2003年6月 紙パ技協誌

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紙 パ 技 協 誌 2003年6月 

第57巻 第6号(通巻第627号) 和文概要


ECF化に適したSAQ蒸解について
川崎化成工業株式会社 技術研究所 田中 潤治  

 蒸解助剤SAQは,“キノン蒸解”の名で広く知られた薬剤であり,数多くのKP工場で長年にわたりご使用頂いている。本稿では,このSAQをECF漂白導入に際して,より有効に活用するという新たな用途を提言している。まず,SAQを使用することにより,パルプ歩留と強度を保持した状態でカッパー価を下げ,漂白負荷を軽減するという効果について述べる。また,スラリー型アントラキノン(通称DAQ)と比較した場合のSAQの優位性を,特にポリサルファイド蒸解と組合せた場合を例にして説明する。最後に,改良蒸解技術への当社の取り組みについても述べる。
(本文1ページ)


ECF漂白でのN材パルプとユーカリパルプの比較
エカケミカルス株式会社 レナート・ミューラー,ジリ・バスタ,リレモア・ホルティンジャー,ゲルト・ヴェーン  

 この報文ではECF漂白及び排水性状についてN材パルプとユーカリパルプとを比較する。検討は酸素を使用しないパルプ及び酸素で前処理したパルプの両方について行った。
 ECF漂白の最適化の検討ではすべてのパルプについて5段シーケンスを使用し,また排水性状の検討でも同様の漂白シーケンスを使用した。但し酸素で前処理したユーカリパルプについては3段シーケンスで漂白した。さらに全ての漂白段からの排水を全部一緒にした排水(コンバインド排水)の生化学処理を行い処理前後の性状を調べた。
 N材及びユーカリの酸素を使用しないパルプ及び酸素で前処理したパルプを5段シーケンスで89%ISO以上の白色度で漂白できた。最適漂白条件についてはN材及びユーカリの酸素を使用しないパルプ及び酸素で前処理したパルプ共に明らかな類似性がある。
 CODの主要成分である,リグニン,炭水化物,メタノール,低分子の酸及び抽出物,の外部処理前後の性状は全有機成分の計算値とよく一致した。その結果,排水中の有機成分はパルプの種類によって変動することがわかった。N材パルプ排水中のリグニン濃度はユーカリパルプ排水と比較して相当高い。N材パルプ排水では排水処理でのCOD減少率が低い。これは生化学処理ではリグニンがほとんど分解されないからである。
 生化学処理によりステロールと樹脂酸はほぼ全量除去されるから生化学処理後の排水のMicrotox,Selenastrum,及びCeriodaphnia Dubiaによる生物検定での反応は見られなかった。
(本文8ページ)


コニカル原理を活用した新しいリファイナーとディスパーザー―ダブルコニファイナーとコニディスク―
相川鉄工株式会社 技術部技術営業3課 青嶋 和男  

 いま,日本の製紙業界では地球環境保護の国際的な協調を目指し,その対策の一環として2010年までに更なるエネルギー10%の低減に取り組んでいる。弊社では,製紙工程の中で最も大きなエネルギーを消費する工程の一つであるリファイニング工程の省エネの可能性を検討し,今回新たにADC“ダブルコニファイナー”の開発に着手し,その第一号機が完成した。このダブルコニファイナーはかつてのコニカル型リファイナーの欠点である刃間隙が広い(溝幅が大きい)ために広葉樹パルプのように短繊維には不向きであったという問題点を解消し,同時に現在広く使われているダブルデイスクリファイナーの持つ操作性,保守管理が容易であるという利点を継承して,両者の利点を取り入れて設計した最新型のリファイナーである。
 一方,コニデイスクは古紙リサイクリングの課題であるオフィス系古紙の利用や粘着物対策の促進と紙力の改善をねらって開発をすすめた新しい高濃度リファイナー(デイスパーザー)である。このリファイナー(デイスパーザー)はコニカル刃物の特長とデイスク刃物の特長の両方を併せ持つ新しい装置である。本稿ではコニカル原理を活用した新しいリファイナーとデイスパーザーを紹介する。
(本文19ページ)


