2008年3月 紙パ技協誌
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紙パ技協誌 2008年3月


第62巻 第3号 和文概要


最新IT事情

電気通信大学 システム工学科 新  誠一

 20世紀後半は情報技術(IT)が花開いた時代であった。社会は急速に情報化し,これまでの常識や仕事のやり方を大きく変えてしまった。しかし,急激に現れた技術だったために,その性能追求ばかりに目がいってしまった。その結果,情報技術と他の技術との刷り合わせが不十分だったことが否めない。
 21世紀初頭である現在は情報技術再考の時代である。まず,本報告では,情報技術の最新のトレンドを紹介する。さらに,情報技術を情報通信,情報蓄積,情報処理の三つに分解する。この三つの技術は,いずれもギガのオーダーに達し,この高速化が社会を変えている。通信は情報共有であり,蓄積は履歴管理,処理はモデル予測である。この三段階を初級,中級,上級と位置づけ,情報技術の導入方法を解説する。加えて,21世紀の初頭の情報技術のトレンドを,エネルギー技術,素材技術との統合化という視点でとらえる。たとえば,この観点から工場を見ると,情報はイーザネット,エネルギーは電力線,物はパイプやコンベアーで運ばれる。これが20世紀末の姿である。21世紀の現場は,この三つの統合である。たとえば,電力線通信,可視光通信,RFIDなどが統合化の鍵となることを解説する。
(本文13ページ)


安全法規・規格の動向と生産設備の安全方策

オムロン株式会社 インダストリアルオートメーションビジネスカンパニー      
営業統轄事業部 セーフティ営業部 事業推進課 新井 孝彦

 安全法規・規格の動向で重要なことは,グローバルに見て安全に対する考え方が,以前とは様変わりしたことである。従来日本では,「災害ゼロ」を目指し,現場のオペレータを含めて,作業のレベルの高さを誇ってきた。実際,改善活動を通じて事故の発生を防いできた。事故が起きた場合でも,その後に徹底した教育訓練を施し,二度と同じことを繰り返さないように努めた。しかし,事故を起こした責任が作業者個人にあるのではなく,企業そのものに帰すべきという認識の変化や「危険ゼロを目指す」という考え方の普及等により,生産設備やライン等の安全方策の重要性が増している。
 法規制の具体的な動向に関しては,2006年4月に改正労働安全衛生法が施行され,第28条2項に「危険性・有害性の調査および必要な措置の実施」すなわちリスクアセスメントの努力義務が明記された。
 また,国内には機械安全を含めた工業製品に関する規格である日本工業規格(JIS)があり,国際規格との整合が順次進められ,機械安全に関する規格は1990年代後半から制定されている。
 従来からある“安全第一”の考え方を最新の法規制や規格(JIS等)をもとに見直し,新しい技術や機器を設備に導入することが求められる。
 生産設備の安全方策を実践することで,安心・安全な現場をつくり,QCD(品質,コスト,納期)を支える生産活動に展開する点やそれを推進する設備設計者・安全管理者の育成がますます重要となることを認識頂きたい。
(本文19ページ)


石油プラント保守・点検作業支援システム

東洋エンジニアリング株式会社 計装設計部 鈴木 剛          
東洋エンジニアリング株式会社 ビジネスソリューション事業本部 西 洋一,小菅通孝,西山穂高

 近年,多発する産業事故に対して,その防止に向けて社会的な要請が高まりつつある。このような中,石油精製プラントのフィールドオペレータの日常保守点検作業行動映像を自動的に蓄積して検索表示する技術,さらには蓄積した情報から日常とは異なる特徴的場面をノウハウ候補として抽出して教育コンテンツとして提供する仕組みを経済産業省からの受託研究事業として,平成16年度からの3ヵ年で構築した。
 情報の蓄積表示技術は,ヘルメットに装着したカメラと腰に装着した本体(3軸加速度センサ,映像音声エンコーダ,充電池等を内蔵)から無線LANを通じて収集システムに映像(フィールドオペレータの見ている場景)と加速度データ(フィールドオペレータの移動情報)を送信する防爆型の装置と,これらのデータを人間行動解析アルゴリズムによりフィールドオペレータの作業位置/姿勢/場景の注視状況を認識して,点検作業行動をパターン分類しながらデータベースに蓄積し,表示するシステムから構成される。
 教育コンテンツとしては,データベースに蓄積した作業情報から得られた熟練作業者の特徴的場面を手がかりにして,熟練作業者の模範的点検作業行動を学ぶマルチメディア・マニュアル,熟練者の点検作業行動の背景に有る点検作業ノウハウを学ぶノウハウ獲得支援システム,自身と他のフィールドオペレータとの行動傾向,相違点を比較して自己啓発に役立てる行動パターン比較システムの3種類のツールを開発した。
(本文24ページ)


