2000年9月 紙パ技協誌

[プリント用ページ]

紙 パ 技 協 誌 2000年9月

第54巻 第9号(通巻第594号) 和文概要


KPプロセスの技術革新―白液電解法
日本製紙株式会社 二瓶 啓  

 白液の電気分解を原理とする高効率なポリサルファイド(PS)製造法を,日本製紙,川崎化成,旭硝子の3社で共同開発した。従来の空気酸化法では,副反応として無効なチオ硫酸ソーダが生成するために高濃度のPS蒸解液が得られなかった。今回開発した白液電解PS法は,電解槽の陽極にPS蒸解液,陰極に苛性ソーダが製造され,PS蒸解液製造と硫黄分濃縮をワンプロセスで行うことができる。また副反応が無く従来法の約2倍のPS濃度が得られ,大きなパルプ収率向上と従来法に無い蒸解薬品削減効果も認められた。
 また硫黄分濃縮機能の活用により,蒸解薬品を分割添加する新蒸解法と組み合わせれば,より大きな効果が発揮できることがわかった。既に白液電解の連続操業に適した実用的な特殊電解槽の開発し,日本製紙岩国工場にベンチ,パイロットプラントを設置し,長期運転技術の確立に目途を得ている。本報告では,それら白液電解PS法の特長と開発経過を報告し,経済性,さらに本技術を活用し,サルファーバランスを含めた物質収支を考慮したKPプロセスクローズド化の優位性について検討した。
(本文1ページ)


KP製造に係る環境対策
三菱製紙株式会社 環境部 金田 裕  

 平成2年のマスコミによるダイオキシン報道にはじまり,臭気規制,COD総量規制,有害大気汚染物質の自主取組,さらに今回のダイオキシン対策特別措置法と,ここ10年間でも紙パルプ業界,特にBKPの製造に係る環境対策に影響を与えた規制が数多く施行された。これまでの環境問題に当業界が如何に対処してきたか,また今後どの様な対策をすれば良いのか考えてみたい。
(本文10ページ)


酵素漂白の開発経緯と操業経験
王子製紙株式会社 製紙技術研究所 福永 信幸  

 王子製紙では,1998年にキシラナーゼのオンサイト酵素製造設備の新設を伴う酵素漂白を,米子工場のLBKP漂白工程に導入した。米子工場は,1952年にわが国初の晒クラフト法による人絹パルプ製造工場としてスタートし,現在では高級コート,アート紙等高級塗工紙専抄工場となっており紙生産能力は日産1,500トンあまりである。酵素漂白の導入によりL系漂白シーケンスは従来の酸素漂白―C―E/O―H―Dから酸素漂白―酵素漂白―C―E/O―dnDとなった。ヨーロッパや北米等では,市販酵素を用いて既に実用化しているが,日本では初めてのことである。さらに王子製紙では,パルプ漂白に適するキシラナーゼを高生産する微生物を見出し,この微生物の大量培養を含む酵素の量産化技術を開発し,酵素をオンサイトで製造している。このような例は,世界中の紙パルプ工場でも初めてのことである。酵素製造設備はLパルプ全量(1,300T/day)を処理できるキシラナーゼを生産することが出来る。酵素漂白導入により,漂白薬品の3割程度の削減が可能となり,同時にAOXも同程度削減することができた。操業開始から1年以上経過しており,目標の酵素生産及び酵素漂白効果を達成して順調に操業している。現在米子工場で製造する製品は全て酵素処理パルプを使用している。酵素漂白は,ECF漂白においてコンベンショナル漂白以上にコストダウン効果を発揮するため,これからのECF漂白導入に向けてさらに期待される。 
(本文26ページ)


ECF漂白プラントの操業経験
北越製紙株式会社 技術開発部 中俣 恵一  

 北越製紙新潟工場は,1998年3月に,日本で初めて年産40万t規模の本格的なECF漂白(L―BKP)プラントを稼働させた。漂白シーケンスはD0―E/O―DnD1である。Dnは主反応塔であるD1段の前に設けられたプレチューブと中性化処理を意味している。
 このECFプラントの新設は,同年6月に稼働した年産24万トンのオンコーターマシン(PM8)に対応したものである。この新パルププラントの特徴は,蒸解にITCを採用し,二段酸素脱リグニンを装備し,漂白工程は塩素ガスおよびハイポを使用しない無塩素漂白を採用した。そして,排水処理工程には従来の活性汚泥と高速凝集沈殿処理に加え,純酸素ばっき方式の完全密閉型活性汚泥処理を追加した。このように,蒸解から排水処理までの総合的な設備対応と,操業技術の改良によって,紙の生産能力40%アップ,L―BKP生産能力50%アップという生産能力の増強にもかかわらず,環境負荷を著しく軽減することができた。
(本文34ページ)


