2002年4月 紙パ技協誌

 

紙 パ 技 協 誌 2002年4月 

第56巻 第4号(通巻第613号) 和文概要


劣化古紙の脱墨について
ライオン株式会社 化学品研究所 迎 文彦  

 劣化古紙とは,夏場に集荷された新聞紙が太陽光線,温度上昇,湿度の影響を受けることで通常の新聞紙(通常古紙)に比べ外観が黄変した古紙のことである(以下,劣化古紙という)。劣化古紙がDIP工程に使用されると,最終パルプ品質(白色度)が通常に比べ3〜5ポイント減少する。この対策として,夏場になると過酸化水素水などの漂白剤添加量を相当量増量しなければならないといった問題が生じている。
 この報文では,まず古紙が劣化した状態を繊維とインキの点から検討した。その結果,繊維は光により黄変色が促進され,インキは熱により繊維に固着することが観察できた。
 次にこの劣化古紙の脱墨評価を検討した結果,古紙の劣化度合いが大きくなるに従って再生紙の品質が低下することがわかった。この脱墨性能が低下する原因は2つ考えられる。1つは,インキが劣化して繊維に固着することによるインキ剥離性の低下であり,もう1つは微細インキが通常古紙の脱墨時にくらべて増加するためにインキ捕集性が低下することである。
 そこで劣化古紙対策として,インキ剥離工程では固着インキへの浸透性の向上とインキ微細化の抑制が,インキ捕集工程では微細インキの凝集性向上が重要であることを確認した。
(本文1ページ)


環境的に承認された高品質な繊維原料を何処から得るか ―製紙産業が知るべき課題―
AOK Innovations Pty. Ltd. アラン ジャミソン  

 紙パルプ一貫工場に於いて,その生産性は工場に入って来る繊維原料の質に大きく左右される。木材価格そのものは一般的に言ってその品質そのものに比べて重要性が大変低いとのことである。製紙に携わる者がその工場にとって最適な品質の木材を供給するように監督的立場にある林業者に向って説得し成功すれば,その工場の利益率は飛躍的に向上するであろうとのことである。しかしながら,木材の質を一般的用語,グロビュラスとかプランテーションだけで規定してしまうのは経済性を誤った観点から考えたものである。これらに加えて,質の決定に必然的な純正な品質パラメーター,たとえばパルプ収率,比拡散係数,引張り強さなどを明らかにして確実を期すべきである。
 さて今日の現実は,製紙会社が単に木材の質だけに関わっていれば問題ないというわけには行かなくなっている。工場に入って来る原料の質が良いということに加えて環境面でも定評のあることも見極める必要が出てきている。本文で検討することは,製紙面でも高品質を誇り,かつ環境面でも高い評価を受けている繊維の供給源の存在である。
(本文7ページ)


ECF漂白におけるスケール問題とその対策
伯東株式会社 四日市研究所 田邊 寛和  

 紙パルプ工場からの有機塩素化合物やクロロホルムの排出に関連する環境問題を背景に,クラフトパルプの漂白方法が近年大きく変化しつつある。新しい漂白方法として塩素ガス及び次亜塩素酸塩を用いないECF漂白,一切の塩素系酸化剤を用いないTCF漂白が実用化されている。欧米では大半の工場がECFないしTCF漂白への切替えを完了させており,国内でもECF漂白への取り組みが広く行われつつある。
 もともと漂白工程はスケール問題が発生しやすい工程ではあるが,ECF漂白への切替えに伴って予想されるスケール問題の変化はパルプ化工程のより一層のクローズド化傾向と相まって操業上の重要な関心事のひとつとなっている。
 クラフトパルプ漂白工程において経験されるスケールとしては,炭酸カルシウム,シュウ酸カルシウム,硫酸バリウム等があるが,国内事例や海外での報文を参考にする限り,特に後二者はECF化およびより高度なクローズド化推進にとってもっとも留意すべきスケールであると思われる。そのため,本報においてシュウ酸カルシウムスケール及び硫酸バリウムスケールの特徴及び対策について報告する。
(本文13ページ)


