064)」の系内清浄化作用と,系内全体の清浄化度を把握するモニタリング技術とを組合せた清浄化処理技術を完成させた。その結果,連続操業期間中において系内全域を清浄に維持し,欠点や断紙を低減するだけでなく,操業期間を延長することを実現できた。 
  本報では,このファジサイド¥外字(8064)の系内清浄化作用を用いた生産性向上の詳細について紹介する。
(本文19ページ)


5M/C1次スクリーン通過流速適正化について

日本製紙株式会社 勇払工場 曽田幸太郎

 勇払工場5号マシン(以下5M/Cと述べる)は1979年に稼動開始した。
  現在は中性・酸性紙併抄を行っており,主に一般上質紙,感熱原紙およびノーカーボン原紙を抄造している。平均日産は約300tである。
  稼動当初は酸性紙のみを抄造していたが,中性紙化に伴い填料として炭酸カルシウム(以後,炭カル)を使用するようになった。当初はメーカー品の炭カルを使用していたが,自製しているスラリー状炭カルへ切替えた。この時期から前処理系にて原料粕の付着が見られるようになり,粕によるマシン前スクリーン内部汚れおよびスクリーンバスケットの目詰まりが発生するようになった。そして,付着した粕が剥離することにより粕流れが発生し,粕欠陥・断紙が多発するようになった。
  本発表では,スクリーン内部粕付着およびバスケット目詰まり対策として実施したマシン前スクリーン通過流速の適正化について紹介する。 (本文25ページ)


日南工場2マシン:調成からアプローチまでの汚れ防止と洗浄方法の改善について

王子製紙株式会社 日南工場 抄造部 第一抄造課 綾  高弘

 1956年に設置された日南工場の2マシンは,幾多の改造を行い,現在,インクジェット用原紙,カラー用PPC,宝くじ用感熱原紙,高級画用紙,名刺用途紙といった特殊紙,厚物上質紙を抄造している。これらの用紙はエンドユーザーが一枚単位で使用するために,紙面のチリ,異物に対する品質要求レベルが非常に高い。本稿では,これらの品質要求に応えるべく取組んできた設備ならびに操業技術の改善内容について報告する。
(本文29ページ)


「アクシーズシステム」による抄紙マシンの操業性向上

ソマール株式会社 技術開発部 但木 孝一

 近年の抄紙マシンの高速化,中性化等の影響でウエットエンドの最適化は,大変重要になってきている。特に大きな問題として古紙に由来するピッチ成分やアニオントラッシュ等の夾雑物による抄紙マシンの汚れトラブルの増加が顕著になっている。また填料の高配合化の影響により歩留りが大きく低下し,操業上問題が生じるケースも増えている。このように抄紙条件は,年々厳しさを増しており,ウエットエンドでの各種添加薬剤の本来の効果を発揮するのが難しくなっている。
  弊社では,厳しい抄紙条件下で各種添加薬剤の効果を最大限に引き出すために高機能化した凝結剤として,「リアライザーAシリーズ」を開発してきた。更に微細繊維や灰分の歩留りに効果的な高機能歩留り剤「リアライザーRシリーズ」,「レクサーFXシリーズ」の開発にも最新のポリマー合成技術を導入して取り組んできた。これらの薬剤から構成されるウエットエンド改質システムが「アクシーズシステム」である。今回は,この「アクシーズシステム」による抄紙マシンの汚れトラブルの低減や歩留り,濾水性等のウエットエンド物性の向上について報告する。
(本文33ページ)


新型インテンサパルパの操業経験

王子板紙株式会社 大分工場 山森 明浩

 大分工場は,1・3・5マシンの3台の抄紙機を有し,ライナー原紙を主に,石膏原紙・白板紙・色板紙・紙管原紙等の板紙を抄造している。段ボール古紙の使用割合は8割程度を占めており,パルプ工程の効率化を図る上で,この工程の品質向上及び省エネは必須の課題であった。段ボール古紙パルパー工程において,国内初号機となる「インテンサパルパ」を導入した結果,大幅な省エネと離解性の向上が得られた。本稿では蟹HI フォイト ペーパーテクノロジー社製インテンサパルパの設備概要と操業経験及び導入効果について報告する。
(本文40ページ)


最新の内添紙力剤の技術動向
 ―紙力剤の設計と使用方法―

荒川化学工業株式会社 製紙薬品事業部 中川  弘

 近年,環境対応と資源保護活動が高まっていることから,国内製紙業界における古紙リサイクル運動は大変進んでいる。一方で,古紙価格事情は旺盛な中国向け輸出の影響により,価格高騰の基調にある。この背景には中国製紙会社の大型設備投資が関係しており,国内においても設備更新に絡んだ大型高速抄紙機の導入計画が進行中である。東アジア市場を睨んだ場合,製紙メーカーは製造原価低減のため,低品質古紙の配合率増加によるコスト圧縮と効率的な製品製造が必達課題となっている。
  本稿では,上述の製紙業界を取り巻く環境下で内添紙力剤に期待される技術動向について記述すると共に,新規に開発したPAM系分岐型紙力剤とその使用例および応用処方について紹介した。新規重合技術により開発された紙力剤とそれらを応用した二液併用処方は,低品質の古紙配合率増加によってもたらされる厳しい抄紙条件下でもその効果を十分発揮し,更に高速化する抄紙マシンの操業にも適応可能である。
(本文44ページ)