アンドリッツRTSTM―TMP法による省エネルギーとパルプ品質
アンドリッツ株式会社 福沢 民雄,大久保正広,川上 千明  
Andritz Inc. Brad Cort, Marc Sabourin     

 近年,古紙配合が増えてきた。しかし,品質上一定量の機械パルプは新聞紙に配合されている。TMPの難点はエネルギー消費の多いことである。RTSTMメカニカル・パルプ製造システムはアンドリッツ社が開発した新しい低滞留時間,高温,高速の省エネルギーTMP製造法である。パルプ品質は従来のTMPと同等以上が得られる一方,動力消費は15―17%節減される。
 米国南部のパルプ工場の2系列のTMPパルプラインを使って,従来型TMPとRTSTMのリファイニング比較トライアルを実施し,南部産パイン材パルプの品質及びエネルギー消費量を比較検討した。フリーネス及びハンドシートによる物理特性が同等になるように従来TMPおよび新RTS法でメカニカルパルプを製造した。RTSTMの電力原単位は,従来のTMPより,15―17%少なかった。平均繊維長に差は見られなかったが,Bauer McNett分配による繊維分級重量分布を比較すると,中間分級(48/100)の繊維重量は,RTSTMの方が従来TMPより多かった。カレンダー仕上げ新聞用紙の比較では,RTSTMの方が従来TMPより,良好な平滑度を示した。これは,RTSTMパルプ中の繊維長が短いことに関連する。新聞用紙の通気性を測定したところ,RTSTMパルプの方が,若干低いポアサイズ分布を示した。しかしながら,標準的印刷特性テストではRTSTMパルプと従来TMPパルプの新聞用紙に差は見られなかった。
(本文31ページ)


ウェットエンドにおける自動薬品制御の適用 ―オンライン・チャージ計によるウェットエンドの最適化―
ミューテック・アナリティック GmbH ローランド・ビィアガー,リディア・クリステン・ブレイ  
スペクトリス株式会社 BTG事業部 石原 健一                     

 パルプ工程と漂白工程での濃度制御は正確で信頼できる結果を得られており,濃度は工程稼働率を向上させるために制御されなければならない重要かつ基本的なパラメータである。抄紙機において,白水濃度制御は業界標準としてみなされており,この制御戦略は効率的で有益であると証明されてきた。現在,ウェットエンド制御は次世代技術が推進され,リテンション助剤制御と凝結剤や固定剤を高濃度原料エリアで使用したチャージ要求量制御を組み合わせることによりより良い効果を上げている。白水濃度によるリテンション助剤制御は,チャージ要求量制御と平行に展開されており,製紙工程で使われる全ての化学薬品がPM走行性と稼働率に影響を及ぼすこと理解することが重要である。漂白に使用される薬品がウエットエンドへ持ち込まれることは多々あり,リテンション助剤,染料,凝結剤と湿潤/乾燥紙力製品の最終的な効果に影響を与える。
 本報は,ウエットエンド薬品制御分野での更なる理解を深め,リテンション制御とチャージ制御を解明し,また二つの制御のギャップに橋渡しをするものである。
(本文38ページ)


製紙工業向け新型白水ろ過機の紹介
株式会社荏原製作所 環境エンジニアリング事業本部 高橋 知広  

 水の再生・再利用の対象としては,その汚染度の低さと水量の多さから,抄紙白水の再利用が第一に考えられる。一般に抄紙白水は水温が40℃程度と高く,この抄紙白水を再利用することは蒸気使用量の削減にもつながり,抄紙白水を再利用するメリットは大きい。また,この一方で,現状では抄紙白水の再利用が進んでいない工場が多い状況にあり,今後抄紙白水再利用設備の需要は拡大が予想される。
 抄紙白水の再利用技術としては,これまでにいくつかの技術が開発され実用化されてきているが,良好な水質を安定して得られるという観点から,現在まで砂ろ過がその中心となってきた。しかし,従来のろ過機では,マッドボール形成に起因するろ床の閉塞やスライム障害などが起こりやすく,運転の維持管理に問題を生じることがあった。
 弊社では,白水ろ過機における洗浄不良の問題を解決するため,逆洗時にろ材の表層を撹拌できる撹拌機を設置した新型ろ過機を開発した。本報はその概要を紹介する。
(本文45ページ)


