2007年7月 紙パ技協誌
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紙パ技協誌 2007年7月


第61巻 第7号 和文概要


今後のパルプ研究の展望について

東京大学大学院 農学生命科学研究科 生物材料科学専攻 木材化学研究室 松本 雄二

 リグニンを特徴付けるいろいろな指標の中で、パルプ製造工程と深く関係するものとしては、リグニン量のほかに、―O―4構造の量、その中でもerythro型―O―4構造の量、芳香核構造、LCC(多糖とリグニンの結合)の種類と量が考えられる。―O―4構造はリグニン中の最も主要な結合様式であり、この構造がアルカリ中で開裂することによってリグニンの低分子化、脱リグニンが引き起こされると考えられている。その際、―O―4構造の二つの立体異性体erythro型とthreo型のうちerythro型の方が開裂反応を受けやすいことが知られている。一方、芳香核構造は縮合反応の起き易さや、漂白反応の際の酸化反応の受けやすさに影響する。LCCはリグニンを細胞壁中にとどめる役割を果していると考えられる。本研究室では広範な樹種のリグニン化学構造の多様性を調べてきた。本稿では、それらのデータの中から、パルプ製造と関係するリグニン量、―O―4構造の量と立体異性体比、芳香核構造の関係について紹介し、また最近見出した興味深いリグニン反応機構について紹介する。
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印刷適性におよぼすパルプの影響について(T)

王子製紙株式会社 研究開発本部 製紙技術研究所 谷  幸雄

 情報伝達機能として紙をとらえた場合、紙は印刷を施されて初めて付加価値が発生し、市場においてその商品価値を認められるものであるから、印刷というものを十分に念頭においた上で、紙、パルプを論じる必要がある。今回は特に印刷の立場から、パルプを逆照射して見た場合のパルプに要求される品質とは何かについて考察を行った。印刷適性という場合、印刷作業適性と印刷品質適性があるが、2つの適性は必ずしも両立せず、しばしば相反する要求となり、両者のバランスを取って紙質を決定する場合が多い。印刷は画像の濃淡を網点に分解し、点の連続集合体として画像を表現しており、版による印刷方式に違いはあっても、この原理は同じである。インキが版より紙に転写される際に、この網点がいかに再現されるかによって、印刷仕上がりが異なるため、網点再現性というものが重要視される。どの印刷方式においても、この網点再現性には平滑性が不可欠であり、当然パルプにも要求される品質である。他にもパルプが影響を及ぼす印刷適性には、ピッキング、パイリング、ブリスター、折り割れ、ひじわなどが挙げられ、それぞれ、表面強度、断裁性(紙粉)、層間強度、引張り強度、収縮適性といったものがパルプに求められる。
 最終製品である印刷物における問題点を把握することが、中間製品であるパルプの品質を検討する上で重要なポイントとなる。また、情報伝達機能としての「紙」の構成要素であるパルプの品質特性は、パルプ単体の品質やコストだけでなく、最終製品である印刷物の品質適性・作業適性を考慮に入れて検討していく必要があり、今後のパルプについての研究開発には、印刷適性もひとつの大きな指標となることが予測される。
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印刷適性に及ぼすパルプの影響について(U)

日本製紙株式会社 研究開発本部 技術研究所 大篭 幸治

 印刷用紙の主要銘柄のひとつである微塗工紙は、原紙に機械パルプが配合された塗工紙であり、主としてヒートセットオフセット輪転印刷機で使用される。このため微塗工紙には、一般的な光学的品質、ブリスター耐性等に加え、ヒートセットラフニング等の固有の課題がある。ヒートセットラフニングは印刷工程で紙の表面に湿し水または湿し水を含むインキ等が付与され、乾燥される際に、紙の面外方向の内部応力が解放され、繊維が隆起する現象であり、印面の品質を低下させるため深刻な問題となる場合がある。
 ヒートセットラフニングの主要因は長繊維の機械パルプであり、特に壁厚が厚いほどその傾向は顕著となる。機械パルプの叩解強化によりヒートセットラフニングは低下するが、その効果は限定的である。塗工紙製造の際のプレカレンダー、塗工方法、塗工量、カレンダー処理条件等もラフニング抑制効果はあるが、製造方法を変更することは容易ではない場合が多い。
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機械パルプの現在の動向

