2003年10月 紙パ技協誌

 

紙 パ 技 協 誌 2003年10月 

第57巻 第10号(通巻第631号) 和文概要


地球温暖化対策―20世紀後半異常社会からの脱却
埼玉大学経済学部 外岡 豊  

 20世紀後半は巨大資本のビジネス競争により世界的な大量消費がなされ世界的な資源の枯渇と環境の破壊を招いた。オゾン層破壊,気候変動,化学物質汚染など地球史的にも異常体験といえる時代であった。持続可能的発展と簡単に言うが20世紀後半の延長上には持続可能社会への入り口さえ見つからないであろう。持続可能社会への再出発点として3千年紀の人類社会の方向性を考え,20世紀後半の異常性を再確認して21世紀前半の日本のあり方を考える。地球温暖化問題はその再出発への合図となる。
(本文2ページ)


地球温暖化問題と課題
経済産業省 製造産業局 紙業生活文化用品課 植田 拓郎  

 1997年12月に京都で開催された気候変動枠組条約第3回締約国会議(COP3)において採択された「京都議定書」の約束を果たすため,エネルギー多消費産業である紙・パルプ産業の地球温暖化対策への取り組みは重要な課題である。しかしながら,最近の景気低迷による企業収益悪化の影響を受け,環境対策に対する投資が懸念される状況にある。そのため,紙・パルプ産業においても環境問題に対処するだけでなく産業競争力を強化することが不可欠である。このような我が国紙・パルプ産業を取り巻く状況を乗り越えていくためにも,紙・パルプ産業の現状と直面する課題を十分に認識しておく必要がある。以上の観点から,地球温暖化問題に関する政府の取り組み,紙・パルプ産業の現状と課題,産業競争力強化に向けた方策などについて述べる。(本文14ページ)


森林の二酸化炭素吸収の考え方
日本林業技術協会 藤森 隆郎  

 森林生態系の二酸化炭素の吸収と貯蔵によって,大気中の二酸化炭素濃度の緩和を図ることは大きな意味を持つ。炭素の吸収促進と炭素の貯蔵量を最大に近い値に持っていくことはどちらも重要であるが,同じ林分で両者を同時に達成することはできない。炭素の吸収速度と貯蔵量は林分の発達段階によって変化し,吸収速度は若齢段階で,貯蔵量は老齢段階で最大値に達する。
 したがって吸収量を高めるためには,若齢段階の後期から成熟段階の前期ぐらいまでを目標林型とし,貯蔵量を高めるためには老齢段階を目標林型にすべきである。前者を達成することは木材生産のための森林管理と同調し,後者を達成することは生物多様性や水土保全など環境保全のための森林管理と同調する。したがって管理目標に応じた目標林型を流域に配置する森林計画の実践が重要である。
 木材を加工するために要するエネルギー量は他の物質材料を加工するために要するエネルギー量より少ないので,持続可能な木材生産を前提とした木材の利用促進は,化石エネルギーの使用削減に連なる。また,木材(廃材を含めて)をエネルギーとして使うことは,その分化石エネルギーの使用量削減に連なり,大気中の二酸化炭素緩和策として大きな意味を持つ。(本文33ページ)


企業における京都議定書対応戦略
三菱総合研究所 西村 邦幸  

 京都議定書は2004年までには発効すると予想される。その場合日本では第一約束期間(2008〜2012)に1990年のレベルから,温室効果ガス排出を6%減少させることを要求されることになる。仮に国内の手段でのみこれを達成しようとすると,日本の産業界にとって大きな負担になると考えられる。既に高度な省エネ対策,すなわちCO2削減策が講じられてきたことが理由である。本報は,京都議定書に対応するために将来の企業戦略を検討することの重要性について述べる。
(本文40ページ)


化学物質総合管理の今後の展開―自主管理と人材育成―
東京農工大学工学部 増田 優  

 1970年代からOECDなどの国際機関において化学物質管理に関する論議が積み上げられ,種々の考え方や原則,そして制度が制定されてきた。こうした動向を踏まえつつ,科学的知見と論理的な思考を基本とする「化学物質総合管理」という概念を提起した。「化学物質総合管理」に基づく活動の柱のひとつが自主管理であり,大きな成果を上げてきた。
 今後の動向は,国際機関の動き見つつ,科学的知見に基づき論理的に思考をすることによって予見可能である。先んじた者が機会を制し,経営にプラスに転化することができる。
 こうした事柄を俯瞰的に論じる学問として「化学物質(総合)管理学」の構築が試みられ,それに基づく人材育成が始まりつつある。
(本文43ページ)