最新のスプレーコーティング技術―オプティスプレー―
メッツォペーパー,Inc. ビルホ・ニシネン  メッツォペーパー株式会社 山崎 秀彦     

 紙製品の価格が低迷するなかで高い収益を確保するには,製造コストを低減しつつ,一方で製品の付加価値を増さねばならない。前者の達成には経済的な原材料の使用,高速化と良好な走行性を図るなどがあり,後者の達成には従来とは異なる新しい製造技術の適用を図るといったことが求められる。
 塗工に関してもオフコーターからオンマシンコーターへの要求が増しており,さらにはスーパーカレンダー処理もオンマシンで行うことが求められている。すでに,すべてがオンライン化されたOptiConceptマシンの稼動実績も上がっている。
 一方で,従来とはコンセプトの異なるコーター技術の要請がある。理想的コーターの1つは非接触で塗工できることである。その有力な方法としてスプレーによる方式が考えられる。バルメット(メッツォペーパーの前身)は長年にわたってスプレー塗工の研究,開発を行い,技術を確立させた。本稿では,スプレー塗工方式によるコーターであるOptiSprayについて開発経緯を含めてその技術を紹介する。
(本文19ページ)


三菱新シリーズ高速抄紙機
三菱重工業株式会社 紙・印刷機械事業部 永野 明仁  

 当社は1952年抄紙機の初号機を納入し製紙機械事業に参入した。1961年にはBeloit社と技術提携を行い以降常に最新鋭の技術/製品を業界へ提供してきた。1979年には日本の顧客の高度な要求に応えるべく自身での開発を開始した。要素研究,シミュレーション解析,紙層構造分析から順次規模を拡大し,Beloit社研究所への技術者派遣,パイロットマシン抄紙検証を通して1995年にMHシリーズを市場に送り出した。今回Beloit社からの自立化を図りMHシリーズの優れた紙品質を維持しながら高速運転能力,容易な運転性,メンテナンス低減を目指して開発されたのがMJシリーズ抄紙機である。本報ではその開発コンセプト及び各セクションの概要を紹介する。
(本文31ページ)


ワイヤーパート脱水について―V.I.D.フォーメーションシステム―
株式会社小林製作所 研究開発部 長友 和典  

 一般的に長網抄紙機におけるワイヤーパートでの脱水過程を分析してみると,ヘッドボックスから噴射された原料は,ワイヤーに着地すると同時に脱水が開始され,ワイヤー表面には繊維による初期マットが形成される。その後の脱水は,この初期マットを通過して,ワイヤー下面へと脱水されるため,ワイヤーに接する面のマットは緻密化し,脱水に対してろ過抵抗となる。このろ過抵抗により,ワイヤーパート後半における脱水機器は,高い真空圧力を使用して,湿紙から十分な脱水をおこなわなければならない。これは,ワイヤーパート出口における湿紙水分は,抄紙機の生産性に大きな影響を与えるためである。
 今日,各製紙会社において,各部の改善を図り,生産性を向上させてきたが,従来のろ過による脱水をおこなっている限り,今以上の生産性および品質の向上を図ることは,非常に困難になってきている。
 ここでは,現状の脱水または品質の向上を目的として開発された,新しい脱水機器として,当社の提携先であるAES Engineered Systems(米国)が開発したV.I.D.フォーメーションシステムについて説明をおこなう。また,実際の抄紙機における導入効果について,例を挙げて紹介する。
(本文41ページ)


抄紙系排水へのバイオフリンジ排水処理法の適用例
東海パルプ株式会社 環境保全室 村上 久雄,曽根 勝美  
三菱化工機株式会社 環境事業本部 高川 恭敬        

 バイオフリンジは,フリンジと呼ばれる接触材を使用した好気性生物膜処理法である。このフリンジは,特殊加工した親水性合成繊維で構成されるため,生物膜が容易に形成され処理の立ち上がりが早い。そして,反応槽内では曝気で形成される旋回流によって常に揺動しているため,汚泥の過剰増殖や一斉剥離が起こらない,逆洗機構が不要,などの特長を有している。
 今回,東海パルプ株式会社島田工場では,抄紙系排水処理の設備計画においてバイオフリンジを導入した。導入に先立ち実施した実証試験では,充填容積負荷1.5kg―BOD/m3/day,栄養剤添加率0.6kg/kg―BODにおいて安定した良好なBOD処理性能が得られ,さらに前段のSS除去を必要としないことが示された。これによって,従来の生物膜処理では必須であった前段のSS処理設備(一次処理)が不要な処理フローが実現し,設備の簡素化,コンパクト化,低コスト化を図ることができた。
 昨今の用水リサイクル需要の高まりや放流水質の改善・強化の必要性から,より一層の排水処理の高度化,合理化,低コスト化が求められている。この中でバイオフリンジは,限られた用地,設備投資の有効活用に大きく寄与できるものと期待される。
(本文47ページ)


