2000年6月 紙パ技協誌

 

紙 パ 技 協 誌 2000年6月

第54巻 第6号(通巻第591号) 和文概要


塗工カラーでの合成保水剤の粘弾性的挙動―ソマレックス―
ソマール株式会社 FC部 常川 謙二  

 塗工カラーは塗工時の原紙へのアプリケートに始まり,塗工速度とブレードにより急激で,かつ,幅広いせん断応力を受ける。これらのせん断応力は短い時間間隔で塗工カラーに加わるため塗工カラーは流動体というより一種粘弾性的要素を帯びる。
 われわれはこれらの塗工カラーの粘弾性挙動に注目し,特に,粘度調整や保水力の向上に用いられている合成保水剤を塗工カラーに添加した場合の粘弾性挙動をパイロットコータや実機で観察した。
 これら観察されたデータからわれわれは,塗工カラーの粘弾性挙動と塗工時の操業性,特にブリーディングの発生との相関をえた。また,その発生の理論的メカニズムに付いての考察をも付加した。
 これら発生のメカニズムをもとに,浮遊型のソマレックス300を開発し,その効果を確認した。
 種々の合成保水剤―ソマレックスの添加により塗工カラーの粘弾性挙動を変化せる事が出来,塗工カラーのレオロジーを変えることにより塗工操業性,塗工紙物性などの改善か期待できる知見を得た。
(本文1ページ)


顔料塗工紙のピッキング現象解析
日本エイアンドエル ラテックス研究所 中森  弘 

 顔料塗工紙の表面強度についてその発現機構や,ピッキングの発生場所の詳細な解析についてはこれまで充分な検討がなされていなかった。本報では,ピッキングの発生場所が塗工紙を作製する際の乾燥条件やラテックスのガラス転移温度によって,どう変化するか電子顕微鏡で観察を行った。
 RI印刷機を用いてタック値の高い印刷インキを用いて1回の印刷でピッキングを発生させる方法(1回印刷)と,タック値の低い印刷インキを用いて4回の重ね刷り印刷でピッキングを発生させる方法(重ね印刷)でそれぞれピッキングの状態を観察した。
 1回印刷の場合,ピッキングの発生場所は塗工層と原紙繊維の界面に限りなく近い塗工層の内部で発生していることが確認され,ピッキングの発生場所も発生形態も,使用するラテックスのTgや塗工時の乾燥条件に偏らず同一であった。塗工紙の乾燥条件やラテックスのTgによって強度レベルは変化するものの,ピッキングの発生場所や発生形態はそれらに影響されないことが分かった。 重ね印刷の場合,ラテックスのTgによりピッキング発生場所の違いが観察でき,Tgが低いラテックスほどピッキングの発生場所が塗工層表面に近くなった。重ね印刷では,塗工層中のポリマーがインキ溶剤を吸収し,塗工層表面から徐々にポリマー自身の凝集力が低下してこのような現象が引き起こされたものと推定される。
(本文9ページ)


塗工紙におけるルチル型酸化チタンの効果的な利用法
デュポン株式会社 中央技術研究所 横川 重宏  

 ルチル型酸化チタンは白色顔料中最も高い屈折率をもっており,紙・板紙の不透明性および白色度の改善に最も効果のある顔料として知られている。しかし,他の白色顔料と比べ単価が高いことなどから日本における製紙向けでの使用は極めて限定的である。
 一方,北米では製紙向けに酸化チタン(アナターゼ型を含む)を年間約24万トン消費しており,そのうち約50%が塗工紙向けで使用されている。この数字は,日本の使用量の約12倍(塗工紙向け:約60倍)に相当し,紙・板紙生産量あたりの使用比率でも約3.5倍(塗工紙向け:約30倍)に達する。
 これには,製紙業界におけるいくつかのトレンドの違いと酸化チタンの認識および利用法の違いが大きく影響していると考えられるが,ここでは後者に関係したテーマとなる「塗工紙におけるルチル型酸化チタンの効果的な利用法」について,いくつかの資料を用いて紹介する。
(本文15ページ)


