2004年4月 紙パ技協誌

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紙 パ 技 協 誌 2004年4月 

第58巻 第4号(通巻第637号) 和文概要


脱墨パルプのサイジングに及ぼす因子の解析
ハリマ化成株式会社 製紙用薬品事業部 中田 智彦,糸瀬 龍次,酒井 一成  

 近年,環境保全・環境問題が世界的に重要視されている。バイオマス資源を多用している製紙業界においても環境型企業の構築が課題となっており,リサイクル化として古紙の利用が急速に進んでいる。2001年の日本国内の古紙利用率は58%であるが,リサイクル56計画の達成を受けて,新たに2005年までに古紙利用率を60%に引き上げるリサイクル60が設定されている。
 このような状況の中で,製紙原料として脱墨パルプ(DIP)がバージンパルプと共に用いられているが,DIPの配合は,ファインの増加,歩留まりの低下,夾雑物質の増加を伴うために,内添薬品の効果を低下させる状況にある。
 DIPの特性は,製造時に使用される脱墨剤の種類,脱墨方法,洗浄工程により影響を受ける。これまでに,リサイクルによる物性変化,脱墨剤の表面張力等の検討はなされているものの,サイジングに与える影響についての検討は少ない。
 本報では,DIPが使用される系において,内添薬品であるロジン系サイズ剤のサイジングに影響する因子の検討の結果,および今回の結果をもとに,このような抄紙系に適した新規ロジン系サイズ剤の設計について述べる。
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環境にやさしい脱墨剤の開発
ライオン株式会社 化学品研究所 山崎 敦,吉田 浩介,金谷昭範,角井 寿雄  

 地球環境保護のために古紙リサイクルは,世界的規模で進められている。そこで我々は,古紙再生薬剤である脱墨剤の開発を行ってきた。しかし,これまでの脱墨剤開発は,その性能向上に重点が置かれ,化学物質である脱墨剤の環境安全性について議論されることは少なかった。
 化学物質を取り巻く環境をみてみると,2001年にPRTR制度が導入され,2003年5月には化審法の改正法が公布された。これらは化学物質の自主的管理強化と人だけでなく生態系や環境への影響評価の強化を目的としている。また,国際的にみても,EUでは2003年5月に新化学品規則案が公表され,事業者の自主的なリスク評価管理が求められている。
 そこで我々は,人及び環境に対して安全・安心な化学物質を提供したいという考えから,従来の脱墨剤を環境安全性(生分解性,魚毒性)の点から見直し,石鹸と同様に「環境にやさしい脱墨剤」を開発した。今回は,その新規脱墨剤の環境安全性と脱墨剤としての基本性能について紹介する。
(本文9ページ)


板紙系におけるピッチ低減方法
星光PMC株式会社 研究開発本部 小菅 雅徳,森尻 哲央,藤井 基治,小川 正富  

 製紙工程においてコロイド状ピッチ粒子の存在およびその状態は操業性,及び紙の品質に大きな影響を与える。古紙の利用率が高まるに伴い,ピッチに起因するマシントラブルは増加傾向にあり,特に近年,板紙系では宅配便等のラベルに用いられるポリアクリル酸エステル系粘着剤に由来するピッチが顕著となっている。このポリアクリル酸エステル由来のピッチは主にドライヤーロールやカンバスにて認められる。
 弊社は,ポリアクリル酸エステル由来のピッチトラブルを抱えるライナーマシンにてタイプが異なる4種類の凝結剤の現場試験を行なった。その結果,これらの凝結剤は,ドライヤーへのピッチ付着量の低減,紙中欠点の減少,及びパルプ濾液中の濁度,アニオン化度の低減に有効であった。
 パルプスラリー中におけるピッチ粒子の挙動と凝結剤の作用メカニズムを解析するため,モデルピッチによる実験を試みた。モデルピッチとしては,市販粘着テープをテトラハイドロフラン(THF)にて抽出して調製したポリアクリル酸エステルのTHF液を用いた。
 このモデルピッチを用いた実験の結果,凝結剤がピッチ粒子の粗大化防止に有効であることを確認した。さらに収束ビーム反射測定法(Focused Beam Reflectance Measurement;FBRM)による粒度分布の測定結果から,凝結剤のタイプによりパルプスラリー中でのピッチ粒子の分散,吸着に及ぼす作用メカニズムが異なることを見出した。
(本文16ページ)