抄紙機における微生物問題の診断について
オンデオナルコ カンパニー リンダ・ロバートソン  
オンデオナルコ ジャパン株式会社 石井 康正       

 抄紙機中では多くの微生物が増殖可能である。これら微生物は,肉眼で見られる汚れを形成して,シート欠陥や穴,あるいは断紙も発生する。微生物は,パルプや各種製紙工程薬品の性能低下と腐敗を招くこともある。この腐敗は,繊維の強度低下や製品の品質低下を招く異臭発生やデンプン粘度低下及びその他の多様な問題を起こすことがある。
 トリプトングルコース寒天培地やペトリフィルム(PetrifilmsTM)培地による48時間培養等の様な単純な好気性プレート培養法では,問題を生じる微生物の全てを把握できる分けではない。また,浮遊性(Planktonic)の微生物については,その菌数値と装置表面での汚れ付着量とは相関しない。装置表面に付着してバイオフィルムを形成する微生物は,浮遊性微生物とは異なる性質を持つ付着性(Sessile)と呼ばれるものである。
 このような背景から,微生物に関する問題を診断することが難しい。単純なプレート培養法のみに頼って好気性菌の検出を行うと問題の誤診を招く可能性がある。そして,誤った結論を招く可能性がある。製紙工場での問題を解決するためには,抄紙系に生息している微生物の環境による挙動を全体的に理解しておく必要がある。
 本報では一般に受入れられているプレート培養法の限界について論じ,3つのケーススタディーを用いて,微生物に関する問題を解決するための診断方法を紹介する。
(本文50ページ)


オンライン化による抄紙機の生産性向上―LWC,SC,上質コート紙のオンライン化コンセプト―
住友重機械テクノフォート株式会社 製紙機械エンジニアリンググループ 藤原 洋  

 抄紙機の生産性向上は多様な方法で実現できるが,最新技術を導入した場合より高い生産性の向上が可能となる。その主要な技術として,オンライン化技術がある。これはオフライン工程をオンライン化することで製造プロセスをシンプルにし,生産性の向上をはかるものである。
 品質アップを考えない場合には,リールまで一貫したオンラインプロセスで製造することがもっとも効果的な生産性向上策である。オンライン化は設備投資額の削減,ライン全長の短縮,ランニングコストの削減にもつながる。最新の塗工抄紙機はほとんどがオンライン仕上げかプレコートを行っており,オンラインコーティングは大きなリスクとはなっていない。また,ポリマーカバー及びオンラインマルチニップカレンダの開発により,高速でのオンラインカレンダリングでも良い表面性状を得ることが可能となってきている。通紙についても,新しい通紙装置が開発されオンライン化のボトルネックではなくなっている。このような技術的進歩により,設備の目的や固別条件に合致すればオンライン化は生産性向上に最も有効な手段となる。本報ではオンライン化の現状を具体的なデータを交えて紹介するとともに,オンライン化のコンセプト,オンライン化の特長,LWC,SC,上質コート紙についてのオンラインレイアウト及び適用設備を紹介する。(本文57ページ)


三菱MCCR/MJカレンダ
三菱重工業株式会社 広島研究所 鈴木 節夫  

 オペレータフレンドリーで高生産性(高速*高効率)の抄紙機MJシリーズのカレンダパートには,ロール内部に配置したマルチシューで高精度のキャリパ制御を行える三菱マルチシューCCロール(MCCR)とシュープレスの技術をカレンダに適用したシューカレンダを取り揃えている。
 最近では,高品質な印刷を実現するための表面品質,原料使用量を低減し剛性等の強度を維持する嵩高紙の要求が強くなってきており,嵩高で高品質を特徴とするMJカレンダへの期待が高まっている。
 実機フィールドデータ,パイロット機でのトライアルデータから三菱マルチシューCCロール及びMJカレンダの特徴と性能の概要を紹介する。(本文65ページ)