新規内添用澱粉について
王子コーンスターチ株式会社 技術本部開発研究所 砂田 美和  

 澱粉は再生産可能な農産物を原料とする完全生分解性高分子物質であり,製紙用としては主に内添用,表面塗工用,塗工用バインダー,スプレー用に使用され,その内,内添用の澱粉は紙力向上,紙料・填料歩留り向上,濾水性向上,合成サイズ剤の定着等を目的に広く使用され,一つの薬品で数種類の役割を果たす非常に優れた内添薬品である。
 一般的に内添用澱粉はコーンスターチ,ポテトスターチ,タピオカスターチ等をベースにカチオン基を導入したカチオン澱粉が使用されているが,さらにアニオン基も導入した両性澱粉も広く使用されるようになってきた。この両性澱粉の特徴はカチオン澱粉が条件によっては濾水性を悪化させることもあるのに比較して幅広い条件で濾水性を向上させることが出来ることである。またアニオン基が導入されていることによりカチオン性薬品(アラム等)と共同して紙料,填料歩留りをさらに向上させることが出来,カチオンとアニオンのバランスが取れている為カチオンリッチに成りずらく,紙料の変動にも対応しやすい等の利点が挙げられるが,従来型の両性澱粉はその性能を100%引き出しているとは言い難い。そこで弊社では機能的に優れる両性澱粉をコーンスターチをベースに基本設計から見直し,その性能を最大限発揮出来る新規内添用両性澱粉を開発したので実例とともに報告する。
(本文20ページ)


ADシステムの製紙排水における処理技術 PART―U
北陽製紙株式会社 水処理事業部 鈴木 真隆(旧 新日本コア株式会社)

 製紙排水における生物処理では,比較的低濃度排水を対象とした装置に生物膜法が採用されている。
ADシステムは,この生物膜法に含まれるが原水BOD濃度1,000mg/l以上の高濃度排水域迄幅広く処理している。また,一般的に生物膜法は閉塞の懸念から,流入SS濃度に左右され易いが同システムは2,000mg/l程度のSS濃度に対応できている。その理由として一つは表面積の多いハニコームチューブを充填材としているため,生物量の確保が容易であること。二つ目として特有の曝気システムを有しているため,適度に生物膜の剥離を行えることである。
 排水処理設備を計画する際に,処理性は基より工場の稼動変化に対する順応性や,管理面の簡易さが重要視される。生物膜法は管理工程が少なく,トラブル時において工場の操業に影響を及ぼすことが少ないとされている。また,S/D等の休転明けの立上げも比較的スムーズと云われている。これらは接触材に生物を固定させているためである。
 ここでは,幾つかの古紙を扱っている工場の実例を紹介し,試運転時のデーターからADシステムが有する順応性と対応法について報告している。製紙排水の資料の一つとして本報が役立てば幸いである。
(本文27ページ)


製紙スラッジのサーマルリサイクル事例
株式会社タクマ エネルギープラント本部技術部 井川 清光  

 廃棄物の適正な処理が環境問題の重要な課題となって久しい。とりわけ産業廃棄物の処理については,その排出企業の命運さえも左右しかねない課題の一つになってきているといっても過言ではない。
産業廃棄物の排出企業にとって,その適正な対処を含めた総合的な管理が社会的責務であるのは当然である。廃棄物の処理方法には単純な焼却,埋め立て処理などからリサイクルまでいろいろ考えられるが,特に製紙会社から排出される製紙廃棄物の処理については,日本が紙の大量消費国であることから,その再資源化(リサイクル)が環境の保護のみならずエネルギー資源の有効利用の観点からも強く求められる。
 当社では従来,廃棄物とみなされていたものをエネルギーとして有効利用できる各種燃焼方式の開発に早くから着手し,長年にわたる豊富な実績を有している。このうち製紙汚泥,古紙,廃プラスチックなど製紙廃棄物を対象とした焼却炉については,火格子燃焼方式及び流動層燃焼方式の何れも考えられるが,それぞれの特性を生かしたシステムの採用で,ともに実績を上げてきている。
 本稿では,これら実績のうち製紙汚泥を焼却対象にした気泡型流動層炉によるサーマルリサイクルシステムの実施例を紹介する。
(本文35ページ)


中性抄紙用スライムコントロール剤
伯東株式会社 四日市研究所 中井 卓也

 製紙産業は,クローズド化の促進,古紙利用の増加,酸性抄紙から中性抄紙への移行等により微生物にとってより好ましい環境となっている。このためデポジット,斑点等のスライムトラブルの増加が大きな問題となっている。また従来のスライムコントロール剤では充分な対応が難しく,使用量の大幅な増加を行っているのが現状である。
 当社の中性抄紙用スライムコントロール剤「スラクリンB―900シリーズ」は,抄紙工程,調成〜抄紙工程全域のトータル微生物コントロールを行うことで上質紙や塗工原紙のデポジット減少や斑点の低減に優れた効果が得られている。
 以下に「スラクリンB―900シリーズ」の特長を記載する。
 @抗菌スペクトルが広く,低添加量で,即効的な殺菌効果に優れる
 A幅広いpH域で有効である
 Bバイオフィルム剥離,除去効果に優れる
 C薬品抵抗性菌の発生を防止する
 D取り扱い時の危険性が低い
(本文40ページ)


