2002年7月 紙パ技協誌

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紙 パ 技 協 誌 2002年7月 

第56巻 第7号(通巻第616号) 和文概要


パルプ製造技術概論
王子製紙株式会社 製紙技術研究所 岩崎 誠  

 本報告は4章からなっている。第1章では,わが国における製紙原料の変遷の概略を紹介した。第2章では,各種パルプ化法の製造法について述べ,最初はKP製造法について紹介し,アルカリパルプの生い立ち,ソーダ蒸解の発明,KP法の発明と変遷,SP法とKP法の比較などを述べた。続いてDIP製造法については,わが国での発展の歴史および一般的な製造方法の要素となる離解,除塵,脱墨,洗浄および漂白技術を紹介した。さらに,MPについては各種パルプ化の特徴,フローおよび製造されたパルプの特性および生産量の推移についても述べた。第3章では,わが国KP製造での近年のトピックスとして,@AQ添加蒸解,A酸素二段晒の開発経緯を紹介した。一方,DIP製造でのトピックスとしては,B新聞インキの変化(凸版インキからオフセットインキ)に伴う技術革新,C市場での品質要求の変化(新聞古紙用の50%前後の白色度レベルからPPC用紙用の70%以上のレベル)に伴う技術革新を紹介した。最後に,わが国では,今まで,主に原料の変化や環境問題へ対応するため技術が発展してきたように見えるが,今後は,紙パルプ産業は資源と環境と共生した産業であることを念頭に入れて,DIP製造は勿論KPにおいてもリサイクル技術を武器にすれば,CO2問題などにも積極的に関与できるとの考えを述べた。
(本文3ページ)


古紙処理技術概論
大昭和製紙株式会社 生産技術本部生産管理部 磯野陽一郎  

 森林資源保護・都市ゴミ対策・省エネルギー対策等,地球環境保護といった社会のニーズに対応するため,国内では現在2005年度までに古紙利用率60%を目指す“リサイクル60計画”が進行中である。ここ数年においては,古紙プラントの新設もあり,2001年の古紙利用率実績は既に57%に達している。これは,最近の古紙処理技術の向上が大きく寄与した結果とも言える。
 特に,注目すべき技術は,スリットスクリーンおよびフローテーターの高性能化である。前者に関しては,スリット幅の極小化が可能となり,スティッキー・ダート除去率が著しく向上した。後者に関しては,高機能脱墨剤との組み合わせ技術により,インキ除去率が飛躍的に向上した。
 その結果,これらの技術は,古紙利用率が低く問題であった情報用紙・印刷用紙分野における高品質再生紙の製造を可能にした。
 そこで,このように進化した最近の古紙処理技術の概要を紹介し,併せて古紙処理システムの基本設計をする場合にはどのような点に留意すべきかについて,若干述べることとした。
(本文19ページ)


古紙パルプ脱墨技術の基礎
花王株式会社 化学品研究所 入夏 裕一  

 紙パルプ業界では,古紙リサイクル率60%を目標として古紙利用拡大を進めている。このような状況下,脱墨技術の更なる向上が求められる。脱墨は装置産業的な色合いが濃いが,個別の現象は界面現象として理解できる。脱墨はインキ剥離工程とインキ除去工程よりなり,特にインキの粒径の制御がポイントとなる。パルプ中の残留インキは細かい物ほど品質を悪化させるが,インキ除去工程であるフロテーションにおいて,気泡で除去されるインキは,約4μm以上の粒径では95%以上除去されるのに対して,4μm以下のインキは除去されにくい。インキ剥離の優劣は,印刷物の印刷界面への薬剤の浸透性が要求されるが,フロテーション工程では,上述したようにインキの凝集性が要求される。これらの界面現象の制御に脱墨剤は関与している。
 今後,従来あまり用いられなかった,雑誌古紙等の低級グレード古紙の利用が増加することが予測される。このような状況に対して脱墨剤への要求性能は,インキ剥離性の向上,粘着物によるトラブルの低減,等があげられる。インキ剥離性は,界面化学的なアプローチから脱墨基本性能の向上検討を行った。その結果,従来型脱墨剤に比較して,約20%程度の性能向上を確認した。また,気泡による粘着物除去率の高い界面活性剤構造を見出し,この界面活性剤の粘着物除去率が,従来型脱墨剤に比較して,約1.2倍程度向上することが解った。
 従来,我々は,脱墨剤はインキを除去する薬剤であるとの認識であったが,今後我々は,脱墨剤を抄紙原料としてパルプ物性まで考慮した脱墨パルプを得るためのパルプ再生用薬剤の位置付けで開発していく必要があると考えている。
(本文30ページ)