メッツォファイバー株式会社 八田 章文

 日本における機械パルプ設備の新規設置の停滞に対して、海外では現在も新プラントの設置や新ラインの増設が行われている。この動きを推し進める力として重要な機械パルプのコスト削減がさまざまな方法によって行われている。
 機械の大型化によるライン当たり生産量の増加、それによってもたらされる省エネルギー、低コストと高品質をもたらすプロセスの採用、省エネルギーリファイナーセグメントの開発等がそうです。中でも新しいプロセスでは従来にはなかった低濃度リファイニングを積極的に取り入れたフローも見られ、実際の操業で当初の目的を十分達成している。
 新設の機械パルプ設備にはアスペンやポプラを原料とした広葉樹CTMPも含まれる。同じ傾向を示す広葉樹において使用原料ではその程度は異なるため、パルプ使用用途に応じて使用原料から得られるパルプ特性をその用途に合わせこむためにパイロットプラントでのトライアルが必要となる。
 また既存の設備をより優れたものに改良するためのさまざまな取り組みも行われており、系外への繊維の流失を防ぐための機械式蒸気セパレーターやその他の改造用機器が開発されている。
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省エネルギー型段古紙処理システムの設計

株式会社アイ・エイチ・アイ フォイト ペーパーテクノロジー 開発部 橋本 純一

 弊社製紙研究所の原質テストプラントにおける平成10年頃までのカスタマートライアルは、大規模設備案件以外は機器単体での性能試験や単一プロセスのシミュレーションが主であった。しかし、近年では板紙・洋紙共に使用原料の変更や性状変化に伴う品質改善や生産効率の改善と生産コスト削減、並びにユーザーからの改善要請内容等をメインにした検証テストが主流となっており、品質については粘着系異物や黒チリ・白チリ系異物など微細領域が対象となることも多く、機器単体の能力を最大限に活用したシステムにおける技術的対応が益々強くなっている。
 今後も、ユーザーの品質要求は留まる事を知らないであろうし、古紙原料の再生の難しさは強まると予想される。
 常に環境変化に対応できる技術強化を図る必要があり、ポストリサイクル60を進展させるためにも、是非協力していきたい考えである。
 今報では省エネルギーと品質向上の両立という点に焦点をあて、弊社の段古紙処理システム構築のコンセプトを紹介する。
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更なる古紙使用率増加に必要な技術的課題

相川鉄工株式会社 技術部 藤田 和巳

 今日、国内では各方面の多大なる努力の結果2005年目標のリサイクル率60%が2年前倒しで達成され、新たな目標として「2010年迄にリサイクル率62%達成」が掲げられた。この目標実現のためには年間約63万トンの古紙利用量増加が条件となる。
 板紙用古紙リサイクル率はすでに90%であることから、リサイクル率を押し上げるには洋紙への古紙リサイクル率増加を模索しなければならないのであるが、洋紙向けの高品質古紙はほとんど残っていないのが現状である。また、発展めざましい中国でも異物の多い米国産古紙は敬遠され、分別がしっかりした日産の需要が伸びて古紙輸出が定常的となり、原料自体が急速に枯渇してきた。
 このような厳しい状況下でリサイクル率62%を達成するためには様々な分野での改革が必要である。本セミナーにおいては、相川鉄工が関わらせて頂いている原料調成の分野に置ける更なる古紙利用率の増加のために必要な技術的課題と対策方針を提示させて頂く。
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KPキルンダムリング防止剤について

株式会社タイホーコーザイ テクノケミカル事業部 静岡1課 鶴見 眞弘

 苛性化工程においてキルンの操業は連続安定性を要求される事が多いが、運転中の急速なダムリングの発達により余儀なく運転を停止しているケースが一部に見受けられる。
 ダムリング発生の機構としては、核となるマッドと共にナトリウム等の低融点のアルカリ不純物がキルン窯尻から供給され、高温ガスに曝された低融点物質は粘凋化して核同士をゆるく結合させ、マッドの連続的な供給下で高温ガスから遠ざかったゆるい結合はコーチング内部で温度降下もしくは再炭酸化により、硬い結合に変化する。これらの反応が連続的に働き、結果として大きなダムが形成されることになると説明される。
 当社は長年燃料添加剤の製造、販売に携わっており、そのノウハウの蓄積を活かし今回、KPキルンのダムリングに対して薬剤添加による比較的簡便な対応を試み、現在では実績も数々出て来たので、ここに紹介する。
(本文40ページ)


