2006年11月 紙パ技協誌
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紙パ技協誌 2006年11月


第60巻 第11号 和文概要


「環境調和型社会」へ動き出した中国とわが国政府・企業

社団法人日本経済団体連合会 青山  周

 中国の環境政策は二つの省庁がそれぞれのネットワークを形成し,政策を立案・遂行している。一つは国家発展改革委員会を頂点とする中央集権的ピラミッド型のネットワークである。市場経済化が進む中,このネットワークにおいてはマテリアルフロー管理が強化され,「環境」の名の下でさながら計画経済が復活しつつある。もう一つは国家環境保護総局を中心とした市民参加型のネットワークである。国家環境保護総局は社会の変貌を認識して,政策策定方式を改革し,とくに環境アセスメントの分野において公衆の政策参加を積極的に進めている。環境保護政策の遂行において,中国において,環境保護総局,NGO,マスコミの三位一体の構造が生まれようとしている。
 わが国政府・企業の対中協力・ビジネスについては,環境エンジニアリング分野において次第に成果が結実しつつある。経済産業省は国家発展改革委員会と共催で,本年5月,「省エネルギー・環境総合フォーラム」を開催した。日中間の環境協力は今後次第に本格化していくものと見込まれる。
 こうしたBtoB型のビジネスに加え,今後はBtoC型の環境ビジネスをもっと促進させる必要がある。環境分野にすぐれた日本製品の新規市場開拓のチャンスであり,「環境」を通じて日本のイメージアップをはかるチャンスでもある。この分野において成果をあげるためには,市民参加型ネットワークの活用が不可欠である。
(本文6ページ)


水質保全行政の動向(総量規制を中心に)

環境省 水・大気環境局水環境課 閉鎖性海域対策室 高橋 康夫

 東京湾,伊勢湾,瀬戸内海は,人口,産業が集中する広域的な閉鎖性海域であり,水質汚濁防止法等に基づき水質総量規制が行われてきた。その結果,各水域とも汚濁負荷量は着実に削減されている。
 水域の状況を見ると,いずれの水域の環境基準達成率も十分ではないが,東京湾においては明確に濃度の低下傾向を示している。また,東京湾,伊勢湾,大阪湾では貧酸素水塊が大規模に発生する等,具体的な障害を生じているが,瀬戸内海(大阪湾を除く)では,貧酸素水塊の発生は限定的なものに留まるとともに,濃度レベルは他の水域より低い。
 このため,「第6次水質総量規制の在り方について」(平成17年5月中央環境審議会答申)では東京湾,伊勢湾,大阪湾では引き続き汚濁負荷の削減等の対策を進め,瀬戸内海(大阪湾を除く)では,CODについては海域の悪化防止,窒素・りんについては海域の水質の維持を目途として諸対策を継続することとされた。
 今後の課題としては,海域の目標とすべき水質とその評価方法の検討等があり,環境省では18年度から開始する「水環境の枠組み再構築」の中で検討を行うこととしている。
(本文11ページ)


千葉県における産業廃棄物処理の現状

千葉県 環境生活部 産業廃棄物課 北田 博雄

 千葉県では,1999年度には全国の不法投棄量の約40%が集中し,それ以降の3年間,全国ワーストワンという不名誉な結果となった。不法投棄された廃棄物は硫酸ピッチと建築物の解体に伴って発生する木くずと建築汚泥と建築残土などである。
 このため千葉県では不法投棄防止対策として,グリーンアクションチームなどによる監視の強化,千葉県警内における環境犯罪課の設置,千葉県独自の条例制定などの対策を講じ,不法投棄に取り組んできた。
 この取り組みの結果,2004年度には不法投棄量はピーク時の20分の1に減少した。しかし,2004年度末の不法投棄された廃棄物の残存量は約390万tにものぼる。
 そのため千葉県では,業者への撤去措置命令の発動,行政代執行による撤去や処理の推進に取り組んでいる。
(本文18ページ)