水と熱のリサイクルシステムの紹介
株式会社荏原製作所 エンジニアリング事業本部 塚本 祐司  

 省エネルギー,省用水化は時代の要請であるが,典型的な装置型産業である紙パルプ産業にとって,ライン改造によるリスクは大きく,新設備の導入は簡単ではない。
 また,総生産費用に占めるユーティリティーの割合は必ずしも高くなく,新技術の効果に確信がもてなければ,採用を躊躇してしまうことが多い。弊社では,綿密な現地調査と豊富な用・排水技術,省エネルギー技術を組み合わせ,生産ラインまでも視野に入れた水・熱リサイクルシステムを食品・飲料産業を中心に提案し納入してきた。水・熱リサイクルシステムは,一過式で使用し棄てられる排水や廃熱をリサイクル資源と考え,これらを最適な再生技術を用いて再利用又は再生利用し,環境への負荷を減らすとともに,場内において使用する用水と蒸気の削減を図るものである。
 この実績を評価いただき,昨年度より紙パルプ産業においても水・熱リサイクルシステムの提案を開始させて頂いている。この場を借りて,我々が取り組む水・熱リサイクルシステムを紹介させて頂く。
(本文55ページ)


ECF漂白への転換―第1漂白ステージに焦点を当てた比較研究
クヴァナ パルピングAB社 マーティン ラグナー     
クヴァナ ブラジル社 マルセロ モレイラ レイテ  
(訳)クヴァナ パルピング株式会社 今井三千雄          

 本論文では,いくつかの異なるECF漂白シーケンスの調査内容を提示し,その結果を比較した。特に,酸素脱リグニン後の第1漂白ステージ,すなわち,いわゆる脱リグニン漂白ステージの重要性に注目した。2つの異なる工場の酸素脱リグニン処理を施した広葉樹クラフトパルプに対して,いくつかの異なる漂白処理を行なった。最初のパルプはD(EO)D,D*(EO)D,(ZD)(EO)D,Z(EO)Dに従って漂白され,内挿法の後のISO89%の白色度で評価した。2番目のパルプはD(EP)D,D*(EP)D,(ZD)(EP)D,A*(ZD)(EP)Dに従って漂白され,内挿法の後のISO87%の白色度で評価した。ここで「*」は高温で長時間保持する処理を意味する。D*(すなわち高温二酸化塩素ステージ)またはZの使用は,従来のDベースのECF処理と比較した場合,両者とも効率よくパルプの黄色化を減少させた。研究室のテストに基づいて,漂白薬品の消費量を工場での操業条件を反映するように調整して,様々な漂白シーケンスに対する操業コストの相違を計算した。D*を用いた処理は経済的に非常に魅力的であり,参照シーケンスとしたD(EO)D並びにD(EP)Dと比較して操業コストの節減性が高くなった。目標の白色度が幾分高めの89%の場合には特にそれが言えた。装置の費用面を考慮すると,漂白薬品の節減分だけではZベースのシーケンスに必要な投資を正当化することは難しいことが判明した。目標の白色度が幾分低めのISO87%の場合には特にそれが言えた。
(本文60ページ)