分光測色計CM―3630
ミノルタ株式会社 計測機器事業部 牧野 正行

 ミノルタ鰍ェ,紙パルプ製品用に開発した分光測色計CM―3630について説明する。
紙パルプ製品の多くを占める蛍光増白紙の色測定には,照明光の相対紫外強度の調整が必要であるが,これまで多くの測色器が採用してきた,Gaertner―Glieeserの方法(十分な紫外エネルギーを持つ光源から積分球への入射光束中に,紫外カットフィルターを適切量挿入して,照明光中の相対紫外強度を調整する方法)には,以下の2つの問題点があった。
 1. 一つの測色値,例えばCIE WIが,標準照明光での値と相関性をもつように相対紫外強度を調整するので,他の測色値,例えばCIE Tintについては相関性が得られない。
 2. 調整には,標準蛍光試料の測定と紫外カットフィルターの移動を繰り返す必要があり,手間と時間がかかる。
 CM―3630は,新技術NUVC(Numerical UV Controlの略)を採用することで,これらの問題点を根本的に改善している。NUVCは,積分球に紫外エネルギーを十分含んだ光源と紫外エネルギーを除去された光源とを備え,各光源によって照明された試料の二つの全分光放射輝度率を,適切な重み係数で合成することで,任意の相対紫外強度をもつ照明光での全分光放射輝度率を数値的に合成する。調整は二つの測色値,(例えばCIE WIとCIE Tint)の双方が相関性をもつように行うことも,全分光放射輝度率そのものが相関性をもつように行うことも可能であり,瞬時に完了する。また,機械的な可動部分を必要とせず,信頼性が高い。
(本文45ページ)

SEM, EPMAによる紙パルプ関連試料の観察,分析技術の推移(第4報) EPMAによるカラーマッピング(2)
日本製紙株式会社 商品開発研究所 濱田 忠平  

 試料の形態に対応した構成元素の分布状態を明瞭に示すことのできるEPMAカラーマッピング法は紙パルプの分野で研究や品質管理などに広く活用されている。また,ここ数年の間にEPMAのハード及びソフトの面での進歩は著しく,これまで不可能と考えられていた分析手法が可能となったケースも少なくない。
 本稿では紙の厚さ方向の填料,顔料,バインダーなどの分布状態測定法の推移,ラテックス,カゼイン,フェノール樹脂,リグニン,キシランなどの有機物質にOS,Br,Hg,FeなどのEPMAで特定できる元素をラベルさせて分析する方法,コーティング多層膜分光素子(Layered Dispersion Element:LDEと略称する)によるカゼインなどの窒素含有物質の分析法,試料の薄物化によるよりミクロな領域での分析法などEPMAカラーマッピング法の各種紙パルプ関連試料への活用状況について述べる。
(本文50ページ)


ASAとAKDのサイズ効果,反応速度,加水分解速度に関する研究
日本製紙株式会社 技術研究所 小野 裕司,宮西 孝則  

 ASAとAKDは中性サイズ剤としては,もっとも一般的なサイズ剤であるが,繊維の接触角の測定方法や紙中サイズ剤の定量方法の問題,セルロースと反応説を支持するかどうか意見が分かれており,繊維の疎水化,セルロースとの反応速度,及び加水分解速度について比較検討した研究は行われていなかった。そこで,我々はAKDやASAがセルロースと反応しているとの仮定のもとに,反応速度を決定することを試みた。AKDとセルロースの反応速度定数については,Lindstromらの研究で明らかにされているが,ASAとセルロースの反応速度定数は,この反応がAKDよりも速く,しかも,反応したASAを定量する適切な方法がなかったために測定されていなかった。そこで,我々は矢野らが報告している熱分解GC法を用いてASAとセルロースの反応速度を決定した。一方,AKDの加水分解速度はMartonらによって測定されているが,ASAの加水分解速度については測定例がないのでWasserらのASAの電位差滴定法とFT―IR法を用いて加水分解速度を決定した。単繊維前進接触角の測定はウィルヘルミ理論に基づくHodgsonらの方法を改良してAKDとASAでサイズした紙のそれぞれの単繊維前進接触角を測定した。
 その結果,サイズを発現する領域でのASAの単繊維前進接触角が95°でAKDの85°よりも高く,サイズを発現させるのに必要なサイズ剤量もASAはAKDの約半分であり,ASAのサイズ剤としての効果が潜在的に高いことが示された。また,90℃,pH6.0のASAとセルロースの反応速度はAKDとセルロースとの反応速度の約3倍であり,ASAの方がサイズの立ち上がりが速いことが定量的に示された。更に,50℃,pH8.0におけるカチオン澱粉で乳化したASAエマルジョンの加水分解速度は,カチオン澱粉で乳化したAKDの約40倍であり,ASAの効果を十分引き出すには,ワンパスリテンションを高めることが重要であることが定量的に示された。これらの知見は,AKDとASAサイズ剤の特性をより深く理解し,サイズ剤の使用方法を最適化する助けになるものと思われる。
(本文70ページ)