Lo―SolidsTM蒸解Update―歩留向上,AQ相乗効果,過負荷連釜の軽減・増産―
アンドリッツ・アールストローム株式会社 川上 千明,バーティル・ストロンバーグ,エリック・ワイリー

 今日,世界で60基に及ぶ連釜にLo―SolidsTM蒸解法が導入され,多くの効果が報告されている。即ちパルプ歩留向上,ダイジェスター操業の改善・増産,パルプ強度特性及び漂白性の向上,抄紙機の操業性向上等々である。L材連釜にLo―SolidsTMを導入した13工場からパルプ歩留向上の報告がある。工場実機プラントのパルプ歩留はパルプ粘度,パルプ中のグルカン比率からリグニン・フリー歩留を推算する「Marcoccia―Prough」法により,容易に測定可能となった。
 スペインのZicunaga工場では,当初の設計生産量に対し,3.5倍以上の生産量にアップした。パルプ歩留は対チップ当り約2―3%増,AQにより更に2%の歩留増が得られた。改造前には,このようなAQによる歩留増は見られなかった。漂白パルプの粘度も150―200SCANユニット増加し,それに伴いパルプの強度特性も増加した。Zicunaga工場では更に増産を計画している。
 多くの連続蒸解装置は設計能力以上に増産され過負荷となっている。このような連釜では希釈係数が取れず,釜内洗浄が十分行われない。またHi―Heat洗浄ゾーンを蒸解に用いる改良蒸解法もできない。米国Leaf River工場の2ベッセル連釜は設計N材1,200T/Dに対し1,800T/Dに増産した結果,過負荷のため全缶蒸解であるEMCCTM蒸解は出来なくなった。1998年新たに過負荷連釜用としてアンドリッツ・アールストロームではDownflow Lo―SolidsTMを開発,応用した。過負荷の連釜に対して,向流ゾーンを並流としたDownflow Lo―SolidsTMにより希釈係数は0.5から2.8へと大きく向上した。再びHi―Heat洗浄ゾーンを蒸解ゾーンとして活用,操業することができるようになった。この結果,釜内洗浄の向上により,系内固形分の5%の低下,酸素脱リグニンの向上(5ポイント),漂白性の向上による漂白薬品の節減(30%減),パルプ粘度,品質の向上等多くの効果が確認された。
(本文39ページ)


延長酸素脱リグニンプロセス―OxyTracTM Process
Valmet Fibertech AB モニカ ボクストレーム  
バルメット株式会社 小林 達         

 バルメット社は,環境に対する要求を満たす方法として,酸素脱リグニンプロセスを更に延長し,Δカッパが針葉樹で70―75%で操業ができるOxyTracプロセスを開発した。実機はすでに10プラント弱稼動されておりその効果・選択性について実機データを紹介する。
 OxyTracプロセスで得られる主なメリットは次のようなものである。
 1. Δカッパは,針葉樹で70―75%得られる。
 2. パルプ強度は,従来式酸脱後カッパ14と同等な強度をカッパ9で得ている。
 3. OxyTrac方式独特な反応として,循環COD(酸化COD)の量が多いほど反応の選択性が良いことが判った。現在その反応について究明が進められているが,OxyTrac反応中に生成される過酸化水素の反応をキレート剤として助ける役目をしていると考えられる。
 4. OxyTracで処理されたパルプの漂白性・叩解性が向上している。
 実機においては,針葉樹パルプのブローカッパを従来23―24であったものを30に上げ,11―12であった酸脱後カッパをOxyTracで10に処理して操業されている。これによりパルプ歩留の向上,漂白薬品消費量を低減が得られている。
(本文50ページ)