土壌汚染問題の解決におけるリスクコミュニケーションの役割

国際航業株式会社 環境ソリューション事業本部 前川統一郎

 土壌汚染対策法の施行後,土地取引の場面をはじめとして土壌汚染調査が各地で行われるようになったが,これとともに,汚染が判明した土地の数も急速に増加している。しかし,一般市民への土壌汚染に関する正しい知識の啓蒙活動は十分とは言えず,土壌汚染による健康被害や地価下落など,土壌汚染が市民生活に与える影響に関する情報のみが広まっている傾向が見られる。このため,土壌汚染問題に直面した人々の不安は大きく,加えて,利害関係者(汚染原因者,土地購入者,近隣住民等)によって土壌汚染への認識が異なることから,円滑な問題解決が困難となっている事案が多く見られる。したがって,土壌汚染問題においても,関係者間の共通の理解を深め合いながら円滑妥当な問題解決のためのベースを作ること。すなわちリスクコミュニケーションの重要性の認識が高まっている。
 本稿では,筆者が経験した土壌・地下水汚染事例において,問題解決にリスクコミュニケーションが果たした役割を紹介し,また,リスクコミュニケーションを進める上での留意点等を解説する。
(本文24ページ)


欧米の環境法規制の動向

株式会社日本紙パルプ研究所 研究部 高木  均

 欧米の主要製紙国の環境法規制の動向について,水環境の面から概説した。
 アメリカでは水汚染防止のために連邦水質浄化法のもと,化学物質管理と生物試験,生物相調査の3手法による統合的な管理がなされている。1998年制定のクラスタールールによる規制にほとんどの紙パルプ工場は適合し,汚染物質の排出量は着実に減少している。
 カナダでは1992年に漁業法の下でニジマス毒性規制を含む紙パルプ排水規制が成立し,1996年以降は汚染物質の排出量が著しく低下した。同時に工場周辺の環境影響モニタリングEEMを全工場に義務づけ,現在4回目の調査が進行中である。紙パルプ工場排水の水生生物への影響に関するデータを国をあげて蓄積し,影響の軽減に努めている。
 EUは加盟国間の協議により統一した思想で環境政策を決定し,これを参考に各国は国内法を整備し,地域全体で同じ水準の環境を維持することを目指している。水管理は2000年の水政策枠組み指令を基本に進められ,総合的汚染防止管理指令IPPCにより最適利用技術に基づく排水基準が示されている。排水規制の中に生物影響項目を加えているのは一部の国に止まっているが,産業排水の生物試験による影響評価を加盟各国で実施している。
 環境改善のための経済的手法としてアメリカでは排出量取引が実施され,欧州では古くから課徴金の制度が定着していて,汚染物質の排出削減に一定の効果をあげている。
(本文28ページ)


わが国の環境法規制の動向

王子製紙株式会社 環境経営部 今宮 成宜

 1990年代に入り,環境関連で多くの法律が公布・施行されてきたが,一部を除き全体としては規制強化の方向にあり,その傾向は今後もしばらく続くものと思われる。またわが国の環境法の大きな流れは,@微量化学物質対策,A温暖化・省エネ対策,B廃棄物・リサイクル対策に区分される。
 今回の環境セミナーでは上記区分の中で,ここ数年動きがある法律及び対応に注意を要する法律について紹介する。その中で廃掃法については,法が適切なリサイクルを逆に妨げる事態が生じており,早期の廃棄物定義の見直し,枠組み見直し等の抜本改正が望まれる所である。現在,環境コンプライアンスの重要性が言われているが,そのためにはまず関連する環境法をきちんと理解・把握し,そのレベルを上げていくことが必要である。
(本文35ページ)


完全非塩素系によるパルプ漂白技術

筑波大学 生命環境科学研究科 大井  洋

 広葉樹酸素漂白クラフトパルプ(LOKP)の完全非塩素系(TCF)漂白のための酸処理技術について概説する。パルプ中のヘキセンウロン酸(HexA)の約70%を除去するためには,pH3,105℃で1時間の処理が必要である。このような酸(A)処理の後に,オゾン(Z)漂白,アルカリ抽出(E)処理,過酸化水素漂白(P)を組み合わせると。最終白色度が85%ISOのパルプ(パルプ粘度15cP程度)が得られる。このA―Z―E―P漂白シーケンスで得られた最終パルプにはHexAはごくわずかしか含まれない。白色度安定性は,塩素系漂白パルプのものよりもすぐれている。
 また,北欧で実施されている針葉樹OKPのTCF漂白の調査結果について概説する。さらに,比較としてECF漂白を取り上げ,ダイオキシン類が生成しないことを証明した報告例を紹介するとともに,TCF漂白との環境インパクト要因を比較する。
(本文45ページ)


