2000年3月 紙パ技協誌

 

紙 パ 技 協 誌 2000年3月   

第54巻 第3号(通巻第588号) 和文概要


これからの製造業システムとマイクロソフトの取り組み
マイクロソフト株式会社 インダストリーソリューション部 佐野 勝大  
 近年,ITの進化は目を見張るものがあり,もはや企業の業務の根幹となりつつあり,製造業においてもその例外ではない。
 従来,日本の製造業では,優秀な従業員の経験と技術,勘に支えられ,飛躍的な発展を遂げてきたが,少品種大量生産の時代が終焉を迎え,慢性的な景気の低迷に加えて消費者のニーズが多様化してきた今,マーケットに即した製品,サービスをいかにリアルタイムに送り出せるかがキーになってきたといえる。そのためには,今後の製造業は永遠の命題である生産効率,品質の向上,コスト削減というテーマを,従来の人,もの中心からIT技術を有効に活用した業務の改革が急務であり,今後グローバル化の中で主流となるサプライチェインを含めたヴァーチャル生産体制を完成させることが生き残りの鍵といえる。
 当論文では,このような環境の中,IT技術がどのように製造業にとって適用されるべきかを,マイクロソフトが展開するWindows DNA for Manufacturingを中心に解説する。
(本文15ページ)


月探査計画について
宇宙開発事業団 技術研究本部月利用推進研究室 横山 隆明  

 月と人類との関連において,最も画期的な出来事は1969年から1972年まで行われたアポロ計画であろう。アポロ計画は月について多くの科学的データを我々にもたらしてくれたが,月の本当の謎を解明するまでには至らないで終了している。
 アポロ計画から30年経った現在,アポロの成果の分析も進み,月を理解することが,地球や,他の惑星の謎を解くために重要な意義を持つことが再認識されている。このような状況の中,日本で初めての大型の月探査機が2004年頃に打ち上げを目指し計画されている。この計画はセレーネ(SELENE:SELenological and Engineering Explorer)計画と呼ばれ,宇宙科学研究所と宇宙開発事業団の共同ミッションとして進められている。セレーネ計画の主要な目的は,月の起源と進化の解明のためのデータを取得すると共に,月面軟着陸等の月探査に必要な技術開発を行うことである。
 セレーネは高度100kmの月の極・円軌道を周回する周回衛星,着陸実験機,及びリレー衛星から構成される。周回衛星に搭載される観測機器はリレー衛星及び着陸実験機に搭載される観測機器と連携して月の全球観測を行う予定である。また着陸実験機は月面に軟着陸実験を行い,軟着陸技術の習得と蓄積が図られる予定である。本稿では,セレーネ探査機について紹介し,月探査の意義について詳しく述べる。
(本文19ページ)


塗工量流れ方向・幅方向一体制御装置について
王子製紙株式会社 米子工場施設部 武良 優  

 製紙業界では,抄紙機の大型化,品質の多様化により,幅方向のプロファイルに対する要求が一段と厳しく,大切になってきた。坪量の幅方向制御に関しては,近年,ヘッドボックス濃度希釈方式が開発され,目覚しい発展を遂げている。片や,コーターマシンにおける塗工量幅方向制御システムは,古くから手動による幅方向の調整は行われていたものの,なかなか自動化にいたっていなかった。坪量の幅方向プロファイル制御のアクチュエーターを応用してやっと開発され,その後実機による操業が始まったのが1990年代の初期の頃である。坪量の幅方向制御システムと比べると,その技術革新の歴史はまだ浅いといえる。
 コーターブレードの機能は,紙面上に塗布された塗工液をMD(流れ),CD(幅)方向に均一に分散,保持させながら,より滑らかで安定した塗工層(塗工膜)を紙面上に形成することにある。このために,安定した応力をブレード上(あるいはブレード先端)に発生させ,また,制御することが塗工量幅方向制御システムに必要とされるプロセスになる。しかし,従来のブレード塗工ではブレードをしならせて(以後,ベンディングと称します)使用するため,ブレード先端の角度が安定せず,種々の問題を生じていた。
 今回,従来の方式とはまったく異なり,ブレードをベンディングさせない塗工量制御装置(ABCホルダー)を導入したので,その概要と操業経験について報告する。
(本文26ページ)