白紙光沢に関する考察1
日本エイアンドエル株式会社 ラテックス研究所 椎山 栄介  

 塗工紙の優劣を判断する因子として,白紙光沢をあげる人は少なくない。ここ数年,塗工紙の白紙光沢は高まる一方であり,特にA2コート紙の白紙光沢は,10年前より10ポイントほど高くなっているのが現状である。また,デフレ経済の中,アート紙からコート紙へ需要が移行していることもあり,コート紙の高白紙光沢化の要求は一層強まっていると言える。
 塗工紙は,顔料やバインダーから成る混合物体であり,一概に塗工層構成成分の性質から議論できるものではなく,各構成成分の影響については,過去,ほとんど検討されていない。
 われわれは顔料やラテックスの種類・量を変化させて,塗工紙の表面粗さや光学的性質を調べ,白紙光沢との関連について検討を行った。検討の結果,塗工紙の白紙光沢は,塗工紙表面の粗さ(Ra,Sm)との相関が高く,粗さが小さいほど高くなることが確認された。また,粗さの一因子として,カオリンの配向度合いが影響していることが判った。また,塗工紙の白紙光沢は,全反射光中の正反射の割合(本報では正反射分率と定義)との相関が高く,正反射分率が高いほど白紙光沢は高いという結果であった。
 二酸化チタンなどの高屈折率の顔料を使用しても拡散反射が増えるだけで,白紙光沢にはほとんど影響していないということが判った。
(本文70ページ)


2ドラムワインダー技術の改良
フォイトペーパーGmbHクレフェルト ワインダー事業部技術部 ピーター・トリリング  

 2ドラムワインダーの高密度の紙への適用拡大し,この機種の利点である作業性の良さを保持しながら本来シングルドラムワインダーを使用するべき高密度コート紙等に適用する。イニシアルコストもシングルドラムと比較し大幅に低い。従来のスティール製リワインドドラムで何故コート紙等,高密度の紙が大径にワインディングできないのかの大きな理由は巻取ロールの自重によるドラム上との高ニップである。巻取径の小さなロールであれば,2ドラムワインダーでも高密度のコート紙等もワインディング可能であるが,巻太りに従い自重が増加し高ニップ圧が発生しこれにより高い硬度となり巻取ロールレイヤーのスリップ,コアーバースト等多くの不良品ロールの発生につながる。
 巻太りに従いロール自重の増加はさけられない現象であるが,何とか高ニップ圧にならないような工夫はできないかと考え開発したのがJAGFLEXカバーであり,Multi―Driveカバーである。リワインドドラムにこの材質を巻くことによりニップ圧は軽減し,高密度の紙を大径に巻けるようにした。 
 ヨーロッパにおいては一般コート紙,アート紙用に幅広くこのカバーをつけたワインダー,“バリフレックスワインダー”が使用されているニップ圧コントロールに関連してライダーロールにも特殊カバー(ポリウレタン)を付けている。
 ニップ圧を下げることは巻取ロールとドラムの接触面積を増加し単位面積当りの圧力を軽減することである。また,マルチドライブカバーを巻くことによりエヤー巻込みを少なくし巻取ロールのディッシング等を防ぐことを考えている。ニップ圧を軽減することにより,マシンの振動発生を最小限とし巻取ロールの端面ずれ等を少なくする。このように特殊カバーにより巻取ロールの大幅な品質向上,歩留向上につながるものと考える。
(本文77ページ)


容量式電磁流量計による種口流量の測定―効果としての操作性・制御性改善―
横河電機株式会社 フィールド機器PMK部 岡田 高志  
2営紙パ技術Gr 西村 淳  
フィールド機器技術部 田邊 誠司  

