2000年4月 紙パ技協誌

 

紙 パ 技 協 誌 2000年4月

第54巻 第4号(通巻第589号) 和文概要


雑誌古紙の脱墨について
ライオン株式会社 化学品研究所 江川 純太,二階堂雅則,迎 文彦,山崎 敦

 本年4月の容器包装リサイクル法の完全実施に代表されるように,環境ブーム,リサイクルに関する動きは世界規模で加速されている。日本の製紙会社各工場においても脱墨プラントの建設を積極的に進めており,一時は余剰といわれていた新聞古紙の供給がタイトになっているほどである。そこで弊社は,未回収で余剰古紙となっている雑誌古紙に目を向け,脱墨性能に及ぼす影響について調べた。雑誌古紙は,白色度,内添剤・塗工剤の量によって,模造・CPO系,色上系そして更紙系の3つに分類し,新聞・チラシ系と比較した。
 その結果,模造・CPOの場合,パルパーにおけるインキの剥離性やフローテーションにおけるインキの捕集性は若干劣るが,元々の白色度が高いため最終的には良質の再生パルプが得られる。ポイントはいかに泡立ちを抑制するか,またいかにトナーなどの大きな粒子を分散させるかである。色上の場合,剥離性および捕集性は良好であるが,フローテーションでの発泡性が高く,泡切れ性が悪い。ポイントは捕集性を維持しながら,発泡量を抑制することである。更紙の場合は,新聞とほぼ同様の脱墨性を示すことがわかった。
 以上のことより,雑誌古紙脱墨においては,目標品質に合わせて,雑誌の分別,装置条件,そして薬品条件を同時に検討することが必要である。特に,内添剤・塗工剤による過剰な発泡性を抑制することが重要であり,弊社が開発した新規脱墨剤はこの課題を解決し,目標の品質を達成できる見通しを得た。
(本文2ページ)


三菱高速パイロット抄紙機の運転経験
三菱重工業株式会社 三原製作所製紙機械設計課 牧野 哲夫

当社の#2パイロット抄紙機はワイヤ幅1,150mmで,ウェットエンドはコンセプトW−MH,MHフォーマ,トライニップ+3Pシュープレスの構成であったが,高速サンプリングの必要性からドライエンドを増設し,オールトップドライヤ,ソフトニップカレンダ,リール等の最新設備を導入した。開発部門の設計者自身が操作性や操業性を経験しながら高速運転を行い,トライアル毎に課題を把握し対策を行いながら徐々に最高抄速を更新し,1,750m/minでのリール巻取に成功した。本報では高速運転のために解決したパート毎の主要な課題と対策について紹介する。また,抄紙トライアルでのシュープレス脱水試験やオールトップドライヤ配置におけるカールコントロール試験の概要についても紹介する。今後パイロット抄紙機において高速での安定運転を目指し,これらの確立された技術の上で,フォーマ,プレスでは新たな方向付けを織込みながら次期2,000m/min抄紙機の開発を展開して行く計画である。
(本文9ページ)

最新の板紙抄紙機
住友重機械工業株式会社 機械事業本部 外館 秀一

 ここ数年の間に環境保護の側面から再生繊維の使用が一層増加してきており,一方で板紙品種の印刷特性が重要となってきている。印刷特性は通常,板紙の平滑性と密接な関係を有しており,板紙品種には良好な平滑性が要求される。これらの要求に対応するため,当社とバルメット社の板紙抄紙機には数多くの新技術が導入されている。 フォーミングセクションには,ハイドロリック型ヘッドボックス:シムフローT及びシムフローTDと共に,フォードリニアを組合わせた多層抄きフォーマが最適なコンセプトとして使用される。また,プレスセクションの典型的なコンセプトでは,2番プレスにシムベルトプレス(シュープレス)が配置されている。 板紙の乾燥工程としてはシリンダドライヤがその主流を占めているが,従来のシリンダ乾燥方式のドライヤとは全く異なる方式にて乾燥を行なうコンデベルトドライヤが開発され,すでに実用機として稼働している。サイズプレスパートにはオプチサイザが使用され,ポンド型のサイズプレスに比較して高速運転が可能となっている。カレンダリングの工程では,きわめて柔かいベルトとシュープレス技術を応用したシューカレンダ:オプティドウェルカレンダが開発され,実用機として使用されている。また,板紙のリールに巻取りロールの大径化が要求される場合には,センタワインディングの技術を取り入れたオプティリールを適用することができる。
(本文15ページ)