カヤーニ濃度計の使用実績
日本製紙株式会社 石巻工場動力部 亀田 弘之  

 日本製紙叶ホ巻工場には,1996年7月よりカヤーニ社製のマイクロ波式濃度計が導入されている。これらは,流体仕様が,低濃度または流速範囲がブレード式濃度計測定外となっているプロセスに設置されている。
 カヤーニマイクロ波式濃度計の測定は,マイクロ波の伝播速度に基づいており,マイクロ波がパルプ液を通過する時間を測定している。このため,空気がプロセスに混入した場合には,空気の影響をうけて正確なパルプ濃度演算結果とならないので,指示変動をおこす場合があるが,配管内に十分パルプ原料が充満し空気が抜けている場合は,相関0.94以上の測定結果を得ている。
 したがって,マイクロ波式濃度計を導入する場合には,対象となるプロセスに対する調査,見極めが大切であると考える。
(本文35ページ)


マイクロ波濃度計の使用上の留意点―東芝濃度計の使用実績―
北越製紙株式会社 新潟工場工務部 大野 正  

 従来方式の回転型パルプ濃度計では,繊維分の相対的な濃度を示していた。濃度管理をする上で,固形分の相対的な濃度がオンラインでかつリアルタイムに測定できないことが,操業をする上で濃度変動があった場合の障害の一つになっている。
 マイクロ波濃度計は,下水道設備にて汚泥の濃度測定として多数採用されてきたが,近年はパルプ濃度計としても使用できるとされている。
 このたび,当新潟工場で,8号抄紙機新設(平成10年7月稼働)に伴い,パルプ濃度計として東芝製マイクロ波濃度計を導入した。今回,導入したマイクロ波濃度計の利点は,その測定原理(マイクロ波による位相差方式)上,固形分(パルプ分+各填料)が測定できることから,操業現場にとって問題としている濃度計指示と手分析した濃度値が一致し,具体的な濃度の傾向管理ができることが期待され,採用となった。この装置が稼働後1年余りを経過したので,その使用状況を報告する。
(本文38ページ)


BTG測定器の使用実績
東海パルプ株式会社 増田 勉  

 パルプ蒸解における重要な指標であるカッパー価の測定には,半自動式の測定器が使用されていた。そこで,よりリアルタイムな測定を行いカッパー価の変動傾向を正確に把握し,蒸解釜への的確なアクションをとることによりカッパー価の安定化を図るため,自動カッパー価連続測定装置の設置を計画し,1996年8月,BTG社製自動カッパー価計を導入した。
 導入に当たっては,設置上・使用上の問題点を拾い出しメーカーよりのアドバイスを参考に計画を立案・設置工事を実施し,大きなトラブルも発生せず順調に導入できた。
 この測定装置の導入により,カッパー価の安定化が図られ操業ロスの削減に大きな効果があった。そして,さらなる活用方法の検討により品質と生産性の向上に寄与できるものと考えている。今回,カッパー価計の設置にあって特に留意した点と,この3年間の使用状況,そしてメンテナンスの現状について報告する。
(本文43ページ)


カヤーニ測定器の使用実績
北越製紙株式会社新潟工場 工務部 杉浦 太郎  

 北越製紙新潟工場は,1998年7月のオンコーターマシン8号抄紙機の運転に先駆け,1997年11月にクヴァナ社のITC(Isothermal Cooking)蒸解釜,1998年2月に日産1,200トンの新晒ライン(E系)を稼働させた。
 新プラントは地域との共生を主眼とし環境負荷へ最大の配慮をした結果,世界の主流となりつつあるECF(Elemental Chlorine Free)漂白を大規模プラントとしては日本で初めて採用した。これに伴い,ECFパルプの品質安定と漂白薬品原単位削減を目的にオンラインカッパーアナライザーを設置し監視及び制御を行うこととした。
 カッパーアナライザーの用途として,蒸解釜ブローライン,未晒酸素漂白段入口,同出口の3箇所においては監視用に,晒D0段においては制御用に使用しており,全体的には精度良く操業できているが酸素段出口においては,初期設定のK価範囲と操業範囲の違いによりアナライザーの指示と試験室データに違いが生じてきた。また,D0段における制御に関しては従来の白色度制御に比べ良好な結果を得た。
 装置自体は,ハード的なトラブルは1度もなくセルの汚れについても自動酸洗装置で充分対応できノーメンテに近い状態で使用できている。
(本文49ページ)


