2002年10月 紙パ技協誌

 

紙 パ 技 協 誌 2002年10月 

第56巻 第10号(通巻第619号) 和文概要


環境コミュニケーションのあり方
長崎大学 環境科学部 奥 真美  

 環境コミュニケーションとは,持続可能な社会の実現に向けて市民,企業,行政,NGOといった主体間におけるパートナーシップを確立するために,これら主体間で環境に係る情報をやりとりすることといえる。企業を中心に考えた場合,特に企業による任意の情報開示に関わる部分のコミュニケーションをいかに促進していくかが課題となる。企業は地球市民共通の財産である自然資源を用いて事業活動を行い,その成果を製品やサービスとして地球市民に還元しており,地球市民と企業との関係は資源の委託者と受託者として捉えられる。このことは,企業には事業活動と環境との関連について説明する社会的な責任があると同時に,地球市民には企業活動にともなう情報を知る権利が存在することを意味する。企業が的確に説明責任を果たし,市民の知る権利に寄与していくためには,企業の環境情報を必要としている利用者ニーズを把握することが不可欠であり,すなわち,環境コミュニケーションが図られることが前提となる。環境省が実施している「環境にやさしい企業行動調査」等からは,近年,環境コミュニケーションの重要性に対する認識が企業の中に浸透しつつある傾向がうかがえる。今後,企業が環境コミュニケーションをより一層円滑かつ効果的に促進していくためには,@環境情報を開示する相手と開示目的を明確にしたうえで,相手と目的に応じた情報内容と手段を選択すること,A環境情報の比較可能性,信憑性・客観性,透明性を確保すること,Bオリジナリティを発揮すべく(ネガティブ情報の積極的な開示を含む)創意工夫をすること,C社会においていかなる役割・責任を果たし,社会とどのような関係を築いていこうとするのかに関する将来ビジョンを描くことがぜひとも必要となろう。   
(本文4ページ)


横浜市環境保全協定とその考え方
横浜市環境保全局 公害対策部環境管理課 安藤 保  

 横浜市は,昭和34年に市域の南東部に位置する根岸湾(磯子区,中区)及び本牧地 先に,約300haの埋立を開始した。この埋立地には,石油精製,石油化学,電力,ガス,造船,電機など,日本を代表する大企業の進出が予定されていた。
 これらの大規模工場の進出による硫黄酸化物などの大気汚染物質の排出量は,鶴見区 及び神奈川区の既存工業地帯の排出量に匹敵するものと予測され,今後の大気汚染が懸念された。
 横浜市は,この埋立地域における事前公害調査(シミュレーション)を実施し,シミュレーション結果をもとに,学者グループに提言を求め,さらに当時としては画期的な内容の「公害防止協定(契約)」を生み出した。
 横浜市の公害防止協定の締結は,昭和39年に電源開発(株)磯子火力発電所の進出を第 1号として,その他の進出企業とも次々と締結することとなった。その内容は,燃料の良質化あるいは生産工程の一部変更など,「元から絶つ」という公害対策の一貫した認識に立つものであった。この思想は,現在の横浜市の規制指導に活き続けている。
 さらに,大規模な研究施設の新増設にも適用し,また,内容的にも,それまでの大気汚染防止対策中心であったものから,騒音防止対策や水質汚濁防止対策など,その他の公害対策を盛り込み,総合的な公害防止協定(一部環境保全協定に切替)として締結されることとなった。
 本稿では,横浜市における環境保全協定の内容,意義,成立の経緯等と現状について述べる。
(本文10ページ)


企業の環境コミュニケーション―NGOが企業に期待すること―
バルディーズ研究会運営委員 角田季美枝  

 環境コミュニケーションは情報共有が前提となる。適合性,信頼性,理解容易性,比較可能性,検証可能性,明瞭性などの情報開示の質的側面は,環境情報開示においても必要である。また,環境コミュニケーションでは発信者が‘6W1H’を押さえることも必要である。
 日本のISO14001取得企業の情報開示を調査したところ,環境情報開示は積極的に推進されていなかった。環境マネジメントシステムを導入している企業は環境情報開示や環境コミュニケーションに積極性を示してほしい。
 情報開示の主要な媒体である環境報告書を,現在,公表する企業が増えている。しかし他社比較ができるようになっていない。業界共通の開示項目や指標による比較可能性の促進を期待したい。なお,環境報告書の最新動向として注目されるのは,(1)持続可能性報告への流れ,(2)電子媒体の活用,(3)サイトレポートの発行である。
 環境コミュニケーションで最近注目されているのは化学物質のリスクコミュニケーションである。PRTR法によって今後促進される分野である。化学物質のリスクコミュニケーションは,相互理解と信頼構築のプロセスである。利害関係者は安全だけではなく安心を欲している。安心につながるようなコミュニケーションをする必要がある。
(本文16ページ)