ECF漂白への転換による排水性状の変化

株式会社日本紙パルプ研究所 研究部 高木  均

 日本の製紙産業はAOX自主規制値を設定し、漂白パルプ製造プロセスや排水処理設備を改善することによってダイオキシン問題を解決してきたが、1996年の改正大気汚染防止法を契機に、有機塩素化合物のさらなる自主的削減策として無塩素(ECF)漂白の導入が進んだ。その結果、2006年には漂白パルプの80%以上がECF漂白によって製造されるまでになった。
 ECF漂白を採用することにより、環境影響が懸念されているクロロホルム、クロロフェノール類、ダイオキシン類などの有機塩素化合物の漂白工程における発生量が著しく減少した。その結果、全有機塩素化合物の指標であるAOXは工場からの排出量が大幅に減少し、排出原単位は0.2kg/t以下にまで低下した。一方、二酸化塩素漂白の採用でクロレートの排出量が増加した。
 ECF漂白へ転換することによって排水の水生生物への影響が変化するかどうかに関しては、現在日本紙パルプ研究所で評価中である。
 パルプ漂白に関する有機塩素化合物の問題はECF漂白への転換によって一応の解決をみたが、製紙産業としては今後も継続的な環境対策を進めていくことが重要である。
(本文46ページ)


ECF漂白の総括 ―ECF漂白切替への取り組み―

王子製紙株式会社 技術部 笹田慎太郎

 環境負荷低減を目的とし、北欧や北米に続き日本においても、塩素漂白からECF(Elementary Chlorine Free)漂白へ転換している。王子製紙グループは、環境憲章の行動指針に沿って、全KP漂白設備をECF漂白対応可能にする計画を立てた。2000年8月春日井工場LBKP漂白設備のECF化に始まり、2006年6月に全8工場のKP漂白設備をECF連続操業に移行した。
 ECF漂白への転換にあたり、漂白塔の改造、薬品設備の改造など、フローや設備の改造を実施し、全8工場で約160億円を投資した。ここでは、これらECF化に伴う設備改造の内容について、釧路工場LBKP設備を例に紹介する。
 ECF漂白操業移行後は、製造費が上昇したものの、品質は塩素漂白時と変わらず、また操業も安定しており、ECF漂白への転換において問題はなかった。
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ECF漂白の技術的課題と対策

三菱製紙株式会社 八戸工場 原  普一

 三菱製紙八戸工場は、LBKP製造設備のうちの3BKP系列を2000年10月に、2BKP系列を2005年8月にECF化した。
 初段が二酸化塩素であるECF漂白は、従来の塩素漂白より酸素漂白後の白色度の影響をより顕著に受ける等の挙動の差が明らかになった。又、ECF漂白導入によりAOX、クロロホルム排出量の削減等目的とする環境面の改善は達成されたが、同時に操業面、パルプ品質面で新たな技術的課題が発生した。それらは漂白コストの増加、シュウ酸カルシウムスケールのディフューザースクリーンへの付着、パルプの色戻り等である。これらの課題を根本的に解決するには、これらに深く係わっているヘキセンウロン酸対策を進めていく必要がある。
 本報は、ECF漂白稼働後の操業を通して明らかになったECF漂白の特徴、及び技術的課題とその対策について述べたものである。
(本文56ページ)


ECF漂白における操業上の問題と対策

紀州製紙株式会社 技術部 堀口  誠

 紀州工場パルプ漂白工程は2004年8月からECF漂白に転換し、2年半が経過した。
 漂白初段には高温二酸化塩素段を国内で初めて採用、高温二酸化塩素タワー後のプレス洗浄機にはポンプを使わずに供給するシステムを世界で初めて採用した。
 これまでの操業上のトラブルとしては各所のスケール付着が挙げられる。現在は年2回の定期修理時に高圧洗浄または酸洗浄でスケールを除去する事により定修間連操は可能となっている。
 高温二酸化塩素処理は色戻り対策として有効であるが、当初計画の90℃から85℃に温度条件を変更して蒸気使用量の削減を図っている。
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ECF漂白への取組み