塗工紙の微細表面形状と光沢に関する研究
SR株式会社 高分子研究所 松田 信弘,市橋 孝雄,座間 義明

 塗工紙の表面形状は塗工紙物性の中でも重要な特性の一つであり,白紙光沢や印刷光沢に顕著な影響を与え,印刷用紙を選定する際の大きなポイントとなる。 そこで我々は白色光干渉方式の非接触式三次元表面粗さ計(ZYGO New View system)を用いて塗工紙,及び印刷物の微細表面形状を測定し,その微細表面形状と光沢との関係について検討を行った。その中で,我々はある特定範囲の空間周波数における微細表面形状が光沢に大きく影響を及ぼすものと考え,周波数領域解析を行い特定空間周波数における微細表面形状の特徴量を求め,光沢との関係について検討を行った。 結果,周波数領域解析より得られる特定空間周波数におけるRa値が従来の平滑度計から得られる平滑性よりも白紙光沢との相関が高いことを見出し,複雑な塗工紙表面を周波数領域解析し考察することが有用であることを明らかにした。加えて白紙光沢には30〜40mm−1以上の空間周波数を有する微細表面形状が影響を与えており,印刷光沢には高周波数領域と低周波数領域の微細表面形状が共に影響を与えていることも明らかにした。
(本文25ページ)


電源の高信頼化・高品質化及び省エネルギーに適用される パワーエレクトロニクス装置の動向
株式会社東芝 府中情報・社会システム社 パワーエレクトロニクス部 堺 高見,吉野 輝雄

紙パルプの工場・事業所を取り巻く電源環境はさまざまであるが,生産性向上・製品品質向上のためには,高信頼・高品質の電力供給が不可欠である。また,環境保全の観点から,省エネルギー施策が急務とされている。さらに,生産管理のための,OAシステムが普及しており,重大な情報を扱う装置への電源安定供給がますます必要になっている。  一方,電力を扱う半導体素子,光点弧サイリスタ・ゲートターンオフサイリスタ及び絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)の発展により,高電圧・大電流を直接扱うことのできるパワーエレクトロニクス装置が実用化されている。 パワーエレクトロニクス装置適用により,電源の信頼性向上と品質向上が期待できる。即ち,サイリスタクリッパ・サイリスタリミッタを用いれば,商用系統での事故発生時,高速で系統連系を切り離し可能なので,自家発系統側への影響を減じることができる。SPS(Stand―by Power System)は,瞬低・瞬停時に負荷に電力を供給し続ける。アクティブパワーフィルタは,負荷の高調波電流成分を打ち消し,電圧歪を改善する。  また,パワーエレクトロニクス装置は,省エネや環境保全に役立つ。太陽光発電には,直流を交流に変換するインバータが必須である。負荷回生装置は,従来使い捨てであった試験電力を,パワーエレクトロニクスにより電源にリサイクルする装置である。 装置だけではなくシステム解析技術が充実してきた。システム解析を行えば,現状設備の問題点評価,パワーエレクトロニクス装置適用の事前評価を精度高く行うことができ,設備計画に有用である。 パワーエレクトロニクス装置は,従来機器・装置では実現できなかった機能・性能を有しており,その適用により紙パルプ工業の電力設備の信頼性・品質の向上,さらには,製品生産効率向上に貢献するものと期待される。
(本文34ページ)


オンライン分析計によるウェットエンド管理とその制御法
ネレスオートメーション株式会社 大木 悟,坂田 秀実

抄紙機のウエットエンド化学を管理するため,われわれの目標はウエットエンド全体の操業に最大限に影響を与えるサブプロセスを制御することである。もっとも重要なサブプロセスは,濃度,灰分と薬剤である。これら主な3種のグループの管理は,オンライン測定と自動制御を基にして行う。この論文は,ウエットエンド管理プラットフォームとなる,新しい分析計を紹介している。この新しい分析計はモデュール構造と,最新のソフトウエア技術を採用しており,新しい抄紙機のコンセプトに基づいている。この制御コンセプトは,リテンション,濃度,灰分,チャージを制御してウエットエンドを安定化させ(30〜80%),より均一な紙にして,より良い操業性をもたらすフィードバックとフィードフォワード制御手法である。
(本文43ページ)