環境コミュニケーションの実践
旭硝子株式会社 環境安全室 大歳 幸男  

 PRTR法が施行されたのをうけて平成14年6月30日までに,各社ではPRTRの法律に従って化学物質の排出量についての届出作業が行われた。本稿では,その結果がどのような形で公表されるかを考えながら,環境コミュニケーションの実践に関して説明したい。
 PRTRの排出量をベースにリスクについてきちんと話をすることをリスクコミュニケーションと言うが,化学物質の管理の仕方に対する考え方は,企業と一般市民とに大きなギャップがある。一般市民と企業のこのギャップをどう埋めていくかがリスクコミュニケーションで重要な点である。リスクコミュニケーションの具体的な手法にも触れたい。
(本文25ページ)


循環型社会形成に向けての将来展望
エコマネジメント研究所 森下 研  

 21世紀において私たちは,現行の大量生産・大量消費・大量廃棄型の社会経済システムを変革し,持続可能な環境保全型の社会を構築していかなければならない。そのためには社会経済活動の中に占める地位が極めて大きい事業者の,自主的,積極的な取組が必要不可欠となっている。事業者にとって,より少ない資源・エネルギー消費と廃棄物等の排出により,より質の高い事業活動を行っていくことや,新しい環境配慮型の製品やサービスを提供していくことなどは,経営にとってもメリットをもたらすものとなってきている。また,事業者は環境に関する情報を公開していく社会的責務があり,環境マネジメントシステム,環境パフォーマンスの状況や,環境会計情報等を取りまとめた環境報告書を作成して広く社会に公表し,消費者,投資家,取引先,地域住民等の利害関係者(ステークホルダー)との環境コミュニケーションを行っていくことの重要性が高まってきている。積極的な環境コミュニケーションは,事業者が事業活動を自ら改善していくとともに,環境保全に積極的な事業者が適切に評価され,社会からの信頼を勝ち得ていくことに大きく役立つと考えられる。
(本文32ページ)


RPFの現状と今後の見通し
株式会社関商店 代表取締役 関 勝四郎  

 RPF(Reuse Paper & Plastic Fuel)は廃棄物リサイクル燃料として注目されている。その原料は,大手印刷会社や大手電機会社から選別された回収された古紙と廃プラスチックである。まず,それぞれを,多段の破砕機で40ミリ角以下に破砕する。これを,定量的に配合して成型機に供給し,直径8ミリ,長さ10ミリのペレットに成型する。このペレットの発熱量は6,000―8,000キロカロリーで,ボイラー等の固形燃料として利用されている。現在の生産量は1万トン/月で,増産を計画している。平成17年には年間60万トンの需要が見込まれている。本報告では,その製法を具体的に紹介する。
(本文40ページ)


産業廃棄物実態調査結果報告
日本製紙連合会 技術環境部 波多江正和  

 平成12年度の廃棄物実態調査結果の概要を紹介する。
 カバー率は,88.4%でここ数年では最も高い数値となっている。
 産業廃棄物の発生量は,対前年比約6%強の増加となっているが,生産量が約10%増加していることが主な要因である。発生量原単位をみると,約3kg/トン減少しており,その分だけ発生量の増加を抑制していることになる。
 分母を発生量とした再資源化率は,48.1%(対前年比1.3%),分母を排出量(再資源化量と最終処分量を合計した量)としたリサイクル率は,81%(対前年比3%)と向上している。最終処分量は,対前年比約11%減少し製品当りでも2.3%減少となっている。
 有効利用(再資源化)調査では,用途別利用状況,廃棄物種類別利用状況ともに前年との大きな変化はない。用途別では,セメント等の窯業原料が約6割を占め,種類別では,有機性汚泥(焼却灰)と石炭灰(もえがら・ばいじん)で約9割近くとなっている。
 実態調査の主要データ推移では,排出原単位が89年度の74kg/トンが2000年度では58kg/トンと22%減少していること,排出物の含水率が50%台から30%台へ低下していること,最終処分原単位が約80%減少していることなどが注目される。
 日本製紙連合会の廃棄物の減量化目標(最終処分量:有姿)も90年比76%減の612千トンと2010年目標値に対して達成率は92%となっている。なお本報告では,特に断りのない限り発生量等の廃棄物の数値は絶乾ベースである。(本文45ページ)