PRTR等,情報公開に伴う企業の対応
ケミカルリスク研究所 星川 欣孝  

 我が国のPRTR制度は,「特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律(化学物質管理促進法)」によって導入され,その第1回集計・推計データが本年3月20日に公表された。NGOサイドでは,横浜国大の浦野教授らや有害物質削減ネットワークがPRTRデータを活用して,事業者に排出量の削減を促す活動を予定している。
 こうした状況を踏まえて,ここでは,化学物質管理促進法の目的,化学物質リスク管理の留意点,およびリスクコミュニケーションの留意点に関する私見を述べる。それぞれのポイントは,法律で規定される「化学物質管理指針」に留意した適切な自主的管理,管理目標値の自主的設定における科学性の追求,および関連政府機関における科学的リスク論に基づく化学物質管理への率先的取り組みの必要性である。
(本文50ページ)


土壌汚染対策法について―現状と汚染リスク―
株式会社環境管理センター 土壌環境事業部 青木 鉦二  

 典型7公害の一つである土壌汚染について具体的に規定する法律は,これまで農用地のみに適用する法律があったが,今回農用地以外も対象とする「土壌汚染対策法」が施行された。しかしながら,土壌汚染対策法は健康被害を防止するため最小限必要な事項を規定した法律であり,その対象範囲は狭く限定されている。この法のみに従って調査の要不要を判断したり対象物質を限定した調査を行った場合,汚染を見落とす可能性があり,企業経営や土地取引に大きなリスクが残る場合がある。このリスクを回避・低減するためには,法を満たすだけでなく,対象地の過去の履歴を踏まえた調査を行い,将来の土地利用計画に即した対策を行うことが必要となる。
(本文57ページ)


水質環境基準の今後の動向
環境省 水環境部水環境管理課 瀬川 恵子  

 水生生物保全のための水質環境基準に関する専門委員会が最近その技術内容を報告した。報告は河川や他の水域における重金属及び化学物質による汚染から水生生物を守るための数値を設定する基本的な考えを示している。特にこの報告は亜鉛の水質環境基準とホルムアルデヒド等3項目の予防的なモニタリング目標の設定の必要性を指摘している。この報告の内容は今後に中央環境審議会の水環境部会にて議論される。
 本報では,水質環境基準の今後の動向について概観する。
(本文76ページ)


最新の欠陥検出システムとその方向性―NASP―マルチ500システムの技術と方向性―
オムロン株式会社 ビジョンシステム事業部技術部 中田 雅博  

 オムロンの検査装置は,NASPシリーズのマルチ500システムにおいて,検出部のテクノロジーを一新し,次世代装置としてさらに変化をとげた。その検出部のベースとなる基本思想は,プラットフォーム思想である。つまり,基本となるデジタルハードウエアに,ロジカル&ソフトをファームウエアとして実装することにより,その本来の機能を発揮する。そのロジックは,ソフトウエアが変更可能なため,製紙業界における日々の要求に応える構造となっている。
 さらに,検出アルゴリズムは,弊社独自開発のデジタル画像処理が組み込まれている。主として淡欠陥・スジ欠陥などが対象となる欠陥である。
 すべての管理情報・調整パラメータ・モニタ機能を上位PCの管理下において自在に扱えるため,リモートメンテナンスの実現間近になり,またその機能を使うことによりユーザビリティの高いシステムとして変貌をとげている。
 このように,当社では,機能・性能・ユーザビリティの向上を図りながら,製紙業界の要求を的確にとらえ,さまざまな提案とその実現をおこなうべく,検査装置の開発を日々行っている。
(本文80ページ)


“イージースプライス”の展開
テサテープ株式会社 岡元 征也,柏原 有紀,向笠 宗孝  

 我々は,2001年紙パルプ技術協会年次大会において,製紙工場向けのイージースプライス・ファーストラインを紹介した。これをきっかけに,わが国の製紙メーカー各社において,採用して頂いた工場が数多くある。我々の新技術がいささかでも,業界のお役に立てたことはまことに有難いことであり,ここで改めて感謝を表したい。
 本報では,特異な構造をもつイージースプライスのペースティング機構について解説し,実用上の問題点と対応策を紹介する。あわせて2001年に紹介した後に達成した世界各地における実績について報告する。
 バイヤスドルフグループに属するテサAGは,ドイツにあって多種類の粘着テープを製造し世界中に販売しているが,製紙工業向けにはイージースプライスを始めとする再パルプ化可能な,いわる水溶性テープを開発・製造している。活発な研究開発投資の一環として自動仕立て装置に適合する新技術を開発中である。現在のイージースプライスは,スプライスの準備作業が,手作業ないしリリーラーを利用した半手作業によるが,全自動機に適合する新製品の開発コンセプトと開発状況を紹介する。また,これまで作業が困難であった,突合せ継ぎ手(バットスプライス)を容易にするイージースプライス・ワインダーラインを紹介する。
(本文86ページ)