種から紙まで
AOK Inonvations Pty. Co. アラン・ジャミソン

紙パルプ工場における生産性は,ひとつには,その工場に入って来る木材チップの品質に左右される。大部分のクラフト工場は,いわゆるボトルネックとなるような部分を抱えつつ運営されている。回収ボイラーがその典型である。このような条件下の工場で,他に比べて“x%”パルプ収量の高い高品質のチップを使用することによって,紙の生産高を“3x%”向上させることが可能になってくる。つまり,その工場にとって,生産性及び潜在収益の少なからざる増加をもたらしうるということである。 ユーカリの植林木の場合,それから加工されたチップの品質は,土地の気候や種子の品質など様々の要因によって決まるが,同時に木の伐採時の樹齢にも影響される。通常,伐採を延長して木を成長し続ければ続けるほど,その木から加工されたチップを使ったパルプの収量は増加するのが常である。従って,紙パルプ工場側では,十分に年季の入った木を確保したがる。あいにくなことに植林業者側では,伐採を延ばせばそれだけコストが増えるので,十分に生長した木を供給するのに気乗りうすであると考えうるであろう。 本論では,パルプ工場側と植林業者側との利害の衝突という面を考察してみようというのである。一つの数学的モデルを作って,それにより種から紙までの木材繊維の連鎖全体にとって,木の伐採年齢を変えると,それが全体の経済性にいかなる影響を及ぼすかを計算してみようというわけである。このモデルで使用したデータは,日本の紙パルプ一貫工場に原料を供給しているタスマニアのユーカリ植林から得られた資料を基にしている。 本文をもって提議したいことは,紙パルプ工場が植林からのチップを使おうとする場合,その経営陣は植林業者がどのような原則に従って植林を経営管理しているかについて,積極的な関心を寄せるべきであるということである。
(本文53ページ)


ISO14001認証取得・維持に有効な環境関連技術
栗田工業株式会社 技術三部 牧野 治代,浅野 美登

ISO14001の普及に伴い製紙業界では,@森林資源の保護と活用,A古紙のリサイクル,B廃棄物の削減とリサイクル,C節水,省エネなどに取り組んでいる。特にISO14001認証取得にあたっては環境目標を自ら設定し,具体的に活動する必要があり,各社ともこの点で創意工夫をされている。栗田工業も「水と環境の総合エンジニアリング企業」を目指し,「リサイクル」「廃棄物削減」「省エネルギー・省資源」「法規・規制の遵守」「作業環境改善」「安全性」などの視点から,環境改善活動に役立つ技術・商品を開発・保有している。その中からISO14001の認証取得・維持に役立つ@有機凝結剤による排水スラッジ低減技術A水のピンチテクノロジー解析による節水技術B蒸発法による水回収(脱塩)技術C古紙を有効利用した覆土代替材による埋立処分地の延命化D再生剤のいらない電気脱イオン式純水装置E臭気モニタリング装置と消臭剤薬注制御システムによる臭気抑制技術F蓄熱式排ガス燃焼装置による有害大気汚染物質・悪臭処理技術について紹介する。
(本文60ページ)


紙パルプ産業のエネルギー事情(1998年)
日本製紙連合会 技術環境部 高橋 確

平成9年度(1998年度)の紙・パルプ産業のエネルギー事情について以下の内容を調査し,取りまとめた。@わが国のエネルギーフロー A最終エネルギー消費 B省エネルギーの推進 Cエネルギー種別消費量及び構成比の推移 D石油・石炭の需要・価格推移 E重油・石炭の需要規模 F石炭輸入の推移 G電力消費及び自家発電,電力購入の状況 H電力,蒸気の消費原単位の推移 Iエネルギー・コスト
(本文67ページ)