抄紙機各セクションの新しい改造方法―更なる品質および生産性の向上を求めて―
メッツォSHI株式会社 山崎 秀彦  

 メッツォペーパーの最新技術を集積したOptiConcept抄紙機は,既に世界で何台かの稼動実績が上がっている。これらはいずれも高い紙品質と生産性を求められている。なかでも,ドイツで稼動しているワイヤ幅10m,設計抄速2,000m/分のオンラインLWC抄紙機を始めとして,新しく導入されつつある中国のOptiConceptマシンも関心を集めている。
 一方では,新設ではなく既設のマシンの改造によって紙の品質の向上,生産能力の増強,効率のアップなどを目標として,メッツォペーパーは改造技術の開発にも注力している。改造のための技術は個々のマシンセクションごとの改造からなっており,全部を合わせれば効果的なライン改造となる。しかし,実際には一度に全ラインを改造することで改善を図る代わりに,段階的な改造法を採り最大のポテンシャルを達成することになる。
 本稿では,多くのマシンセクションの中からいくつかの改造技術のトピックスを選び,紹介する。
(本文26ページ)


ヒュルツPM1―最新最速の新聞マシン―
アイ・エイチ・アイフォイトペーパーテクノロジー 設計部 野々垣 剛  

 ヒュルツPM1(Hurth PM1)プロジェクトは,世界で最も速く,最も近代的な新聞マシンの建設プロジェクトである。原料は古紙100%であり,設計抄速は2,200m/min,設計生産量は年間28万トンである。各機器にはフォイトの最新の技術が集約されており,世界でも例を見ない新しいメンテナンスコンセプトを導入した第一号機でもある。客先であるラインパピア社(Rhein Papier)ならびにフォイトグループの協力により,順調にスタートアップすることができた。スタートアップ時の抄速は1,560m/minという高速で,その後も高効率で高品質の製品を生産している。さらに,スタートアップのわずか6週間後には1,912m/minというスピードを記録した。
(本文36ページ)


バチルス菌を利用した高度廃水処理システム(JK―BCシステム)―畜産廃水における脱窒例―
伊藤忠産機株式会社 池知 明  

 「JK―BCシステム」とは,活性汚泥法と回転生物接触法をさらに進化させた廃水処理システムで,高濃度に優先培養された「バチルス菌(好気性菌)」を「JK―BC装置(立体回転装置)」と組み合わせることで,在来菌では処理できなかった窒素,リン,悪臭の除去,高濃度廃水の処理等の諸問題を解決し,さらには省エネ・省コストも実現する画期的な有機系廃水処理システムである。
 バチルス菌は,模様が単桿菌形態で不利な環境下でも胞子を作ることができるグラム陽性適性菌。有機系廃水処理の標準的処理システムである標準活性汚泥法で発生する微生物の中にも含まれており,目新しい細菌ではないが,これを優先化培養することで,非常に効果的な特性を発揮する。またJK―BC装置は,接着剤,繊維とも物理化学的にも極めて優れた性質を持つ接触体(塩化ビニリデン系繊維を羊の毛の様にカールさせ,かさ高に並べ,塩化ビニリデン系接着剤で強力に凝縮させた網状体)をベースに開発された装置であり,今までの廃水処理装置の概念を大幅に変える性質を有する。このような双方の特性を第1章では詳しく解説する。そして第2章では,畜産廃水における脱窒例として,既存設備にJK―BCシステムを附設することで,窒素・リン・悪臭まで除去し,高水準の処理水が得られた実際の例を,データーを交えて紹介する。
(本文41ページ)