ボイラ制御におけるモデル駆動型PID制御の適用事例

日本製紙株式会社 八代工場 工務部電装課 藤山 道博

 PID制御はプロセス制御において欠くことのできない代表的なアルゴリズムであり,空気式計器の時代から現在まで慣れ親しんだ制御方式で適応範囲が広く,今後も幅広く活用されていくことは間違いない。一方,DCSを代表とする制御システムのディジタル化と計算機技術の発達とともに,PIDを進化させた高度PID制御という技術が一般化されてきた。従来型PID制御を補うあるいは,全く新しい概念でプロセス制御を実行することで,更なる操業の安定,高効率化に寄与できる技術であり,様々な制御アルゴリズムが研究,開発されている。従来形のPID制御は工場内のほとんどのプロセス制御で使用されているが,むだ時間の長いプロセス等では,適切なチューニングを実施しても安定制御が難しい場合がある。本稿では,そのようなむだ時間の長い制御ループである微粉炭ボイラの主蒸気圧力と主蒸気温度制御にモデル駆動型PID制御(MD―PID制御)を導入して安定化を図り,タービン効率向上による省エネルギーを図った事例について導入検討から調整及び制御結果について紹介する。
(本文34ページ)


非接触式キャリパセンサの導入経験

王子エンジニアリング株式会社 米子事業部 坂口 浩昭

 従来から,塗工紙における紙厚測定はその測定方式を改善する声が多かった。特に高級白板紙のように塗工表面がデリケートである紙にとって,接触式厚みセンサは紙表面へのキズ入り問題を抱えていた。
 2006年5月に,米子工場3号マシンのBM計をハネウェル社製MXOpenシステムから同社製DaVinciシステムへ更新した。同時期に,ハネウェル社製非接触式厚みセンサ(レーザキャリパセンサ)が発表され,この新センサを採用した。
 非接触式キャリパセンサは,レーザ技術を使い,紙の表面に触れることなく厚みを測定でき,従来は紙へのキズ入りにより使用できなかった銘柄での厚み測定を可能とし,その効果と利益を絶大なものにすると期待できる。
 本稿では,ハネウェル社製レーザーキャリパセンサの導入経験とその測定状況について紹介する。
(本文41ページ)


非接触式キャリパセンサの導入経験

中越パルプ工業株式会社 高岡工場 電気計装課 小杉 尚弘

 紙の厚み測定は,抄紙にとって最重要項目のひとつであり,日々刷新されていく製紙技術に対応すべく厚みセンサ自身の進化が望まれている。例えば,マシンの高速化,カレンダの高温化は接触式厚みセンサに対して過酷な条件となっている。中でも,接触式厚みセンサの問題として,紙面へ与える影響やセンサ自身の耐久性があり,この問題を解決する非接触式厚みセンサの登場が待ち望まれていた。
 高岡工場能町N1マシンでは2006年5月にハネウェル社製QCSであるVision2002UTシステムを同社製DaVinciシステムに更新した。同社は,10年以上前からレーザ光を使った非接触式厚みセンサの開発に着手しており,2005年6月に非接触式レーザキャリパセンサのリリースを開始した。
 同社製DaVinciシステムは,その新キャリパセンサを搭載する事が可能であり,紙面への傷,センサ接触面磨耗,センサ接触面のピッチ付着等の問題を改善することが期待できることから,2006年11月に非接触式レーザキャリパセンサを導入した。
 本稿では,世界で初の実績となる上質紙およびコート原紙への適用結果と今後の課題について紹介する。
(本文46ページ)


板紙マシンにおける欠点検出機の採用について

日本大昭和板紙吉永株式会社 工務部 動力課計器係 西村 研治

 当社の50号マシンは,抄造するおよそ8割の製品が食品・医療品関係の紙器用板紙として使用されているコートボールを主体に抄造している板紙抄紙機である。
 コートボール業界では印刷適正に対する要求として,グラビア印刷の割合が増加しており,50号マシンでも塗工方法をロッドからブレードに切り替えて操業している。その際にストリーク系欠点の発生が危惧されるが,既設の欠点検出機にはストリーク検出機を装備していなかった。また,裏面に発生する雑誌古紙由来の赤色夾雑物は血液を連想させる為,食品・医療品関係の製品に使用されるうえでまさに致命的と言え,確実に検出したい欠点の1つであった。
 この様に,ユーザーからの品質要求は年々高まっており,ユーザー要求に即した製品作りを目指すべく,数年前に欠点検出機の更新を行った。
 本稿では,その時の採用経緯について報告する。
(本文50ページ)