抄紙機のウエットエンドにおける高分子と高分子電解質
カナダマッギル大学 テオ バン デ ベン   (訳)日本製紙株式会社 技術研究所 宮西 孝則

カナダMcGill大学化学科よりvan de Ven教授が来日し,リテンションの古典的な理論と新しい理論について講演を行った。古典的な理論では,リテンションのメカニズムは大きく1)繊維への定着(hetero―flocculation)と2)紙匹による濾過(homo―,hetero―flocculation)に分けられる。凝集(flocculation)という点では更に@電荷の改質(電荷中和),Aポリマーによる橋かけ凝集に分けられる。@の例として,クレー/PEI系ではPEIによりクレー表面の電荷が改質され,等電点付近で凝集が最大となり,過剰のPEIの添加により再分散する。Aでは,ポリマーによる粒子の被覆面積が50%になると架橋凝集は最大になる。これはLa Mer's理論として知られている。例としてクレー/PEOの系では,PEOによるクレー表面の被覆率が50%のときに凝集が最大となり,過剰にPEO添加を添加すると表面に吸着したPEO同士の反発(浸透圧による)が生じるため凝集は低下する。 新しい理論では,PEOによる凝集メカニズムは大きく1)会合体による凝集(association flocculation),2)吸着,3)複合体形成による凝集(complex bridging)に分けられる。1)の会合体による凝集メカニズムはPEOにコファクター:PNSやSKLが吸着することによってPEO分子の構造がより固くなることによってエントロピーが変化し,橋かけ凝集を生じるというものである。これはPEOに吸着したコファクターがその負の電荷によって互いに反発しあい,PEOの構造をより立体的に嵩高くすることが原因である。2)はクレー等への吸着であり,その後,不斉橋かけ凝集を行なうというものである。3)はPEOとコファクター:タンニン酸や改質フェノール性レジンとの反応でこれらは,直接PEOと反応して橋かけ凝集を形成する。
(本文80ページ)


若年会員の加入促進を目指して総合企画専門委員会答申書
紙パルプ技術協会 総合企画専門委員会

当協会の会員,特に個人会員の数は平成12年1月末の段階で3,776名で僅かながら減少傾向にある。個人会員の年齢構成も40代以上が主体となっており,これから業界を背負っていく若年層の加入促進を積極的に図っていかないと,近い将来,協会の規模の縮小が懸念される。 一方,紙パルプ業界が,今後の多様な社会的なニーズに対応していくに当たって,製造・技術,研究・開発分野でより広範囲な問題への取組が必要になることも予測されるが,その際,業界として共有されるべき技術情報が,技術協会という場を通して提供・交換されていくことは欠かすことはできない。 今回,こうした協会の現実と使命を踏まえた上で,中長期的な課題の実現を図る道筋を明確にするために,31才以下の若年層を対象に,紙パルプ技術協会の存在をアピールすることも加味してアンケート調査を行った。その結果,こうした場に参画が期待できる若年層が業界全体で1,200名以上いることが判明した。現状では残念ながら協会への加入意欲は低いが,若年層の間に存在する要望事項が明らかになったので,これに応えるための今後の具体的な行動についていくつかの指針を得ることができた。
(本文87ページ)


第66回紙パルプ研究発表会の概要
紙パルプ技術協会 木材科学委員会

第66回紙パルプ研究発表会は,平成11年(1999年)11月10日(水)〜11日(木)の2日間,盛岡市「マリオス」の18階会議室において開催した。例年6月に開催していたが,同時期にISWPC(International Symposium on Wood and Pulping Chemistry)を横浜で開催するため,当協会の年次大会と併設の発表会になった。このためプログラムは,年次大会の理事長基調講演及び特別講演にも参加できるように編成された。 発表件数は,産・官・学各界から,口頭発表27件,ポスター発表10件,合計37件であった。二日目に口頭発表を中断して,ポスター発表を別室で開催し,活発な質疑応答が行われた。発表内容の概要をまとめた。(本文93ページ) コート損紙の再生に関する研究(第1報) ラテックスバインダーが白水特性に及ぼす影響 江原大学(韓国)製紙工学科 李  鎔奎,黄  錫佑   これまでに通常のアニオン性ラテックスの代わりに両性ラテックスを使用することで,かさ高な塗工層が得られ塗工紙の品質や印刷適性が向上することが明らかになった。本研究では,両性ラテックスとアニオン性ラテックスを使用した塗工紙の再利用におけるホワイトピッチ発生に対するバインダーラテックスの影響とこれらが白水システムに及ぼす影響を調べた。実験室で製造した片面塗工紙の離解結果,塗工紙の離解特性は良好であった。しかし,白水の濃度,伝導度,微細分の含量,カチオン要求量及びピッチの濃度は原紙及びラテックスの種類に依存する。酸性紙は中性紙より白水の濁度,微細分の含量が少なかった。特に前者はカチオン要求量,伝導度が低いことから白水中に存在するアニオン性のトラッシュ成分の発生量が少ないことが分かった。このように,両性ラテックスを使用したコート損紙はアニオン性ラテックスを使用したものに比べアニオン性トラッシュ成分の発生量を減らし,カチオン性の添加剤の使用を減らすなどコート損紙の処理システムの安定化に寄与すると考えられる。
(本文109ページ)