紙中薬品の分布状態の分析(U)―in―situ観察によるサイズ効果,紙力発現機構へのアプローチ―
荒川化学工業株式会社 研究所 井口 文明  

 従来,製紙用薬品(サイズ剤,紙力増強剤)の性能の発現は,紙中にどれだけの薬品が何%含有されているかと言う“量”の影響が大きいと考えられてきたため,性能評価の一環としては,“量”の評価が行なわれ,実際に定着している“形”については,深い検討はなされていなかった。これは,従来の分析技術では,パルプの微細な構造の観察,パルプ上での薬品の形態や分布について,自然な状態で知る事が容易ではなかったという事情もあった。
 近年の分析技術の発達により,紙・パルプ繊維の表面について,詳細な分析が容易に行なえるようになり,特にSPM(走査型プローブ顕微鏡)によりミクロフィブリル上の薬品の詳細な観察などの分析が可能に成ってきた。
 本報では,新規に導入したESEM(環境制御型電子顕微鏡)により紙のin―situ観察を行った。その結果,パルプ繊維中におけるサイズ剤や,紙中における紙力増強剤の分布状態について新たな知見が得られたので検討結果を報告する。
 内添サイズ剤は,パルプ繊維表面に分布するものとパルプ繊維内部に分布するものとに分けられることが分った。紙力増強剤は,紙の内部に存在するパルプ繊維間強度を強化している可能性があることが分かった。
(本文48ページ)


有機白色顔料を含む塗工層の構造解析
日本ゼオン株式会社 斉藤 陽子,任田 英樹,葛西 潤二  
東京大学 大学院農学生命科学研究科 濱田 仁美,江前 敏晴,尾鍋 史彦  

 近年,塗工紙への要求の多様化に伴い,白紙光沢,白色度,不透明度(光学的特性)に特徴を持たせた塗工紙の開発が行われており,有機顔料の使用が増えてきている。今回,有機顔料を用いた塗工紙の塗工層構造解析を行い,有機顔料の存在がどのように塗工紙の性能アップに効果を上げているのかについて検討した。塗工層の空隙率測定,断面SEM観察,および画像解析処理から,有機顔料を含む塗工紙は,無機顔料(クレイ)だけの塗工紙と比較して,塗工紙表面の平滑性は優れるが,塗工層内部に空隙が多く,無機顔料の配向に乱れが生じていることがわかった。有機顔料の中でも,中空粒子を含む塗工紙はこの傾向が一層強かった。この理由としては,中空粒子自体の持つ空孔の存在と,粒子径の大きいことによる無機顔料の配向の乱しやすさの両方が考えられる。嵩高でかつ光学的特性の優れる塗工紙を製造するためには,有機顔料の存在が重要な役目を果たしていると考えられる。本報では,これらの検討結果について報告する。
(本文56ページ)


省エネから見る工場エアの負荷流量計測手法と漏洩対策
株式会社山武 AACマーケティング2部 泉頭 太郎  

 省エネ法の改正を受け,工場では省エネルギー対策徹底のために,エネルギー使用状況の記録やエネルギー使用の合理化計画の提出が義務づけられている。今や省エネルギー対策は企業において必須課題になってきたといえる。特に強い関心が寄せられているのが,エネルギーの中でも生成,搬送にエネルギーの消費が多い工場エアである。
 弊社では,長年にわたり工場エアの消費量管理のための流量計選定,エア漏洩対策やコンプレッサの台数制御など負荷低減対策などで実績と効果を上げてきた。
 本報では紙パルプ市場における工場エアの負荷低減対策の一例として,負荷流量計測と漏洩対策に焦点を絞り,具体的な対策および対策推進に必要となる工場エア管理用フローメータ「AIRcube」と漏洩個所を特定する超音波検知ツール「リークディテクタU」について紹介する。
(本文64ページ)


紙パルプ関連試験規格の動向―ISO規格の情勢とJISでの対応―
東京大学 大学院農学生命科学研究科 生物材料科学専攻 製紙科学研究室        
紙パルプ技術協会 紙パルプ試験規格委員会委員 江前 敏晴  

 製紙産業の各企業では,紙パルプ製品の管理や基礎研究のデータ収集などにおいて,紙パルプ関連試験規格は重要な役割を果たす。自社の過去の製品や他社製品との比較の際には,試験規格は時空を超えた評価手段を提供してくれる。紙パルプ技術協会の紙パルプ試験規格委員会は,JISの制定やISO原案の審議と投票を主な任務としている。日本の国内規格が貿易の障害にならないように,1998年以来JISをISOに整合化してきた。しかし,現在では国際標準化活動は明らかにヨーロッパ連合やアメリカに国家の戦略として利用されており,日本は窮地に立たされているが,我々は積極的にISO/TC6(紙及びパルプ)のワーキンググループの活動に参加し,日本の製紙産業に不利益にならないよう対処すべきである。
 この報告では,2000年及びそれ以降に発行されたか又は発行予定の最新JIS10規格の内容を要約するとともに,世界の状況を把握するために原案作成作業中のISO19規格についても内容を要約する。
(本文68ページ)