モバイルDCSの操業経験と今後の期待

王子板紙株式会社 名寄工場 工務部動力課 高橋 晃人

 王子板紙名寄工場は2M/C,3M/Cの2台の抄紙機を有している。また,パルプ課は2パルプ,3パルプ,3CGPの3部門に分かれており,それぞれ横河電機製DCS『CENTUM CS3000Small』及び『CENTUM CS1000』による操業を行っていた。
 06年12月から07年1月にかけての年末年始休転に要員活性化を目的とするパルプ課再編成が行われ,各部門間の相互応援体制確立を目指しこれらのDCSと2M/C調成を合わせた4システムを『CENTUM CS3000Small』として統合,併せてモバイルDCSを導入した。
 モバイルDCSとは,中操室の外においてもノートパソコン等の携帯型端末よりプラントの操作・監視が可能となるシステムで,名寄工場では無線LAN対応の端末4台と20ヶ所に設置したアクセスポイントでネットワークを構築した。モバイルDCSは稼動当初から機器や計器の動作チェックでその効果を発揮し,通信可能範囲が導入前の予想より広範囲であったこともあり,現在では紙替えやトラブル発生時などになくてはならない重要な設備となっている。
 本稿ではモバイルDCS導入の過程と操業時の効果を報告し,今後の期待について述べる。
(本文55ページ)


古紙オンラインダート計の導入実績

北越製紙株式会社 新潟工場 電気計装課 田中  聡

 北越製紙株式会社新潟工場は,2系列の古紙処理設備を有している。1系列(A系)が平成3年に稼動し,その後改造,増強を重ね使用量拡大に対応しながら,平成16年に新しくもう1系列(B系)を設置し現在に至っている。
 古紙の品質において白色度と並び夾雑物レベルが重要なファクターである。この中で夾雑物レベルについては,B系導入前まで操業員が1時間に1回サンプリング測定を行なっていたが,この作業が操業員の大きな負担となっていた。そのため,B系古紙処理設備にはオンラインダート計が必要不可欠と考えて,どのようなダート計が適しているか検討を行ない,その結果シート作成タイプのオンラインダート計を採用した。
 本稿では,このオンライダート計の導入検討と使用状況について報告をする。
(本文62ページ)


精度を向上させたガンマ線密度計

ナノグレイ株式会社 宮下  拓

 製紙工業において,放射線障害防止法上の許可や届出を必要とする放射線源を用いた厚さ計,レベル計,密度計などが使用されている。2005年6月に放射線障害防止法の改正があり,許可や届出を必要とする線源の強度が引き下げられ,放射線管理がさらに厳しくなった。一方,一定レベル以下の微弱線源を用いた機器の内,認証を受けたものについては,主任者の選任・管理区域の設定が不要という「設計認証制度」が新設された。我々は既に上記認証を受けた「表示付認証機器」であるガンマ線密度計PM―1000,PH―2000・レベル計TH―1000,TM―1000を販売しているが今回さらにPH―1000(高精度)及びPM―0300(小型軽量)という2タイプの「表示付認証機器」ガンマ線密度計を上市したので,紹介する。
 PH―1000は0.2〜0.28%(積算時間120秒での2σ値)の高精度で密度を非接触計測でき,黒液,緑液,炭カル,ホワイトカーボン,コーンスターチなどのスラリー密度の計測に使用できる。20〜350Aの配管で直管部長さが約220mmあれば既設配管に簡易に取付が可能であり,接液部が全くないので,メンテナンスフリーである。配管表面温度180℃まで使用でき,防塵・防水性能はIP66準拠である。PM―0300は,重量が僅か6kgしかなく,20〜100Aの配管に取付可能で,異なる配管径への変更もその場で可能である。
(本文67ページ)


ワインダ支援システムによる操業の効率化について

コグネックス株式会社 SISD営業部 渡辺 憲幸

 コグネックス(COGNEX)社のワインダ支援システム「アドバンスト・ワインダ・アドバイザ(Advanced Winder Advisor):以下AWAと呼ぶ」は2004年の販売開始以来,出荷台数はすでに全世界で68システムを数え,国内でも18台が導入され運用されている。同システムは,上流側の抄紙機(またはコータ)での欠陥検査結果に基づいて,ワインダ(またはリリーラ)をコントロールし,精度よく有害欠陥位置で停止させるシステムである。
 AWAの様なワインダ支援システムをワインダやリリーラに導入する目的は,見逃し欠陥の撲滅や高生産効率であり,延いては人員の削減による経済効果である。この本来の目的を達成するには,手動の介在なしに,いかに早く,いかに正確に停止制御が出来るかに係っている。当社のAWAは高速操業の環境で±10cmの精度で確実に停止できる唯一のシステムとして,導入されたユーザに評価頂いているものである。比較的少ない初期投資額に対し,大きな効果が得られる本システムは,その償却にかかる期間が数か月程度で収まる優れた製品である。
 従来,欠陥検査システムは物の検査に終始し,客先プロセスを制御することはなかった。しかしながら本システムの発表により欠陥検査システムの垣根が取り除かれ,初めて客先プロセスにアクションを起こすことが可能となった。今まで培ってきた正確で細かく,緻密で素早いデータ処理は必ずや製紙業界の操業現場で大きなメリットを生むことができるものと確信している。
(本文71ページ)