木材及びパルプ中の加水分解単糖類の直接定量
東京農工大学大学院 生物システム応用科学研究科  辻 幸子,諸星 紀幸 
ニューヨーク州立大学 環境科学・林学部  大森 茂俊

現在,糖分析で標準化された方法として,Tappi Test Method T249cm―85がある。しかし,この方法は多段階の操作を要し,分析に長時間を必要とする。そこで本報告では,迅速かつ単純操作による分析法の開発を目指した。 本方法は高速液体クロマトグラフィー装置としてWaters社製Alliance,検出装置にはAlltech社製500ELSD(Evaporative Light Scattering Detector)を,使用カラムはMetaChem Technologies社製MetaCarb Pbを用いた。  その結果,スクロース,グルコース,キシロース,マンノース,ガラクトース,アラビノースがクロマト上で十分な分離を示し,定性・定量分析が可能となった。この方法を用い,エゾマツとブナを分析したとき,従来のアルジトールアセテート法による値と比べてグルコースはエゾマツでは6%程度の増加,ブナでは約10%程度の減少を示した。キシロース,マンノースではそれぞれエゾマツ,ブナでともに大幅な減少を示し,特にエゾマツのキシロースでは80%近い減少を示した。糖全収量としては1〜2割程度の低めの値がともに得られた。また,パルプに適用したとき,アルジトールアセテート法に比べてグルコースで高めの値が得られ,キシロース,マンノースでは低めの値を,また糖収量全体で比較的よい一致を示した。 また,本方法は分析試料を加水分解し始めてから3時間以内に分析を完了するという,大変迅速な分析法でもある。そしてこの分析操作マニュアルでは,含有量1%程度以下の化合物は痕跡程度と見なされ分析不可能となる。しかし,微量成分を分析する必要のある時は,当初の分析試料の濃度を一桁上げることによって,十分分析可能となる。
(本文114ページ)


酸性前処理によるクラフトパルプ過酸化水素漂白の改善 マンガンの酸化状態が過酸化水素の分解に及ぼす影響
筑波大学農林工学系 具 延,大井 洋
カナダ ニューブランズウィック大学 リメリックパルプ紙センター ニ ヨングハオ

パルプ漂白における過酸化水素の自己分解に関しては,多くの機構が提案されている。代表的な説は,塩基触媒によるラジカル的分解機構,遷移金属イオンによるラジカル的分解機構,遷移金属のコロイド酸化物の表面反応による分解機構などである。遷移金属に誘導される過酸化水素の触媒的分解反応は,特にマンガンによって加速される。 本研究では,クラフトパルプのアルカリ性過酸化水素漂白の前処理として,マンガンの還元を役割とした酸性処理について検討を行った。まず,酸化状態の異なるマンガンが過酸化水素の分解に及ばす影響について検討を加え,過酸化水素の触媒的分解機構について考察を行った。つぎに,マンガンとパルプの酸性処理条件およびマンガンの還元機構について検討を行った。さらに,ユーカリ(Eucalyptus camaldulensis)材を用い,ポリサルファイド・アントラキノン法と通常のクラフト法との比較を行い,酸性前処理過酸化水素漂白と塩素(Cl2)を用いない漂白シーケンスによって漂白し,高白色度パルプの製造を試みた。 Mn(II)溶液にDTPAを添加すると,アルカリ性における過酸化水素の自己分解を抑制することができた。また,DTPA添加の効果はMn(III,IV)溶液への添加の場合よりも大きかった。窒素気流下ではDTPAのマンガンに対するモル比を0.47以上にすると,pH11,50℃,30分間の処理を行っても過酸化水素はほとんど分解しなかった。マンガンによる過酸化水素の触媒的分解機構については,過酸化水素がMn(III,IV)をMn(II)に還元して水と酸素にとなり,酸素の2分の1がMn(II)水酸化物の酸化に使われ,マンガンのサイクルが過酸化水素を触媒的に分解する機構が考えられる。 パルプをpH2.5,70℃で60分間酸性処理すると,パルプ中に存在しているMn(III,IV)が炭水化物によって還元された。またグルコースを用いたモデル実験ではMn(III,IV)の還元およびグルコースの分解が認められた。ユーカリPS―AQパルプを酸性前処理した後に過酸化水素漂白すると,過酸化水素の自己分解が抑制され,塩素(Cl2)を用いないシーケンスであるAEOPHDP漂白によって白色度88.8%ISO,粘度15.5cPのパルプが得られた。
(本文120ページ)