日本製紙株式会社 技術本部 生産部 山ア 和男

 世界的にクラフトパルプの漂白工程は塩素ガスを用いない漂白法、即ちECF漂白へと移行してきており、環境問題への関心の高まりや消費者ニーズに対応するため、わが国でもECF漂白は急速に普及している。日本製紙は1993年制定の「日本製紙環境憲章」に則り、自然と調和した持続可能な企業活動を鋭意展開しており、ECF化も活動の一環である。当社ではECF漂白を導入する際、他社に先駆けてオゾン漂白、加温酸処理などの新技術を取り入れてきた。本稿では日本製紙でのECF化に伴うこれら新技術の導入について述べる。
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長方形板の低次振動モードを用いた板紙の弾性率測定

ケンブリッジ大学 工学部 生産科学研究所 佐藤  潤、イアン ハッチングス
ケンブリッジ大学 工学部 ジム ウッドハウス

 紙の弾性率の測定は古くから行われており、引っ張り試験で得られる荷重―伸び曲線から静的弾性率を求めるものと、超音波の伝播速度から動的弾性率を求める方法が一般的である。しかしながら、これらの方法から得られる弾性率も、その使用目的に応じて使い分ける必要がある。また、実際の製紙、紙加工プロセス、あるいは巻き取り用紙管に代表される工業製品の使用条件を考えると、従来の測定方法で想定されている周波数領域では不十分であり、それらの中間の周波数に対する動的レスポンスを求めることが望まれる。そのため本稿では、可聴周波数の振動を紙管用原紙に与えて、その弾性的性質を調べ従来の方法と比較した。
 実験においては四方自由端を持つ長方形(正方形)の紙管原紙に対して10Hz―1,000Hzの周波数の正弦音波を与えて、Chladniの特徴的な模様が励起される周波数を低次モードの場合について測定した。機械抄造された板紙は直交異方性を持つことを利用すれば本手法によって動的ヤング率、動的ポアソン比の定量的な推定が可能である。こうして得られたヤング率は、静的弾性率に比べて大きな値をとるが、超音波による動的弾性率よりは小さな値を持つことが示される。このことは紙の粘弾性的性質と対応周波数との関係を考えると整合性が取れていると考える。また、試料の寸法によって各モードを励起する周波数は異なるが75×75mmから200×200mmの範囲で寸法を変化させても導かれる弾性率には有意な差は見られなかった。試料の大きさについては特に制限もなく、測定時にフラットであれば良いことが分かる。また試料に局所的な傷がある場合、超音波試験法では主として送受信機間の初動到達時間(最短伝播時間)しか見ていないため、測線上に欠陥が無い限りこれを検知することは難しいが、本方法ではこのような原因によるヤング率低下も捉える事が出来る。
 本手法は原理上、MD、CD方向を同時に測定するジオメトリーであることも特長であるが、測定装置がシンプルであるばかりか、コンバーティングや製品使用現場に近い状況下での動的弾性率を推定出来る数少ない方法であり、かつ測定にばらつきが少なく必要十分な精度を与えるものと考える。今回の測定対象としては主として0.5―1.0mm位の紙管原紙を用いたが、直交異方性をもつ平板であれば厚みのある段ボール紙、貼合紙、合板、エコ材料ボードなども測定可能である。本方法で用いられる振動数領域でのヤング率、ポアソン比は紙管を初めとした紙製品の動的設計や紙関連産業に不可欠なものと考えられる。
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一様圧縮荷重を受ける異方性段ボール箱型容器(正方形胴)の弾性曲げ変形解析

愛媛大学産業科学技術支援センター 松島  理
愛媛大学名誉教授 松島 成夫

 上下辺に一様圧縮荷重(−0.10N/mm)を受ける異方性段ボール箱型容器(正方形胴:幅L、高さh、厚さT=5.44mm)の弾性曲げ変形解析をおこない、その容器の応力およびたわみ特性を議論した。
 L=350、h=300mmでは、幅方向の絶対値最大曲げ垂直応力bxmax は側板中央に、高さ方向の最大曲げ垂直応力bymax、最大曲げ主応力b0max、最大たわみWmax は側辺中央に、曲げ最大絶対値せん断応力bxyma 、絶対値最大曲げ主せん断応力b0maxは4隅にある。Lの増加に伴ってbxmax bymaxbxyma 、Wmaxは増加、減少を示し、hの増加に伴ってbxma 、Wmax は増加、減少を、bymaxbxyma は増加を示す。bxmax bymaxbyma 、WmaxはExの増加に伴って増加を、Eyの増加に伴って減少を示す。xyの増加に伴ってbxmax bymaxは増加を、bxyma 、Wmax は増加、減少を示す。
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