OM,SEM,EPMAによる観察及び分析のための紙の断面作製技法
(1) 光学顕微鏡(OM)用断面作製技法
濱田 忠平  

 紙の製造や加工,印刷などに伴う種々の現象を紙の構造面から解析するためには,紙の断面をOM,SEM,EPMAなどで観察や分析を行い,紙の厚さ方向の情報を得ることが重要となる。
 紙には構造の非常に緻密なものから嵩高なものまで,また表面に各種の処理や加工を施したり,表面に金属やプラスチックスなどの薄膜を貼合させた複雑な構造をもつものなどがある。
 これらの紙の構造にできるだけ変化を与えずに断面を作製するために種々の方法が導入されてきたが,一つの方法ですべての試料に適用できるものはない。したがって,試料の種類や観察,分析方法に対応した手法を確立することが重要である。
 本稿では光学顕微鏡を使用して紙の断面を観察する方法について主として筆者らの検討した結果を紹介する。またSEM,EPMA用の手法については次稿で述べる。
 光学顕微鏡は透過光で観察することが多く,また焦点深度が非常に浅いため,かなり薄い切片(1〜10μm)を作製しなければならない。したがって紙の断面の観察用試料を作製する場合,切断時の構造変化を防ぐために試料をパラフィン,各種合成樹脂などで包埋後,ミクロトームなどで切断する方法が一般に行われているが,ここではメタクリル酸樹脂とエポキシ樹脂による方法について述べる。
 また,紙の断面を観察する場合,紙面に垂直に切断する横断面または縦断面の観察がもっとも一般的であるが,より低倍率で広い範囲の観察を行うために,紙面に対し斜めに切断したり(斜断面),平行に切断する方法(平行断面)が報告されている。筆者らはこの方法をさらに改良した結果,より薄い切片が確実に作製できるようになった。
(本文69ページ)


両性およびアニオン性ラテックスの混合率が塗工紙の印刷適性に及ぼす影響
韓国 江原大學校 山林科學大学 製紙工學科 李 鎔奎,朴 奎在  
東京大学大学院 農学生命科学研究科生物材料科学専攻 空閑 重則        

 塗料の特性および塗工紙の品質に対するラテックスの荷電の影響を調べた。ラテックス粒子のゼータ電位は,アニオン性ラテックスではpHによらず−40〜−60mVの範囲にあるが,両性ラテックスはpH6以下で顕著に正の方へ移行する。両性ラテックスを含む塗料の粘度はpH9以上ではアニオン性ラテックスのみのものとほぼ同じであるが,pH9以下ではpH低下とともに急激に上昇し,両性ラテックスがカチオン化して顔料粒子と会合する効果を示す。塗料の保水性や沈降体積比もこれに対応するpH依存性を示す。2種のラテックスを様々な比率で混合した塗料で作成した塗工紙の平滑度,光沢,白色度,印刷光沢においても両性ラテックス添加の品質向上効果は明瞭に見られるが,項目によっては両者を特定の比率で混合したものが最適の結果を与えた。これらは塗工工程での両性ラテックスの荷電の変化がバインダーマイグレーションを抑制するためと思われる。
(本文91ページ)


紙の地合解析のためのフラットベッドイメージスキャナ応用法
東京大学 大学院農学生命科学研究科 江前 敏晴,空閑 重則  

 透過原稿ユニット付属のフラットベッドイメージスキャナが,紙の地合解析のための画像入力装置として活用できることを示し,その応用法について議論した。スキャナ出力の光学濃度を,試料内のある箇所(画素)での輝度レベルに対する,光が全て透過する(試料の存在しない)箇所での輝度レベルの比率の対数と定義した。必要条件を満たして走査したときにスキャナが出力する光学濃度は,エルレフォ形反射率計で測定される光学濃度及び標準フィルムに記載された光学濃度値と非常によく一致した。1年後には光源の経時劣化のためにその比例常数は1より小さくなったものの,比例関係は維持されていた。しかし,積み重ねた紙で測定すると,校正後にも関わらず出力特性にひずみ(非直線性)が残っていた。そのために,エルレフォ型とは違い,実験的には光学濃度の自乗が紙の坪量にほぼ比例していた。応用として,リテンション時間を変えて,LBKP及びNBKPから調製した炭酸カルシウム内添の手すき紙の地合を,スキャナを使って得た透過光像について定量的に解析した。地合指数として考えられるパラメータの中で,光学濃度の自乗の標準偏差は,光学濃度及び輝度レベルの標準偏差よりも目視評価と相関が高かった。光学濃度の自乗を坪量で除した値は,最も高いケンドールの相関係数を示した。いずれにせよ,輝度レベルの標準偏差は,近い輝度レベルを持つ紙同士を比較する場合を除いては,地合指数としては妥当性に欠けることがわかった。
(本文97ページ)