古紙パルプ漂白技術の基礎
三菱ガス化学株式会社 東京研究所 腰塚 哲夫  

 2000年度における過酸化水素の生産量は145,744tであった。この内パルプ向けの需要は71,237tであり,その比率は48.9%に達している。また,このパルプ向け需要の約60%は古紙パルプ向け需要と推定されており,古紙パルプは過水マーケットの重要な分野の一つである。
 漂白剤として酸化剤7種(塩素,次亜塩素酸塩,二酸化塩素,過酸化水素,酸素,オゾン,過酢酸),還元剤3種(ハイドロサルファイト,ソジウムボロハイドライド,二酸化チオ尿素)について紹介し,この中で特に古紙パルプの漂白に重要な過酸化水素,ハイドロサルファイト,二酸化チオ尿素について詳細に説明した。
 過酸化水素については,金属による分解,インクによる分解,ニーダーの熱による分解,カタラーゼによる分解について説明し,その対策を紹介した。
 ハイドロサルファイトについては,空気による分解,水による分解及び発火について説明し,その対策として窒素中で連続的に溶解し,漂白現場へ供給できる「HSマスター」(MGCで開発)を紹介した。
 二酸化チオ尿素については,オンサイトで製造できる「フォスブルシステム」(MGCで開発)を紹介した。
(本文39ページ)


雑誌古紙の利用拡大に向けて―紙のリサイクルに適したホットメルトの開発―
旭化学合成株式会社 技術部 矢次 茂  

 紙原料資源調達や最終処分場の能力不足等,深刻化する都市ゴミ減量対策のため,従来ゴミとして焼却処理されてきた紙類を古紙として回収,再利用する施策が推進され,平成7年の所謂リサイクル法の改正を機に,製紙業界においてもリサイクルし易い製品の開発,すなわちリサイクル対応型の商品開発は,紙リサイクル分野での資源循環型社会構築に貢献するためにとりわけ重要な課題となり,それに向けての各種の取り組みが急速に進められている。
 リサイクル60計画(平成17年度までに古紙利用率を60%に向上する)は現在すでに板紙への利用率90%であることを考えると,紙への利用率30%を,特に印刷情報用紙などの分野での利用率をいかに向上させるかにかかっている。
 雑誌製本分野では優れた生産性のためにホットメルト接着剤が急速に普及してきたが,このホットメルト接着剤がリサイクル化の妨げの一つとなっていると言われている。
 そこで,国庫補助事業である「リサイクル対応型紙製商品開発促進対策事業」を推進するために,財団法人古紙再生促進センターの委託を受けた日本印刷産業連合会がリサイクルしやすいホットメルト接着剤の開発促進を目的に「リサイクル紙製商品研究委員会」を設け,リサイクルしやすいホットメルト接着剤の試験方法を調査研究し,今後のあり方を提言した。
 ここでは,接着剤の分類,接着機構,リサイクル対応型ホットメルト接着剤の考え方を述べ,さらに,難細裂化ホットメルト接着剤として認定するための標準化された簡易型評価試験方法(一次評価法)について報告する。
(本文52ページ)