第18回ISO/TC6国際会議報告
紙パルプ試験規格委員会 

 ISO/TC6国際会議が2003年11月3日〜8日に東京で開催された。この会議は,約18か月毎に欧州地域及びその他地域で交互に開催され,第18回に当たる今回は,初めて日本で行なわれた。
 日本は,紙パルプ試験規格委員会(兼ISO/TC6国内委員会)の岡山委員長を代表とし,紙パルプ試験規格委員会,日本製紙連合会及び紙パルプ試験機メーカーから,総勢18名が各会議に分担して参加した。その概要を紹介する。
(本文81ページ)


リサイクルパルプ手すき紙の液体転移特性
東京農工大学農学部 岡山 隆之,吉永 望
東京農工大学工学部 橋詰 研一 

 化学パルプ繊維の構造的性質は,リサイクル処理によって不可逆的に変質する。リサイクル処理に伴って生じるパルプ単繊維の表面特性の変化を,適当な液体を用いた接触角の測定によって特性化した。リサイクル処理を施されるとパルプ繊維に対する水の接触角が著しく上昇した。リサイクル処理がパルプ繊維の表面白由エネルギーを変化させることはなかった。しかしながら,表面白由エネルギーの塩基パラメータはリサイクル処理によって低下した。
 紙の垂直方向(Z方向)および横方向(X―Y方向)への液体の浸透速度を測定するために,2種類の液体浸透性試験を提案した。水の浸透速度はリサイクル回数の増加に伴って大きくなった。これはリサイクルパルプ手すき紙の空隙構造と関係していた。ルーカス・ウォッシュバーンの式を用いて手すき紙の曲路係数を算出したところ,リサイクルパルプ手すき紙の曲路係数は,フレッシュパルプ手すき紙よりも小さくなることが明らかになった。
(本文92ページ)


ゼオライト原料としてのペーパースラッジ(PS)の評価(第4報) ―PS化学組成の月変化と工業生産へ向けた合成法の提案―
静岡県富士工業技術センター 紙リサイクルプロジェクトスタッフ 安藤 生大,杉山  治 齊藤 将人,日吉 公男  
愛媛大学 農学部 松枝 直人,逸見 彰男  
岳南第一製紙協同組合 嶋田 修治        

 静岡県富士市内のPS協同処理組合に所属する16工場から排出された水分込みのPSを,1回/月の割合で6ヶ月間,合計102試料採取し,化学組成の分析とゼオライト合成を行い,以下の結論を得た。(1)灰分量<10%のPSを除外した90試料のPSの化学組成とゼオライト合成結果から,CaO含有量(x)とZ index/10,000(y)の関係を検討し,y=−0.37Ln(x)+1.48の関係を得た。(2)ゼオライト合成の適否及び分布する試料数を調整して,CaO=18.0%,28.0%,32.0%を新たな境界とする領域(A)から(D)を定義した。この結果,@CaO含有率が28.0%以下のPSは基本的にSODとPHIの合成が可能であり,ゼオライト合成に適する。ACaO含有率が28.0〜32.0%のPSは主にSODの合成が可能である。BCaO含有率が32.0%以上のPSはゼオライト合成に適さないことを明らかにした。(3)本研究で検討した90試料の合成結果から,Caの原子比をSi及びAlの原子比で割ったXCa/Si/XCa/Al比の収束値(0.89)を得た。この関係を利用すると,PSのSiO2,Al2O3含有量の一方から他方を計算することができ,CaO含有量と合わせればPSのゼオライト原料としての適否を判断することができる。(4)各工場の鉱物組成は月単位で観察した場合,タルク―カオリナイト―カルサイト3角図において領域(A)に属するPSが領域(D)まで変化することはなく,その逆もない。(5)CaO含有量が低く(1%程度)タルク―カオリナイト―カルサイト3角図における領域(A)内で大きく鉱物組成変化をする“低CaOタイプ”と,CaO含有量が高く(25%以上)主に領域(B)内で大きく鉱物組成変化する“高CaOタイプ”のPSを定義した。(6)全体のPS焼却灰Qは,極めて安定した鉱物組成範囲を示すため工業原料として適する。(7)全体のPS焼却灰Qを原料としてPHIを安定して合成する方法は,Siを添加する方法(Si添加法)が有望であり,添加量はSi濃度=1.0Mが最適である。
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