 紙の生産量の決定は,種口の流量によって決められる。通常,種口流量は電磁流量計によって測定され,操業条件に振られない安定した出力を得ることは極めて重要なことである。本稿は,紙パルプ某社工場と弊社の協力のもとに現場検証やフィールドテストによって種口流量測定における不安定要因の解析を実施し,電極が流体に接しない容量式電磁流量計をもちいた場合の優位性の実証結果を報告する。不安定要因は,解析によって気泡混入/導電率不均一/電極絶縁物付着という通常の電磁流量計にとって厳しい条件とされる,3つが特定されたことで,今迄あいまいにされてきた問題点が明確となった。これらの要素が何故,容量式電磁流量計を用いることで解決されるのかを考察し,容量式電磁流量計と従来電磁流量計との直列運転によってその効果が確認できた。
 操作性や,制御性の改善効果として,上記工場殿において容量式電磁流量計に変更後のマシン運転中の出力指示落ちは皆無に等しく,紙切れの減少,抄替時間の短縮,などの効果が確認されている。また,定修後の配管内が空状態からの立ち上げでも早期に指示安定性を確保できることも確認された。
(本文82ページ)


音響信号による設備監視―音響診断技術とその適用事例―
株式会社山武アドバンスオートメーションカンパニー        
オートメション・アセット・マネージメント事業部 寺島 真介  

 日本の工業界では,コスト低減のために,プラントのさらなる自動化,省力化運転に対する要求がかなり強い。機械異常の監視や設備診断は,振動法に代表される診断技術と人の五感でのいわゆる熟練により行われているが,それぞれの設備から発生する音響信号を機械異常の監視や設備診断の自動化・省力化に利用することは,聴覚により様々な設備の異常を日常的に発見していることからも,期待されるところである。
 モータやポンプに代表される回転機械の軸受け部の異常や配管からのガス漏洩など,動機械,静機械共に異常の発生とともに可聴域・超音波域の様々な異音が発生することはよく知られているが,人の五感では異常の判定に個人差が大きく,現場の騒音にかき消され異音を捉えられない場合もある。五感によらず暗騒音のなかで,異音成分のみを計測することができれば,音響信号を用いることにより設備管理の様々なメリットが生まれる。
 プラントなどの暗騒音のある中で,対象とした設備から新たに発生した異音成分だけを分離・抽出する技術をIF―ASSETと呼んでいる技術により,プラントの暗騒音の中でのモータやポンプなどの回転機械の異常や配管からのガス漏洩発生の検知に成功している。IF―ASSET技術とは,暗騒音の影響をなくすための超指向性集音技術としてパラボラ集音器を用い,測定した音から通常時として記憶しておいた作動音を含めて,異常検知に不要な雑音成分を取り除き異音だけを強調して捉えるために,信号処理技術として逆フィルタ法を用いている。本稿では現場巡回で5年間IF―ASSET技術を使って回転機械から発生している音響信号の判定を重ねてきた中で異常を発見した事例の一部も紹介する。
(本文90ページ)