新規湿潤紙力剤アラフィックス255について
荒川化学工業株式会社 研究所 製紙薬品部 鍋田 喜守  

 近年,環境を保全し,安全性を改善していく気運が高まってきている。製紙用薬品メーカーである当社においても,より安全な薬品を開発すべく積極的に取り組んでいる。今回はその一環として開発した,新規湿潤紙力剤アラフィックス255(=AF―255)を紹介する。
 湿潤紙力剤は,一般的には樹脂が熱硬化して耐水化する機構を利用したものであり,主にポリアミドポリアミン・エピクロロヒドリン系,メラミン・ホルマリン系,尿素・ホルマリン系の3種類がある。
 ポリアミドポリアミン・エピクロロヒドリン系湿潤紙力剤(=PAE)は,他の2つのタイプと比較して,次の3つの特徴があり,現在国内で使用されている湿潤紙力剤の主流になっている。@湿潤紙力効果が高い,A使用可能な抄紙pH域が広い,Bホルマリンを含有していない。
 従来のPAEは,製品中に原料であるエピクロロヒドリン由来の副生成物を多量に含んでいるため,変異原性が陽性である。従来品の紙力効果を維持しつつ製品中の副生成物を大幅に削減する方法を検討した結果,Amesテストにて変異原性陰性のAF―255を開発した。AF―255は,安全性が重視される紙(食品包装紙,衛生用紙等)にて順次採用して頂いており,実機においても従来品と変わらない評価を得ている。
(本文59ページ)


紙カット・スリット品質自動測定器―スペックエッジ2000MJ―
株式会社丸石製作所 設計部 笠井 洋之  

 複写機とプリンタにおける紙詰まりの防止は,カットシートの品質管理に最も重要なポイントとなる。シートにわずか1インチの1/1,000レベルの傷が一つあるだけで,高速複写機では紙詰まりが頻発する事になる。またシートにほつれた繊維がわずかにあるだけで,リームの縁がざらついて見えるだけではなく,複写機の給紙経路に埃が多量に付着し,最終的に給紙トラブルが発生することになる。
 従来のシートのカット品質の格付けは,カットシートの品質管理担当者がマイクロフィッシュ・リーダーを改造したものを用いてきた。この方法が採用されるようになってからもう何年もが経過しており,それなりの成果は得られているのだが,信頼性と格付けの判定が担当者によって異なるため,しばしば論議の的となることがあった。さらにまたこの方法では,シートの直角度,穴の位置,コーナー品質,カット面のわずかな湾曲などの測定はできない。
 そこで,当社はアメリカ,アポギーシステムズ社と技術提携をし,カットシートのエッジを自動的に測定する方法と機器の開発に成功した。このシステムは,11×17インチのテーブルトップスキャナ,プログラマブル・コントローラ,及び専用画像解析ソフトウェア(Spec*Edge)を用いて,品質に関連する様々な測定を行うことができる。本稿はこのシステムについて,その特長と測定結果,ならびに人手による視覚的評価との比較を工学的に説明するものである。
(本文65ページ)


スパッタエッチングによる紙の微細な粗面化とその光学的利用(第4報)―酸素ガススパッタリングによるセロファンシートの不透明化―
特種製紙株式会社 福井 里司  
京都大学大学院農学研究科 山内 龍男  

 試料として繊維集合構造を持たないセロハンシートを用い,その酸素ガススパッタリングで生じた表面微細構造とそれがもたらす不透明化の関係を検討した。エッチング速度が比較的大きいガス圧力10Paでのスパッタリングでは,アルゴンガスエッチングと同様スパッタリングの進行に伴いその初期に0.1μm程度の極く浅い突起密集構造が表面に均一に生じ,次いでそれが変化して円錐状になる。ただし酸素ガススパッタリングでは円錐は“ぼろぼろ状”であり,スパッタリングの進行に伴いそのサイズおよび円錐間距離が急に増大して1μmを越えるものもかなり見られるなどエッチングの進行の早いのが特徴である。このような微細構造の発達は電力が低いほど顕著であり,概算されるエッチング深さはアルゴンガスでのそれの約2倍である。ぼろぼろ状の円錐突起密集型の微細構造を示す場合に不透明化が生じる。スパッタリングの進行に伴いぼろぼろ状の円錐およびそれらの間の距離が増大すると不透明度は増加する。走査電子顕微鏡画像を二値化して得られた円錐およびそれらの間の距離をランレングスとして画像解析すると,約0.5μmのそれが不透明度の増加に最も強く関連すると考えられる。
(本文75ページ)


脱シリカを抑制したイネワラの酸素―弱アルカリ系 パルプ化法に関する研究
東京大学大学院 農学生命科学研究科 朴 承榮,幸田 圭一,松本 雄二,飯塚 尭介  
東京大学 アジア生物資源環境研究センター 飯山 賢治                 