kajaaniWEM及びkajaaniRM3―調成からウェットエンドまでの総合管理

メッツォオートメーション株式会社 プロセスオートメーションシステム事業部  
ユッカ ノケライネン,佐藤 武志

 ウェットエンド管理用の最新のモジュラー式の多機能分析器kajaaniWEMと濃度センサーkajaaniRM3について紹介する。kajaaniRM3は,1つのサンプルポイントから連続的な全濃度及び真の灰分濃度測定を実施するスタンドアローン装置である。kajaaniWEMは,抄紙機に対して,世界で初めての総合的なウェットエンドの測定手段(電荷,レドックス,pH,伝導度,温度,濃度)を提供するものであり,1台で最大6箇所のサンプル測定が可能である。その活用とは,最初にRM3を使用して,ウェットエンドにおける全濃度及び灰分濃度を安定させ,これにより,リテンション制御,ウェットエンドの安定化を実現する。次に,パルプ工程,調成工程及びウェットエンドの全ての重要なパルプフローにおいて,WEMを使用して,カチオン要求量とその他の基本的化学反応を測定,制御するものである。
  本稿では,製紙工場における濃度,電荷,pH,温度,レドックス及び濁度の体系的なオンライン測定結果とそれに基づく工程改善についてまとめる。更に濃度制御,電荷制御及び濁度制御の経験について,また,これらの濃度制御,電荷制御をさらに押し進めた多変数制御について,その原理,SC紙用抄紙機における改善レベルの経験について報告し,最後にそれらのソリューションから得られる情報,プロセスの安定性,抄紙機の運転性,使用薬品,人的資源に関する利益についてまとめる。
(本文51ページ)


第2回2008日中紙パルプ技術交流シンポジウム開催報告

日本製紙株式会社 越智  隆,金子  豊
紙パルプ技術協会 豊福 邦隆      

 一昨年の第1回開催に続き,紙パルプ技術協会と中国造紙学会の共催による第2回「2008日中紙パルプ技術交流シンポジウム」が5月20日〜21日と中国山東省済南市の山東軽工業大学にて開催された。日本側参加者は約70名,中国側は約110名であった。シンポジウムの前後で,山東博匯紙業,山東華泰実業,山東長鳴紙業,寿光麗奔製紙,青島海王紙業等の各製紙工場やハイアール(世界第四位の白物家電メーカー)の見学を行った。
(本文58ページ)


第21回ISO/TC6国際会議報告

東京農工大学 岡山 隆之      
東京大学 江前 敏晴      
王子製紙株式会社 大庭 康裕      
日本製紙株式会社 岸  恭二,後藤 至誠
紙パルプ技術協会 加納  直      

  ISO/TC6国際会議が2008年6月9〜13日にソウル(韓国)で開催された。この会議は,約18か月毎に開催される。
   日本は,紙パルプ試験規格委員会(兼ISO/TC6国内委員会)の岡山委員長を代表とし,合計8名が参加した。出席した各会議の概要をまとめた。
(本文70ページ)


ゴムローラによる紙の搬送速度に関する理論的考察

王子製紙株式会社 製紙技術研究所 小林 孝男,仲山 伸二*
*現所属:王子特殊紙株式会社 江別工場 研究技術部      

  本報告では,有限要素解析による搬送シミュレーションにより,ゴムローラの特性(非圧縮・圧縮性)も含めたシート搬送速度に関する体系的な考察を行った。通常のゴム材では体積を一定に保とうとする非圧縮性を示すのに対し,ウレタン材などの圧縮性ゴムではポアソン効果は現れず圧縮により体積はそのまま減少する。シート搬送速度比(ゴムローラの外周速度に対するシートの移動速度の比)は,シート張力の値によらずニップ前後張力差に支配され,ほぼ比例関係にある。また,ゴムが非圧縮の場合はニップ圧を高めると搬送速度比は線形に増大し,圧縮性の場合は減少する。この搬送速度比はゴムローラの弾性変形によるニップ内固着部分における接線方向歪みの値によって決まることがシミュレーションにより確認できた。
  プリンタ給紙トレイを想定した応用例では,ピックアップローラで用紙を搬送する際にはシート裏面から作用する摩擦力が,搬送速度比の挙動に大きく影響を及ぼすことがわかった。スキュー(斜行)問題においては,片側基準方式のピックアップローラの配置では紙の自重による摩擦力が抵抗となり回転モーメントが作用する結果となった。また,ピックアップローラを複数有するタイプでは,各ローラの押圧が均等でないと紙の送り速度に差を生じスキューの発生に至ることがわかった。この場合,側板で無理にスキューを抑制しようとすると座屈が生じてシワや端折れ,紙詰まりなどの危険性が高まると推測される。
(本文79ページ)