第70回紙パルプ研究発表会の概要
紙パルプ技術協会 木材科学委員会  

 第70回紙パルプ研究発表会は,2003年(平成15年)6月16日(月)〜17日(火)の2日間,東京都北区「北とぴあ」で開催された。産官学各界からの発表件数は合計38件で,口頭発表が28件,ポスター発表が10件であった。参加者は約310名であった。発表内容の概要をまとめた。
(本文90ページ)


FE―SEMによるクラフトパルプ表面壁層の帰属
東京大学大学院 農学生命科学研究科 岡本 哲明,飯塚 堯介  

 工場製針葉樹クラフトパルプの表面壁層の帰属を行うため,未漂白,酸素漂白,および完全漂白クラフトパルプを電界放射型走査型電子顕微鏡(Field Emission―Scanning Electron Microscopy:FE―SEM)により観察した。FE―SEMを用いることで,これまでパルプの表面微細構造の観察に用いられてきた透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscopy:TEM)レプリカ法と同等の品質の像を迅速に広範囲で得ることが可能となり,平均的な壁層の帰属を容易に行うことができた。未漂白クラフトパルプでは,試料採取日によらず,その表面はランダムに走行するフィブリルに覆われていた。さらに,このランダムなフィブリルからなる層は,しばしば壁孔を覆っていたことから,この層は一次壁であることがわかった。一次壁が残存していることから,これに隣接するリグニン濃度の高い中間層もパルプ表面に一部残存している可能性が高い。しばしば,未漂白のクラフトパルプ表面のリグニン濃度がパルプ全体に比べ高い値が報告されることは,この一次壁の残存がひとつの原因となっているものと考えられる。
 酸素漂白後のパルプ表面では,ランダムに走行するフィブリルからなる領域以外に,繊維軸に直交する方向に密に走行するフィブリルからなる領域が観察され,この領域は二次壁外層部であると帰属された。両領域が観察される比率は,試料採取日によって異なり,未漂白パルプと同様にほとんどが一次壁に覆われている試料と,両領域の比率が同程度の試料が存在した。前者の試料は,その後の漂白過程で一次壁の剥離が進行し,完全漂白時には半分程度の領域で二次壁外層が露出していたが,後者では,その後の漂白過程では一次壁の剥離があまり進行しなかった。また,試料採取日によっては,完全漂白後のほぼ全ての繊維で二次壁外層のみが観察されることもあった。以上より,蒸解直後に残存している一次壁は,漂白過程でその多く,またはほとんどが剥離し,二次壁外層の露出が進行することが明らかとなった。
(本文114ページ)


環境報告書用紙のライフサイクル・アセスメント
科学技術振興事業団 中澤 克仁,山田 耕平  
三菱製紙株式会社 経営企画部 桂 徹  
八戸工場 庭田 博章  
東海大学 工学研究科 片山 恵一  
東京大学 生産技術研究所 安井 至  

 近年,数多くの企業が環境報告書を発行するようになり,環境的配慮から,白色度が低く,古紙配合率の高い再生紙を使用したものが多くなっている。本研究では,各企業の環境報告書を入手し,そこで使用されている用紙の仕様を調査した上で,LCA(ライフサイクル・アセスメント)手法により,各種用紙の環境負荷分析および環境影響評価を試みた。
 8企業の環境報告書用紙を調査した結果,7企業でDIP100%の用紙が使用されており,3企業が塗工紙の環境報告書用紙を採用していた。塗工紙と非塗工紙におけるCO2排出量について比較した場合,塗工紙の乾燥エネルギーに起因するCO2排出量は少ないが,ラテックス等の塗工薬品の製造に係わるCO2排出量が多く,総CO2排出量も非塗工紙より大きくなることが確認された。また,5種類の環境報告書用紙についてLCI分析を行い,DIP100%配合した用紙は総エネルギー消費量としては小さいが,化石燃料起源のCO2排出量については木材パルプを配合した用紙よりも多くなることが認められた。さらに,3種類のインパクト手法を用いた5種類の環境報告書用紙におけるLCIA結果では,EPS2000法とパネル法における各種用紙による環境影響の差は比較的小さかったが,Eco―Indicator99法では木材パルプを配合した用紙の環境影響が大きくなることが示された。
 今後は,持続可能な森林管理下での土地利用への影響や,再生可能資源としてのバイオマスエネルギーの利用を考慮したLCAについて検討していく必要がある。
(本文119ページ)