フォーミングセクションの濾水測定器 ―“ファイバースキャン MkU”のご紹介―

野村商事株式会社 川端 祥行

 イタリアのCristini社の研究部門とフィレンツェ大学,民間の研究機関の3者が協力して創り上げたマイクロウェーブ方式の濾水測定器“FiberScan”は,放射線を使わない最新の技術で抄紙工程での問題の解決に活用できる新しいコンセプトのフォーミングセクションの濾水測定器である。
 短時間でフォーミングセクションでの周期的変動を把握でき,正確なFFT解析で問題点の特定等に役立ち,従来の放射線方式や超音波方式,等の濾水測定器との比較においても,安全・簡単・正確さが大幅に改良され,フォーミングセクションでの濾水測定が飛躍的に容易になった。
 今回は,FiberScan本体の紹介と共に,FiberScanを使った色々な事例を例に挙げて,フォーミングセクションでの操業を助ける有力なツールとして紹介したい。
(本文76ページ)


紙のマクロな構造と吸水挙動との関係

チュラロンコン大学(タイ国) スバルナキッチ・クンティニ
東京大学 大学院農学生命科学研究科 江前 敏晴,磯貝  明

 紙のマクロな構造は,いろいろな意味での紙の挙動に影響する。本研究では,紙のマクロな構造と吸水挙動の関係を検討した。坪量,叩解の程度及びウェットプレス条件を変えることにより,マクロな構造の異なる市販広葉樹クラフトパルプの試験用手すき紙を調製した。これらの試料について構造的な特性及び吸水特性を調べた。水との接触角を測定した結果は,自動走査吸液計の結果と同様の傾向を示した。吸水挙動は紙の表面構造に対する高い依存性を示した。平滑な表面ほど,水滴は横に広がりやすく,接触面積が増加する傾向があった。紙の表面構造を変えるどのような調製条件の場合でも,紙の表面平滑性の変化で一貫して説明できるような吸水特性を示した。表面化学的には,坪量の増加はサイズ剤であるAKDの歩留まりを向上させ,水との接触角は大きくなった。
(本文83ページ)


荷電化粒子検出器による紙の油汚れ分析

王子製紙株式会社 分析センター 尾松 正元

 我々はこれまで紙の油汚れ分析を種々手がけてきた。原因となる石油系,動植物油,シリコンオイル,グリースなどの系統分類については,FT―IRを使用することによって,石油系は長鎖炭化水素の吸収,動植物油はエステルの吸収,シリコンオイルはシリコーンの吸収,グリースは長鎖炭化水素の吸収と特徴的な金属の存在から判別ができた。しかし,油を特定するためには,さらに各成分の分離・検出が必要となるが,油中のオイル成分は,沸点が高いためガスクロマトグラフ(GC)を通過できず,また高速液体クロマトグラフ(HPLC)で分離ができた場合でも化学構造的にUV検出器では検出できない,油自体が非極性物であるためLC/MSのイオン化法(ESI, APCI)でイオン化できないなどの問題があり,どの油が汚れの原因になっているかは標準品が手元にあったとしても不明であることが多かった。
 近年HPLCの検出器として登場した荷電化粒子検出器(CAD:Charged Aerosol Detector)は,分析対象物が気化さえしなければ難揮発性物,熱分解性物,極性・非極性物,UV・VIS領域に吸収のない化合物でも感度よく分析でき,HPLCの万能型検出器としての特徴を有している。
 本報文ではこのCADの特徴を活かして,これまで困難であった紙の油汚れ原因となった油の特定が可能となったので報告する。
 紙の油汚れに対して,標準品があったとしても従来のFT―IR法,GC―MS法,SEM―EDS法では特定に至らないケースが多かったが,LC―CAD法を適用し,標準品とピークの位置,強度比を比較することにより,油汚れの原因となった油を特定できるようになった。また鉱油に限らず,動植物油でも異同識別が可能であることが示唆された。
(本文94ページ)