酵素脱墨のメカニズムに関する研究(第2報)―酵素処理条件及び酵素活性が脱墨に与える影響―
日本製紙株式会社 技術研究所 杉野 光広  
北海道大学 大学院工学研究科 高井 光男  

 トナー印刷古紙における酵素脱墨は酵素処理と機械力の組み合わせが重要であり,酵素はヘアリートナーからクリーントナーへの変換率を向上させ,フローテーションでのトナー除去率を改善することを前報で報告した。本報では,更にトナー印刷古紙における酵素脱墨の効果がヘアリートナーからクリーントナーへの変換率向上であることに着目し,この変換率を簡便に調査できる試験法(クリーントナー変換試験)を考案し,酵素処理条件及び活性の異なる酵素の比較を行った。
 その結果,ヘアリートナーからクリーントナーへの変換率は機械力が弱い範囲では酵素添加の効果は認められなかったが,機械力が強くなると酵素の効果が顕著となり,機械力と酵素処理が相乗的に作用していると考えられた。次に,酵素のセルロース結晶領域への作用がクリーントナー変換率に与える影響を調べるため,活性の異なる6種の酵素を用いてCMC活性一定で比較したところ,アビセル活性が大きいほどクリーントナー変換率が高く,機械力,CMC活性のほか,アビセル活性も重要であることが明らかとなった。また,酵素添加により酵素無添加と同一のクリーントナー変換率を得るのに,振とう培養機の撹拌回転数を20〜40%低減できることから,トナー古紙処理工程において機械力を低減できる可能性があることがわかった。更に,これらの酵素を用い,実際の脱墨試験を行った結果,パルピング後のヘアリートナー率はCMC活性を同一とした場合,アビセル活性が高いほど低く,クリーントナー変換試験の結果が再現された。また,その後のフローテーション処理でフローテーション後のパルプの残トナー面積率がパルピング後のヘアリートナー率に依存していることから,前報で報告したように,トナー印刷古紙の脱墨効果の主要因はヘアリートナーからクリーントナーへの変換であることが再確認された。
(本文78ページ)


乾燥工程における紙の寸法安定性の改善(第1報)
―静的拘束乾燥モデルによる実験検証―
三菱重工業株式会社 広島研究所 久野 廣明,蓮池 牧雄,真田 晃  
三菱重工業株式会社 紙・印刷機械事業部 大平 和仁

 一般に,紙の寸法安定性には伸びたり,縮んだりする2次元的な面内変形と,カールのような厚み方向の伸縮差による3次元的な変形がある。乾燥過程における紙の拘束はその寸法安定性に大きな影響を与える。湿紙は,水分率40%前後から収縮を始め,乾燥が完了するまで収縮し続けるため,乾燥過程での拘束条件や拘束力が,出来上がった紙の寸法安定性を大きく左右する。本研究では抄紙機ドライヤでの拘束状態を要素的にモデル化し,機械抄きシートを用いて各拘束乾燥法,すなわち,シリンダ上カンバス面圧拘束,真空拘束およびテンション拘束,に於ける拘束力と収縮特性,カール特性を静的な拘束乾燥実験により明らかにした。機械抄きの紙では2kPa以上の面圧拘束力で収縮率を0.5%以下に抑制でき,その結果,水分伸縮率は約0.05%/%,ストレッチは約2%以下になる。また,MDテンション拘束では拘束力の増加とともにポアソン効果によってCD収縮率は増加し,80N/mでCD収縮率は4%を超える。一方,カールの傾向は紙をどちらの面から加熱するかで異なり,フェルト側から乾燥するとワイヤ側を内側にカールし,ワイヤ側から乾燥するとその逆となる。その程度は表裏の繊維配向MD/CD比に影響されるが,乾燥時の拘束力を高めることやより低温で乾燥することでカールは抑制される。今後は,本研究を動的な検証に発展させることで,抄紙機ドライヤを寸法安定性改善に結びつくものに改良できると考える。
(本文85ページ)