リサイクルによる古紙パルプの物性変化について
東京農工大学 農学部 岡山 隆之  

 2001年における日本の古紙利用率は58.0%に達したが,印刷情報用紙への古紙の使用は,夾雑物など外観上の問題や強度,白色度の品質低下が原因となり限られてきた。高品質の用紙に対する古紙の利用を促進するためには,リサイクルパルプ繊維の基本的な性質を理解する必要がある。本報告では,リサイクルパルプ繊維の製紙適性について概説する。
 クラフトパルプに数回の乾湿繰り返し処理を施すと,パルプ繊維の微細構造が変質するだけでなく,紙の引張強さを中心とする強度特性が低下する。リサイクル処理によってパルプ繊維細胞壁内にはデラミネーションや亀裂のような形態的変化が生じている。一方,溶質排除法によって測定されるパルプ繊維細胞壁内の細孔容積はリサイクル回数の増加に伴って減少する。すなわち,リサイクルに伴って生じた繊維内部の細孔構造の収縮は容易に回復することはない。したがって,リサイクル処理中に紙の引張強さの低下が大きなクラフトパルプは膨潤性が低下して繊維間結合能力したものと考えられる。
 リサイクル処理による強度特性の変化はパルプ繊維の形態的特性と密接に関係している。特に,パルプ繊維のルーメン直径と繊維幅の比はリサイクル処理による強度特性の変化を予測する重要な因子である。
 また,クラフトパルプ繊維に対する水の接触角がリサイクル処理によってかなり大きくなることから,リサイクルパルプ繊維はフレッシュパルプ繊維に比べて疎水性になっていることは明らかである。これは,リサイクル処理による繊維表面の不活性化と関係があり,いわゆる「不可逆的な角質化」の結果といえる。
 加速劣化処理による広葉樹漂白クラフトパルプ繊維から調製された中性再生紙の劣化は,従来の中性紙と同様のレベルにある。
(本文62ページ)


古紙脱墨処理技術の理論と実際―脱墨プロセスは“Separation Technology”の集約とシステム化―
相川鉄工株式会社 金沢 毅  
 かつてのオイルショック以降の省エネルギーへの取り組み,そして昨今の世界的な森林資源や環境保護運動の高まりと共に,機械パルプの代替から始まった脱墨プロセスは,最近ではBKP代替の白物DIPの生産にまで大きく進展してきている。板紙用古紙処理と違って,高品質を要求する最近の脱墨プロセスは薬品の助けを借りたインキの剥離分散や粘着物や難脱墨インキの除去のために益々複雑になってきた。このように多岐にわたる分野での技術的検討が必要なことから脱墨プロセスの設計は難しいと言う印象を与えてきた。
 しかし,元々,製紙業界では古くから古紙原料のリサイクリングに取り組んできており,脱墨技術と言えども,それらの技術の蓄積の上に構築されてきたものであると言える。その工程は,Repulping,Contaminant Removal,Upgradingの三工程に集約される。そしてこれらの工程をSeparation Technologyというキーワードで括ることによって複雑に見える脱墨技術も比較的平易に理解できるようになると思う。そこで本稿では”Separartion”という視点から最近の古紙脱墨処理技術について述べる。
(本文69ページ)


古紙処理設備の理論と実際
株式会社アイ・エイチ・アイ フォイト ペーパーテクノロジー エンジニアリング部    
江口 正和  

 地球温暖化防止,資源の保護やごみ問題から古紙の有効利用を唱える空気は,益々強まる一方,処理後の古紙パルプに要求される品質やコストに対する要求もその厳しさを増している。
 製紙各社が総力をあげて取り組んでいる2005年の古紙リサイクル率60%達成のためには弊社推定では毎年約1,500T/Dの古紙処理能力アップが必要であり,その殆どは印刷用紙分野に向かうと思われる。板紙分野おいては既に古紙利用率は95%を超え頭打ちであるが,古紙利用率がアップする余地は板紙表層のUKP,BKPの古紙への置き換えであるのに対し,印刷用紙分野は古紙処理技術の向上も相まって新聞用紙へのDIP配合率アップ,コート紙,中・上質紙への高白色度DIPの配合が古紙利用率アップに拍車をかけている。実際ここ数年の設備投資動向を見るとDIP増設は約1,000T/D/年のペースで進んでおり,古紙利用率アップの中心は印刷用紙向けDIPであることが裏付けられている。
 本報では古紙処理設備としては最も複雑なONP―DIP設備を例に理論と実際,これまでの常識と革新技術について機械設備メーカーの立場からご照会する。
(本文90ページ)