BM計保守改善の取組について
王子製紙株式会社 苫小牧工場施設部 上村登貴雄  

 製紙工場におけるBM計は品質維持・生産性確保に必要不可欠なツールであると同時に,測定精度が高く,かつ制御性・長期安定性・保守性に優れていることが肝要である。
 1960年代後半より採用された初期のBM計は坪量・水分流れ方向制御のみであったが,以降抄紙機の増設や各種新型センサーの開発,幅方向制御の要求のほか,制御機能の多様化,データー処理高速化のニーズによる機種変更を経て現在の機種に発展してきた。                    しかし,保守する立場の視点でBM計そのものを見ると,長年世代交代を繰り返しながら発展してきたにもかかわらず,センサー・フレーム駆動系,及び制御系も含めたシステム全体に,機能上まだまだ改善を必要とする点が多いのが現状であり,日常保全においてこれらの問題をテーマとして取組み,成果を上げた改善事例として,〓MX―BM計フレーム歪み防止対策,〓横河電機同軸水分計の改善,〓オンライン検定作業改善,〓MX―BMシステム部品の延命化と作業改善等の事例を紹介するのと同時に,技術面・保守サービス・流通・品質管理等に関し,BM計製造にかかわる各メーカーサイドへの要望をまとめた。
(本文55ページ)


新聞マシンの仕上げ操業管理システムについて
日本製紙株式会社 八代工場動力部 大嶋 浩行  

 平成10年2月に営業運転を開始した八代工場N2マシンの操業ラインに,ワインダー以降の仕上げ工程と倉庫・出荷までに重点を置いた操業管理システムを構築した。このシステムは,OSにWindowsNTを採用したDOS/Vパソコンによる,クライアントサーバーシステムである。現場オペレータが操作するクライアントには,17インチのタッチパネルCRTを採用し,操作性の向上を図っている。搬送中の巻取個々の識別のために,バーコードシールを巻取端面と外装胴面に自動発行貼付し,ハードトラッキングを行っている。現場の数多くのプロセス機器とは,PLCと操業管理システムのゲートウェイコンピュータを直接,光LANでリンク接続し,リアルタイムでのデータの授受が行えるようにした。この方式により個々の通信プロトコルを作成することなく開発工数が削減でき,さらに様々な追加改造に容易に対応できるようになった。また巻取鏡面印字やラベルの自動発行貼付など包装工程から倉庫・出荷までを管理することで,操業の自動化や効率化に大きく寄与するシステムが完成した。
(本文63ページ)


制御系システムでの2000年問題vol.2
自動化委員会(日本製紙株式会社) 三浦 雅  

 コンピュータ西暦2000年問題については,人類が初めて遭遇する文明国特有の社会問題としてこの年末年始を中心に大きな関心を呼んだが,結果的にはそれ程大きな障害もなく推移した。もともと何もしなくても良かったのではとの意見もあるが,担当者としては事前の周到な準備・努力があったからこそと思いたいものである。
 本報では,紙パルプ10社,54工場の計装関係の制御系システムを中心に,いわゆる2000年問題への対応状況がどうであったのか,昨年の夏期休転終了時点での実態について報告した。
 また更に情報の即時性を考慮して,今年正月明け早々に紙パ各社の協力を頂き,実際に2000年を迎えての調査結果を「速報」として追記したので参照願いたい。
(本文69ページ)


最新の紙切れ監視システムとその未来が拓くもの
横河電機株式会社 営業技術本部第2技術部紙パ技術グループ 西村 淳  

 TPMにおけるCBM(コンディションモニタリング)の役割は年々増大し,CBMの切り札としてMASが登場した。その特色を一言でいうなら,抄紙機を構成しているコンポーネントの欠陥を自動特定することにある(ベアリングの内輪のキズの程度がどのレベルにあるかというようなこと)。MASはいろいろな位置付けが可能であるが,ここでは抄紙機操業においてCBMの視点から見たとき,MASがどのような役割を演ずることができるかを記す。
 また,MASはCCDカメラによる紙切れ監視システムを振動を中心としたロール管理,フェルト管理機能などと並ぶもう一方の柱としている。ここではビデオ録画に始まった紙切れ監視システムが発展して,最新のDSPの技術を駆使することで,“抄紙機を監視する目”として現在どのような機能を持つに至ったかを明らかにする。またこのDSP技術から派生したヴァリエーションの一つとして,集中的にそれらしい場所のピンポイント録画を行うポータブルカメラシステムの紹介を行う。
 MAS紙切れ監視システムのキーテクノロジーは紙切れに至った原因の上流に設置されたカメラの場所における瞬時同期機能である。これは紙切れ原因の特定時間の短縮に大いに威力を発揮するが,この機能をさらに拡張したものとして,将来は欠陥検出器の欠陥情報をカメラ位置に連動させるシステムが期待され,すでにその1号機が8台のカメラと組み合わされ欧州の抄紙機に実現している。
(本文76ページ)