第69回紙パルプ研究発表会の概要
紙パルプ技術協会 木材科学委員会  

 第69回紙パルプ研究発表会は,平成14年(2002年)6月17日(月)〜18日(火)の2日間,東京都北区王子「北とぴあ」で開催された。発表件数は,産・官・学各界から,口頭発表30件,ポスター発表10件,合計40件で,参加者は250名であった。発表内容の概要をまとめた。(本文54ページ)


ドライパート汚れに起因する欠点防止対策(その1)―欠点発生のメカニズムとその防止対策について―
株式会社メンテック 販売技術部 山田 明尚  

 近年,古紙の高配合や中性化などにより,ドライパート汚れに起因する製品欠点の問題が深刻化しつつある。一方,ピッチコントロール剤の内添やドクタリングの強化といった従来の対策では十分な効果を得られていないのが現状である。当社では既に,オイルやワックスをベースとした汚れ防止剤をシリンダやカンバス表面に散布し,紙粉やピッチ汚れの付着を防止するシステムを実用化しており,本稿ではこのシステムによる欠点防止対策について報告する。
 ドライパートにおいては湿紙上の粘着異物が,シリンダやカンバスの表面へ付着し,表面上で成長した後,紙に転移することにより欠点が発生する。実際に工場を訪問し,抄紙機や欠点サンプルの調査および操業担当者とのインタビューにより,欠点の原因となる汚れと発生箇所を推定し,適切な装置(ミストランナー・カンバススプレーズ)と設置場所および薬品を提案した。結果としてライナーM/Cにおいては
 ・欠点数の大幅な減少
 ・紙切れ回数の低減
 ・汚れ損紙の低減
 ・乾燥効率のアップ
などの成果を得ている。
(本文74ページ)


印刷モトルに関する一考察―ダブル塗工におけるアンダー塗工層の影響について―
日本エイアンドエル株式会社 ラテックス研究所 河野 務  

ダブル塗工紙の印刷モトルとアンダー塗工層の特性について検討を行なった。
実験では,平滑性の異なる原紙にラボコーター(MLC―100)を用いて塗料配合や塗工量を変えたアンダー塗工紙を作成し,アンダー塗工層の繊維被覆率,表面粗さ,水浸透性とトップ塗工をした後のダブル塗工紙の印刷モトルとの関係について調べた。
 アンダー塗工層の繊維被覆率は,アンダー塗工層の表面粗さよりもダブル塗工紙の印刷モトルに大きく影響し,印刷モトル改善を考える上でアンダー塗工層の繊維被覆状態を確認する必要性を示唆した。また,水浸透性の異なるアンダー塗工層を形成する2種類の塗料配合を用いた検討では,アンダー塗工層の繊維被覆率が100%になる最低塗工量を表わす繊維被覆臨界(CFC:Critical Fiber Coverage)塗工量を境界に塗料配合の印刷モトルに対する傾向が異なることが確認され,使用原紙のCFC塗工量の見極めがアンダー塗料配合を設計する上で重要であることを示唆した。
(本文82ページ)


フェルト洗浄装置「シャワーロール」について
株式会社青木機械 システムエンジニアリング事業部 亀山 寿夫  

 弊社は製紙産業の盛んな富士市において創業以来一貫して製紙関連設備の据付改修工事を主な業務としている。昨年より長年にわたる経験と技術をもとに新発想のフェルト洗浄装置「シャワーロール」を開発,販売に至った。近年製紙原料のリサイクルが重要視される中,故紙の品質も低下し抄紙用具の汚れ対策が問題視されている。従来からの高圧シャワー洗浄での脱毛やシャワーミストでの作業環境悪化等の諸問題を解決できる画期的な洗浄装置である。洗浄は低圧シャワーとロール表面のスリットにより「もむ」「たたく」「かきおとす」の相乗効果によって高効率なフェルト洗浄を可能にした。効率的な洗浄により通気度の保持並びに低圧洗浄によって脱毛もなくフェルト寿命が延びたデータも出ている。設備動力も100W程度の省エネ設計としている。現在は他の抄紙用具にも適応するシャワーロールの開発も進めている。
(本文88ページ)