古紙利用の現状と今後の課題
日本製紙株式会社 研究開発本部開発企画部 竹下 登  

 製紙産業の古紙利用,再生製造の全体像を展望し,今後の課題について解説した。
 近年古紙利用が急速に進み,2001年には58%に到達すると予想されている。この主な要因としては古紙の回収量増加による古紙市況価格の低下と木材チップとの価格差の拡大,DIP技術・利用技術の進歩,古紙利用製品需要拡大などがあげられる。近年上質系にも再生紙化が進んでいる。昨今の不況で上質・コート紙は売れ行きが悪いが,再生紙は対前年比120%の伸びを示しており,今後もこの傾向はしばらく続くと思われる。
 各種パルプのエネルギー消費量はDIPが最も少ない。しかしDIPは全て化石燃料由来であるのに対して,化学パルプでは全消費エネルギーはDIPより多いが,バイオマス由来のエネルギーが多いため,化石燃料由来のエネルギーはDIPよりも少ない。
 今後循環型産業を構築していくには,炭酸ガス固定化・資源再生を目的とした森のリサイクル,資源の節減・省エネルギーを目的とした古紙のリサイクルをバランスよく,進めていく必要がある。
 製紙連合会では2005年における古紙利用率目標を60%に設定した。この目標を達成するためには古紙利用製品の使用拡大や白色度などの品質要求の適正化,分別回収の徹底,オフィス古紙の有効な回収・利用システムの普及等を行政・関係業界・消費者がお互いに協力して推進することが重要である。
(本文98ページ)


紙パルプ製品のLCAのためのLCI試算方法
王子製紙株式会社 製紙技術研究所 仲山 伸二,矢口 時也  

 我々は,紙パルプ製品のライフサイクルアセスメント(LCA)について研究してきているが,この研究において,LCAを求めるためのライフサイクルインベントリー(LCI)データの試算では,我々の工場データ,ラボデータおよび文献データを利用している。この報告では,まず,いくつかの文献データを紹介し,次いで,我々の実際の操業データ,ラボデータ,文献データからの積算値の試算方法を紹介した。
 最後に,紙パルプ製品のLCIの文献値と,我々の試算結果を比較したが,この比較において,我々の積算値による試算結果と,その他の方法による値が,ほとんど一致していることが判明した。
(本文111ページ)


蛍光X線元素分析による紙面インキ量の定量法
東京大学大学院 農学生命科学研究科 濱田 仁美,江前 敏晴,加藤 雅人,尾鍋 史彦   

 ニップ方式の印刷でインキ転移量を測定する方法は印刷試験機を用いて印刷前後のインキロールの重量差を測定する方法が一般的であり,重量測定を行わなかった場合には,濃度計によって印刷/非印刷面の反射濃度差を測定し,これをインキ転移量の目安としている。しかし,インキ転移量の多い印刷物では反射濃度差とインキ転移量は比例関係を示さないことが報告されている。そこで本研究では藍インキに銅が含まれていることに着目し,蛍光X線元素分析装置を用いて藍インキ内の銅の特性X線強度を測定することで,インキ転移量を定量する方法を確立した。この方法の確立により,インキ転移量未知の印刷後のサンプルについても紙面の藍インキ量を測定できる。
 スーパーカレンダ処理により調製した平滑度の異なる紙にオフセット印刷し,そのインキ転移量と平滑度の関係から,オフセット印刷の場合下地の紙の平滑性が高いほどインキ転移量は少なくなることが確認された。また,下地の紙の種類が銅の特性X線強度に与える影響を検討し,印刷に使用される紙についてはこの定量法が適用可能であることを確認した。さらに,明度の異なる塗工紙にオフセット印刷した印刷試料について,印刷/非印刷面の反射濃度差の値と蛍光X線元素分析法により求めた紙面インキ量を比較したところ,同じインキ量でも下地の塗工紙の明度が高い試料の方が反射濃度差は高い値を示し,反射濃度差とインキ量は比例関係を示さなかった。しかし今回確立した蛍光X線元素分析法による紙面インキ量定量法は,反射濃度では正確に測定できないようなインキ量の多い印刷物に対しても有効である。微小部蛍光X線元素分析装置を用いて,モットリングの発生した印刷物のマッピング分析を行い,印刷物のモットリング解析にもこの手法の応用を試みた。印刷不良品では,塗工層中の顔料やバインダーが不均一に分布していることが確認され,顔料やバインダーの不均一な分布が,印刷ムラを発生させる一つの要因となる可能性が示唆された。
(本文123ページ)