タイにおける小規模パルプ・製紙工場の廃水処理(第2報) カジノキ(Broussonetia papyrifera)紙製造工場廃水の処理
日本ワコン株式会社 技術部 和田 洋六       
カセサート大学 農業・農芸品改良研究所 ブサリン・コンセリ   
カセサート大学 科学器機センター ヌサラ・シンブアトン  
カセサート大学 農業・農芸品改良研究所KU―JICAプロジェクトユニット 小林 良生

 タイの小規模パルプ・製紙工場の廃水は複数の貯水池に排出される。廃水はおよそ1カ月かかってこれらの池を順次移流し,河川や湖沼などの公共水域に放流される。廃水の中でも蒸解廃水のCOD値は高く16,000〜22,400mg/Lもあるが他の廃水と混合,希釈され,廃水池を通過するうちにある程度浄化される。廃水は始めの池では嫌気反応,後段の池では好気反応により浄化されBODは86%,CODは60%程度除去される。処理水のBOD値は15mg/LとなるがCOD値は92mg/Lも残っており,外観はうすい褐色を呈している。これらの廃水がこのまま公共水域に排出されれば水環境や土壌汚染の問題をひきおこすのでこれに対応した新しい追加処理が必要である。廃水処理は環境保全の見地から化学薬品を使用しないで難分解性のCOD成分が除去できる方法が好ましい。
 本研究では上記の廃水を処理して更に浄化する目的で実際の廃水を試料にして以下の実験を行った。
 @嫌気性処理によるCOD除去
 AUVオゾン酸化によるCOD除去
 BUVオゾン酸化による脱色処理
 Cスピルリナ(Spirulina platensis)による生分解処理
 その結果,以下の事項が明らかとなった。
 @COD1,160mg/Lの廃水は30日の嫌気処理でCOD400mg/Lとなった。
 ACOD100mg/Lの廃水をUVオゾン酸化すると2時間の処理でCOD3mg/Lとなった。
 Bうすい褐色に着色した放流水は短時間のUVオゾン酸化で無色透明となった。
 Cスピルリナは廃水中でも増殖し水を浄化することを確認した。
 これにより,タイにおける小規模パルプ・製紙工場の廃水は既設の廃水貯留池で嫌気・好気処理とスピルリナによる生分解処理を行い,次に,UVオゾン酸化処理すればBOD,COD共に10mg/L以下,pH8〜9,処理水は無色透明となることが明らかとなった。
(本文85ページ)


フーリエ変換と相互相関法による紙の異同識別法
警視庁 科学捜査研究所 宮田 瞳  
王子製紙株式会社 新技術研究所 篠崎 真  

 紙の異同識別を非破壊的に行う方法として,紙の透過画像に対して周波数変換を施しそのパワースペクトルの類似度を相互相関法によって定量化する方法を開発した。
 紙には製造工程に由来する周期性が残されている。ここではモデル的にその中のワイヤーマークに注目することとし,5種の市販ワイヤーを用いて調製した手すき紙を用意した。それらの光透過画像をイメージスキャナーによって400dpiの分解能で取り込んだ。その光透過画像の一部に対して256画素角の2次元高速フーリエ変換を施しパワースペクトルを得た。
 参照画像には各ワイヤーにつき3枚の手すき紙から計12枚のパワースペクトルをとり,それらを単純平均することによって試料の局部的な特徴を排除するようにした。これらの群をデータベースと考える。試料画像としては同一ワイヤー群から得た手すき紙の各一枚を手で丸めしわをつけ,そのなかから一枚のみのパワースペクトルを作成した。
 異同識別のアルゴリズムとしては相互相関法を採用し,各試料と各参照とを順次照合しそれぞれ類似度を数値化した。照合には試料および参照の画像ではなくそれらのパワースペクトルを用いた。類似度の計算の際にワイヤーのピッチが約0.5mmであることおよび長波長成分のパワー値が短波長成分に比較してきわめて大きいことを考慮して1.6mm以上の波長のパワーを除去した。
 その結果,各試料紙はデータベース中の自己と同一のワイヤーから抄かれた参照紙のみに対して最も高い類似度を示し,この方法の有為性が確認された。
(本文92ページ)