コーター給液システムにおけるコーティングカラーのオンライン計測―メッツォ・ケム社 カラーマットシステム―
日本ユー・エス・マシナリー株式会社 営業部 竹下 陽介  

 これまでコーティングカラーの品質管理は試料の定期的サンプリングをラボで分析する方法が取られてきた。しかし,現在の生産現場においてこの方法では不具合発生から対策を講じるまでに時間がかかり有効な対策を打つまでに相当量の不良品の発生が避けられなかった。特にコーターの速度が上がった現在カラーの連続的オンタイム分析が必要となってきている。一方ではカラー流量を減らし生産効率を向上させる必要からコーティングカラー連続メークダウンシステムが考案されており,このシステムではカラーのオンライン分析が不可欠である。
 カラーマットは温度・固形分値・エアー分値・レオロジーをオンラインチェックし,自動洗浄装置もついた信頼性の高い装置となっている。また,本装置はどのようなDCSシステムとも接続可能である。既に欧州の製紙会社には多くの実績を持っている。コーターの走行性・紙質の向上・紙品質管理にはコーターヘッドに近いポイントでのオンライン計測が非常に重要になってきていることは言うまでもない。
(本文92ページ)


脱墨工程の界面化学―オフィス古紙の脱墨に関するインキの表面自由エネルギーと脱墨剤の関係―
日本製紙株式会社 技術研究所パルプ研究室 後藤 至誠,宮西 孝則  

 古紙のインキ剥離性に関する脱墨剤の効果を明らかにするため,インキの表面自由エネルギーを指標として脱墨剤の表面張力との関係について調べた。各種インキ(トナーインキ,インクジェットインク,新聞用オフセットインキおよびヒートオフセットインキ)について表面自由エネルギーを測定した結果,トナーインキが最も低エネルギー表面で疎水性が高く,インクジェットインクが最も高エネルギー表面で濡れやすかった。これらの結果を元にインキとインキおよびインキと繊維との付着エネルギーを求めたところ,トナーインキおよび新聞用オフセットインキの付着エネルギーが大きく,繊維に再付着しやすいことが示唆された。新聞古紙およびトナー印刷物を用いた脱墨実験の結果,新聞古紙とトナー印刷物ではインキ剥離に最適な脱墨剤の表面張力が異なっており,インキ剥離性が最大となる脱墨剤の表面張力は各インキの表面自由エネルギーのファンデルワールス力成分とほぼ一致していた。
 更にトナーの微細化に関する脱墨剤の影響を調べるためフローテーター前後のヘアリートナー(繊維に融着した未剥離粗大トナー)比率を測定した結果,ヘアリートナーはクリーントナー(遊離トナー)に比べてフローテーションで除去され難くかった。トナー剥離性の優れていた脱墨剤は,トナー剥離性の劣っていた脱墨剤に比べて,ヘアリートナー比率が小さく,トナーの微細化に優れていた。従って,表面自由エネルギーを指標とすることで,これまで測定が困難であったインキと脱墨剤の親和性についての知見を得ることができ,適切な脱墨剤を使用することでインキ剥離性を向上できると考えられた。
(本文104ページ)


漂白クラフトパルプ及び古紙パルプのオゾン処理(第2報)―漂白クラフトパルプのオゾン処理における紫外線及び過酸化水素の併用―
東京農工大学 農学部 山本 諭        
富士ゼロックス株式会社 メディア研究開発部 古賀 千鶴,細村 弘義  
東京農工大学 農学部 岡山 隆之      

 前報では,塩素系漂白パルプにオゾン処理を施すと,パルプ中に含まれる塩素化合物成分が減少すると共に,白色度及びシート強度が向上する傾向が確認された。本報では促進酸化処理法の応用として,漂白クラフトパルプのオゾン処理時に紫外線及び過酸化水素を併用し,オゾン/紫外線,オゾン/過酸化水素,及びオゾン/紫外線/過酸化水素の各組み合わせによる処理がパルプ中の塩素化合物の変化およびパルプ繊維の諸物性に及ぼす影響を検討した。紫外線として,波長及び出力の異なる3種類の光源を使用し,過酸化水素の添加量や保護剤の有無など,反応条件を変化させて処理を行った。処理後の試料について,塩素化合物の指標である全ハロゲン(TX)及びエタノール抽出有機ハロゲン(EOX),ろ水度,保水度,極限粘度数,引張強さ,比散乱係数などを測定した。
 オゾン/紫外線の組み合わせでパルプを処理すると,パルプ中の塩素化合物の指標である全ハロゲン(TX),エタノール抽出有機ハロゲン(EOX)は,いずれもオゾン単独処理の場合よりも低くなった。一方,オゾン/過酸化水素の組み合わせでパルプを処理した場合には,白色度ならびに引張強さが大きく向上した。オゾン/紫外線/過酸化水素の組み合わせでは,引張強さの向上が顕著に現れた。また,処理後の手すき紙の引張強さ並びにゼロスパン引張強さの測定結果から,オゾン処理によるシート強度の向上は,繊維間結合強さの増加によることが示唆された。
(本文114ページ)