 イネワラを原料としてパルプ生産を行う上で最も大きな問題となるのが,イネワラ中に多量に含まれるシリカである。イネワラのパルプ化において,シリカを保持しながらも,リグニンをほぼ完全に脱離する技術の開発は,イネワラをパルプ原料として利用する可能性を広げるものであると考えられる。そこで,脱シリカを極力抑制したイネワラのパルプ化法として,酸素―亜硫酸塩蒸解及び酸素―アンモニア蒸解の可能性に着目し,この蒸解法によるイネワラのパルプ化において,脱リグニン,脱シリカ,炭水化物収率などの挙動を詳しく検討した。
 水酸化ナトリウムを用いる場合は,酸素圧下でもそうでない場合でも,シリカがほぼ完全に除去された。これに対して,酸素―亜硫酸塩蒸解と酸素―アンモニア蒸解では,脱リグニンが95%まで進行した場合でも,シリカの保持率は非常に高く,約70%程度であった。一方,炭水化物収率については,前者ではカッパー価10のパルプで90%と非常に高いが,後者では,74%であり,対照とした酸素―水酸化ナトリウム蒸解の結果よりも低い値であった。
 中性糖分析の結果から,酸素―亜硫酸塩蒸解では,グルコースの保持率が非常に高いばかりでなく,脱リグニンが進行しても,ヘミセルロースに由来する中性糖の保持率もあまり減少しないことがわかった。一方,酸素―アンモニア蒸解では他の酸素―アルカリ系蒸解に比べ,ヘミセルロース由来の中性糖の保持率が低いばかりでなく,グルコースの保持率もあまり高くないことが明らかになった。
 以上より,酸素―亜硫酸塩蒸解ではシリカの保持率,炭水化物収率ともに高いために,高収率パルプ化が可能であることがわかった。
(本文81ページ)


HBSパルプ化(1)―針葉樹材のHBSパルプ化
北海道大学大学院農学研究科 梶本 純子,佐野 嘉拓,ワヒュ・エコ・ウイドド,岸本 崇生,浦木 康光

 バイオマス総合利用が可能で,無公害,省資源,省エネルギー型新規パルプ製造法を開発するために,高沸点有機溶媒(HBS)を用いたHBSパルプ化法を検討した。
 有機溶媒パルプ化法では,一般に針葉樹のパルプ化は難しいと報告されている。もし,針葉樹のパルプ化が可能であれば,広葉樹,農業廃棄物,草本類などのバイオマスも容易にパルプ化されると考え,先ず,針葉樹(トドマツ)のHBSパルプ化を行った。HBSとして,比較的安定と考えられる1,4―ブタンジオール(1,3―BDOL),1,3―ブタンジオール(1,3―BDOL)などを使用した。HBSパルプ化を溶媒の種類と水の比率,パルプ化の温度(200〜220℃)と時間(1〜2時間),酢酸触媒の添加量(溶媒の0〜10%)を変えて検討した。用いた溶媒の間にはパルプ化に大きな差異はなかった。
 トドマツは5%酢酸,70%HBS,220℃,2時間のパルプ化条件により脱リグニンの進んだパルプが50%前後で得られた。エゾマツ,杉,カラマツについても,トドマツの条件でパルプ化を行った。許容できる範囲でこれらの針葉樹もHBSパルプ化された。HBSに酢酸を加えて,パルプ化温度に加熱すると,溶媒の一部が分解する結果が得られた。パルプ残存リグニンが若干多いが,酢酸無添加でもパルプ化できる結果が得られていること,また,HBS溶媒系の簡素化も計れることから,酢酸無添加の条件で更にHBSパルプ化を検討した。
 HBSパルプ化の短所はパルプ廃液からHBSを蒸留で回収し,再使用する場合,多くのエネルギーを消費することである。この欠点を解消するために,〓HBS廃液にパルプ洗浄水を加えて,リグニンを沈殿,除去する,〓残液から水のみを留去した溶液(RHBS)を繰り返しパルプ化溶媒に再使用することを検討した。その結果,RHBSを4回,パルプ化溶媒に再使用しても何らパルプ化に支障がないことが分かった。パルプの洗浄に必要な溶媒および水の量についても検討した。これらの結果に基づき,HBSパルプ化装置を試案した。
(本文88ページ)