最新工場排水監視計器と大気環境監視用分析計について

株式会社堀場製作所 ガス計測開発部  水谷  浩
               水質計測開発部 小椋 克昭

 現在クローズアップされてきている環境問題は地球規模に発展してきている。1960年代に社会問題化した公害問題は局所的な性格が強く,直接被害が及ぶ比較的限られた人々が中心だった。しかしながらいま直面している地球環境問題の対象は,地球に生息する生命体全体であり,国を問わず全世界がこの問題に直面しなければならない局面を迎えている。オゾン層破壊,地球温暖化,酸性雨,土壌汚染,海洋汚染,廃棄物処理など,グローバルベースの取組が必要であり,当時とは質的にも異なる問題となっている。
 環境優先時代における企業活動においては,環境問題を考慮することが課題となっている。産業を成立させるために切り離せないエネルギーや排水処理問題,そして廃棄物問題に対し,バイオマス技術やリサイクル技術が具体的に活用され,紙パルプ産業は積極的に導入を行っている。
 日本の環境規制のスタートである公害基本法の制定から,来年で40年を迎える。この間,様々な対策法が制定されてきた。弊社は,高精度,安定計測を環境分析技術の最優先課題とし,最近では環境負荷軽減化思想を設計段階で折り込みかつ,環境保全に貢献できる環境用計測機器を提供してきた。
 環境モニタリング技術は,その都度高いレベルの要求がなされ,環境対策の歴史はすなわち,環境技術の歴史といっても過言ではないといわれる根拠の証左者でありたいと願って,計測技術の基本に立ち返って従来技術であってもシンプルさであるが故に計測精度も大切すべきであることを追求してきた。ここでは,日進月歩で発展し続ける科学技術の発展と分析技術の融合,そして当社が分析技術と併せて取り組んできた環境負荷軽減技術(例えば省エネルギー化,少資源化,有害元素排除など)を反映した環境計測機器製品について概説する。
(本文50ページ)


当社の煙道排ガスと水質の最新測定機器について

東亜ディーケーケー株式会社 営業企画部 小川  清

 環境大気,環境水質の汚染が問題視され始めてから久しい。確かに,これらの環境汚染は最悪の状態からは脱したといえようが,まだまだ,完全ではない。環境浄化の動きは,今後も継続されていかなければならない。環境を論じるとき,第一になされなければならないことは,その状況の把握であろう。より的確に,より広範に環境の状況を把握することが今後ますます必要となってこよう。以下,環境計測にかかわる動向とそれに沿った分析計の考え方を紹介する。
(本文58ページ)


騒音・振動測定機器

リオン株式会社 計測器技術部 若林 友晴

 騒音・振動は合わせて論議されることが多く,日常生活に最も関係の深い公害問題として取り上げられる。環境白書によれば,平成16年度の典型7公害(大気汚染,水質汚濁,土壌汚染,騒音,振動,地盤沈下,悪臭)の苦情件数は6万7197件であり,その約1/4が騒音・振動に関する苦情である。発生源別にみると騒音の場合は工場・事業場に係る苦情が約1/3ともっとも多く,振動の場合は建設作業振動の苦情が最も多い。
 本稿では騒音・振動の測定器について紹介する。
(本文62ページ)


環境機器について 〜におい識別装置“FF―2A”を中心に〜

株式会社島津製作所 分析計測事業部 喜多 純一

 におい測定の現状を紹介後,におい識別装置の原理を示し,においセンサが従来問題であった湿度影響の問題と,におい質に違いによって,センサ感度と嗅覚感度が異なる問題に対して工夫を行った内容について解説した。その工夫とは,GCMSで良く利用される捕集管を用いての湿度干渉の低減と,におい質を装置自身が判定し,その感度を自動的に補正する解析方法の開発である。また,その応用例として,黒液燃焼炉の煙道臭連続モニターについて紹介した。
(本文68ページ)


リサイクルボイラーの操業経験

三菱製紙株式会社 八戸工場 原質部動力課 鹿糠 広治

 近年,地球温暖化や化石燃料の価格上昇に伴い,製紙業界においても化石燃料からバイオマスへの燃料転換による省エネルギー対策およびCO2排出量削減対策が盛んに実施されてきている。
 三菱製紙株ェ戸工場でも重油からバイオマスへの燃料転換が課題であった。また,既設のペーパースラッジ焼却設備も老朽化が進んでいることから,今回,廃タイヤ・廃木材・工場内で発生するペーパースラッジ・その他の可燃性廃棄物を燃料とするリサイクルボイラーを建設し,2004年7月より操業を開始した。
 運転性能を確認した結果,計画値を全て満足しており,現在も順調に稼働を続けている。また,この設備の稼働により,重油・石炭消費量の削減,購入電力量の削減,余剰電力売電量の増加といったエネルギーコストの削減,及びCO2排出量の削減に大きく寄与することとなった。
 本稿では,このリサイクルボイラーの設備概要及び操業経験について紹介する。
(本文75ページ)