リグニン由来の中性ロジンサイズエマルションに対する定着剤の調製と評価
名古屋大学大学院 生命農学研究科 松下 泰幸,安田 征市  

 中性抄紙における中性ロジンサイズエマルションの定着剤をリグニンから調製し,その性能評価を行った。リグニンはクラフトリグニン(KL)とフェノール化硫酸リグニン(P―SAL)を用い,これらを定着剤へ変換するためにマンニッヒ反応とグリシジルトリメチルアンモニウムクロライド(GTA)との反応を適用した。パルプ/サイズ剤/リグニン誘導体の単純な系で定着剤としての性能評価を行ったところ,マンニッヒ反応を行ったKLは定着剤としての性能を全く示さなかったが,マンニッヒ反応を行ったP―SAL(MP―SAL)については高い能力を示した。これらはマンニッヒ反応に用いるアミンの種類により性能が異なり,pKa値が高いものほど,定着剤としての能力が高かった。
 アラムを加えた系では,GTAと反応させたP―SAL(GP―SAL)およびMP―SALはともにサイズ効果を高める役割を果たした。これらサイズ処理した紙をクロロホルム抽出したところ,アラム添加のみの紙はサイズ効果がほとんど消滅したが,アラムに加えてMP―SALおよびGP―SALを添加した場合はサイズ効果が残存していた。従って,MP―SALおよびGP―SALはサイズ剤と繊維表面の結合を強める働きをしているものと思われる。
 MP―SALおよびGP―SALは茶褐色を有しているため,これらの添加により白色度が低下した。クベルカ―ムンクの理論から,白色度85%のパルプではMP―SALおよびGP―SALを0.2%添加すると,それぞれ16.9%および4.3%白色度が低下したが,白色度50%のパルプにそれらを0.2%添加した場合は,白色度の低下は1.9%および0.6%に過ぎなかった。従って,今回調製した新しいリグニン誘導体は高度の白色度を要しない新聞紙や中質紙用の定着剤として使用可能と考えられる。
(本文102ページ)


SAPとミクロフィブリル状セルロース複合構造体に関する研究(第3報)―SAPとミクロフィブリル状セルロースの複合構造体に関する研究―
株式会社日本吸収体技術研究所 鈴木 磨  
東京大学 農学生命科学研究科 飯塚 堯介  

 SAPとMFCの2成分を混合溶媒系に分散して得られる分散スラリーから高吸水性のSAP/MFC複合体を製造するシステムに関して,混合溶媒中で示すSAP及びMFCのそれぞれの単独挙動については「アクリル酸系SAPの親水性混合溶媒中における膨潤,凝集挙動に関する研究」を第1報で,「水と有機溶媒との混合溶媒系におけるMFC及びBCの分散安定法に関する研究」を第2報で本誌に報告した。
 本報告ではSAPとMFCの共存状態のスラリーについて,その安定する条件について検討した結果,次のような結果が得られた。
 1) SAPとMFCの共存効果
 ・MFCはその分散液の示す高粘度効果によるSAPの凝集を防止する。
 ・MFCは微細繊維形状を保って分散しているため,SAP粒子相互の集団的接合を防止し,粘度効果と相俟って均一流動性を維持する。
 ・SAPは分散媒体中の水分を選択的に吸収し,1.5〜2.2倍膨潤する性質を持っているが,MFCと共存させるとMFCはその高い抱水性により分散媒体中の水分を保持するためSAPの膨潤を防止する。
 ・MFCはSAPの膨潤を防止することによって分散媒体組成を長時間に渡って変化させない。
 2) スラリー調整条件の検討
 スラリー調製手順
 ・MFCの水分散液をエタノール/水分散媒体に添加して所定のMFC分散液を調製する。
 ・MFC分散液にSAPを添加分散させてSAP/MFC共分散スラリーとする。
 SAP,MFCの濃度範囲
 ・SAPとしては表面架橋処理を行い,球状の形状を持つ逆相懸濁重合で得られるSAPを選択した方が,分
散安定領域が広い。
 ・SAPの共存限界濃度は20〜40%である。
 ・MFCの共存限界濃度は0.4〜1.0%である。
 SAP/MFC共分散スラリーの経時安定性とシート成形性能
 ・SAPの粒径,比重の影響が大きい。
 ・SAPの粒径が大きく影響する原因はSAPが媒体中の水分を選択的に吸収して膨潤するためである。このSAPの膨潤度は前述したようにMFCを共存させることにより大幅に抑制される。
 ・膨潤度は温度効果が大きく,特に25℃付近になると大きく膨潤するので,15℃以下にするのがよい。
 ・膨潤度にはエタノール/水比,SAP濃度も影響する。エタノール/水比については60/40になると膨潤度が大きくなるので,水比は40%以下にすべきである。
(本文113ページ)