汚泥脱水機ロータリプレスフィルタ
 ―製紙排水汚泥の脱水―

巴工業株式会社 営業技術部 営業技術課 松本 光司

 脱水工程は汚泥の減量化,固形化を行う重用な工程であり,効率の良いものが求められている。また,近年CO2排出による地球温暖化現象への関心の高まりから,脱水性能のみならず低消費動力のものが求められるようになった。ロータリプレスフィルタはカナダのフォーニヤ社から導入し,現在巴工業株式会社で製造・販売している新しい機構を持つ汚泥脱水機である。低消費動力,簡単な構造,省スペース,少ない洗浄水量などの特徴に加え維持管理性でもこれからの時代に適応した脱水機である。導入以来,採用件数は年々増加傾向となっており,日本国内だけでも下水汚泥の脱水,工場排水汚泥の脱水向けなどに44台の納入実績がある。そのうち製紙排水汚泥の脱水向けには11台納入されている。
 本稿ではロータリプレスフィルタの処理性能,導入効果について紹介する。
(本文84ページ)


紙パルプ工場排水の生物影響と生物モニタリング
 ―Vitoria2006までの世界の動向―

株式会社日本紙パルプ研究所 荒木 廣,金子令治,中村亜希子

 本年4月にブラジルで“Vitoria2006”として開催されたInternational Conference on Environmental Fate and Effects of Pulp and Paper Mill Effluentsは,紙パルプ工場排水の生物影響に関する唯一の国際シンポジウムで,過去15年間(1991〜2006),3年ごとに世界各地で開催されて来た。ここでは,これまでのシンポジウムのトピックスを基にして,主要紙パルプ生産国の排水の生物影響アセスメント,毒性および環境ホルモン作用物質に関する研究の動向と,生物を使った排水規制(生物モニタリング)の現状をまとめる。
(本文89ページ)


高品質苛性化軽カルの開発(その1)
 ―形状コントロール方法の基礎検討―

日本製紙株式会社 技術研究所 南里泰徳,金野晴男,後藤任孝
日本製紙ケミカル株式会社 江津事業所 高橋一人

 近年,製紙原料として炭酸カルシウムの使用量が増加している。炭酸カルシウムは,一般に石灰石を粉砕して製造する重質炭酸カルシウム(重カル)と,人工的に炭酸ガスの吹き込み法等により製造される軽質炭酸カルシウム(軽カル)に分類されるが,より高い品質が得られる軽カルは填料としての使用量が特に大きく伸びてきている。そのような環境の中,新技術としてクラフトパルプの苛性化工程を利用した高品質軽カルの製造技術の開発を検討した。クラフトパルプ工場の苛性化工程においては,蒸解白液と伴に炭酸カルシウムが副生するが,この炭酸カルシウム(苛性化軽カルと呼ぶ)を製紙原料として用いることができれば,安価な軽カルが得られるだけでなく,キルンの焼成負荷を軽減する事ができる。しかし,通常の苛性化軽カルは製紙原料として適したものではない。一般には不純物の蓄積が多く,白色度が低い。また,緑液の清澄度が低い場合にも白色度が大きく低下する。さらに填料として用いた場合にワイヤー摩耗性や不透明度が良好ではない。白色度については原料品質,緑液清澄化が重要と考えられ,填料品質については炭酸ガス法による市販軽カルのように形状を制御することで改善ができると考えられる。
 そこで本報では,緑液清澄度の苛性化軽カル白色度への影響について検討した。また,苛性化工程での苛性化軽カルの形状コントロールの基礎的な検討を行なった。その結果,緑液を清澄させることによって市販の炭酸カルシウムに匹敵する高白色度の軽カルが得られることがわかった。また,現行苛性化工程では,生石灰と緑液が同時にかつ連続的にスレーカに添加されるため,消和反応が不十分なまま苛性化反応が始まり,これが不定形の塊状軽カルとなっている主要因である事が分かった。そこで消和と苛性化を基本的に分離し,生石灰品質,消和溶媒,温度等の反応条件を制御した結果,苛性化法によって米粒,紡錘状,針状,イガグリ状の様々な形状の軽カルが得られ,ワイヤー摩耗性や紙の不透明度も向上させることができることがわかった。
(本文100ページ)